セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

69.無茶しました!

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楓の膝枕でいつの間にか眠ってしまったらしい俺は、気づけば自分の部屋のベッドで眠っていた。

朝起きて、迷惑を掛けた楓に俺手作りの朝食を振る舞いながら昨夜のことを感謝すると、何故か微妙な顔をされてしまった。

その後、楓を迎えに来た紘斗にも同じような表情をされ、俺は訳がわからないまま寮の部屋を後にした。


教室までの道行き。

おそらく壱琉先輩達のせいも相俟って、昨日よりも明らかに視線が突き刺さる気がするものの、何か言われるわけでもなければ教室に行ってからも特に何も起こらず正直拍子抜けした。

どうやら試験前日にそんなことにかまけてる暇はないらしく、皆必死に試験勉強に精を出している。


まあ、自習っていうことになっているせいか、今日は教室に空席もちらほら見られるけどな。

こんなことなら俺もサボれば良かった……。

でも二階堂達から、絶対ひとりで行動するなって厳命されてるし、どうするかなぁ……。

明日の一時間目に試験科目となっている数学の教科書を拡げながらボンヤリしていると。


「もしかして集中できないのか?」


いつの間にか側に来ていたらしい二階堂に心配そうに声を掛けられてしまった。


「そういう訳じゃねぇけど、なんかやる気が……」

「それって集中出来ないってことだろ?次の時間は場所変えてみるか?」


二階堂のありがたい申し出に俺は一も二もなく頷いた。




そして次の時間。

俺と二階堂は昨日も行った自習室に向かうことにした。

途中、反対側の校舎の窓に見覚えのある人影を発見し、思わず足を止める。


「なあ、アレ小鳥遊だよな? なんかヤバそうじゃねぇ?」


数人に取り囲まれ、俯きながら歩く姿は遠目で見ても明らかに友好的な雰囲気とは言い難い。


そういえばアイツ今日は教室に来てなかったな……。

いつも俺の斜め前の席でキャンキャン言ってる小鳥遊の姿が見当たらなかったことを今更ながらに思い出す。


「……あれ、生徒会長の親衛隊だ」

「は?マジで? あれ?小鳥遊って確か会長様の親衛隊に入ってるんじゃなかったっけ?」

「ああ、でもあいつ昨日除隊処分になったんだ」

「え?そんなことってあんの?」

「そりゃ一応組織である以上、規則もあるしそれを破った場合の罰則もあるだろ」

「……アイツ何したんだよ?」

「会長の不興を買ったって話だけど、詳しいことまでは聞こえてこないんだよな……。まあ、ひとつ心当たりがあるっていえばあるけど、もしそれだとすると状況的に相当ヤバいな」

「回りくどい説明はいいからさっさと言えよ」


苛立つ俺に二階堂は、「光希には聞かせたくない話だったんだけど」と前置きしつつ小鳥遊の状況を話してくれた。

どうやら昨日の朝の一件が生徒会長の耳に入ったらしく、珍しく親衛隊の連中にアレコレ言った結果、同じクラスの小鳥遊が幹部連中に呼ばれて責任取らされる形で除名処分になったらしい。


「要するにトカゲの尻尾切りってことかよ……」

「昨日のアレ、小鳥遊の仕業じゃないけどな」

「はぁ?」


全く話が見えないんだけど。


「小鳥遊は普段からあんな態度だし結構な性格してるけど、裏でコソコソするような卑怯なヤツじゃない。むしろ面と向かってハッキリ言うタイプだからな。たぶん昨日教室で光希に文句言ったことをちょうどよく利用されたんだろ」

「何に?」

「スケープゴート」


その言葉に俺の中の不快ゲージが急上昇していく。


「……相当ヤバいってのは?」

「口封じの可能性が高いってこと。あそこの親衛隊、除名になったヤツは必ずと言っていいほど自主退学してる。
噂だと、気に食わない人間に適当な罪をなすりつけた挙げ句、ヤバい手段で脅して、自主退学せざるを得ない状況に追い込むって話だけど、……って、おいッ!!」


