セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

25.幼馴染ライフ!颯真の事情 その2

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高等部に進学してすぐの連休に、俺は光希に会いに行こうと決めていた。


中等部の三年間は本当に目まぐるしい日々だった。


"光希の隣に立てるようになるまで"、なんてカッコつけて言ってみたものの、実際のところ最初の頃は環境の変化に慣れるのに精一杯だったし、その後も責任のある立場となったことで私事に割く時間が少なくなり、会いに行く余裕がなかったというのが本当のところだ。

いくらそれなりのを教育を受けていたとはいえ、公立小学校で過ごした俺と、生粋のお坊っちゃま学校育ちの人間とはスタートラインが思っていた以上に違っていた。

最初の半年は、"紅鸞学園にいる大企業の御曹司"に相応しい立ち振舞いというものを自然にこなせるよう必死だった。

この学校にいる限り、嫌でも個人というものではなく、バックグラウンドで見られるのは仕方ない。
それがわかっていながら、"出来ませんでした"ということは許されない。

それこそ死に物狂いで頑張ったのだが、その努力を周りに覚られてしまうのは俺のプライドが許さなかったため、当たり前のような顔でこなしてみせた。


そんな努力の甲斐もあって、二年生で生徒会入りを果たし、三年生の時には生徒会長になった。

この学校は、特別な立場の子息が多く通っているせいか、将来のことを見据えて学校生活のほぼ全般が生徒の自主性に任されている。

そこでの立ち位置や役割、それに伴う成果というものが自分の将来や家の評価にも直結する。


ということは、中学生といえども生徒のトップに立つ生徒会にもその能力を求められるため、多忙を極める。

生徒会というものは、皆の憧れの存在であるとともに、他者の上に立つ者としての実力を試される場でもあるのだ。

当然ミスは許されなかった。


しかも俺の場合は通常よりもハードルが高く設定されているのが常だった。


ひとつ上の学年に涼しい顔で何でも完璧にこなしていく、竜造寺 清雅という人間がいたからである。

性格は難ありだが、竜造寺は本物の天才で、生来の支配者というものはこういう人間の事をいうのだという見本のような男だ。

ひとつ年下の俺はそれを常に引き継ぐ形となるため、否が応にもあいつと比べられてしまうのだ。

最初から合格点ではなく、満点を求められる生活は俺を大きく成長させてくれはしたが、気の抜けないハードな日々だったことは言うまでもない。


そんな事情があって光希に会いたくても会えない日々を過ごしていた俺だったが、高等部進学というタイミングでようやく普通の生徒と同じ立場に戻る事ができ、時間に余裕ができた。


──やっと光希に会える。


そう思った俺は光希を驚かせるために、内緒で会いに行こうと考えていた。


しかし、連休に入ってすぐに突然光希に連絡が出来なくなった。


ほぼ毎日何かしら連絡をする俺に対して、光希からの返事が返ってくることは稀だったが、それでも連絡が出来ないということなど一度もなかったのだ。

いつものように返事が返って来ないというのではなく、携帯電話自体が使われていない様子で、メッセージアプリで送ったものが既読になることもなければ、電話をかけても無機質な音声が流れるだけだった。

連休中は忙しいのだと自分に言い聞かせてみたが、嫌な予感がしてならず、いてもたってもいられなくなった俺は、少し情けないが俺の父親に探りを入れた。

光希の母親である柊子さんは、父親が社長を務める会社で秘書室長をしている。

管理職なのにほぼ社長の専属秘書という扱いの上に、家族ぐるみで仲が良いので、俺の父親も何かしら事情を知っているのではないかと思ったのだ。


その結果。

光希の両親の離婚と光希の家出、そして諸々の事情により携帯の番号が変わった事を知らされた。


──俺の予感は大当たりだった。


俺はそれに喜べる筈もなく、もたらされた情報にただショックを受けていた。


光希の性格上、相談する、悩みを話すということをしないことはわかっている。

本音を言えば、俺は光希のことなら全てを知りたい。

でも、そういうことを話してくれなくとも、気を許してくれていることが親友という証だと思っていた。


しかし、新しい番号すらも聞かされなかった俺は、光希にとってもう過去の人間になってしまったのだろうか、と考えて酷く落ち込んだ。

そんなことをうじうじと考えて事実確認をすることを躊躇っている間に、高等部に入って初めての大型連休は終わってしまった。


連休が終わって、新学期特有の浮き足立っていた雰囲気もようやくおさまりかけてきたある日、俺は突然理事長室に呼ばれた。

二年前突然代替わりした理事長はまだ二十五歳だが、切れ者と噂されており、その優しそうな見た目で判断したら痛い目を見ると言われている人物だ。


中等部の時の生徒会関係で数度言葉を交わしたことはあるが、二人きりで話すのは始めてで、俺は妙に緊張してしまっていた。

光希の従兄弟ということもあり、俺としても個人的にも聞きたいことがあったのだが、気安く接することができる立場の人でもないので、それを口に出してもいいものか直前まで大いに悩んだ。

ところが、そこで告げられたことは俺の最も知りたかった情報だったのだ。


「光希がここに転入してくることになったから」


入室して開口一番に理事長にそう言われた俺は、咄嗟に言葉が出ないほど驚愕した。


光希は女の子がいないという理由でここに来なかったのだ。

それがどういう心境の変化かはわからないが、こんな中途半端な時期にここに転入してくるという。

それにはおそらく連休中の諸々の出来事が深く関係してるのだろうということだけは想像できたが、俄には信じがたい話だった。

明らかに驚いて固まっている俺に理事長は苦笑しながら話を続ける。


「で、悪いんだけど、神崎君って二人部屋をひとりで使ってたよね? 光希と同室になってもらっていいかな。あいつ色々面倒だから、下手に他の人間と同室にするとトラブルになりそうだし、あいつの幼馴染である神崎君に是非ともお願いしたいんだけど」


理事長のその言葉に、俺はようやく我に返り返事をした。


「それはもちろんかまいませんが……」


含みのある言い方をしてしまったが、自分に都合の良い展開に多少混乱しているだけで、決して光希と同室が嫌なわけではない。


そもそも俺が二人部屋をひとりで使っているのには訳がある。

俺にも高等部に入って一週間は同室者がいた。

しかしそいつは高等部に入ってから発足された俺の親衛隊にあっさり入隊してしまったのだ。

その結果、親衛対象と親衛隊員が同室になってはいけないという規則に則ってそいつが部屋を移ることになったため、現在独り部屋状態となっているというだけの理由だ。

独りの気楽さを知ってしまった今、他の人間なら正直お断りだが、光希相手なら大歓迎。

高等部の生徒会役員や風紀委員会の幹部以外は全員二人部屋が義務付けられているので、学園側から新しい同室者が来ると言われれば、俺のほうから断ることは出来ない。

おそらく今日理事長室呼ばれたのは俺の意思確認などではなく、光希のことを理事長の口から俺に伝えたかっただけだと思われる。


「あいつも色々あって、今までの生活を全て捨てて人生やり直すつもりでここに来ることを決めたから、悪いけど協力してやって」


わざわざ俺がいる学校に転入してくるということは、光希に忘れられたのではないことを証明しているようで、連休以来ずっと感じていた不安が一気に解消されていくような気がした。


「──わかりました。もちろん協力させていただきます」


自然と口許が緩んでしまいそうになるのをなんとか堪え、俺は表情を引き締めてそう応えたのだった。
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