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番外編
その後3.話をしました!【朝比奈】
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『光希を乗せた東條先生の車が東條先生のマンションに入っていくところを』
その言葉がどういった事を意味するのか理解するのに多少の時間を要してしまった俺は、完全に返事をするタイミングを失っていた。
「すみません。光希を困らせようとか、これをネタに脅迫しようとか思っているわけではないんです。ただ、真実というか、現実を知っておきたいだけでして」
朝比奈が自嘲気味に笑う。
そして消え入りそうな声で。
「──そうでもしないと、この想いを簡単には諦められそうになくて……」
ボソリと呟くと、覚悟を決めたように俺をじっと見据えた。
東條との事を知られてしまったのは偶然だが、どのみち朝比奈には何かしらの話をしようと思っていたところだ。
これは下手な誤魔化しとかしないで、潔くホントの事を話しておいたほうがいいかもな。
「……東條先生とは一応そういう関係です」
教師と生徒っていう立場上、あんまり公にするべきことじゃないが、知られたところで本業のほうで充分成功している東條が困るってこともなさそうだし、俺も今更新しい噂のひとつやふたつたてられたところで痛くも痒くもない。
──散々女の子と付き合ってきた俺が、男と付き合うことになってるっていう現実のほうが、よっぽどダメージでかいしな……。
俺が若干遠い目になっていると、朝比奈は一瞬切なそうに表情歪めた後、深く息を吐き出した。
「いつから、とお聞きしても?」
いつから付き合ってるのかと聞かれてるのかわかってはいるが、付き合い始めたのはつい昨日からとはちょっと言いづらい。
「……初めて会ったのはこの学園に来る前のことです」
「もしかして、御堂理事長の紹介で?」
「いえ、違います。あくまでも偶然で」
「──運命の出会いというやつですか……」
「……………」
あれは確かに運命だとしか言い様のないシチュエーションではあったが、自分でそれを認めてしまうのは抵抗がある。
俺が沈黙で答えると。
「なるほど。これで漸く東條先生がああいう態度をされていたことに納得が出来ました」
朝比奈はそれまでとは打って変わって晴れやかな表情でそう言った。
俺はというと、朝比奈とは逆に完全に訝しむような渋い表情をしてしまった。
──ああいう態度って?
この学園に転校してきて以来、俺には終始嫌な態度だった東條。
俺だって気付いたのがいつなのかはわからないが、少なくともあの病院での告白まで、そんな素振りは全くなかったと思うんだけど。
「光希は気付いていなかったのかもしれませんが、今思うと東條先生がいかに光希を特別に思っていたのかという事がよくわかります」
はい。全く気付いてませんでしたとは言えないから、ここはとりあえず何も言わないでおくのがベストだろう。
「転入させるのにわざわざあんな変装させたりして。余程心配だったのでしょうね……」
いやいや。その時は全く気付いてないし。そもそも変装して転入したことに東條は全く関係ないから。
「その証拠に、自分がどうしても迎えに行けなくなったからと言って、わざわざ私に代わりに行って欲しい連絡してきたほどですし」
それ、全くの誤解です。何よりあの時点で既に一時間半待ちぼうけ喰らってるからさー。
あの日は完全に俺のこと忘れてたと思うし、思い出しても自分で行くのが面倒くさかったから頼んだだけだったと思う。
「役員補佐の話をした時も、いつもの東條先生なら好きにすればいいと仰るのに、光希の時だけ本人の意思を尊重することを条件にされてましたから」
ん?その辺りだともう知ってた可能性もあるな……。でもあの時の東條、ものすっごく嫌味ったらしくて態度悪かった気がしたんだけど。
「そしたら案の定、私が東條先生の部屋に行った時、当の本人である光希が偶然その場にいたにもかかわらず、私とは話をさせないようにさっさと帰そうとしてましたし。
今から考えると、あれは嫉妬だったのかなと思いましてね」
朝比奈の言葉に俺は完全に微妙な表情をしてしまった。
だってさ。こんな話。どういう顔して聞いてたらいいかわかんないじゃん。
底はかとない居心地の悪さしか感じないんだけど……。
「そんな顔しないで下さい。この事は私の胸だけに秘めておくと約束します。言いづらい事を正直に答えて下さってありがとうございました」
「いえ……」
正直にっていうか、勝手に朝比奈がひとりで喋って納得してだけで、むしろ俺、ほとんど答えてない。
心の中ではひたすらひとりツッコミしてたけど。
「光希の事は変わらず好きです。でもこうして真実がわかった以上、もう以前のように自分の気持ちを素直に告げて光希を求める真似は出来ません。さすがに今は胸が痛みますけど、これからは同じ生徒会のメンバーとして信頼されるよう努力していくつもりです。
──光希、一緒に頑張りましょうね」
「……はい。よろしくお願いします」
真摯な表情で自分の気持ちを伝えてくれた朝比奈に対し、とんでもない話を聞かされごっそり気力を削られていた俺は、言われた言葉の意味を深く考えることなく頷いてしまっていた。
途端にそれまで切なそうな表情をしていた朝比奈に笑顔が戻る。
俺はその笑顔にどことなく違和感を覚えながらも、気まずい空気が無くなったことにホッとしていた。
