好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番

文字の大きさ
70 / 95
第八章 開花する才能

69 初仕事(2)

しおりを挟む




 ランゲ侯爵家に着くと、ゲオルグが迎えてくれた。

「おはよう、ゲオルグ。今日は学院をお休みさせてしまって、ごめんなさい」

 まず私の都合で、ゲオルグに学院を休ませてしまったことを、あやまった。

「おはよう、シャルロッテ。構わない。
 今は個人研究期間でほとんど講義はない。個人研究はもう済んでいる。ここ数日で、出席する予定なのは、明日のステーア公爵家のハワード殿の講義くらいだ」

 ゲオルグは、淡々とした様子で言ったが、特に無理をしている様子はなかった。どうやら、ゲオルグも個人研究は終わっているようでほっとした。ハワード様の講義は、私受けたいので、今日、少しでも仕事を進めておきたい。

 私はゲオルグに、エイドを紹介することにした。
 何度も会っているが、これからは一緒に仕事をするのだし、紹介した方がいいと思ったのだ。

「よかった! 私もなの。じゃあ、もう知っていると思うけれど、紹介するわ。私の秘書をしてくれるエイドよ」

「ご無沙汰しております。ゲオルグ様」

 エイドは口角を上げて爽やかなあいさつをしながら、手を差し出した。
 すると、ゲオルグは、エイドの差し出された手をじっと見つめた後に、エイドの手を取った。

秘書か……。久しぶりだな……エイド。まさか、お前が、シャルロッテの秘書に名乗りを上げるとは思わなかったな。秘書とは存外大変だぞ? 大丈夫なのか?」

 ゲオルグが口の端を上げながら言うと、エイドが町で女の子に囲まれた時、素早く逃げる時専用の、目が潰れそうな輝く笑顔を作った。

「ご指摘は最もでございますので、今後の仕事で証明するしかないですね。ゲオルグ様も学業もあり、御自分の領のお仕事もございますのに、大丈夫ですか?」

「はは……まさか、お前にそのようなことを、心配されるとは思わなかったな。
 私も今後の仕事で証明するしかないようだな……」

「ふふふ」

「ははは」

 ゲオルグと、エイドはしばらく、笑いながら手を握り合っていた。
 2人共、お互いを心配し合い、とても良好な関係のようだ。
 私は、ほっとして、仕事に取り掛かることにした。

「よかった。まぁ、始めから思慮深いゲオルグと、優しいエイドなら大丈夫って思っていたのだけど……前ホフマン伯爵から『仕事仲間というのは相性がある』とお聞きしていたから、少し不安だったの。でも、やっぱり大丈夫そうで、安心したわ。
 2人共、改めてどうぞ、よろしくお願い致します。」

 私は、もう一度きちんと、手伝ってくれる2人に感謝を伝えた。
 すると、ゲオルグとエイドは一瞬、お互いの顔を見合わせた後に、困ったように笑った。

「こちらこそ、よろしく頼む」

「光栄です」

 あいさつも済んだので、私は早速仕事に取り掛かることにした。

「じゃあ、早速仕事を始めるわ。仕事の流れは、この紙に書いておいたの」

 私は、仕事内容を書いた紙を鞄から取り出した。

「ああ、そんなものを用意してくれたのか、有難いな……確認しよう」

「拝見します」

 私は、ゲオルグとエイドに紙を手渡した。

「これが仕分けの全行程よ。初めは慣れないだろうけど、上手くいけば、7日ぐらいで終わる……って2人ともどうしたの? 顔が青いわ?」

 2人は青い顔をして、私の書いた仕分けの工程の書かかれている紙を見ていた。

「お、お、お嬢は、これを、全部1人でしていたのですか?」

 エイドがぎょっとしたように、私を見ながら言った。

「そうね。ホフマン伯爵が体調を崩されてからは、ご相談には乗って貰っていたけれど……基本的には1人でやっていたわ。最後に書かれている書類を作って、各方面に送るというのは、前ホフマン伯爵の秘書の方や、執事の方にお願いしていたけれど……」

