思い出して欲しい二人

春色悠

文字の大きさ
23 / 24
第一章

お家デート (攻め視点)

しおりを挟む
「じゃ、じゃあ、始めましょう…!!」
 み、みどりが俺の部屋にいるぅぅう!!!
 自分の家のキッチンにみどりが居ることにドキドキしすぎる俺は、だらしない顔を晒していないかが心配だ。
 だってしょうがないだろう。みどりが自分の家の中に居て、キッチンに立ってるんだぞ?
 そんなの、新婚さんみたいじゃないか……!!
 盛大に気持ちの悪い妄想をしながら、表面上は爽やかな笑顔を作ってみどりに料理を教えて貰う。
「まずは、玉ねぎを切りましょう。…み、みじん切りっていって、できるだけ細かく切るんですけど、えと、先にお手本とかいりますか?」
「……お願いしたいな。」
「っはい…!」
 少し嬉しそうな顔をしたみどりは、実に手慣れた手つきで玉ねぎを細かく切っていく。
 _____みじん切り。そうそれは、不器用なのを自覚している俺が避けて通っていた道。
 玉ねぎなんて使わないだろうお菓子類ばかりに挑戦し、偶に挑戦するおかず類は器用さを求められない様なレシピばかり。
 事の発端はある料理動画だ。みどりに相談するにあたり、手軽そうなレシピを沢山調べた際に出てきた食材の切り方。
 半月切り_余り使われている所は見ないが、一番簡単な切り方だ。恐らく切った形が半月に似ている事からそう呼ばれている。
 いちょう切り_よく使われている印象がある。半月切りをもう一度切るだけでできる切り方。此方も同じく見た目から名前がつけられていると思われる。
 みじん切り_まず?縦に切り込みを入れて?横に切っていくだけ?
 だけ?
 そう説明する動画投稿者に軽い殺意が湧いた。俺の不器用さを舐めるんじゃない。切り込みってなんだ。ぶった切るぞ玉ねぎを。
 取り敢えずみどりにはお手本を頼んだが、俺にできるだろうか。
 先行きが不安になりながらも見ていれば、なんとみどりのみじん切りの手順が動画と違う。
 まず半分に切った玉ねぎをそのまま半月切りの様に切る。それから細かくなるように縦と横に切る。
「はい、こんな感じで切ります。……?飛鳥さん?」
 切り終わったみどりが、びっくりしている俺に不思議そうな顔をする。
「あ、ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって…。一応俺も前もって動画とか見てたんだけど、翠くんと切り方違ったなぁって。」
 上目遣いで見上げられてドキッとしながら、そう説明すれば、みどりが照れた様に頬をかいた。可愛い。天使。
「じ、実は、みじん切り難しいかなって思って、簡単な切り方を考えてきたんです……。で、できそうですか?」
 わぁぁあ、かわいい、可愛いが過ぎるぞみどりぃぃ!!
 てれてれ、といった風に頬を染めながら俺の為に考えて来たと教えてくれるみどりを思わず抱きしめそうになるが、必死に耐える。
「ありがとう翠君!これなら俺でもできそうだよ…!」
 どこまでも不器用な事を知られているのは少々格好がつかないが、みどりに料理を教えてもらえるのは約得でしかないのだ。
 喜びを噛み締めながら玉ねぎを切れば、ちょっと目が痒くなったが、なんとか切りきった。やっぱりみどりの切った物と比べると俺のは凄いことになっているが、できるものだな。
 まあ、みどりのおかげだがな。
「次はこのみじん切りにした玉ねぎを飴色になるまで焼きます…!」
 ひたすら焼くだけなのでOK。ちょっとフライパンから玉ねぎを落としたけど。
 フライパンを持ってふんす、と気合を入れてるみどりは可愛かった。
「次は、ミンチをボールに入れて、卵と、ちょっとの牛乳と、パン粉を繋ぎとして入れて捏ねます。その後に玉ねぎも入れて再度捏ねます。」
