セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

4.誘われました!

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外に出た俺は行く宛てもなく、ただ街を歩くだけだった。

誰も俺のことを知らないところへ行きたいと思っただけで、目的地は特にない。

ふらふらとまだ賑わっている夜の街を歩くと、時々不躾にむけられる視線が酷く煩わしい。

俺のこの見た目は良くも悪くも目立つことをすっかり失念していた。


「ねぇ、キミひとり? 良かったら一緒に遊ばない?」


前方から歩いてきた男にすれ違い様に声をかけられる。

仕方なくそちらに視線をむけると、俺より少し年上だろうと思われる男が三人いた。
三人共おれの顔を見て、ニヤニヤしている。

──何だよ。こんな時にめんどくせぇな。

そうは思っても顔には出さないよう気を付けている。


俺は女の子から逆ナンもよくされるが、男に声をかけられることもままある。

大抵の場合は派手な容姿をやっかまれて、絡まれるパターンだ。
おそらく今回もそれに違いない。

──三人か……。ちょっとキビシイかも。

そんな事を考えていると、正面にひとり、俺の左右にひとりずつ男達が移動し、さりげなく囲まれてしまった。

腕に自信が無いわけではないが、一対三では無傷で切り抜けることは難しいだろう。

自慢の顔に傷が付いたら大変だ。

少し恥ずかしいが、この場を穏便に切り抜けるために、とっておきの奥の手を使うことにした。


「What?」


面倒な時はこの容姿を活かして、日本語がわからない外国人の振りをするに限る。

祖父はイギリス人なので一応コミュニケーションをとれるくらいには英語も話せるから、万が一相手が英語を喋れてもそんなにガッツリ喋らなきゃボロはでない……はず。

案の定、俺に声を掛けてきた男達はいきなり英語で返されて、面食らったような顔をしている。

逃げるなら今だ!!

そう思って、踵を返した時。すぐ後ろにもうひとり男が立っているのに気付いてしまった。

──しまった!まだ仲間がいたのか!?

しかしその男は、先に声を掛けてきた男達とは年齢も雰囲気もその容姿さえも完全に別格で、仲間では無いことがすぐにわかった。

172㎝の俺よりも10㎝以上高い位置にあるその顔を見ると、かなりのイケメンであることがわかる。

そのイケメンは俺と目が合うとニコリと笑った。


『遅くなってごめん。待ち合わせ場所にいなかったから、怒って帰ったのかと思って探したよ』


イケメンは流暢な英語で俺に話しかける。

おそらくは俺を助けようとしてくれているのだろう。

ここを穏便に切り抜けるには、それに乗る他に手は無さそうだ。


『……ホントに遅いよ』


憮然とした顔でそう返すと、イケメンが苦笑した。


『じゃあお詫びに何でも好きなものご馳走するよ』


イケメンはすかさず俺の腰に腕を回すと、自分のほうに引き寄せ、こめかみ付近に軽くキスをしてきた。


こめかみといえ、男にキスされて固まる俺。

俺達のやりとりに訳がわからないといった表情をして呆然としている三人の男。

謎のイケメンだけがひとり余裕の表情をしている。


「悪いが、この子は俺の連れだ。 遊び相手は他を当たってくれ」


特別強い口調で言った訳でもないのに、最初に声を掛けてきた男達が怯んでいるのがわかった。

イケメンはそれ以上何も言わずに、俺の腰を抱いたまま歩き出す。




しばらく連れ立って歩いていると、やたらと周囲の視線を感じて相当恥ずかしい。

男同士で腰に手を回した状態でくっついてりゃ注目されても仕方がないとも思ったが、どうやらそれだけではないようだ。

街行く人達が隣の男の顔を見て、何気に振り返り頬を染める様子からして、もしかしたら有名人なのかもしれない。

それくらい人目を引く華やかな容姿をしている男をじっと見上げる。

すると俺の不躾な視線に気付いたのか、イケメンが俺に視線をむけて微笑んだ。

──ドキン。

俺の心臓の鼓動が何故か大きく高鳴る。


なんだこれ?

