セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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番外編

番外編『夏フェスに行きました!』

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なんだかんだ言って『まったりお家デート』を満喫した俺達は、東條の友達の相楽遥斗さんに誘ってもらった夏フェスを観に行くため、東條の車で移動した。

宿泊は東條んちの系列ホテル。
さすがは御曹司。夏休みだし連休だし夏フェスもあるしでホテルはどこも満室の筈なのに当たり前のようにスイートに泊まれるんだからさ……。


会場に移動する車の中で『Bサマーロックフェス』の出演者情報をあらためてチェック。


「相楽さんの事務所の【Jewel Rays】は夕方から。ヘッドライナーの【Hopes】は大トリだから一番最後。あ、【WINGS】出るんだ。12時からだって。間に合う?」

「大丈夫だろ。それにしても意外だったな。光希ってそういうのに興味ないのかと思ってたんだが」


紅鸞に来てからはほとんどテレビとか観てないけど、以前の俺は女の子達とのデートで話題に困らないよう、色んなとこにアンテナ張って情報収集してたっていう黒歴史があるので、極々直近の流行りじゃなければ大体の情報は知っている。


「アンタは興味なさそうだよな」

「まあ、確かにそれほど詳しくはないな。でもさすがに【Hopes】は知ってる。有名なロックバンドだし。遥斗んとこの【Jewel Rays】も歌ってんのは見たことないけど、パーティーとかで挨拶したから顔くらいは知ってる。【WINGS】は知らないな」


【WINGS】はアイドル顔負けのルックスとクオリティの高い音楽で人気の二人組の音楽ユニットだ。


「俺らくらいの若い世代に人気のユニットらしいから、先生世代だと知らないかもな」


何気なく口にしただけの言葉だったのに、何故か東條に軽く睨まれた。


「さりげなく俺を年寄り扱いしてんのか? だったら今日の夜にでもお前より体力あるってとこ見せてやってもいいんだぞ。せっかくこの俺がセーブしてやってたってのに、自分から抱き潰して欲しいと言ってくるなんてなぁ」


恐ろしいことをさらりと言ってくる東條に、俺は大慌てで否定する。


「ちがっ。そんなこと誰も言ってねぇし!」


一昨日のスローセックスでヘロヘロになってた状態からやっと回復したっていうのに、今度は抱き潰されたんじゃ堪らない。
そう思った俺は、つい余計な事まで口走ってしまった。


「俺だって【WINGS】のこと知らなかったけど、前に付き合ってた彼女にその【WINGS】の『ヒカル』に似てるって言われたことあったからさ」

「へぇ……。なるほど、『彼女』か。そういや光希はそのお付き合いしてた彼女ってやつがいっぱいいたんだったな」


心なしか低くなった声に、俺は自分の失敗を悟った。

いくら鈍感だって言われてる俺でも、今付き合ってる相手の前で元カノの話がマズいことくらいわかってる。

東條だってたぶん俺と似たようなものだとは思うけど、コイツは俺の前で絶対そんな話はしないし、俺も特に聞きたいとは思わないもんな。

ここは素直に謝っておこう。


「……ごめん。無神経なこと言った」

「べつに気にしてない。過去のことだろ」


気にしてないって割りには素っ気ないし、こっちを見ようともしないし。
それ全然気にしてないっていう態度じゃないから。

でもそんな事を指摘するわけにもいかず、俺達はどこか微妙な空気のまま会場へと向かったのだった。


◇◆◇◆


あきらかに一般客用の駐車場じゃないところに車をとめたと思ったら、東條は躊躇うことなく出演者や関係者がいると思われるエリアのほうに歩いていった。


「え? なんでこっち?」

「遥斗にパスもらってる。それに一応俺も関係者だからな」


困惑する俺に東條は、圭吾さんと共同出資したゲームアプリ開発会社『I.D.games』がこのフェスのスポンサー企業として名を連ねていることを話してくれた。

なるほどね。そういうことか。


「もしかして圭吾さんも来てんの?」

「いや。アイツは来ない」

「じゃあアンタが会社の代表で来てるってこと?」

「営業とか広報のヤツが来てるだろ。まあ、俺も一応関係者に挨拶くらいはするけどな。お前は好きにしてていいぞ」

「え……?」


まさかのおひとり様でのフェス参加。まあ、ライブ観てはしゃぐとか東條のキャラじゃないけどさ……。

……………。


これってやっぱり怒ってるんだよな?