 またしてもこぼした。みどりの提案でラップを敷いた上にボールを置いて捏ねたのが功を奏した。流石みどり。
 あはは、って笑ってるみどりが可愛かった。
「これを成形して、後は焼くだけです。あ、チーズとか入れちゃいますか?」
「う~ん、今回は上からかけるだけにしておこうかな。失敗したら怖いし。」
「はい。わかりました。」
 二人で一緒に成形した。みどりが綺麗な楕円にしている横で、どうなっているのかわからない形のハンバーグを俺は生み出す事になった。
 焼く段階で裏返した時にボロボロにしてしまったりとハプニングはあったが、なんとかハンバーグは出来上がった。
「えっと、一度出来たハンバーグ(無事なやつ)をお皿に乗っけて、残った油でデミグラスソース作ります。デミグラスソースって言っても、市販の素を残った油と混ぜるだけなんですけど、美味しいんですよ。」
 そうにこにこと説明してくれるみどりが可愛い。さっきから可愛いしか思ってない気がする。
 二人でぐつぐつと煮えるデミグラスソースを見ていれば、あっという間にとろみのついたソースが出来上がった。
「後は、簡単にサラダでも作りましょう。レタスを千切ってミニトマトを添えるだけです。」
 そうレタスを出してくるみどりと一緒にレタスを千切ったら大分悲惨なレタスができたが、食べれなくはない。
 お皿に全部盛り付ければ完成だ。
 みどりと一緒にリビングの机に料理を並べる。
 _____そう、俺はみどりと昼食を食べる約束を取り付けたのだ…!!
 ウッキウキで準備をしていれば、白ご飯を入れていない事に気づく。
「あ…、ご飯まだ炊けてませんね…。」
 同じ様に気づいたらしいみどりが炊飯器を確認すれば、後3分と書いてあった。
「あ~……、ごめんね。もう少し早く炊いておけばよかった。」
 くぅ~……!せっかくみどりとご飯が食べられるというのに……!
「いえ、少しお話でもしてれば3分くらいすぐに経ちますよ。」
「…そうだね。翠君はどんな話が聞きたい?」
「え?えと、あの本棚にいっぱい入ってる本のこととか、ですかね。」
 へにょり、と笑ってそう言ってくれるみどりに甘えて少し話をしていれば、すぐに炊飯器が鳴った。
「おいしいですね。」
「うん。翠君のおかげだよ。本当に美味しい。」
「えへへ…。」
 なんて幸せな空間なんだ。みどりが俺の家に居て、一緒に料理を作って、一緒に食べられるなんて。
 あっという間に幸せな時間は過ぎて、みどりが帰る時間になってしまった。
「今日はありがとう翠君。はいこれ、さっき言ってた本。」
「あ、ありがとうございます。大事に読みますね。」
 炊飯器が鳴るまでにした会話の中でおすすめした本を貸して、いよいよみどりが帰ってしまう。
 大事そうに本を手に取るみどり。
 名残惜しく思いながらも、みどりを送り出し、一人リビングのソファーで寝転がる。
 ……この間のパスタ屋でも可愛かったなぁ、みどり。
 色々なパスタに目を輝かせてちょっとずつお皿にとって食べていたみどりは本当に可愛かった。
 相変わらず酸っぱい物は苦手みたいで、みかんの入ったサラダを食べた時のきゅっ、て顔が物凄く可愛い。その後ちょっと涙目になりながら飲み込んでたのはちょっとえっちだったけど。
 今日の事も思い出しながら、ソファーで寝転がりながらにへにへ笑う俺。
 
~後日~
「あ、飛鳥さん。あの本ありがとうございました。読めたので返しておきますね。」
「え、もう読めたの?面白かった?」
 みどりから帰ってきた本を手に家に帰った俺は、本に栞が挟まっていることに気づく。
「…こ、これって……!」
 少し歪な形に作られたシロツメクサの指輪を押し花なした栞。
 _____もしかして、みどりも覚えていたりするんだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

処理中です...