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14 リカルドSIDE
しおりを挟む自分の部屋ではなく、甲板に向かう方の廊下をスタスタと歩いて、角を曲がって階段まで来て足を止めた。
ダメだ。
顔を普段のようにしたいと思うのに、自然とニヤけてしまって、表情が戻らない。
たまらず、立ち止まり船の廊下の壁に片方の肩を預けて、片手で顔を覆った。
(危っっねぇ~~!! 俺、今、イリスさんに何しようとした!? なんだ、この感覚……身体が勝手に動く……あ~~もう、どうしよう、イリスさんが……すげぇ可愛い……)
これまでそれなりに夜会に参加して、貴族の令嬢たちと会って話をした。
お見合いの話が出て、お見合いをしたこともある。
だが……
『怖いですわ……』
『申し分ございません、このお話はなかったことに……』
これまで初めて会った時は、みんな好印象を持ってくれる。
だが少しでも素の自分を見せると、貴族令嬢は嫌がって、自分の元を去って行く。
しかも断られるのはいつも他の人を通してなので胸をえぐられていた。
今回はどうしても商談のために仕方なったとはいえ、彼女を怖がらせたくなくて、可能な限り貴族らしく取り繕うことにした。
騙すとか、自分を良く見せたいというよりも願うことは一つ。
――彼女が怯えずに暮らせるようにしたい。
彼女が怯えずに安寧に暮らせるなら、一生彼女の前では貴族らしく振る舞うつもりでいた。
だが、早々にバレてしまって絶望したが、イリスは『怖くない』と言ってくれただけではなく、『素の自分を見せてほしい』と言ってくれた。
正直、すでに一生離したくない。
昨日初めて会ったとは思えないほど好きだ。
彼女が自分の伴侶だという事実が信じられないほど幸福だ。
(まさか、あの我儘無責任公爵に感謝する日が来るとは……)
一時、ピルオン公爵は本気でしめようかと思っていた。
何度言っても約束は守らないし、口だけで行動が遅すぎる!
どうしてあんなヤツが上に居るんだと、本気で王家を恨んだこともあった。
だが、散々煮え湯を飲まされてきたあの忌まわしい男のおかげで、最高の伴侶を見つけた。
(人生何がどうなるか、わからねぇもんだなぁ……)
控えめに言ってもイリスのことはもう、かなり――好きだ。
一生離すつもりはないし、ずっと顔を見ていたい。
今日だって、離したくはなかったが、門限を守り、この夜でもにぎやかな王都に長く住みながら、夜に外に出たこともないという彼女に心底恐怖を与えたくないし、嫌われたくもない。
きっと自分は彼女に嫌われたら、生きていけないかもしれない。そのくらい、惚れてしまっていた。
(人ってこんなに簡単に人を好きになれるもんなんだな……)
「はぁ~~」
深いため息をつくと、後ろから声が聞こえた。
「こんなところで寄りかかってるから、気分でも悪いのかと思えば、ため息か? どうした? イリスさんに『怖い』とでも言われたか?」
声だけで、ロダンだとわかった。
「縁起でもねぇこというな。違うよ」
ロダンの方は向かずに、片手で顔を押さえたまま答えた。
「ロダン、若の顔、前から見てみろよ。ただの色ボケってわかる。顔が……ははは、緩み切ってる。それなりに長い付き合いだけど、こんな若初めてみたわ。まぁ、彼女、まさに若の理想って感じだしな……」
今度は前からガイの声がして顔を上げた。
「誰が色ボケだ」
「若だろ? 違うのか? 昨日から散々、『可愛い』とか『夢なのか』とか抜かして、みんなを呆れさてたじゃねぇ~~か!」
「いや……確かに……色ボケかもしれねぇ、どうしたらいいんだ。イリスさんが可愛いんだ!! どこから見ても、可愛い。何を言っても可愛い。こんなに完璧な生き物が存在してもいいのか?」
本気でガイの両肩に両手を置いて揺さぶると、ロダンが何かで俺の頭を叩いた。
「そんなことより、リカルドにはやることがあるだろう?」
「わかってる。だからこうやって、表情を戻してたんだろうが!!」
俺がロダンを睨むと、ロダンが両肩を上げた。
「そうか、では表情の戻る情報をやろう」
空気がピリッと締まった。
「今回の運河な、想定よりも汚れてるようだ」
「なんだと?」
「最近、外洋航海ばかりだったからな。仕方ない」
急に頭が冷静になった。
「詳しい情報は集めてあるのか?」
「ああ、もう用意してみんな待ってるぜ」
俺はうなずいた。
「わかった、すぐに向かう」
こうして俺は、皆の待つ甲板へと急いだのだった。
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