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第七章 幸せの予約
56 秘書の事前準備(1)
しおりを挟む「シャルロッテ。これが小切手だよ。エイドもよく聞きなさい。決して妥協せずに、いい物を買いなさい。今後は、エイドも、陛下に拝謁を賜る機会があるのだからね」
私はお父様から小切手を受け取りながら頷いた。
「わかったわ!! お店は決めてあるの。さぁ、エイド行きましょう」
「はい」
今日は、エイドの秘書用の服を2着ほど購入することになっていた。1着は公の場に着て行けるようにエイドぴったりに仕立てて、もう1着はすぐに使えるように既製品の服を買う予定だ。
私はエイドと、王都でも有名な高級な紳士服を扱うお店に向かった。
以前、元ホフマン伯爵やハンスと一緒に行ったお店だった。お店の方の対応もよく、元ホフマン伯爵家の服を仕立てていたお店なので、今後貴族の方々ともお会いすることになるエイドにも、ぴったりのお店だと思ったのだった。
「……お嬢、本当にこの店に入るんですか?」
窓ガラスから見える服を見ながら、エイドが困ったように言った。
「そうよ」
「まぁ、お嬢が舐められないためにも服は必要ですしね。行きましょう」
「ええ。きっと、エイドなら良く似合うわ」
「そうですかね~~?」
こうして、私はエイドと共に店に入った。
すると、以前、元ホフマン伯爵やハンスと共にお邪魔していた時は、とてもにこやかにしていたお店の方が、私たちの顔を見た途端に、迷惑そうに眉を寄せた。
「なんだ、お前たちは。ここはお前らのような庶民の来る場所じゃない。帰れ、帰れ!!」
バタン!!
扉が大きな音を立てて閉められた。
私たちはお店に入った瞬間に、外に追い出されてしまったのだ。
何か起きたのかわからなくて、唖然としていると、エイドが私の頭を撫でた。
「さぁ、行きましょうか。お嬢」
以前、お邪魔した時は、いい人のように見えたが、どうやらそうではなかったようだった。
私のお店選びが悪かったせいで、エイドにつらい思いをさせてしまって申し訳なく思った。
「エイド……イヤな思いをさせてしまって、ごめんなさい」
エイドは、困った顔をして、頭を撫でながら言った。
「俺は全く気にしてませんよ。ここはこういう店ですから。あの……お嬢さえ良ければ、俺が執事服を仕立てて貰った店があるんですが、そちらに行きませんか?」
エイドの執事服は、動きやすいだけではなく、執事服を着たエイドは、とてもカッコよくて私も大好きなので、私は大きく頷いた。
「ぜひ、そこに行きましょう!」
「はい、案内しますよ」
私はエイドの案内で、エイドの執事服を仕立ててくれたお店に行くことになったのだった。
☆==☆==
「お嬢。ここですよ」
エイドに連れて来られた場所は、趣のある小さなお店だった。
古い外観だったが、よく手入れしてあり、掃除も行き届いており、とても素敵なお店だった。
「こんにちは~~」
エイドは、ためらうことなく、お店の扉を開けた。
「あら? エイドちゃん。この前は、麦を運んでくれてありがとう。おかげで助かったわ」
中に居たのは、小柄でとても元気なお母様くらいの御歳の女性だった。
どうやら、エイドとは、かなり仲が良いらしく、親し気に話をしていた。
「いいって、いいって。困った時はお互い様。それより、親方か、イーグルはいる?」
「ええ。いるわよ。ちょっと~~来て~~」
女性が奥の向かって叫び、しばらくすると、お父様と同世代くらいの男性が出てきた。
「お~~エイドじゃねぇか~。どうした?」
「こんにちは、親方。実は、俺、秘書になるんだけど、貴族連中に舐められない、国王陛下の前に出ても恥ずかしくない服を作ってくれるか?」
エイドに親方と呼ばれた男性は、呆気なく答えた。
「おう、任せろ。今度は、執事じゃなくて、秘書なんだな」
「そう。既製品で1着、仕立てて1着。2着欲しいんだけど……」
エイドの言葉を聞いた男性は、眉を寄せながら言った。
「既製品? すぐに必要ってことなのか?」
「うん」
「ん~~。じゃあ、あいつにも手伝わせるか……」
男性は、顎に手を当てて考えた後に、店の奥に向かって叫んだ。
「おい、イーグル。顔見せろ!!」
すると、今度は、エイドと同じくらいの歳の男性が、眠そうに目を擦りながら出てきた。
「ふぁ~~~あ、親父。どうした? お~~エイドじゃねぇか~~この前は、俺の代わりに麦運ばせちまって悪かったな」
「俺も買い物の途中だったからな、ついでだから気にすんなよ」
どうやら、このイーグルと呼ばれた男性ともエイドは知り合いのようだった。
私が黙って、エイドとお店の方のやり取りを見ていると、イーグルさんと目が合った。
「おお??? こ、こ、こ、こちらの、べ、別嬪な女の子は誰だ? まさか!! エイド、身を固めるのかぁ~~? くそ~~顔か? 顔なのか? 俺が今まで生きてきた中で出会った、一番の別嬪だぜ!! あの、やっぱりエイドじゃなきゃダメですか? 俺はどうですか?」
イーグルさんに近づかれそうになると、エイドが私とイーグルさんの間に入ってくれた。
「おい、イーグル。お嬢に気安く触るな!!」
「え? お嬢? お嬢って、あのお嬢??」
イーグルさんが、驚いた顔で私を見ていた。
どうしたのだろうか?
