思い出して欲しい二人

春色悠

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第一章

お家デート (攻め視点)

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「じゃ、じゃあ、始めましょう…!!」
 み、みどりが俺の部屋にいるぅぅう!!!
 自分の家のキッチンにみどりが居ることにドキドキしすぎる俺は、だらしない顔を晒していないかが心配だ。
 だってしょうがないだろう。みどりが自分の家の中に居て、キッチンに立ってるんだぞ?
 そんなの、新婚さんみたいじゃないか……!!
 盛大に気持ちの悪い妄想をしながら、表面上は爽やかな笑顔を作ってみどりに料理を教えて貰う。
「まずは、玉ねぎを切りましょう。…み、みじん切りっていって、できるだけ細かく切るんですけど、えと、先にお手本とかいりますか?」
「……お願いしたいな。」
「っはい…!」
 少し嬉しそうな顔をしたみどりは、実に手慣れた手つきで玉ねぎを細かく切っていく。
 _____みじん切り。そうそれは、不器用なのを自覚している俺が避けて通っていた道。
 玉ねぎなんて使わないだろうお菓子類ばかりに挑戦し、偶に挑戦するおかず類は器用さを求められない様なレシピばかり。
 事の発端はある料理動画だ。みどりに相談するにあたり、手軽そうなレシピを沢山調べた際に出てきた食材の切り方。
 半月切り_余り使われている所は見ないが、一番簡単な切り方だ。恐らく切った形が半月に似ている事からそう呼ばれている。
 いちょう切り_よく使われている印象がある。半月切りをもう一度切るだけでできる切り方。此方も同じく見た目から名前がつけられていると思われる。
 みじん切り_まず?縦に切り込みを入れて?横に切っていくだけ?
 だけ?
 そう説明する動画投稿者に軽い殺意が湧いた。俺の不器用さを舐めるんじゃない。切り込みってなんだ。ぶった切るぞ玉ねぎを。
 取り敢えずみどりにはお手本を頼んだが、俺にできるだろうか。
 先行きが不安になりながらも見ていれば、なんとみどりのみじん切りの手順が動画と違う。
 まず半分に切った玉ねぎをそのまま半月切りの様に切る。それから細かくなるように縦と横に切る。
「はい、こんな感じで切ります。……?飛鳥さん?」
 切り終わったみどりが、びっくりしている俺に不思議そうな顔をする。
「あ、ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって…。一応俺も前もって動画とか見てたんだけど、翠くんと切り方違ったなぁって。」
 上目遣いで見上げられてドキッとしながら、そう説明すれば、みどりが照れた様に頬をかいた。可愛い。天使。
「じ、実は、みじん切り難しいかなって思って、簡単な切り方を考えてきたんです……。で、できそうですか?」
 わぁぁあ、かわいい、可愛いが過ぎるぞみどりぃぃ!!
 てれてれ、といった風に頬を染めながら俺の為に考えて来たと教えてくれるみどりを思わず抱きしめそうになるが、必死に耐える。
「ありがとう翠君!これなら俺でもできそうだよ…!」
 どこまでも不器用な事を知られているのは少々格好がつかないが、みどりに料理を教えてもらえるのは約得でしかないのだ。
 喜びを噛み締めながら玉ねぎを切れば、ちょっと目が痒くなったが、なんとか切りきった。やっぱりみどりの切った物と比べると俺のは凄いことになっているが、できるものだな。
 まあ、みどりのおかげだがな。
「次はこのみじん切りにした玉ねぎを飴色になるまで焼きます…!」
 ひたすら焼くだけなのでOK。ちょっとフライパンから玉ねぎを落としたけど。
 フライパンを持ってふんす、と気合を入れてるみどりは可愛かった。
「次は、ミンチをボールに入れて、卵と、ちょっとの牛乳と、パン粉を繋ぎとして入れて捏ねます。その後に玉ねぎも入れて再度捏ねます。」