楽しみにしてた筈なのに、一気にテンションが落ちていく。

その時。


「あ、東條社長だ! こんにちはー! お世話になっております!」


元気いっぱいという感じの声が聞こえて振り向くと、そこにはなんと【Jewel Rays】のメンバーである水森歩夢がいた。


「お疲れ様です。水森さん。こちらこそお世話になっております。これからご挨拶に伺うところだったんですが、相楽社長はいらっしゃいますか?」

「楽屋のほうにいると思います。場所わかりますか?」

「はい。ありがとうございます。水森さんはどちらへ?」

「俺はこれから他の出演者のステージを見に行ってこようかと思って」


少し離れたところから、完全にビジネスモードで話をしている東條と、普段テレビでしか見たことない人気アイドルのやり取りを眺めていると。


「光希。良かったな。水森さんが一緒に行ってくださるそうだ」

「はい?」


いつの間にか俺は人気アイドルとフェスを観るという話になっていたらしい。

なんで?


「水森歩夢です。よろしくお願いします!」

「中里光希です。こちらこそよろしくお願いします。……いいんですか?」

「もちろん!」


そりゃ一緒に行ってくれる人がいれば心強いけど……。

東條のほうに視線を向けると、こんな状況にした本人はさっさとこの場から離れようとしている。

え、ちょっと待って!

東條を呼び止めようとしたところで、俺は普段からアイツのことを『先生』か『アンタ』としか呼んだことがないことに気付き愕然とした。

……さすがにこんなとこで『先生』はマズいよな。

ちょっとだけ考えた結果。


「東條さん!」


いくら付き合ってるとはいえ、まだ『響夜』と呼ぶ覚悟が出来てない俺は、無難に名字で呼んでみたのだが。

東條が微妙な顔をして振り返る。

俺は俺で、呼び止めてはみたものの何て言ったらいいのかわからない。


「……あのさ、」


さっきはごめん? 怒ってる? 過去のことは気にすんな?

……なんか違う。

何を言うべきかぐるぐる考えていると、そんな俺を見て東條がクスリと笑った。

そしてこっちに戻って来たと思ったら、肩にポンと手を乗せ、内緒話をするかのように耳許に唇を寄せる。


「見たかったんだろ? 【WINGS】。楽しんでこいよ」


その声色からは怒っているような雰囲気は感じられないものの、いつもの甘さはどこにもないように感じられ、俺は素直に頷くことが出来ないまま一旦東條と離れることになった。


そんな訳で何故か人気アイドルとフェスを観ることになった俺だが。


「光希君ってキレイな顔してるねー。芸能関係の人?」

「いえ。普通の高校生です」

「ホントに!? 普通の高校生が金髪でいいの!? 夏休みだから気合い入ってる系?」


どんな系だよ。とツッコミを入れたくなるのを堪えながら、髪も目も生まれもったものだと説明する。


「うわぁ、天然でそれって羨ましい……。俺は今、学園ドラマでヤンキー役だから染めてるだけだし。なんか違和感バリバリで。しかも光希君、高一とは思えないほど大人っぽいし、超イケメンだし。めっちゃモテるでしょ? いいなぁ」


いいなぁって、人気アイドルが何言ってるんだかとは思うけど、隣の芝生が青く見えるのはみんな一緒ってことだよな。


「水森さんは充分カッコいいと思いますよ」


人気アイドルなのに謙虚だなんてそれだけで好感度アップだ。

最近ずっと自意識過剰な連中ばかりに囲まれていたせいか、心が洗われる。
そういう俺もちょっと前まではそんな感じだったから他人のこととやかく言えないんだけどさ。


「ははっ、光希君はイイ人だなー。イケメンなのに気取ってないし。俺のことは歩夢でいいよ。水森さんだとなんか堅苦しくてさー。今日はフェス楽しもうな!」


元気いっぱいといった感じでそう宣言する水森歩夢に、俺は戸惑いを隠せない。


「あの……、歩夢さん。ホントにいいんですか? ご一緒しても」


出演者の筈なのに俺と一緒にライブを観に行って本当に大丈夫なのか心配になって尋ねると。


「いいに決まってんじゃん! 金髪同士仲良く【WINGS】応援しようよ。二人揃って金髪だと、なんか『ヒカル』推しって感じでよくない? 光希君ちょっと『ヒカル』に似てるしさ」


