なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番

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15 船の探検

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 海の近くというのは様々な音が聞こえる。
 海鳥の鳴き声に……
 港の活気ある人々の声……
 王都の港は朝からとても賑やかで、気が付けばいつもより早い時間に目覚めていた。
 これまで私の住んでいた女官寮は城のすぐ近くで、城は王都でも一番高台にあり、周囲に森も多い。
 ずっとそこに住んでいたし、その前も王都でも緑の多い貴族学園の寮で生活していたので、この辺りが朝からこんなに音に溢れているというのは知らなかった。
 窓から差し込む光もなんだか眩しくて、ぱっちりと目を開いた。

(もう、起きよう)

 まだ少し早い時間だったが、私はベッドを出て身支度を整えた。
 今日はリカルドに買ってもらった動きやすい服を着ることにした。

(うわ……やっぱり、着心地がいい……)

 少しゆったりとしたデザインの肌ざわりの良い明るめのキャメル色のトップスと、袴のようなシルエットの濃いブラウンのパンツは動きやすいだけではなく、私をいつもより顔色がよく明るい雰囲気に見せてくれた。
 着心地も良くて動きやすくて、デザインも洗練されている。こんなに素敵な服ならあの値段も頷ける。

(リカルド……どう思うかな……)

 無意識に彼の言葉を待つ自分に気付いて急いで手を振ってその思いを打ち消した。

(普段着にまで感想を求めるなんて……とにかく甲板に行って景色が見たい!)

 私は部屋を出ると、甲板に向かった。
 昨日リカルドに、停泊中なら船の中は自由に見て回ってかまわないと言われた。
 隣の部屋のリカルドに声をかけようかと思ったが、まだ休んでいたら申し訳ないので、一人で甲板に出て景色を見ることにした。ギシギシと少し木の軋む音のする階段を上ると、すぐに甲板に出た。

「おう、はようっス!!」
「おはようさん!!」
「うっス!!」

 甲板に出ると、すぐに3人組の男性クルーに会い、あいさつをされた。

「おはようございます」

 私もあいさつをすると、三人のうちの一人が声をかけてくれた。

「お一人でどうしたんスか?」
「あの……景色を見たくて……」

 答えると、船員の一人が笑った。

「あ~~、この横の階段を上がれば、よく見えますぜ」
「行ってもいいでしょうか?」
「もちろん」
「ありがとうございます!! 行ってみます」

 私は3人にお礼を言うと、眺めがいいという場所に向かった。
 階段を少し登るとぶんぶんと、剣を振る音が聞こえて階段の途中で立ち止まった。
 眺めがいいと教えてもらった場所では、ロダンが剣を振っていた。
 とても力強い動きだ。
 
(もしもあの剣を相手にするなら、私はどうやって動くのがいいだろう? 正面から向かって行っても勝てそうもないから、もしも逃げられるのなら、気を逸らして逃げるのがいいかも。そのために退路を確保するには……)

 頭の中で戦闘趣味レーションをしていた時だった。
 ロダンが手を止めて、私の方を見た。

「早いな」

 声をかけられたので、私はあいさつをして階段を上った。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 そしてロダンは目を細めた。

「まるで射貫くような視線だったが、剣に興味があるのか?」
「はい。ずっと訓練していました」

 転生前は大人になっても剣道を続けていたし、転生してからは剣術を学んだ。両者とも違いはあったが、両方を知っているからこそ、自分で使ように訓練した。女官というのは意外と物騒なのだ。
 ロダンが私を見て口角を上げた。

「へぇ、ちょっと打ち込んでみるか?」

 そして私に木刀を差し出した。

「いいのですか?」
「ああ、どうぞ。ちなみに船内での訓練は木刀のみ、刀剣は禁止だ」
「わかりました」

 私は木刀を手に取ると、剣を構えた。

「珍しい構えだな……いつでもいいぜ」

 こっちの剣術は片方で剣を持って構えるのでフェンシングの構えに似ている。
 だが、私は幼いころから剣道をやっていた影響で、どうしても両手で構えるクセがついている。だが、女性の私には片手で剣を扱うよりも両手で扱う方が合っている。

「行きます」

 私は久しぶりに剣を持って打ち込んだ。
 カンカンと木の音が辺りに響いた。
 そして、しばらく打ち合った後に、ロダンが練習の終わりを付けるために私の木刀を制した。

「やるな。本当に剣を使えるのか」
「ありがとうございます」

 ロダンはニヤリと笑うと、「こっちだ」と言った。
 そして近くの倉庫に入り、扉の鍵を開けた。
 中には様々な剣が入っていた。

「好きなものを選べ」
「いいのですか?」
「ああ。構わない、リカルドの嫁なら、俺たちにとっても家族同然だからな」

 リカルドの嫁……
 その言葉に頬が赤くなるのを感じる。

「ふっ、なるほど(あいつが夢中になるのもわかるな)、ところで選ばないのか?」
「選びます」

 私は刃先に波状のあるカットラスを見つけて手に取った。

(このタイプは物を切りやすい)