二階堂の話が終わらない内に、俺は自然と走り出していた。


「ちょっと待て!何する気だ!?」


二階堂はすかさず俺を追いかけてくると、やや強引に俺の肩を掴んで止めた。

俺はそんな二階堂を軽く睨み付ける。


「小鳥遊んとこ行くに決まってんだろッ!」

「はぁ!?行ってどうすんだよ!?」


どうする。どうするったって。


「んなモン知るかッ!!どうするかなんてその場で考えりゃいいだろうがッ!!」


卑怯な手段って聞いて真っ先に思い出したのは、初日に風紀委員室で副委員長が教えてくれた『強姦紛いの事をした挙げ句、その動画を撮って脅迫』ってヤツだ。

実際にそんなことになるかどうかはわからないが、もし俺がらみの事でそんなことが本当に起きてしまったら、寝覚めが悪くてしょうがない。


それに。


「正義感とかそんなモン振りかざすつもりもねぇし、そういうの見逃せないとかっていう綺麗事言うつもりもねぇ。
──単に俺がそういうの心底気に食わねぇだけなんだよ」


俺だってつい最近同じような目にあったばかりだけに、そう思わずにはいられない。

俺の言葉を聞いて、二階堂は深いため息を吐く。


「言っとくけど、俺はケンカとかさっぱり出来ない人間だぞ」

「……大丈夫。お前にそんな真似はさせねぇよ」


今の一言で俺は一気に肩の力が抜け、お陰で随分冷静になれた。

二階堂をこんなことに巻き込む気は更々ない。


「お前には他にやって貰いたいことがある」

「何だよ?」

「とりあえず風紀か先生呼んできてくれ。こんなん個人で解決出来るレベル越えてるし、俺だって無茶な真似する気はねぇからな」


二階堂は俺が言った言葉に疑わしそうな視線を向けつつも、渋々といった感じ頷いてくれた。


これで二階堂を遠ざけることも出来たし、早速行きますかー。

どうするかは実際の状況見てからだけど。

……ドサクサに紛れて一発くらい喰らわせたって文句言われねぇよなぁ?




という訳で俺は小鳥遊が連れ込まれたと思われる『社会科準備室』という部屋の前に来てみたのだが。

漏れ聞こえてくる話を聞く限り状況は結構ヤバい。


さっき小鳥遊を取り囲むようにして歩いていたのは四人。
どうやらその他にこの部屋に先に来ていた人間がいたらしく、中の人数は推定六人といったところか。

おそらくその二人は小鳥遊を傷つける為に呼ばれたヤツらだろう。

その証拠にさっきから耳を塞ぎたくなるような下品な会話が繰り広げられている。


さて、六人を相手にするのはさすがにキツいが、内四人はチワワだからやってやれないことはない。
問題は部屋の広さだな。

物が多くてあんまり動けるスペースがないと、攻撃の威力が弱まるし、何より防御しづらい。

しかも小鳥遊を守りながらってなると結構な難易度だ。

どう立ち回るのが一番効率的かを考えていると。


「生徒会役員の皆様にちょっとちやほやされたからって調子に乗ってた罰だよ。初めての相手が清雅様じゃなくて残念だろうけど、すぐにコイツらが気持ちよくしてくれるから存分に楽しみなよ。
僕たちはここで小鳥遊玲音の処女喪失シーンをバッチリ記録しといてあげるからさ」


ゲスとしか言い様のない言葉と下卑た笑い声に、俺は即座にゴチャゴチャ考える事を止め、勢いよく扉を開けて中へと踏み込んだ。


バァーンッ!!