水森歩夢は屈託のない笑顔を見せながらあっけらかんとそう言った。

いやいや。確かにキーボードの『ヒカル』は金髪だし、似てるって言われたこともあるけど。そこじゃないだろ。


「俺はともかく、歩夢さんは有名人だから、その、マズくないですか? ファンの人に見つかったりとかしたら」

「ああ、大丈夫。俺、普段オーラないから、帽子被ってたら気付かれないし。【Hopes】の時はボーカルの『スカイさん』推しってことにしとこうかと。実際ファンだしさー」


本気とも冗談ともつかない言葉に思わず笑ってしまう。

この人、滅茶苦茶面白い人だな。何て言うか、警戒心が薄れるっていうか、嫌な感じが全然しないっていうか。
人の気持ちを柔らかくして、和ませてくれる。

水森歩夢に対する俺の好感度はうなぎ登りだ。


「じゃあ、俺は【Jewel Rays】の時は、歩夢さん推しってことにしときます」


笑いながらそう言うと、水森歩夢は感激したように俺の手をガシッと掴み、キラキラした目を向けてきた。


「うわ、光希君やっぱめっちゃイイ人だなー。よし! じゃあ特別に今日はステージから光希君にファンサしちゃう」


その言葉に俺は思わず笑ってしまったのだった。


◇◆◇◆


その後二人で【WINGS】が出演するステージへと向かい、誰にも気付かれないままライブを堪能することが出来た。

【Jewel Rays】のステージでは予告どおり水森歩夢が俺に向かって手を振り、おまけにウィンクまでサービスしてくれたおかげで、俺の周囲にいた女の子達は普段テレビじゃ見せない水森歩夢の魅力にメロメロになってしまったようで、やたらとキャーキャー言っていた。

【Hopes】のライブも一緒に観ることが出来て、初めての夏フェスは水森歩夢のおかげで思った以上に楽しいものとなった。

メッセージアプリのIDも交換したし、今度一緒に遊ぶ約束もしたし。なんか芸能人だけど普通の友達が出来た感じがして嬉しかった。

ほら、俺、紅鸞学園に転入するまで颯真以外男友達いなかったからさ。


ただちょっとだけ心残りなのは、東條のこと。
出来れば東條にも一緒に楽しんで欲しかった。そういうキャラじゃないのはわかってるけど……。

車の中でフィナーレの花火を見ながら、隣にいる東條に話し掛ける。


「あのさ。今日は連れて来てくれてありがと。……それとごめん。無神経なこと言って」


普段とは違ったシチュエーションのせいか、俺にしては珍しく素直な言葉が溢れ出た。


「気にしてない。俺のほうこそ色々悪かった。こんなとこに来てまで仕事する羽目になったせいで、ずっとほったらかしにしてしまったし」


あの後東條は急な仕事が入り、一旦ホテルに戻っていたらしい。

俺と一週間過ごすために時間を確保したって言ってたけど、改めてそれがいかに大変なことだったのかということがわかった気がした。


「……俺はまだ高校生で、社会のことよくわかってない部分もあるけど、アンタが仕事を優先することを嫌だとは思わない。だから、無理はしないで欲しい。ダメな時はダメでいいからさ。そのくらいで嫌になるくらいなら、男となんて付き合ってねぇし」


なんだか照れくさくて東條のほうを見れないままでいると。


「光希」

「ん?」


名前を呼ばれたと思ったら、チュッと軽く口付けられた。


「俺はお前を手放す気はない」


真剣な眼差しが俺を射抜く。

まだはっきりと自分の気持ちを言葉にすることの出来ない俺は、東條の瞳を見つめ返すことしか出来なかった。
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