なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番

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22 到着

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「イリスさん、そろそろラーン伯爵領に到着する」

 リカルドに誘われて、私は甲板に出ていた。
 
「すごい……大きな街……」

 ラーン伯爵領の中心部は王都を除き、これまで見てきたどの街よりも大きかった。

「ああ。これから着岸するのは、ラーン伯爵領内でも最大のフィル港だ」
「聞いたことがあります。確か、我が国最大の港ですよね」
「ああ、そうだ。毎日何隻もの船が出入りする」

 フィル港には、王都以上に船が多かった。
 国内の船は、ここを拠点に王都方面や、各公爵領方面に出航する。ここには王都では見ることのない大きな船も見えた。

「リカルド、あの船は随分大きいですね」

 私は一際大きな船を見ながら尋ねた。

「ああ、あれは外洋船だ。今は、あれよりも大きな船を作っている」
「あれよりも!?」
「そうだ。もうすぐ完成するから、見せてやるからな」
「楽しみにしてます!!」

 リカルドと笑っていると、港で待つ人々の声が聞こえるほど近づいて来た。

「帰って来たぁ~~とうちゃ~~ん!!」
「戻ったぞ~~」

 そして、船の外と中から声が飛び交う。

(ふふふ、みんな嬉しそう)

 みんなとても嬉しそうな顔をして私まで嬉しくなった。
 ふと、隣のリカルドを見上げると、リカルドも目を細めていた。
 この船の船長として、誰一人としてケガをすることもなく、再び戻って来ることが出来てほっとしたのかもしれない。

「若様~~ご結婚おめでとうございます!!」
「あ、もしかして隣のお嬢さんが、お嫁さん!?」
「若~~結婚おめででとう」

 どこからともなく、リカルドの結婚を祝福する声が聞こえると、一斉にあちらこちらから声が聞こえた。

「おう!! みんなありがとな!!」

 リカルドが隣で嬉しそうに声を上げて、みんなに手を振っていた。

(え!? みんなもう結婚のことを知っているの!?)

 私は驚いてリカルドを見上げた。
 目が合ったので、リカルドに尋ねた。

「いつの間に皆様にご報告を?」
「あ~~その~~イリスさんと結婚した日に嬉しくて……その日のうちに領に電報を打ったんだが……随分と広がっちまったみてぇだな……」

 リカルドが後頭部に片手を置きながら言った。
 その後、すぐに鐘の音が鳴り、着岸を知らせた途端に、船と陸の間に木の橋のようなタラップがかけられた瞬間、子どもたちが走って飛び込んで来た。

「とうちゃん、おかえり!!」
「おかえり~~お父さん!!」

 そして、船員の家族がぞくぞくと乗り込み、家族と再会の抱擁を交わしていた。
 
(ああ、素敵な光景だな……)

 私がこの光景をほのぼのと眺めていると、数人がこちらに向かって近づいて来た。

「若~~この人がお嫁さん?」
「おお、若、紹介してくれ」
「若の嫁が可愛すぎる!!」
「若って、女に興味があったんだな……」
「面食いだな、こりゃ~~」

 いつの間にか町の人たちに取り囲まれて、どうしたらいいのかとオロオロしていると、リカルドが大きな声を上げた。

「みんな紹介する。この方はイリスさんだ!! 俺の大事な人だ!! よろしく頼む!!」

 周りから「おお~~」という声が聞こえた。

 大事な人――

 リカルドは、みんなに対して結婚相手とか、嫁という言い方をしなかった。
 これは私への配慮だとわかっているが、なんだか……胸が痛いと思えた。
 自分で望んだくせに、随分と勝手だ。