 またしてもこぼした。みどりの提案でラップを敷いた上にボールを置いて捏ねたのが功を奏した。流石みどり。
 あはは、って笑ってるみどりが可愛かった。
「これを成形して、後は焼くだけです。あ、チーズとか入れちゃいますか?」
「う~ん、今回は上からかけるだけにしておこうかな。失敗したら怖いし。」
「はい。わかりました。」
 二人で一緒に成形した。みどりが綺麗な楕円にしている横で、どうなっているのかわからない形のハンバーグを俺は生み出す事になった。
 焼く段階で裏返した時にボロボロにしてしまったりとハプニングはあったが、なんとかハンバーグは出来上がった。
「えっと、一度出来たハンバーグ(無事なやつ)をお皿に乗っけて、残った油でデミグラスソース作ります。デミグラスソースって言っても、市販の素を残った油と混ぜるだけなんですけど、美味しいんですよ。」
 そうにこにこと説明してくれるみどりが可愛い。さっきから可愛いしか思ってない気がする。
 二人でぐつぐつと煮えるデミグラスソースを見ていれば、あっという間にとろみのついたソースが出来上がった。
「後は、簡単にサラダでも作りましょう。レタスを千切ってミニトマトを添えるだけです。」
 そうレタスを出してくるみどりと一緒にレタスを千切ったら大分悲惨なレタスができたが、食べれなくはない。
 お皿に全部盛り付ければ完成だ。
 みどりと一緒にリビングの机に料理を並べる。
 _____そう、俺はみどりと昼食を食べる約束を取り付けたのだ…!!
 ウッキウキで準備をしていれば、白ご飯を入れていない事に気づく。
「あ…、ご飯まだ炊けてませんね…。」
 同じ様に気づいたらしいみどりが炊飯器を確認すれば、後3分と書いてあった。
「あ~……、ごめんね。もう少し早く炊いておけばよかった。」
 くぅ~……!せっかくみどりとご飯が食べられるというのに……!
「いえ、少しお話でもしてれば3分くらいすぐに経ちますよ。」
「…そうだね。翠君はどんな話が聞きたい?」
「え?えと、あの本棚にいっぱい入ってる本のこととか、ですかね。」
 へにょり、と笑ってそう言ってくれるみどりに甘えて少し話をしていれば、すぐに炊飯器が鳴った。
「おいしいですね。」
「うん。翠君のおかげだよ。本当に美味しい。」
「えへへ…。」
 なんて幸せな空間なんだ。みどりが俺の家に居て、一緒に料理を作って、一緒に食べられるなんて。
 あっという間に幸せな時間は過ぎて、みどりが帰る時間になってしまった。
「今日はありがとう翠君。はいこれ、さっき言ってた本。」
「あ、ありがとうございます。大事に読みますね。」
 炊飯器が鳴るまでにした会話の中でおすすめした本を貸して、いよいよみどりが帰ってしまう。
 大事そうに本を手に取るみどり。
 名残惜しく思いながらも、みどりを送り出し、一人リビングのソファーで寝転がる。
 ……この間のパスタ屋でも可愛かったなぁ、みどり。
 色々なパスタに目を輝かせてちょっとずつお皿にとって食べていたみどりは本当に可愛かった。
 相変わらず酸っぱい物は苦手みたいで、みかんの入ったサラダを食べた時のきゅっ、て顔が物凄く可愛い。その後ちょっと涙目になりながら飲み込んでたのはちょっとえっちだったけど。
 今日の事も思い出しながら、ソファーで寝転がりながらにへにへ笑う俺。
 
~後日~
「あ、飛鳥さん。あの本ありがとうございました。読めたので返しておきますね。」
「え、もう読めたの?面白かった?」
 みどりから帰ってきた本を手に家に帰った俺は、本に栞が挟まっていることに気づく。
「…こ、これって……!」
 少し歪な形に作られたシロツメクサの指輪を押し花なした栞。
 _____もしかして、みどりも覚えていたりするんだろうか。
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