思い出して欲しい二人

春色悠

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第一章

デート(受け視点)

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 ふ、服とか変じゃないかな!?
 服装や髪の毛、果てには爪まで確認すること6回目。  
 時刻はまだ9時50分。
 …………約束の11時まで時間はあるけど、早めに行っておこうかな……。
 日曜日のこの時間帯だからか、少し空いた電車に乗る。
 人が少ないのをいいことに、鞄を開いて持ち物を確認する。
 今日は鞄に、お財布とハンカチ、小さいペットボトルのお水。あと携帯。
 肩掛け鞄に、重くならない様に考えて入れた物達。
 あとは、いつもより気合をいれた服装が乱れてないかの確認。
 最近は大分暑くなってきちゃったから、白の半袖ワイシャツに、淡い緑色の半袖の上着、無難な茶色のズボン。靴もいつも履いてる履きなれたスニーカーだ。
 プラスで、叔父さんから帽子もかぶせられた。
 だ、ダサくないかなぁ……?
 ドキドキしながらも、もう電車に乗ってしまったので後戻りは出来ない。
 集合場所は大学の近くにある本屋。以前ばったり飛鳥さんと出会った場所だ。
 浮足立った俺は少し小走りしながら本屋に向かった。
「……っあ、」
 あ、飛鳥さん!?
 飛鳥さんはもうそこにいて、もしかして時間に遅れたかと思ったが、時計はまだ9時台。
 そう思っているうちに、飛鳥さんも此方に気づいたらしい。
「…!翠君…!!」
 笑顔で手を振りながら小走りで此方に来る飛鳥さん。
「あ、飛鳥さん、お、お待たせしました…!」
 自分も駆け寄りながら、待たせた事を詫びる。 
「全然待ってないよ。翠君のほうこそ、来るの早いね。楽しみにしててくれたの?」
 その言葉に、心のうちが見られたように感じ顔が赤くなる。
「っへ?えと、………、た、楽しみに、してまひた……。」
 あっ、か、噛んでしまった。
 それにもっと恥ずかしさがましたが、飛鳥さんは嬉しそうに此方を見てくる。
「俺も楽しみにしてたんだ。翠君も一緒で嬉しいよ。じゃ、ちょっと早いけど行こうか。」
 すっ、と差し出された手。
「お手をどうぞ?」
 にっ、といたずらっぽい笑みを浮かべる飛鳥さん。
 キザなセリフも、仕草も、全てが格好良くて、顔の熱がまた強くなった。
「……あ、あぅ……。」
 なんの意味もなさない音だけが口から出た。
「……取ってはくれないのかい?」
「え、…と、取ります…!!」
 しゅんとした飛鳥さんに、慌てて手を取れば、嬉しそうに微笑まれた。……一体どこの王子様だ…。
 勢い余ってぎゅっと強めに握りしめたが、そのまま自然と歩き出した飛鳥さんにつられ歩く。
「翠君はパスタ好きかい?」
「へっ?あ、はい。好きですっ…。」
 急に聞かれて、手を繋いでいる事で精一杯な俺は咄嗟に肯定してしまった。
 ……よ、良かった、聞かれたのがパスタが好きかどうかで……。て、てきとうに肯定しちゃうところだった……。
 パスタは好きなので大丈夫だ。
「良かった。最近美味しそうなお店を見つけたから、翠君と行きたいなって思ってたんだ。」
 俺が慌ててたり安心したりしていれば、飛鳥さんにそう微笑まれた。
「…、っ、……、ありがとう、ございます……。」
 絞り出せた言葉はそれだけで、その後も飛鳥さんが質問してくれてそれに短い返事を俺が返すという会話しかできなかった。
 それでも楽しくお店までついたのは飛鳥さんのお陰だ。
 その後しっかりとパスタも食べて、今は送ってくれると言う飛鳥さんと帰り道を歩いている。
「あそこのパスタ、気に入ってくれたかな?」
 少しゆったりと歩く飛鳥さんに話しかけられる。
「は、はいっ!美味しかったです。種類も豊富でしたし……。…本当に俺お代今からでも払いますよ…?」
 パスタのお店は小分けに色々な種類の物を食べられるシステムで、デザートも豊富だった。
 ……だからこそ、沢山食べてしまったのだけれど。
 食べ放題を頼んでいたから良かったんだけど、飛鳥さんに奢ってもらってしまったのだ。
「……今日はお礼のつもりで来たんだから、奢られてもらわないと困っちゃうな?」
 困ったと言いながらも、少し悪戯っぽい笑顔を浮かべる飛鳥さんに何も言えなくなってしまう。
「で、でも、料理を教えてるって言っても本格的な物を教えれてる訳でもないですし……。」 
 それでも必死に言い積もれば、今度こそ少し困った様な顔に飛鳥さんはなってしまった。
「う~ん……、そこまで気になる?」
 そう首を傾げる飛鳥さんに、ぶんぶんと縦に首を振る。
「き、気になります…!お、俺は、お礼を期待して飛鳥さんに料理を教えてる訳じゃないので…!」
 何が理由でも飛鳥さんと話せるだけで嬉しいのに、お礼目当てな訳が無い。
「えっ?そ、そっかぁ……。」
 俺の言葉に目を見開いた飛鳥さんは、どこか照れた様に頬をかいた。
 その飛鳥さんから飛び出した提案は、遥かに想像を超えていた。
「そ、それじゃあ、今度本格的に料理を教えて貰えないかな?それが今回の奢りのお礼って、ことで……。駄目かな?」
「本格的に、ですか?」
「そう、どこか調理できる場所で、調理しながら教えて貰えたり、とか。」
 そ、そんなに飛鳥さん料理がうまくなりたいんだ……。
 で、でも、飛鳥さんとまた会う約束ができるし……。
 その考えに行き着けば、勝手に口は動いていた。
「……そ、それが、お礼になる、なら……。」
「ありがとう翠君!詳細はまた後でメールで相談しようね。」
「は、はい。」
「あ…、駅に着いちゃったね。じゃあ、また今度。」
 会話が一段落した所で、駅までついてしまった。
 飛鳥さんは電車に乗らないようでここでお別れみたいだ。
 ……なんか、寂しいな。
 心なしか飛鳥さんの顔もしょんぼりしているように見えるのは俺の願望だろうか。
「……また、今度。」
 考えてもわからないので、そう惜しむ様に呟いて、飛鳥さんにペコリと頭を下げてから電車に乗り込んだ。
 発車する電車の窓からホームを見れば、飛鳥さんが手を振ってくれていて、そっ、と俺も手を振り返した。
 
 
 その後、飛鳥さんから来たいつなら予定が大丈夫かのメールに、
『次の日曜日は学校もバイトも休みなので大丈夫そうです。』
 と返し、次の日曜日に飛鳥さんのお家に行く事が決まった。
 ……飛鳥さんのお家。
 ……………ちょっと、どきどきするなぁ……。
 あ、でももし彼女さんとかいたら気まずくなっちゃいそう。俺が勝手に、だけど……。
 そのネガティブな考えは、その後送られてきた作りたい料理で吹き飛んだんだけれど。
 ………ハンバーグ、どうやったら飛鳥さんに形を崩さずに作ってもらえるだろう……。
 一歩間違ったらミートソースになっちゃうよ……。
 十中八九いくつかのハンバーグがバラバラになるだろうと思った俺は、ミートソースにすべくパスタとトマト缶も一緒に持っていこうも決意した。
 ……ミートソースパスタも一緒に作っちゃおう。
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