自分の身体の反応に戸惑う俺を、イケメンは今度は困ったような表情で見ていた。


「そんな顔するなよ。このまま連れて帰りたくなるだろ」

「……そんな表情ってどんなだよ」


訳がわからないことを言われた俺が不満そうにボソリと呟くと、イケメンがクスリと笑った。


「やっぱり日本語喋れたんだな」

「……一応日本人だからな」


イケメンから視線を外し、ぶっきらぼうにそう答えておく。

しかしその口調に反して俺の心臓はまだドキドキが止まらないままだ。

それどころか、だんだん酷くなっていくような気さえする。


妙に落ち着かない気分の俺は、腰に回された腕に原因があるような気がしてさりげなく身体を離そうと試みたが、予想外にがっちりホールドされていたため、すぐに自力で抜け出すことは無理だと諦めた。


「……離してくんない?恥ずかしいんだけど」


仕方がないので口に出してはっきりと言ってみると。


「ああ、悪い。でも虫除けだと思って我慢してくれ」


イケメンは少しも悪いと思っていない軽い口調でそう言って、俺を離そうとしない。

虫除けが必要なほどこの男が周りから向けられる視線に煩わしい思いをしてるなら仕方がない。協力しよう。
俺も助けて貰った恩がある以上、そう邪険にはできない。


「……アンタいかにもモテそうだもんな」


半分嫌味でそう言うと、呆れたような表情をされた。


「俺はオマエを心配をしてるんだけどな」

「どういうこと?」


俺は言われてる意味が理解できず、説明を求めた。

自分で言うのも何だが、俺は確かに見た目がいい。

しかし今、周りから送られてくる女性達からの秋波は、隣のイケメンに対するものだ。

女という生き物は、より優れた雄を本能で見分けるものらしく、なんとなくだが隣の男にむけられている視線がギラギラしている気がしてならない。
そう感じた途端。 女が酷く醜い生き物に感じられ、思わず身震いしてしまった。


ところが男は俺が感じていることとは全く違うことを言い出してきた。


「まさかとは思うが、周りの男がオマエに送っている視線に気付いてないのか……?」


イケメンは信じられないといった表情で俺を見ながら、「自覚なしかよ」と呟いている。

今日カフェで真実を知るまで、俺は女にモテると思っていたが、男が俺をどう見てるかなんて考えてみたこともなかった。


「さっきみたいにまたナンパされて、そのままうっかりお持ち帰りされても知らないぞ」

「ナンパなんてされてねぇし!」

「さっきのアレはそういう意味で誘われてたんだよ。気づかなかったのか?」

「は?意味わかんね。 俺、男だけど」


俺はそう言いながら、隣の男を軽く睨み付けた。

しかし、男は全く意に介した様子はない。
それどころか俺の反応を面白がっている節さえ見受けられた。


「男でもそういうこともあるってこと知っといたほうがいいかもよ。子猫ちゃん」

「……どういう意味だよ」

「男同士でセックスする時、受け入れる側を"ネコ"って言うんだよ。可愛い顔してる"ネコ"ちゃんだから、子猫ちゃん」

「──俺は男に抱かれる気も抱く気もねぇよ」

「そうか? 案外やってみたら気持ち良くてド嵌まりするかもよ」


そう言った口調は軽いものに聞こえるが、男の瞳がある種の熱を孕んでいるように感じた。

俺はその熱の正体に気付かない振りをして、目を逸らす。


「……一応礼を言っておくよ。ありがとう。助かった」


若干早口になってしまったが、不自然ではなかったと思う。

なかなか返ってこない男の反応が気になってチラリと視線を送ると、俺のことをじっと見ていた男とバッチリ目が合ってしまった。

気まずくて咄嗟に視線を逸らそうとした俺を、男の強い光を宿した瞳が許してはくれない。


──捕らわれる。

そう思った時には遅かった。


「お礼は身体で払ってくれてもいいんだぜ」


口許に笑みを浮かべながら俺を試すようにそう言ってくるイケメンに、俺は完全に捕まってしまったことを認めたくなくて、ここぞとばかりに挑発的な言葉を吐いてみる。


「……アンタが俺を勃たせられんの?

──俺、不感症だけど」


俺はそう言うと、今度は了承の意味を込めて、少し背伸びをして男の瞳を至近距離で見つめ返した。

すると。

今までどこか余裕すら感じられた男の表情が一変した。


この男とのやりとりは完全に、売り言葉に買い言葉というものだったと思う。

しかし、この時の俺の気持ちを言葉にするなら、興味本位とこの男とのセックスに対する期待感が、今まで培ってきた常識を軽く凌駕した感じだ。

どこか野性味を感じさせる雄の視線に射竦められた俺は、いとも簡単に男の腕の中に抱き締められてしまった。

不思議と今日ホテルで彼女に触れられた時のような嫌悪感は感じない。

むしろ今この男に対して秋波を送ってくるどの女より俺を選んだという優越感が、女によって傷つけられた俺を満たしてくれる気さえしていた。


「今までで一番良かったと言わせてやるよ」


耳に息がかかる距離での男の甘い囁きに、普段から緩みきっていた俺の理性はあっさり崩壊したのだった。
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