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第八章 開花する才能
69 初仕事(2)
しおりを挟むランゲ侯爵家に着くと、ゲオルグが迎えてくれた。
「おはよう、ゲオルグ。今日は学院をお休みさせてしまって、ごめんなさい」
まず私の都合で、ゲオルグに学院を休ませてしまったことを、あやまった。
「おはよう、シャルロッテ。構わない。
今は個人研究期間でほとんど講義はない。個人研究はもう済んでいる。ここ数日で、出席する予定なのは、明日のステーア公爵家のハワード殿の講義くらいだ」
ゲオルグは、淡々とした様子で言ったが、特に無理をしている様子はなかった。どうやら、ゲオルグも個人研究は終わっているようでほっとした。ハワード様の講義は、私受けたいので、今日、少しでも仕事を進めておきたい。
私はゲオルグに、エイドを紹介することにした。
何度も会っているが、これからは一緒に仕事をするのだし、紹介した方がいいと思ったのだ。
「よかった! 私もなの。じゃあ、もう知っていると思うけれど、紹介するわ。私の秘書をしてくれるエイドよ」
「ご無沙汰しております。ゲオルグ様」
エイドは口角を上げて爽やかなあいさつをしながら、手を差し出した。
すると、ゲオルグは、エイドの差し出された手をじっと見つめた後に、エイドの手を取った。
「私の秘書か……。久しぶりだな……エイド。まさか、お前が、シャルロッテの秘書に名乗りを上げるとは思わなかったな。秘書とは存外大変だぞ? 大丈夫なのか?」
ゲオルグが口の端を上げながら言うと、エイドが町で女の子に囲まれた時、素早く逃げる時専用の、目が潰れそうな輝く笑顔を作った。
「ご指摘は最もでございますので、今後の仕事で証明するしかないですね。ゲオルグ様も学業もあり、御自分の領のお仕事もございますのに、大丈夫ですか?」
「はは……まさか、お前にそのようなことを、心配されるとは思わなかったな。
私も今後の仕事で証明するしかないようだな……」
「ふふふ」
「ははは」
ゲオルグと、エイドはしばらく、笑いながら手を握り合っていた。
2人共、お互いを心配し合い、とても良好な関係のようだ。
私は、ほっとして、仕事に取り掛かることにした。
「よかった。まぁ、始めから思慮深いゲオルグと、優しいエイドなら大丈夫って思っていたのだけど……前ホフマン伯爵から『仕事仲間というのは相性がある』とお聞きしていたから、少し不安だったの。でも、やっぱり大丈夫そうで、安心したわ。
2人共、改めてどうぞ、よろしくお願い致します。」
私は、もう一度きちんと、手伝ってくれる2人に感謝を伝えた。
すると、ゲオルグとエイドは一瞬、お互いの顔を見合わせた後に、困ったように笑った。
「こちらこそ、よろしく頼む」
「光栄です」
あいさつも済んだので、私は早速仕事に取り掛かることにした。
「じゃあ、早速仕事を始めるわ。仕事の流れは、この紙に書いておいたの」
私は、仕事内容を書いた紙を鞄から取り出した。
「ああ、そんなものを用意してくれたのか、有難いな……確認しよう」
「拝見します」
私は、ゲオルグとエイドに紙を手渡した。
「これが仕分けの全行程よ。初めは慣れないだろうけど、上手くいけば、7日ぐらいで終わる……って2人ともどうしたの? 顔が青いわ?」
2人は青い顔をして、私の書いた仕分けの工程の書かかれている紙を見ていた。
「お、お、お嬢は、これを、全部1人でしていたのですか?」
エイドがぎょっとしたように、私を見ながら言った。
「そうね。ホフマン伯爵が体調を崩されてからは、ご相談には乗って貰っていたけれど……基本的には1人でやっていたわ。最後に書かれている書類を作って、各方面に送るというのは、前ホフマン伯爵の秘書の方や、執事の方にお願いしていたけれど……」
「勉強しておいてよかった……」
ゲオルグがそう呟いた。
私は、扉の近くに立っていたセバスさんに話しかけた。
「あの、セバスさん。私宛てに、書類が届いていないかしら?」
セバスさんに尋ねると、すっと大きな箱の前に移動した。
「こちらに全て保管してございます」
「ああ、ここにあったのね。ありがとう」
私は、作業用の大きなテーブルの上に書類を、箱から出そうとした。するとエイドがすぐに駆け寄ってきた。
「中身をあのテーブルに移動させるのですか?」
「ええ」
するとエイドが、かなり重たい箱を持ち上げ、テーブルのすぐ近くに置くと、テキパキと書類を箱の中から出した。しばらくすると、テーブルの上にまるで山のように書類が並んだ。
「ありがとう、エイド助かったわ」
「いえ。ですが、凄い量ですね~~」
「そうなの。前ホフマン伯爵がおっしゃるには、生まれたての子牛一頭分くらいの重さはあるらしいわ」
「確かに……そのくらい重かったですね。さて、次は何をしましょうか?」
エイドが納得した後に、私の顔を覗き込んで来た。
「まずはね、ここから仕分けに必要な書類を選別するの。そして、必要な書類を分類して、選ばなかった書類は一時保管庫に保存するのだけど……。
ん~~書類の選別は、どう説明するのがいいかしら……各領によって必要な書類が異なるのよね………一度必要な書類を選んで見せるほうがいいのかしら?」
私が悩んでいると、ゲオルグが口を開いた。
「シャルロッテ、私が書類を一度、選別する。合っているか確認してくれるか?」
「え? ええ」
ゲオルグは、近くにあった書類の積み重なった山の中から、一番上にあった書類束を手にとった。
そして、パラパラと見ながら、20枚ほどの書類の中から5枚ほどを抜き取った。
「どうだろうか?」
「確認するわ」
私は、ゲオルグが選んだ書類と、選ばなかった書類を両方確認した。
なんと、ゲオルグの選んだ書類は、過不足なく仕分けに必要な書類だった。
「凄いわ。どうしてわかったの?」
私が書類を見ながら尋ねると、ゲオルグは無表情のまま言った。
「過去の仕分け結果と、それに使われた書類を見せて貰った」
ゲオルグは、なんでもないように言っているが、それはどれだけ大変なことだったのだろうか?
