雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!

コバひろ

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雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』その(1)オファー

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堂島源太郎は自分の目を疑った。

「こ、こんなにギャラが...。これ、本当ですか? これだけあれば借金も返せます。願ってもないことです...」

堂島源太郎は人気キックボクシング団体『S』の人気選手である。20代の全盛期3~4年は日本王者だった。
しかし、連勝を続けていた堂島も、30を過ぎるころから勝ったり負けたりを繰り返し衰えが見えてきた。

堂島源太郎はもうすぐ35才になる。
普通ならとっくに引退してもいい歳なのだが、人の善い彼はある投資話を持ちかけられ借金を背負った。
引退したくとも、家族のためリングに上り続けなければならない。
しかし、峠を超えた彼にオファーが来ることは珍しく、来ても目を覆いたくなるような低額なギャラ。

このままじゃ、とてもじゃないが借金は返せない。家族4人で首を括るしかないのか?

堂島にはお金が絶対必要な事情があった。切羽詰まり追い込まれていた。
そんな矢先に、願ってもないオファーが堂島のもとに来たのだ。

「それじゃ、このオファー受けてくれるんだね? 堂島さんもお金が必要でしょ? 家族を路頭に迷わさないためにも是非受けてほしい。」

「はい! 是非やらせて下さい。でも、なぜこんな高額なギャラを? 全盛期のタイトルマッチより遥かにいいし、峠を過ぎた私なんかに...」

「普通ならそう思うよね。詳細は後日話すが、この試合は特別です。ところで、堂島さんは総合ルールの経験もありましたよね? それが条件で、大晦日の格闘技大会、全国放送されます。正式に決まれば、アナタにはトリプルメインの第一試合に出てもらいます」

キックボクサーの堂島にとって、総合ルールはやりにくいが、背に腹は代えられない。絶対お金が必要な彼にとって、これだけの条件断る理由がない。

堂島源太郎は12年のキックボクサーキャリアで、41戦32勝(21KO)7敗2分。他に総合ルールでも5度戦い3勝2敗。

「沼田さん、どんなルールでも戦います。勝ち負けより、自分の生き様を子どもたちに見せてあげたい。相手が人間であれば誰とでも戦う。それで、その相手は誰なんですか?」

「分かりました。誰とでも戦うって言葉...。男、堂島源太郎に二言はないですね? 忘れないで下さい。相手は先方にも確かめなくてはならないことがありますので、今は言えません。3日待って下さい。大晦日に向かって、ベストコンディションに仕上げて下さいね。
それでは3日後に...」

マッチメイカーの沼田はそう言い残すと席を立った。

今は8月なので4ヶ月以上の間がある。堂島は必死に練習して、一世一代の戦いをする覚悟だ。
借金を返せば引退して、親子4人で穏やかに暮らそうと思う。
これだけの信じられない高額ギャラ。相手はきっと名のある大物なのだろう。その相手として、自分は噛ませ犬に選ばれたのかもしれない。

それでもいいじゃないか!

沼田氏には “相手が人間であれば” とは言ったが、家族のためであれば化け物でもケモノであっても戦うつもりだ。

(沼田さんはいい話を持ってきてくれた。感謝しかない...)

その夜。

いい話を持ちかけられた堂島は、気分良く土産を持って家族のもとに。

「おーい! 次の試合決まりそうだぞ。大晦日のあの大会に出られそうだ!」

「ええ! ほんと? あの大会はテレビ生中継されるんだよね? 父ちゃんスゲえ! 必ず勝ってね」

息子の龍太は大喜び。龍太は父が負けるといつも目に涙をため悔しそうにする。でも、勝っても負けてもその生き様は尊敬しており、友達にもいつも自慢しているのだ。

「わーい! パパ頑張ってね」

娘の麻美も無邪気に喜んでいる。

妻の佐知子は、そのギャラに目を丸くした。信じられないという表情だ。

「これだけのギャラがあれば、借金を返してもお釣りがくるわね。ところでアナタ、相手は誰なの?」

「う~ん、、まだ交渉中なので、相手が分かるのは3日後なんだ...」

妻は堂島と高校時代の同級生で34才。息子龍太10才、娘 麻美7才。
愛する家族のためにも、相手が誰であろうと下手な試合は絶対出来ない。
勝ち負けではなく、父の、男の、、生き様を見せなくてはならない...と、堂島は固く決意した。
その夜、堂島は久しぶりに心置きなく
しこたま飲んだ。良い酔心地だった。
(さあ!明日から猛練習だ...)

堂島源太郎の人気の秘密は、そのファイトスタイルにある。
スロースターターの彼は、序盤に苦戦することが多い。倒されても倒されても、タフな彼は必ず立ち上がり最後には逆転KO勝ちというパターンが多い。
肉を切らせて骨を断つ! それは見ている者に感動とスリルを与える。
『ド根性源太郎!』との異名もあり、勝っても負けても必ず何かを残す。

そんなキックボクサー人生の中でも、今回の試合ほど気合いの入るものはない。もう35才になるのだ。この試合が最後になるだろう。
我が人生の集大成だと思っている。

3日後、堂島は沼田の元に出向いた。

堂島は道中色々考えていた。
こんな全盛期を過ぎた自分があれだけのファイトマネーを提示された。客観的に見て自分にはそれだけの商品価値はないだろう。それは相手によるところが大きいのだと思う。
かなりの大物? 人気者? それに総合ルールだというのだ。誰なのか考えてみたが思い浮かばない。

「堂島さん、どうもどうも...」

沼田は満面の笑みで堂島を迎えた。
機嫌が良さそうなのは交渉が上手くいっている証拠だろう。万一、このオファーが立ち消えになってしまったら?と、心配もしていた堂島だが、沼田の顔を見て安心した。
堂島はお金が絶対必要なのだ。

