セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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番外編

その後4.話をしました!【in 生徒会室】

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朝比奈と一緒に生徒会室へ入ると、そこには珍しく役員メンバー全員が揃って仕事をしていた。

もちろんそこにはさっき話をしたばかりの壬生先輩の姿もあって少しだけ胸が痛んだけれど、気持ちに応えられない以上、いつまでも感傷的になっているわけにはいかないと気持ちを切り替える。

今は仕事に集中しよう。朝比奈曰く、そんなのすぐに気にしてられなくなるほど仕事は山ほどあるらしいし。


奥には俺を一瞥しただけですぐにパソコン画面に視線を戻した会長様と、あえてこっちを見ないようにしているのであろう佐伯の姿も見えた。

壱琉先輩はこっちに向かって手を振ってくれているものの、パソコン画面を開いて何かを入力している手は止まってない事から、珍しくちゃんと席に座って仕事をしていたらしいことが窺える。


それにしても、全員が座って黙々と仕事してたなんてホントに珍しい。

俺がいた時は大抵、壱琉先輩がどっかにフラフラ遊びに行ってたり、ひとりで喋りまくったりしてたもんな……。

まあ、俺がここに通っていた期間なんてほんのちょっとの間だったからたまたまそういう時期だっただけで、本当に切羽詰まれば余計な事してる暇なんてないってことか。

と思っていたら。


「仕事が立て込んでるというのもありますが、今日は光希が来るというのでわざわざこうして席を立たずに待っていたのだと思いますよ」


朝比奈がこの状況についてこっそり耳打ちで教えてくれた。

え!?ホントに!?
この言い方だと、あの会長様までがそうだって事!?

あの態度じゃそういうの全然伝わってこないんだけど……。


朝比奈の言葉を話半分に捉えながらもう一度チラリと会長様に視線をやると、ちょっとだけばつが悪そうな会長様の表情が見て取れた。

素直な反応の会長様……。
なんか意外っつーか、違和感バリバリ。
この人、こんなキャラじゃねぇよな?

でも俺はそんなことはおくびにも出さず表情を引き締めると、席に着く前にその場で頭を下げて挨拶をした。


「色々あってご迷惑をおかけしましたが、今日からまたよろしくお願いします」


するとすぐに壱琉先輩が立ち上がり、俺のほうへと近寄ってきた。


「おかえり~、みっきぃ!噂には聞いてたけど、なんかホントに別人みたいだねぇ。想像以上に美人さんでビックリしたよ~」

「この間はわざわざバッグを届けに来てくださってありがとうございました」


見た目に関しては軽く流しつつこの間の礼を言う。

これが元々の俺の顔の筈なのに改めて言及されるとなんか気恥ずかしい。


「バッグ届けるくらいお安い御用だよ!みっきぃが元気そうでホントに良かった!ケガの具合はもう大丈夫なの?」

「はい。お陰様で昨日抜糸も済みましたのでもう大丈夫です」

「病院に緊急搬送されたって聞いて、ホントに心配したんだから!みっきぃ無茶し過ぎだよ!!」

「……すみませんでした」


いつもと違い真剣な表情の壱琉先輩を見て、本当に心配させてしまったのだということがわかり申し訳ない気持ちにさせられた俺は、つい謝罪の言葉を口にしていた。

途端に壱琉先輩の口元にいつも見慣れたあざとい笑みが浮かぶ。


「みっきぃが無事だったから良かったものの、ホントに酷いことするよねぇ、誰かさんの親衛隊。
まあ、その前に誰かさんが馬鹿な真似しなきゃこんなことにはならなかったんだけどねー」


名指しこそされなかったものの、誰のことを言ってるのかはっきりとわかるだけに、本人達は非常に居心地の悪そうな顔になっている。
壬生先輩までもが不快そうに表情を歪ませながらも、俺に気遣うような視線を向けてきた。

そういうのはさ、出来れば触れずにさらっと流してもらいたかったんだけど。
こうなるといくら恥知らずだと自覚している俺でもスッゲェ居心地悪いから。


「え~と。佐伯先輩のしたことは最悪だと思います。もちろん会長様の親衛隊がしたことも許されることではありません。
──けど、佐伯先輩の事に関しては俺はもうあんまり気にしてないので、出来たら皆さんもこれ以上気にしないでいただけるとありがたいですし、会長様の親衛隊が仕出かした事については俺より小鳥遊のほうが酷い目にあってるので、むしろ小鳥遊のほうを気遣ってやってください」


良いこと言った風ではあるが、これは回りへの配慮とかっていう殊勝なものではなく、単にこの話はこれで終わりにして欲しいという意思表示のつもりでしかない。

すると、俺の意図を正確読み取ってくれたらしい壱琉先輩に微妙な表情をされてしまった。


「みっきぃって優しいのかそうじゃないのかよくわかんないよね……」


俺は敢えて何も答えずパソコンと向き合う。

これで話は終わったなと思っていたら。


「この間れおちゃんが生徒会室に来たんだよ~」


思いがけない事を言われ、驚いた俺はすぐに顔を上げた。

小鳥遊が生徒会室ってまさか……。


「ビックリした?僕たちもスッゴいビックリしたんだよ~。
最初は清ちゃんに対して殴り込みにでも来たのかと思ったんだけどさー。まさかのみっきぃの親衛隊設立申請だったから、もうホントにビックリ!なんたってれおちゃんはみっきぃのこと超嫌ってるって話だったし」