あの、お嬢とは、どういう意味だろうか?
私が首を傾けていると、女性が大きな声を上げた。
「まぁ、まぁ、まぁ、あなたが、エマちゃんが、天使がこの世に舞い降りたという、あの、天使ちゃんね」
(天使ちゃん?!)
天使ちゃんというのは、もしかして、小さい時のことだろうか?
どうやら、エマもこの方々と知り合いのようだった。
すると、親方さんも、私を見て嬉しそうに言った。
「お~~~、この娘が、あのお嬢か~~。色男のエイドに『目の中に入れて外に出したくない』なんて、物騒なことを真顔で言わせる天使かぁ~~こりゃ~~。確かに目の中に入れておきたいかもしれねぇな~~」
(エイドがそんなことを?!)
「確かに、俺も、この娘だったら、目の中から出したくないかも……しかも、貴族令嬢とは思えないほど、穏やかで可愛い!! 姿絵が欲しい……」
「だろ? お嬢は天使な上に賢いし、可愛いし、心まで綺麗だからな。だが、姿絵は絶対にダメだ。イーグルはあんまり見るな。お嬢が減る」
「見るだけで、減るか!! お前、お嬢が絡むと心が狭いよな~~」
(エイド?! 他の人にもそのセリフを言っているのね?? 恥ずかしいです~~!!)
「まぁ、というわけで、俺としては、絶対にお嬢に、恥かかせたくねぇんだ。最高の手仕事頼めるか?」
エイドの言葉に、イーグルさんが「ニシシ」と笑った。
「任せろ!! 親父~、あの腹黒次男坊の布を注文する時に、見つけた例のアレ、使ってもいいか?」
「おお!! あいつは、一級品だ。それにエイドに、合いそうだしな」
「あはは、エイドちゃんは、男前だから出来上がりが楽しみねぇ~~さぁてと、じゃあ、エイドちゃん、こっちにいらっしゃい。採寸しますからね」
「ああ、おかみさん、よろしく頼みます。おい、イーグル。お嬢に失礼があったら、わかってるだろうな?」
エイドが、イーグルさんに近づくと、イーグルさんが青い顔をしながら言った。
「そんな怖い顔で睨むな!! イケメンの睨みなんて受けたら、石化しちまうだろ?! 何もしねぇ~よ」
ここからでは、イーグルさんの顔は見えたが、エイドの顔は背中を向けていたので見えなかった。
そのうちに、エイドの姿が見えなくなった。
一体、エイドは、どんな顔をしたのだろうか?
私が、そんなことを考えていると、お店のドアが開いた。
「誰かいるか?」
(え? あの方は………)
私は思わず、固まってしまった。
まさか、この方とここで会うことになるとは思ってもいなかったのだ。
「おお、腹黒次男坊じゃねぇか」
え?!
信じられないことに、イーグルさんは、この方に向かって失礼なことを言っていた。
下手すれば、不敬罪で掴まるかもしれない、お方だ。
私が、この場をどうすればいいのか考えていると、その方が口を開いた。
「誰が、腹黒だ!! まぁ、次男なのは間違いないが……」
(もしかして、仲がいいのかしら?! ええ? この方と???)
私が混乱していると、目が合った。
「おや、君は……」
私は急いで頭を下げた。
「初めまして、シャルロッテ・ウェーバーと申します」
すると、楽しそうな声が聞こえて顔を上げた。
「初めてじゃないよね? 貴族学院の教室で会ってる」
「はい」
私は、昨日、この方にお会いしたばかりだった。
――ハワード・ステーア様。
この国の貴族の頂点に君臨するステーア公爵家のお方だ。
私はそんな方とお会いすることになるとは思わなくて、立ち尽くしてしまったのだった。
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