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本編
3.離婚を告げられました!
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家に戻ると、リビングには珍しく明かりがついていた。
俺のうちは共働きで、両親とも忙しいため俺以外の人間が先に帰っていることは珍しい。
父親は弁護士。母親は大企業で社長秘書として働いている。
どれだけ忙しいのかは働いたことのない俺では想像がつかないが、二人が家でのんびりしている姿を見ることもないので相当忙しいのだろうと思われる。
母親は社長に付き添って、海外出張に行くこともあるから家を空けることもよくあることだし、父親に至ってはほとんど家に寄り付かない有り様で、最後に会ったのいつだっけ?というレベルだ。
ちなみに俺には7歳離れた姉がいるのだが、4月に社会人になってから独り暮らしをしていて家にはいない。
なので高校に入ってからの俺は、この家でほぼ独り暮らし状態だった。
誰かに会いたくない気分の時に限って、滅多に顔を合わせない家族と遭遇するってどういうことだ……?
俺は不機嫌さを隠すことすら出来ずに、そのままリビングへ入っていった。
「あ、お帰りー」
リビングにいたのは俺の母親の柊子さんだった。
彼女はイギリス人の祖父と日本人の祖母の間に生まれたハーフで、外国人よりの顔立ちの美人だ。
多少歳はとっているが、まだまだその美貌は損なわれていない。
俺の見た目は100%母親似で、父親のDNAが影響しているところは外見上は見当たらない。
柊子さんは今日も仕事だと思っていたのだが、珍しく寛いだ格好でゆっくりとお茶を飲んでいるところをみると、どうやら早めに帰って来たらしい。
「……ただいま。 どうしたの?珍しい」
なんだか嫌味っぽい言い方になってしまったが、今は俺も精神的にダメージがある状態なのでしょうがない。
「んー。今日は午後から休みだったの。ここんとこ働きっぱなしだったからちょっとゆっくりしようかと思って」
柊子さんがゆっくりしようと思う日が来るなんて、本当に珍しい。
じっとしてるとこなんて見たことないから、前世はマグロだったんじゃないかと思っていたほどだ。
驚いて固まっている俺を見て柊子さんは苦笑いしている。
「ちょうどよかった。光希に話があるの。ちょっとこっちに座ってくれる?」
あらたまってそう言われる時は、ろくな話じゃないと相場が決まっている。
俺は今、誰かと話をしたい気分ではないし、深刻な話を受け止める余裕もない。
「……大事な話なの」
そう言われて渋々、柊子さんの正面に座った。
久々に会った柊子さんは、よく見ると随分と疲れた顔をしている。
目の下にうっすらと隈ができており、顔色もなんだか良くない気がする。
話があると言ったわりには、なかなか口を開こうとしないので、しょうがなく俺の方から水をむけてみることした。
「なんかあった?」
俺に促されて柊子さんはようやく重い口を開いた。
「……実はね、離婚することになったの」
やっぱりろくな話じゃなかったなと思ったが、いつかこうなるのではないかと思っていた自分もいたために、思ったより冷静でいられた。
「……そっか。わかった」
父親が帰って来ない理由も、単に仕事が忙しいということだけではないと薄々わかっていた。
俺の父親の正嗣は女性に対してフットワークが異常に軽い。
下半身も緩めなので、ちょっとした浮気は日常茶飯事だ。
そんなろくでもないところだけ俺と父親はそっくりだと、あらためて認識してしまい、情けない気持ちにさせられる。
俺が父親から受け継いだ嫌なDNAについて考えていると、柊子さんがポツリと呟いた。
「……ごめん」
柊子さんの顔を見ると、泣きたいのを堪えているように、くしゃりと歪んだのがわかった。
俺は自分の母親が泣いている姿を見たくなくて、顔を叛けて立ち上がる。
「……柊子さんが納得してるならそれでいいと思う」
それだけ言うと、さっさとリビングを出て再び玄関へと向かった。
とにかく今はひとりになりたい。その一心だ。
「出掛けるの?」
外に出ようとしたところで、後ろから声をかけられた。
柊子さんが今、どういう表情をしているか見る勇気がない。
「友達んとこ行ってくる」
それだけ言うと、振り返ることもせずに扉を閉めた。
俺のうちは共働きで、両親とも忙しいため俺以外の人間が先に帰っていることは珍しい。
父親は弁護士。母親は大企業で社長秘書として働いている。
どれだけ忙しいのかは働いたことのない俺では想像がつかないが、二人が家でのんびりしている姿を見ることもないので相当忙しいのだろうと思われる。
母親は社長に付き添って、海外出張に行くこともあるから家を空けることもよくあることだし、父親に至ってはほとんど家に寄り付かない有り様で、最後に会ったのいつだっけ?というレベルだ。
ちなみに俺には7歳離れた姉がいるのだが、4月に社会人になってから独り暮らしをしていて家にはいない。
なので高校に入ってからの俺は、この家でほぼ独り暮らし状態だった。
誰かに会いたくない気分の時に限って、滅多に顔を合わせない家族と遭遇するってどういうことだ……?