きっと、ゲオルグは、私を助けるために覚えてくれたのだろう。
ゲオルグの苦労が想像できてしまって泣きそうになるのをこらえた。
「ゲオルグ……ありがとう……。では、この山はゲオルグに任せてもいいかしら? 念のために、この山の分だけ、もう一度後で確認してもいい?」
「ああ。頼む」
ゲオルグが、選別に取り掛かると、エイドが口を開いた。
「では、私は、シャルロッテ様が選別した書類の分類と、選ばなかった書類を一時保管場所に移動させます。ゲオルグ様の選んだ分は、シャルロッテ様のご確認の上で、同じ作業を行います」
「ありがとう、では、頑張りましょう」
私たちは、早速書類の選別作業を始めたのだった。
☆==☆==
「終わった? 嘘?! いつも1日がかりなのに、お昼前に終わるなんて!!
しかも、もう分類も終わって、使わなかった書類も片付けてあるから、すぐに次の作業に移れるわ」
私は、選別させた書類を見ながら感動していた。
いつもなら選別に1日かかり、その後書類の分類をして、片付けていたら夜になるのだ。
「そんなに感動するのか? 前ホフマン伯爵や、ホフマン伯爵子息は、手伝わなかったのか?」
「ハンスは、仕分けの作業は一切していないの。ずっと、一級鑑定士になるための勉強を最優先にしていたから……前ホフマン伯爵は、私がこの作業をしている間に、地質調査で上がってくる鉱石の確認作業をしていたから……同時進行で終わらせて行かないと、終わらなくて……」
大変だった少し前のことを思い出していると、ゲオルグが口を開いた。
「……そうか。なるほどな……シャルロッテ。丁度キリも良さそうだし、昼食にしないか?」
「ええ!! 選別の時にゆっくりと昼食が取れるなんて嬉しいわ」
仕分け作業中は、数日ゆっくりと食事を摂ることなどできない。
作業中に、軽食をつまんだりするくらいだったので、ゆっくりと食事ができることに感動していると、ゲオルグが真剣な顔で言った。
「シャルロッテ……くっ!! 今後は、昼食くらいゆっくりと、食べさせてやる。だろ? エイド」
ゲオルグの言葉に、エイドも頷きながら言った。
「もちろんです。お茶の時間も確保できたらいいですね」
「ああ、そうだな」
昼食にお茶。仕分けの仕事中にそんな時間が取れたらどれほどいいだろう。
私は、思わず嬉しくなって2人を見て笑った。
「ふふふ、2人ともありがとう、じゃあ、お昼にしましょう」
そうして、私とゲオルグが歩き出したが、エイドは立ち止まったまま動かなかった。
どうしたのだろう、と首を傾けていると、ゲオルグが口を開いた。
「エイド、今後はお前も、私たちと同じテーブルに着け」
ゲオルグの言葉で、私はようやくエイドが動かなった理由がわかった。
本来、貴族と平民の秘書が同じテーブルに着くことはないと、マナーを教えて貰った時に聞いたことがある。
私の家では、昔からエイドやエマも私たち家族と一緒に食卓を囲んでいたので、すっかり忘れていたのだ。
「ええ? ゲオルグ様と一緒にですか?」
戸惑ったエイドにゲオルグは、当たり前だというように言った。
「ああ、シャルロッテとは普段一緒に食べているのだろう?」
「ええ、いつも6人でご飯を食べてるわ」
私は自信満々に答えた。
私としても、ゲオルグさえいいのであれば、エイドと一緒にご飯を食べたい。
「では、ここでもそうするように……それに、エマは、よく姉上とシャルロッテと一緒に話ながらお茶を飲んでいるから、今更、この屋敷で同じ席に着いたところで何か言うものなどいない」
「エマ……」
エマも始めは、エカテリーナと同じテーブルに付くことを渋っていたのだが、エカテリーナが『いいわよ。エマもここでは私の客人よ』という言葉で、一緒に座ることになったのだ。
「エイド一緒に行きましょう」
「はぁ……わかりました。では、お言葉に甘えます」
こうして私たちは、3人で昼食を摂ったのだった。
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