のほほん異世界暮らし

みなと劉

文字の大きさ
656 / 945

市場での予期せぬ出来事

しおりを挟む
市場の喧騒の中、僕は荷物をトラックから降ろし、特設の小さな屋台に並べていく。朝採れの野菜や果物を美しく並べるのは、さながらアートのような作業だ。

「ほら、リッキー。籠に入れるときはあまり跳びはねるなよ。」
リッキーは相変わらず楽しそうに周囲を飛び跳ね、興味津々で他の露店や商品を見ている。シャズナは屋台の影で優雅に身を丸め、目を細めて通り過ぎる人々を観察中。そしてルシファンは、近くの子供たちにちちっと愛らしい声を響かせ、早速人気者になっている。

そんな中、何やら背後から視線を感じた。

「君、ひょっとしてこの市場では初めて見る顔じゃない?」

振り返ると、若い男性が立っていた。浅黒い肌に整った顔立ち、軽やかな服装はどこか旅人のような印象を与える。

「ああ、いや、実は農場から野菜を持ってきてるだけで。」
僕が少し戸惑いながら答えると、彼はにっこりと微笑んで一歩近づいてきた。

「そうなんだ。君の屋台、すごく目を引くね。野菜もだけど、その…君自身もなかなか魅力的だ。」

一瞬、耳を疑った。え?ナンパ?僕は普通に農場主だし、特にそんな目立つ外見でもないはずだ。それに、男同士だぞ?

「あ、あの…僕、ただの農場の人間なんだけど。」
なんとか曖昧に返答するが、相手は全くひるむ様子もなく、笑顔を保ったまま言葉を続けた。

「いや、謙遜しなくてもいいよ。こういう市場で働く姿って、なかなか見られないじゃないか。それに、君のその仕事に対する真剣な表情、なんかいいなって思って。」

隣で聞いていたシャズナが、微妙に耳を動かしながらその会話を聞き流しているようだった。リッキーも少し遠くから、興味深げにこちらを眺めている。

「ええと…あの、そういうのは…。」
言葉を濁していると、ルシファンが突然ちちっと鳴きながら、男の足元に向かって走り寄った。そして彼の靴紐に小さな歯で軽く噛みつく仕草を見せる。

「あっ!この子、もしかして嫉妬してるのか?」
男が驚きながらも笑顔を崩さないのに対し、ルシファンはじっとその場から動かず、まるで僕を守る騎士のように構えていた。

「いや、そういうわけじゃなくて、この子は…ただ、僕に近づきすぎると少し警戒するんだ。」
そう説明しつつ、ルシファンを抱き上げると、彼は満足したのか、ちちっと鳴きながら僕の胸元に顔を埋めた。

男はしばらく僕とルシファンを見つめていたが、やがて肩をすくめて言った。
「わかったよ、どうやら競争相手が多そうだし、今日は引き下がるよ。でもまた野菜を買いに来るから、その時は少し話をさせてね。」

彼が立ち去ると、シャズナは伸びをしながらこちらを見上げ、どこか呆れたような目を向けてきた。

「何なんだよ、今のは。」
小声でつぶやくと、リッキーは鼻をぴっと鳴らして、まるで「面白かったな」とでも言いたげな表情を浮かべている。

「はあ…もう。とりあえず仕事に集中しよう。」
そう自分に言い聞かせ、再び屋台の商品を整え始めた。その時、ルシファンが僕の肩に軽く頭を押し付けてきた。

「ありがとうな、ルシファン。君がいなかったら、どうなってたか分からないよ。」
彼はちちっと満足げに鳴き、僕の胸の中で丸まった。

市場の喧騒の中、相変わらず三匹と僕の一日は続いていくのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

処理中です...