俺は不機嫌さを隠すことすら出来ずに、そのままリビングへ入っていった。
「あ、お帰りー」
リビングにいたのは俺の母親の柊子さんだった。
彼女はイギリス人の祖父と日本人の祖母の間に生まれたハーフで、外国人よりの顔立ちの美人だ。
多少歳はとっているが、まだまだその美貌は損なわれていない。
俺の見た目は100%母親似で、父親のDNAが影響しているところは外見上は見当たらない。
柊子さんは今日も仕事だと思っていたのだが、珍しく寛いだ格好でゆっくりとお茶を飲んでいるところをみると、どうやら早めに帰って来たらしい。
「……ただいま。 どうしたの?珍しい」
なんだか嫌味っぽい言い方になってしまったが、今は俺も精神的にダメージがある状態なのでしょうがない。
「んー。今日は午後から休みだったの。ここんとこ働きっぱなしだったからちょっとゆっくりしようかと思って」
柊子さんがゆっくりしようと思う日が来るなんて、本当に珍しい。
じっとしてるとこなんて見たことないから、前世はマグロだったんじゃないかと思っていたほどだ。
驚いて固まっている俺を見て柊子さんは苦笑いしている。
「ちょうどよかった。光希に話があるの。ちょっとこっちに座ってくれる?」
あらたまってそう言われる時は、ろくな話じゃないと相場が決まっている。
俺は今、誰かと話をしたい気分ではないし、深刻な話を受け止める余裕もない。
「……大事な話なの」
そう言われて渋々、柊子さんの正面に座った。
久々に会った柊子さんは、よく見ると随分と疲れた顔をしている。
目の下にうっすらと隈ができており、顔色もなんだか良くない気がする。
話があると言ったわりには、なかなか口を開こうとしないので、しょうがなく俺の方から水をむけてみることした。
「なんかあった?」
俺に促されて柊子さんはようやく重い口を開いた。
「……実はね、離婚することになったの」
やっぱりろくな話じゃなかったなと思ったが、いつかこうなるのではないかと思っていた自分もいたために、思ったより冷静でいられた。
「……そっか。わかった」
父親が帰って来ない理由も、単に仕事が忙しいということだけではないと薄々わかっていた。
俺の父親の正嗣は女性に対してフットワークが異常に軽い。
下半身も緩めなので、ちょっとした浮気は日常茶飯事だ。
そんなろくでもないところだけ俺と父親はそっくりだと、あらためて認識してしまい、情けない気持ちにさせられる。
俺が父親から受け継いだ嫌なDNAについて考えていると、柊子さんがポツリと呟いた。
「……ごめん」
柊子さんの顔を見ると、泣きたいのを堪えているように、くしゃりと歪んだのがわかった。
俺は自分の母親が泣いている姿を見たくなくて、顔を叛けて立ち上がる。
「……柊子さんが納得してるならそれでいいと思う」
それだけ言うと、さっさとリビングを出て再び玄関へと向かった。
とにかく今はひとりになりたい。その一心だ。
「出掛けるの?」
外に出ようとしたところで、後ろから声をかけられた。
柊子さんが今、どういう表情をしているか見る勇気がない。
「友達んとこ行ってくる」
それだけ言うと、振り返ることもせずに扉を閉めた。
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