やっぱり……。
俺も最初親衛隊の話聞いた時はビックリしたもんなー。
なのに申請にきたのも小鳥遊だなんて意外過ぎる。


「その時さ、清ちゃんってばれおちゃんにフラれた挙げ句、牽制されたんだよ~」

「え?」

「なんかもう清ちゃんに未練はないみたいでさ。たとえ成り行きで関係を持った相手でも気持ちまで手に入れたわけじゃない以上、親衛隊としては特別扱いはしないってガッツリ釘刺されてさ」


アイツそんな事言ったのか。でもこの間の様子を見る限りきっと半分は強がりだろうな。
なんて思ってたら。

壱琉先輩が物言いたげな顔で俺をジーッと見ていることに気がついた。


「……何ですか?」

「ねぇ、みっきぃ」

「はい」

「れおちゃんはああ言ってたけど、ホントのところみっきぃは清ちゃんに抱かれてどうだったの?」


どうだったって言われても……。
それ、ここで答えないとダメなわけ?

ついチラリと生徒会長様を見ると、こちらもまた何か言いたそうに俺を見ていた。

さて、困った。正直セックスしてても会長様はやっぱり会長様って感じだったし、特に印象が変わったということもない。

なんて答えようか迷っていると。


「壱琉先輩。その質問はちょっとどうかと思います。いくらなんでも踏み込み過ぎですよ」


朝比奈が厳しい口調で窘めてくれた。ありがたい。


「えー。純粋な好奇心なのに~」

「そういう気持ちで踏み込んでいいことではないことくらいわかりますよね?」

「みんなだって気になってるくせに」


壱琉先輩は可愛いらしい仕草で口を尖らせ不満そうにしているが、言ってることはかなり下世話な事だけに誰も賛同する人はいなかった。

ちょっとだけホッとしたのも束の間。


「光希は清雅のことなんて何とも思っていないと思いますよ」

「何で朔ちゃんがそんな事言うのさー」

「それは光希にはここに転入してくる前からお付き合いしている方がいることを知っているからです」

「「え!?」」


まさかの暴露に俺と壱琉先輩の驚きの声が重なった。


「ちょっとみっきぃどういう事!?」


どういうって言われても……。ここで今そんな話する必要ある?

恨みがましい目で余計な事を言ってくれた朝比奈を見ると、朝比奈は俺のほうではなく、何故か挑むように会長様を見据えていた。


「だから成り行きで勝者となっても、気持ちまでは手にいれることは出来ないということなのですよ。
まあ清雅の場合、まだ土俵にも上がってないのでこんな話を聞かせる義理もないのですがね、万が一にでも自分が優位に立っているなんていう思い違いをしているといけないので、差し出がましい真似だとはわかっていましたが敢えて言わせていただきました」


何故か会話の中心にされている会長は眉間に縦皺を刻みながら厳しい表情で朝比奈と睨み合っている。

暫し無言になっている二人に周りのほうが気まずさを感じていると、空気を全く読まないことにしたらしい壱琉先輩が小声で俺に耳打ちしてきた。


「ねぇねぇ。まさかその相手ってザッキーじゃないよね?」

「は?」


ザッキーって、誰?

聞き慣れない呼び方の人物の登場に俺の頭にハテナが浮かぶ。


「神崎君ではないようですよ」


すかさず朝比奈から訂正が入り、俺は衝撃の呼び方に思わず声をあげた。


「え!?『ザッキー』って颯真のこと!?」

「あー、呼び捨て。あやしい!」


思わずツッコんだ俺に、壱琉先輩が更にツッコむ。
すると意外なところからフォローがやってきた。


「神崎と中里は幼馴染みだそうだ」

「何で翔ちゃんが知ってるわけ!?」

「お前よりちゃんと中里と話す機会があったからに決まってるだろう」

「何その優越感ぶった態度。おんなじフラれんぼのくせに生意気~」


壱琉先輩の言葉にたちまち壬生先輩の表情が苦いものになる。
すると今度は何故か会長様が意外な反応を見せた。


「その言い方だと壱琉先輩も光希のことが好きだったってことか?」

「そうだよー。悪い? 言っとくけど僕はみっきぃにちゃんと気持ち伝えてるからね!誰かさんと違って」


あれ、一応告白だったんだ……。冗談っていうか、むしろ嫌がらせかと思ってた……。

途端に生徒会室が微妙な空気に包まれる。

訳のわからない混沌とした状態にどう収拾つければいいのか途方に暮れていたその時。

俺に天の助けが現れた。


「すみません。遅れました」

「二階堂!!」


嬉しさと安堵のあまり名前を呼ぶと、あからさまに怪訝そうな顔をされ。


「また厄介事かよ……」


一瞬にして今の状況を把握したらしい二階堂はすぐにうんざりとした表情になった。


「ねぇ!二階堂はみっきぃの付き合ってる相手が誰か知ってるの~?」

「……存じません」

「なんだよー。使えなーい!」

「仕事以外の事を求められても困ります」

「……意地悪眼鏡」

「意地悪で結構です。そういうことなら桜庭先輩の仕事はもう手伝う必要はありませんね」

「えー!!それは困るー」

「じゃあ無駄口叩いてないでさっさと席に戻ってください」

「……はーい」


どういうわけか壱琉先輩は二階堂の言葉に従って渋々ながらも自分の席に戻っていく。
仕事手伝ってもらえないのがそんなに嫌なのか……。

二階堂さすが。優秀な上に、ひとの扱い方が的確だ。
結構態度酷いけど……。

俺はとりつく島もないような二階堂の態度もさることながら、壱琉先輩が二階堂をそのまま二階堂と呼んでいたことに密かに驚きつつ、パソコンに向かって自分のやるべき仕事を開始したのだった。
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