 服を切ったり、枝を切ったり、とにかく逃げる時に必要な機能を求めてこれを選んだ。

「これにします」

 ロダンが楽しそうに私を見ながら尋ねた。

「へぇ~~どうしてそれを?」
「私は恐らく力では男性には敵いませんので、逃げたり、時間を稼ぐために剣を使います」
「はははは!! 逃げることを想定しながら戦うのか!! 潔くていいな。まぁ、でも……それがいいだろうな。貸しな。帯刀出来るようにしてやる」

 ロダンは鞘の部分に皮のベルトを付けて、帯刀できるようにしてくれた。
 
「ありがとうございます」

 ロダンから剣を受け取ると、カーン、カーンと鐘の音が鳴り響いた。

「あ、そろそろ食事20分前だ。食堂に行くぞ」
「はい」
 
 食堂に向かうと、食堂の入り口でガイに会った。
 ガイは私を見ると、目を大きく開けた。

「イリスさん、どこに居たんだ!? 若がイリスさんの部屋の前をずっとうろうろしているぞ!?ありゃ~~本気で不審者だ。みんなどうしたらいいかわからなくて声をかけられねぇんだ!!」
「え!?」
「ほら、こっち」
「はい」

 私はいつの間にか私のことを『イリスさん』と呼ぶようになっていたガイと一緒に、自分の部屋に戻った。
 すると部屋の前では確かにリカルドが難しい顔で私の部屋の前にいた。

「若、若~~イリスさん発見しましたぜ~~そこにはねぇ~~」

 ガイの声にリカルドがこちらを見て目を大きく開けた。

「イリスさん!?」

 私は慌てて謝罪した。

「リカルド、申し訳ありません。自由に船内を歩いていいとの許可をもらったので、景色を見るために甲板にいました」

 リカルドはほっとした顔をした。

「そうだったのか……もうすぐ朝食だが、ノックをしても返事がねぇし……ゆっくり寝てるのも起こすのも悪いが、気が付いたら食事が終わっているってのもどうかと思ってな。どうしたもんかと考えていたんだ」

 リカルドも私が寝ていると思って気を遣ってくれていたらしい。

「私も……もしリカルドが寝ていたら起こしたら悪いと思って……声をかけて行けばよかったですね」

 リカルドは安心したような顔で笑った。

「いや、出港まで自由に船内を歩いていいと言ったのは俺だ。どうか、気にしねぇでくれ」

 ガイが呆れたように言った。

「とにかく、会えたんだからいいだろう? 食事に行くぞ」
「ああ」

 リカルドが私を見ると、ふと私の腰の位置で目を止めた。

「イリスさん。その剣……昨日持っていたか?」
「いえ、今朝、ロダン様と剣を訓練をした時に、貸していただきました」

 正直に話ると、リカルドが大きな声を上げた。

「なんだって!? ちょっと待ってくれ。色々と理解が追い付かない」

 リカルドは立ち止まって、片手を頭に付けて何かを考え込んでしまった。
 そんな彼を見て私は恐る恐る声をかけた。

「あの……やっぱり剣をお借りしたのはよくなかったのでしょうか?」

 リカルドは急いで顔を上げた。

「あ、いや。そういうわけじゃ……いや、どうだろうな? よくないかもしれねぇな……なんだって、ロダンはイリスさんに剣を……」

 リカルドが再び考え出したので、ガイが呆れたように言った。

「とにかく、食堂に行こうぜ。ロダンだっているだろう。どうして剣をイリスさんに渡したのか聞いてみろよ」
「おう、そうだな」

 そして私たちは3人で食堂に向かった。

(ロダン様、叱られないかな……私が剣はほしいって言ったら……)

 内心罪悪感んで押しつぶされそうになりながら、食堂に向かった。
 ロダンはすでに昨日の位置に座っていた。
 リカルドは彼の座っているテーブルに片手をついて鋭い視線を向けた。

「ロダン、なぜイリスさんに剣を渡した?」

(怖い……)

 リカルドの低い声と鋭い瞳はとても怖いと思えた。
 だが、ロダンは特に怯えることもなく普通通りに答えた。

「ん? 簡単なことだ。彼女の剣の腕が立つからだ」
「え……」

 驚くリカルドに向かってロダンは淡々と答えた。

「しかも、慎重で合理的だ。無茶な戦い方はしねぇ。それなら身を守るためにも持っていた方がいいと思ってな」
「そうなのか?」

 そして私を見てリカルドが真剣な顔をした。

「イリスさんは剣を持ちてぇのか?」
「はい」

 力強くうなずいた。

「わかった。すれじゃあ、それを使ってくれ。ただし、絶対に無理はするな」
「はい。ありがとうございます」

 それから私たちは席にについた。

「あの、リカルド」
「ん?」

 隣に座っているリカルドに声をかけた。

「遅くなりましたが、おはようございます」

 リカルドは驚いた後に、嬉しそうに笑った。

「ああ、おはよう!!」

 そして私たちはお互いを見て微笑んだ。
 なぜか、周囲の人々が赤い顔をして視線を一斉にそらしていたのが気になったのだった。
 
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