「勉強しておいてよかった……」

 ゲオルグがそう呟いた。
 私は、扉の近くに立っていたセバスさんに話しかけた。

「あの、セバスさん。私宛てに、書類が届いていないかしら?」

 セバスさんに尋ねると、すっと大きな箱の前に移動した。

「こちらに全て保管してございます」

「ああ、ここにあったのね。ありがとう」

 私は、作業用の大きなテーブルの上に書類を、箱から出そうとした。するとエイドがすぐに駆け寄ってきた。

「中身をあのテーブルに移動させるのですか?」

「ええ」

 するとエイドが、かなり重たい箱を持ち上げ、テーブルのすぐ近くに置くと、テキパキと書類を箱の中から出した。しばらくすると、テーブルの上にまるで山のように書類が並んだ。

「ありがとう、エイド助かったわ」

「いえ。ですが、凄い量ですね~~」

「そうなの。前ホフマン伯爵がおっしゃるには、生まれたての子牛一頭分くらいの重さはあるらしいわ」

「確かに……そのくらい重かったですね。さて、次は何をしましょうか?」

 エイドが納得した後に、私の顔を覗き込んで来た。

「まずはね、ここから仕分けに必要な書類を選別するの。そして、必要な書類を分類して、選ばなかった書類は一時保管庫に保存するのだけど……。
 ん~~書類の選別は、どう説明するのがいいかしら……各領によって必要な書類が異なるのよね………一度必要な書類を選んで見せるほうがいいのかしら?」

 私が悩んでいると、ゲオルグが口を開いた。
 
「シャルロッテ、私が書類を一度、選別する。合っているか確認してくれるか?」

「え? ええ」

 ゲオルグは、近くにあった書類の積み重なった山の中から、一番上にあった書類束を手にとった。
 そして、パラパラと見ながら、20枚ほどの書類の中から5枚ほどを抜き取った。

「どうだろうか?」

「確認するわ」

 私は、ゲオルグが選んだ書類と、選ばなかった書類を両方確認した。
 なんと、ゲオルグの選んだ書類は、過不足なく仕分けに必要な書類だった。

「凄いわ。どうしてわかったの?」

 私が書類を見ながら尋ねると、ゲオルグは無表情のまま言った。

「過去の仕分け結果と、それに使われた書類を見せて貰った」

 ゲオルグは、なんでもないように言っているが、それはどれだけ大変なことだったのだろうか?
 きっと、ゲオルグは、私を助けるために覚えてくれたのだろう。
 ゲオルグの苦労が想像できてしまって泣きそうになるのをこらえた。

「ゲオルグ……ありがとう……。では、この山はゲオルグに任せてもいいかしら? 念のために、この山の分だけ、もう一度後で確認してもいい?」

「ああ。頼む」

 ゲオルグが、選別に取り掛かると、エイドが口を開いた。

「では、私は、シャルロッテ様が選別した書類の分類と、選ばなかった書類を一時保管場所に移動させます。ゲオルグ様の選んだ分は、シャルロッテ様のご確認の上で、同じ作業を行います」

「ありがとう、では、頑張りましょう」

 私たちは、早速書類の選別作業を始めたのだった。



☆==☆==


「終わった? 嘘?! いつも1日がかりなのに、お昼前に終わるなんて!!
 しかも、もう分類も終わって、使わなかった書類も片付けてあるから、すぐに次の作業に移れるわ」

 私は、選別させた書類を見ながら感動していた。
 いつもなら選別に1日かかり、その後書類の分類をして、片付けていたら夜になるのだ。

「そんなに感動するのか? 前ホフマン伯爵や、ホフマン伯爵子息は、手伝わなかったのか?」

「ハンスは、仕分けの作業は一切していないの。ずっと、一級鑑定士になるための勉強を最優先にしていたから……前ホフマン伯爵は、私がこの作業をしている間に、地質調査で上がってくる鉱石の確認作業をしていたから……同時進行で終わらせて行かないと、終わらなくて……」