それから二か月後、またしても二階堂にチョロいと言われることになるとは夢にも思わず、俺は何事もなかったかのように振る舞ってくれる朝比奈と一緒に生徒会室へと向かったのだった。
その言葉がどういった事を意味するのか理解するのに多少の時間を要してしまった俺は、完全に返事をするタイミングを失っていた。
「すみません。光希を困らせようとか、これをネタに脅迫しようとか思っているわけではないんです。ただ、真実というか、現実を知っておきたいだけでして」
朝比奈が自嘲気味に笑う。
そして消え入りそうな声で。
「──そうでもしないと、この想いを簡単には諦められそうになくて……」
ボソリと呟くと、覚悟を決めたように俺をじっと見据えた。
東條との事を知られてしまったのは偶然だが、どのみち朝比奈には何かしらの話をしようと思っていたところだ。
これは下手な誤魔化しとかしないで、潔くホントの事を話しておいたほうがいいかもな。
「……東條先生とは一応そういう関係です」
教師と生徒っていう立場上、あんまり公にするべきことじゃないが、知られたところで本業のほうで充分成功している東條が困るってこともなさそうだし、俺も今更新しい噂のひとつやふたつたてられたところで痛くも痒くもない。
──散々女の子と付き合ってきた俺が、男と付き合うことになってるっていう現実のほうが、よっぽどダメージでかいしな……。
俺が若干遠い目になっていると、朝比奈は一瞬切なそうに表情歪めた後、深く息を吐き出した。
「いつから、とお聞きしても?」
いつから付き合ってるのかと聞かれてるのかわかってはいるが、付き合い始めたのはつい昨日からとはちょっと言いづらい。
「……初めて会ったのはこの学園に来る前のことです」
「もしかして、御堂理事長の紹介で?」
「いえ、違います。あくまでも偶然で」
「──運命の出会いというやつですか……」
「……………」
あれは確かに運命だとしか言い様のないシチュエーションではあったが、自分でそれを認めてしまうのは抵抗がある。
俺が沈黙で答えると。
「なるほど。これで漸く東條先生がああいう態度をされていたことに納得が出来ました」
朝比奈はそれまでとは打って変わって晴れやかな表情でそう言った。
俺はというと、朝比奈とは逆に完全に訝しむような渋い表情をしてしまった。
──ああいう態度って?
この学園に転校してきて以来、俺には終始嫌な態度だった東條。
俺だって気付いたのがいつなのかはわからないが、少なくともあの病院での告白まで、そんな素振りは全くなかったと思うんだけど。
「光希は気付いていなかったのかもしれませんが、今思うと東條先生がいかに光希を特別に思っていたのかという事がよくわかります」
はい。全く気付いてませんでしたとは言えないから、ここはとりあえず何も言わないでおくのがベストだろう。
「転入させるのにわざわざあんな変装させたりして。余程心配だったのでしょうね……」
いやいや。その時は全く気付いてないし。そもそも変装して転入したことに東條は全く関係ないから。
「その証拠に、自分がどうしても迎えに行けなくなったからと言って、わざわざ私に代わりに行って欲しい連絡してきたほどですし」
それ、全くの誤解です。何よりあの時点で既に一時間半待ちぼうけ喰らってるからさー。
あの日は完全に俺のこと忘れてたと思うし、思い出しても自分で行くのが面倒くさかったから頼んだだけだったと思う。
「役員補佐の話をした時も、いつもの東條先生なら好きにすればいいと仰るのに、光希の時だけ本人の意思を尊重することを条件にされてましたから」
ん?その辺りだともう知ってた可能性もあるな……。でもあの時の東條、ものすっごく嫌味ったらしくて態度悪かった気がしたんだけど。
「そしたら案の定、私が東條先生の部屋に行った時、当の本人である光希が偶然その場にいたにもかかわらず、私とは話をさせないようにさっさと帰そうとしてましたし。
今から考えると、あれは嫉妬だったのかなと思いましてね」
朝比奈の言葉に俺は完全に微妙な表情をしてしまった。
だってさ。こんな話。どういう顔して聞いてたらいいかわかんないじゃん。
底はかとない居心地の悪さしか感じないんだけど……。
「そんな顔しないで下さい。この事は私の胸だけに秘めておくと約束します。言いづらい事を正直に答えて下さってありがとうございました」
「いえ……」
正直にっていうか、勝手に朝比奈がひとりで喋って納得してだけで、むしろ俺、ほとんど答えてない。
心の中ではひたすらひとりツッコミしてたけど。
「光希の事は変わらず好きです。でもこうして真実がわかった以上、もう以前のように自分の気持ちを素直に告げて光希を求める真似は出来ません。さすがに今は胸が痛みますけど、これからは同じ生徒会のメンバーとして信頼されるよう努力していくつもりです。
──光希、一緒に頑張りましょうね」
「……はい。よろしくお願いします」
真摯な表情で自分の気持ちを伝えてくれた朝比奈に対し、とんでもない話を聞かされごっそり気力を削られていた俺は、言われた言葉の意味を深く考えることなく頷いてしまっていた。
途端にそれまで切なそうな表情をしていた朝比奈に笑顔が戻る。
俺はその笑顔にどことなく違和感を覚えながらも、気まずい空気が無くなったことにホッとしていた。
それから二か月後、またしても二階堂にチョロいと言われることになるとは夢にも思わず、俺は何事もなかったかのように振る舞ってくれる朝比奈と一緒に生徒会室へと向かったのだった。
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