「沼田さん、交渉はうまくいったみたいですね?」

「勿論!先方もアナタがオファーを受けてくれたことを大喜びしていたよ。堂島源太郎が相手なら申し分ないってね。まぁ、まぁ、座って下さい」

まだ、対戦相手を教えてもらってもないのに、話は進んでいるようだ。“堂島源太郎なら申し分ない相手?” 普通なら不審に思うのだが、今の堂島には試合を実現させることだけが願い。

「で、その相手とは誰ですか?」

「その前に堂島さん。アナタの階級は主にライト級でしたね? この試合は62Kg以下という契約です。」

「はい! それは問題ありません。今は65Kgちょっとありますが、大晦日まで間がありますから...」

「それは良かった! で、もう一つ嬉しい話しがあります。この試合、大きなスポンサーが付きますので、勝った方に先日提示したファイトマネーの他に特別賞金が出されます。倍額になると考えて下さい。」

堂島は勝ち負けではなく、男の生き様を見せたいと思っていたのだが、その話を聞いて闘志がムラムラと燃え上がるのを感じた。勝ちたい!

「それで、堂島さん。アナタが大晦日に戦う相手のことですが...」

「・・・・」

堂島はごくりと唾を呑み込んだ。
沼田はそんな堂島の顔を真っ直ぐ見ている。そして、口を開いた。

「アナタの対戦相手の名は山吹望。堂島源太郎vs山吹望が実現します。」

「や ま ぶ き の ぞ み ???」

堂島はどこかで聞いた名だな、と思いながら頭を巡らした。
そんな堂島を沼田は真剣な顔でジッと睨むように見ている。

「山吹望って、どこかで聞いたような気もするのですが...」

「堂島さん、アナタはファッション雑誌○○○ってご存知ですか?」

「ファッション雑誌? うちの妻と娘は興味あるようですが、生憎私はそういうことには...」

「その雑誌で一躍人気者になったモデルで、NOZOMI という女子高生モデルがいるのですがご存知ないですか?」

「NOZOMI ?? 女子高生?」

世間のこと、流行にはまるで疎い堂島だったが、英文字での“nozomi ”に思い当たることがあった。
妻の佐知子や娘の麻美が、ファッション雑誌を見ながら「のぞみちゃんって可愛くてスタイルいいね!」と言っていたのを思い出したのだ。

沼田は黙って堂島の表情を見ている。

「NOZOMIってモデルさん、あの長身で手足の長い娘ですか? 妻や娘に “大人気だから、近々芸能界デビューするかも?” そう聞いたような?」

「そうです。そのNOZOMIさんです」

「それが、私の対戦相手と何の関係があるのですか?」

「NOZOMIは謂わば通称で、彼女の本名は山吹望というのです」

「山吹望...? ま、まさか!」

「そう、そのまさかですよ堂島さん。アナタは大晦日にNOZOMIこと、山吹望とリングで戦ってもらいます」

「ええ! だ、だって、、女性じゃないですか。それもまだ女子高生じゃないですか? からかわないで下さい」

沼田は真剣な顔で言った。

「アナタは誰とでも戦うと仰いましたよね? 男!堂島源太郎に二言はない!と、言われましたよね?」

「しかし...。女性が相手だとは聞いていません。まさか、リング上で彼女と一緒にファッションショーをやれってことじゃないですよね? アハハ!」

「堂島さん。これは余興ではありません。リングで彼女と真剣勝負してもらいます。茶番にこんな高額なファイトマネーが支払われると思いますか?しかも、勝者には更なる賞金が...」

沼田の表情は真剣で、有無をも言わせない雰囲気がある。

「勝者って...。真剣に戦えば勝つのは男である私に決まってるじゃないですか!女子高生の顔を殴ったり、そのきれいな身体を蹴るなんてことは...」

「堂島さん。アナタは彼女のもう一つの顔をご存知ないようですね?」

沼田はそう言うと、ある雑誌を持ってきて見せてくれた。

天才女子高生ファイター!
ムエタイ天才美少女NOZOMI
美少女は柔術マジシャン!
異次元の天才格闘美少女NOZOMI

女子アマ格闘技界での彼女の活躍が、派手な見出しで躍っていた。

「山吹望の真の顔は格闘家で、それも柔術とムエタイを駆使する圧倒的な天才です。モデルは仮の姿です」

「で、でも、それは女子でのことであって、私は女の子は殴れません!」

「困ったな堂島さん。これはスポンサーも決まってるし、約束は守ってもらいますよ。調印式はまだですが、断ったら二度とリングに戻れなくなりますし、この業界からも追放です。それに違約金を払ってもらいますよ。堂島さん、お金が必要なんでしょ? そんなことになったなら、親子4人路頭に迷い首を括るしかなくなりますよ...」

「・・・・」

(俺にミックスファイトをやれというのか? だが、断れるはずはなかった。)

「分かりました。大晦日に向かってトレーニングもありますので、私はこれで失礼します...」

堂島が感情を抑えながら引き下がると沼田は満足そうに頷いた。

帰り際に沼田に声をかけられた。

「堂島さん。もし、もし、アナタが女子高生を殴ったり蹴ったりすることなんて出来ないと考えながら試合に臨んだなら大変なことになりますよ。大晦日の晩、全国生中継で女子高生に失神KO負けなんてことになったら、全国の堂島源太郎ファンはどう思うか? 何より息子さんや娘さんにそんな父の姿は見せたくはないでしょ? ベストコンディションで臨んで下さい」

沼田はそう言うとニヤッと笑った。

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