 大変だった少し前のことを思い出していると、ゲオルグが口を開いた。

「……そうか。なるほどな……シャルロッテ。丁度キリも良さそうだし、昼食にしないか?」

「ええ!! 選別の時にゆっくりと昼食が取れるなんて嬉しいわ」

 仕分け作業中は、数日ゆっくりと食事を摂ることなどできない。
 作業中に、軽食をつまんだりするくらいだったので、ゆっくりと食事ができることに感動していると、ゲオルグが真剣な顔で言った。

「シャルロッテ……くっ!! 今後は、昼食くらいゆっくりと、食べさせてやる。だろ? エイド」

 ゲオルグの言葉に、エイドも頷きながら言った。

「もちろんです。お茶の時間も確保できたらいいですね」

「ああ、そうだな」

 昼食にお茶。仕分けの仕事中にそんな時間が取れたらどれほどいいだろう。
 私は、思わず嬉しくなって2人を見て笑った。

「ふふふ、2人ともありがとう、じゃあ、お昼にしましょう」

 そうして、私とゲオルグが歩き出したが、エイドは立ち止まったまま動かなかった。
 どうしたのだろう、と首を傾けていると、ゲオルグが口を開いた。

「エイド、今後はお前も、私たちと同じテーブルに着け」

 ゲオルグの言葉で、私はようやくエイドが動かなった理由がわかった。
 本来、貴族と平民の秘書が同じテーブルに着くことはないと、マナーを教えて貰った時に聞いたことがある。
 私の家では、昔からエイドやエマも私たち家族と一緒に食卓を囲んでいたので、すっかり忘れていたのだ。

「ええ? ゲオルグ様と一緒にですか?」

 戸惑ったエイドにゲオルグは、当たり前だというように言った。

「ああ、シャルロッテとは普段一緒に食べているのだろう?」

「ええ、いつも6人でご飯を食べてるわ」

 私は自信満々に答えた。
 私としても、ゲオルグさえいいのであれば、エイドと一緒にご飯を食べたい。

「では、ここでもそうするように……それに、エマは、よく姉上とシャルロッテと一緒に話ながらお茶を飲んでいるから、今更、この屋敷で同じ席に着いたところで何か言うものなどいない」

「エマ……」

 エマも始めは、エカテリーナと同じテーブルに付くことを渋っていたのだが、エカテリーナが『いいわよ。エマもここでは私の客人よ』という言葉で、一緒に座ることになったのだ。

「エイド一緒に行きましょう」

「はぁ……わかりました。では、お言葉に甘えます」

 こうして私たちは、3人で昼食を摂ったのだった。





しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。 そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。 ※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

最後の誕生日会

まるまる⭐️
恋愛
「お父様のことを……お願いね……」  母は亡くなる間際、まだ小さかった私の手を握り締めてそう言った。  それから8年……。  母の残したこの言葉は、まるで呪文のようにずっと私の心を縛り付けてきた。  でも、それももう限界だ。  ねぇ、お母様。  私……お父様を捨てて良いですか……?  ****** 宮廷貴族ゾールマン伯爵家の娘アイリスは、愛する母を病気で亡くして以来、父ヨーゼフと2人肩を寄せ合い暮らしてきた。 そんな日々が続いたある日、父ヨーゼフはいきなり宰相から筆頭補佐官への就任を命じられる。それは次の宰相への試金石とも言える重要な役職。日頃からの父の働きぶりが認められたことにアイリスは大きな喜びを感じるが、筆頭補佐官の仕事は激務。それ以来、アイリスが父と過ごす時間は激減してしまう。 そんなある日、父ヨーゼフは彼の秘書官だったメラニアを後妻に迎えると屋敷に突然連れて帰って来た。 「彼女にはお前と一つ違いの娘がいるんだ。喜べアイリス。お前に母と妹が一度に出来るんだ! これでもう寂しくはないだろう?」 父は満面の笑みを浮かべながらアイリスにそう告げるが……。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

処理中です...