好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番

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第七章 幸せの予約

65 真実は闇の中

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 ハンス・ホフマンが、ランゲ侯爵家からの招待状を受け取っていた頃。
 ハンスのクラスメイトであるマリア・コラージュは、自分の屋敷に戻っていた。

「お父様、失礼致します」

 マリアは、父であるコラージュ伯爵の部屋を尋ねた。

「ああ、マリア、おかえり」

「ただいま戻りました。実は、ハンス・ホフマン様に宝石流通に関してお聞きしましたところ、あの方は、この件に全く関わっていないようでしたよ。大丈夫なのでしょうか?」

 マリアの言葉に、コラージュ伯爵が、書類を見せながら言った。

「すまないな、マリア。実は、先程、王宮とランゲ侯爵家から書面が届いたのだ。急遽、宝石の流通管理がホフマン伯爵家から、ランゲ侯爵家に移動することになったのだそうだ」

 コラージュ伯爵の言葉にマリアが驚きながら言った。

「え?! ランゲ侯爵家とは、もしかして、ゲオルグ様がされるのですか?!
 ああ~~ゲオルグ様が宝石の流通を~~。もしかして、お近づきになれる機会があるかしら♡ お父様、今後の質問文書は、私がゲオルグ様にお届け致しますわ!!」

「残念だが、宝石の流通管理を行うのは、ウェーバー子爵家のシャルロットという娘らしい。ランゲ侯爵家が後見人として彼女を支えるとのことだ。まぁ、御子息も手伝うのかもしれないがな」

「ええええ~~シャルロッテ様?! あの?」

 伯爵の言葉にマリアは、さらに大きな声を上げた。

「あのとは、なんだ、知っているのか?」

「知っているも何も、私が小さい時に、ホフマン伯爵家で、私とお母様が選んだドレスよりも、凄いドレスを着ていたっていう令嬢がいたでしょ?」

 コラージュ伯爵家は、織物を専門にしている。
 そんな家に、ホフマン伯爵家は、『自由にドレスを選んでくれてかまわない』と言ったのだ。これを当時のコラージュ伯爵夫人は『これは我が家への挑戦状だわ!!』と解釈し、ドレス選びに熱を入れていたのだ。

「ああ、2人で、一番いいものを選んだのに、もっといいドレスを着ていた令嬢がいたと、随分と悔しがっていたな」

 コラージュ伯爵が、目を細めて当時を、懐かしむように言った。

「そうなの、あの時は大変だったわ。お母様と2人で、『あの方が、先に購入して、すでにドレスはなくなっていたのよ』となぐさめ合ったんだから」

 興奮する娘のマリアを、なだめるように伯爵は口を開いた。

「そうだったな……待てよ? 一番いいドレスを選んだ令嬢が、宝石流通の後継者? まさか……あの時、私たちは前ホフマン伯爵に試されていたのだろうか?」

「さすが、お父様!! きっと、そうだわ。……そうだったのね。好きなドレスをどれでも選んでいいだなんて、気前がいいと思ったけれど……宝石の流通の後継者を見極めるための試験だったのね」

 マリアが納得してながら頷いていると、伯爵がマリアに尋ねた。

「なるほど……それで、シャルロッテとかいう令嬢は、どういう令嬢なのだ?」

「どうもこうも、女性の主席で入学して、1年間の生徒代表を務め、入学から今まで、一度もSクラスから落ちたことがない才女よ。みんなゲオルグ様にお声がけをしたいけれど、ゲオルグ様のお相手は、シャルロッテ様らしいと、もっぱらの噂で誰も近づけないわ。
 みんなも他の令嬢に取られるくらいなら、容姿、性格、頭脳全てパーフェクトなシャルロッテ様なら仕方ないと、あきらめもつくから、2人を影から応援しているわ。でも、ゲオルグ様の家が後見人をされるのなら、噂は本当なのかしら?」

 マリアが首を傾けると、コラージュ伯爵が眉を寄せながら言った。

「ん~~。だが、わからないな~~。もし私がホフマン伯爵なら、そのような娘、みすみす手放しはしないがな……。宝石を指導した恩だってあるだろうし、Sクラス出身なら、人脈を作るにしても最高だ。なんとか手元に置いておきたいと思うけどな~~絶対に、ランゲ侯爵家に譲りはしないな。
 しかも、確か、ホフマン伯爵家には、お前と同じ歳の男児がいたのではなかったのか? その男児と結婚してしまえば、安泰ではないか……ん~~何度考えても、わからんな」

 伯爵の言葉を聞いたマリアは、溜息をつきながら言った。

「ハンス様ね。いらっしゃるけど……。始めの数年は、みんなハンス様の綺麗なお顔や、莫大な財産に惹かれて女の子に囲まれていたのだけど……。ハンス様は、ちょっと……シャルロッテ様のような素晴らしい方が、選ばれるような相手ではないわ。それに、ハンス様は、宝石のことは何も知らなかったし、騎士になるという噂もあるし、元から、シャルロッテ様に譲るつもりだったのだと思うわ」

「なるほどな。これほど急な変更で、手際の悪さに憤っていたが……人の死とは予測の出来ぬもの……亡くなった前ホフマン伯爵もまだ、お若いしな。きっと、満足に準備も出来ぬまま、突然亡くなってしまったのだな」

「そうでしょうね……お可哀想だわ」

「ああ」

 2人はしんみりと、前ホフマン伯爵の死を悼んだのだった。



 そして、その数日後。

 これまで貴族学院では、シャルロッテとハンスの共通点が全くなかったため、誰もシャルロッテとハンスが婚約者だったということを知らなかった。そのため、一度も2人の関係が、学院で噂になることはなかった。

 ところが運命とは残酷なもので、『シャルロッテは、亡くなったホフマン伯爵の試験に合格して、後継者になった』という真実とは違った噂は、すぐに学院中を駆け巡ることになったのだった。




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