「若、馬車の用意が出来ましたぜ!! 荷物は俺たちに任せてくだせぇ」
「ああ、悪いな」

 リカルドは私の手を取って微笑んだ。

「イリスさん、行こうぜ。俺の家に案内するぜ」
「はい」

 私はリカルドの手を取ると、みんなが道を開けてくれた。

「若を頼みます」
「幸せにな!!」

 まるで結婚式かのように町の人々に歓迎されて、リカルドがこの街でみんなにどれだけ慕われているのかが分かった。

「すまなかったな、びっくりしただろ? まさか、こんなことになってるとは……」

 馬車に乗った途端にリカルドが頭をかきながら言った。

「いえ、リカルドはみんなに慕われているのだな、と思いました。本当にみんなあたたかくて、いい方たちばかりですね」
「はは、だろ? 俺の自慢だ」

 リカルドは嬉しそうに笑った。
 本当にこの街が好きなのだろう。
 彼のこの顔だけで充分に伝わってくる。
 そして、馬車は小高い丘の上の大きな屋敷に到着した。

「ここだ」

(何……ここ……城!? 大きい……)

 リカルドに案内された場所は、想像以上に大きな屋敷だった。いや、屋敷というより城だった。

(もしかして、これだけ壮大な建築物を維持するのに、借金がかさんでいるんじゃ……)

 私はこんなにも大きな城を見て不安になってしまった。

「若、奥様。お帰りなさいませ」

 エントランスに入ると、清潔感のある若い雰囲気の執事が迎えてくれた。

「今、戻った。何か変わりはなかったか?」

 リカルドが声をかけると、執事がにっこりと微笑んで答えた。

「そうですね……先ほどレッグナード様からお届け物が届いておりまよ?」
「はぁ? あいつから届け物だと!?」

 リカルドが声を上げると、執事が私を見て微笑んだ。

「はじまして。私はロウと申します。何かありましたら、お申し付けくださいませ」
「はじまして、イリスと申します。こちらこそよろしくお願いします」
「イリス様ですね」

 ロウに自己紹介をしていると、リカルドが声を上げた。

「あ、紹介が遅れて悪かった」
「それだけじゃありませんよ。若が『可愛い子と結婚した!!』と謎の怪文書を送りつけて来たので、皆、どんな冗談かと思いましたよ……」

(え? リカルド、そんな風に報告していたの??)

 私が内心驚いているとリカルドが呆れたように言った。

「その割には随分と広がっていたみたいだが?」
「当たり前ですよ!! 若、これまで彼女さえもいなくて、あまりにも船バカ過ぎて、みんな若は女性に興味がないんじゃないかって、本気で心配していたんですから!! 絶対に逃がしてはなならないと外堀を埋めるスタイルをとりました。どうです? 有能な執事でしょ?」

 リカルドは大きな溜息をついた。

「はぁ~~そういうことかよ……」

 そして私を見て困ったように言った。

「悪かったな……イリスさん」

 リカルドはそう言うと、ロウを見た。

「それで、あいつから何が届いたって?」
「結婚のお祝いかと……」

 リカルドは眉を寄せて声を上げた。

「あいつから、結婚祝い!? なんだよ、それ。呪いでもかかっているんじゃねぇか?」
「とにかく、私も触りたくないので若が何とかして下さい。渡り廊下に置いてあります」

(結婚のお祝いを渡り廊下?? どうしてそんなところに??)

 私はなぜ渡り廊下に、お祝いの品が置いてあるのかが気になった。

「心底……放置したい……」

 リカルドが珍しく肩を下げた。

「あの……リカルド。レッグナード様とは一体……」

 私が尋ねると、リカルドが疲れた顔で答えた。

「イリスさんのイヤな同僚のイヤな兄貴」

(私のイヤな同僚……サイモンよね? そのイヤな兄貴……つまり……」

「ピルオン次期公爵!?」
「ああ、そう」

 リカルドは、息を吐いた。

「仕方ねぇな。確認に行くか。イリスさんはロウに部屋に案内してもらってゆっくり……」
「私も行きます!!」

 リカルドだけに面倒事を任せたくない。リカルドがロウを見た。

「女性が見てもいい感じのものか?」
「さぁ? まぁ、大丈夫じゃないですか? 毒ではなさそうですし……」

 ロウの言葉でリカルドは私を見て「じゃあ、見るだけな」と言って渡り廊下に向かうことになったのだった。

 
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