扉がぶつかる音に驚いたらしい連中が一斉に俺のいる扉のほうに注目する。

隙が出来たその一瞬に、俺は小鳥遊の上に覆い被さるように乗っていた男を蹴り飛ばすと、次に小鳥遊の腕を抑えていた男に頭突きを食らわせてから、スマホを構えていたチワワの腕を捻り上げ、そのスマホを没収してから腹に一発入れて沈めた。


「小鳥遊。お前はすぐに逃げろ」

「……何だよ。こんな真似して僕に恩を売ろうっての?それとも格好つけたつもり?」


こんな目にあったってのに、強気な態度を崩さない小鳥遊に対し苦笑いすると同時に、こんな風に俺に対して悪態つける元気があるなら大丈夫だと少しだけホッとする。


「お前にいられちゃ足手まといなんだよ。戦力にならないヤツはさっさと退散しろ」


俺が本音をぶちまけると、小鳥遊は軽く目を見開いた後、何だか知らないがプリプリと怒り出したので、俺はもう構うのも面倒でとりあえず放っておくことに決めた。

さて、残りはチワワ三人か。

俺がそいつらのほうに視線を移すと。


「中里光希……」


チワワのひとりが俺の名前を呼び、憎々しげに俺を睨み付けてきた。


「文句があるならコソコソ卑怯な真似ばっかしてねぇで、コイツみたいに面と向かって言えよ」


小鳥遊のほうをチラリと見ながら軽く挑発してやると。

ソイツはあっさりそれに乗り、俺の胸ぐらを掴んできたのだ。

俺は内心ほくそ笑む。

──はい。これでコイツに対しては正当防衛成立。

最初に沈めた三人は明らかに小鳥遊に危害を及ぼしてたから躊躇う余地はなかったが、他の三人は『ただ見てただけ』という正当防衛ということが通用するか微妙なラインだったのだ。


「容姿だって家柄だって全然大したことないくせに、ゲームのターゲットってだけで清雅様の周りをうろちょろしやがって、目障りなんだよッ!」

「だから? 自分が相手にして貰えないからってこんな真似するのは頭の悪い証拠じゃねぇのかよ。
──なぁ?顔と家柄だけが自慢のチワワちゃん」


嘲るように笑った俺の後ろで「自分なんて顔と家柄だけじゃなくて性格も悪いくせに」と小鳥遊が余計な事を言っているので、すかさずさっさと出ていけと促す。


漸くこの部屋を出ていった小鳥遊の足音が段々遠ざかっていったところで思わずため息を吐くと。


「逃がすかよッ!!」


最初に蹴り飛ばして沈めた筈の男が、俺の脇をすり抜けて部屋を飛び出して行ってしまったのだ。

俺はすぐに胸ぐらを掴んでいたチワワを突き飛ばすと、慌ててそれを追いかける。


ところが。

復活したらしいもうひとりの男に背後からタックルをかまされ、バランスを崩して転んだ拍子に眼鏡が吹き飛ぶ。

俺はそんな事を気にする余裕もなく肘打ちを食らわせると、すかさず体勢を建て直した。

すると今度は今まで事の成り行きを見ているだけだったチワワのひとりが、身体を起こして走り出そうとした俺の髪を掴んでくる。

当然の事ながら、掴まれたのはウィッグなので俺にダメージはないのだが。


「「「え!?」」」


露になった俺の金茶の髪に驚きの声が上がる。

しかし、今は変装が解けたことになどかまけてる暇はない俺は、必死に小鳥遊の元へと向かった。


すぐに階段を降りる寸前で捕まったらしい小鳥遊が必死で男に抵抗する様子が目に飛び込んでくる。


「離してよッ!」


その時。

暴れる小鳥遊に手を焼いた男が小鳥遊を殴ろうと手を振り上げたのが見えた。


「小鳥遊ッ!!」


男に殴られバランスを崩して傾いでいく小鳥遊に必死で手を伸ばしてみるものの僅かに届かず、俺は舌打ちしながら床を蹴る。


そして。

なんとか小鳥遊の小柄な身体をしっかりと抱き締めることに成功すると、今度は自分の身を護るために出来る限り身体を縮めた。

この一瞬でここまで出来た自分を褒めてやりたい。


そう思った瞬間。

俺たちは勢いよく階段から転がり落ちたのだった。
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