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第九章 幸福の足音
78 お披露目式(1)
しおりを挟む今日は、お披露目式の前日。
3度目の仕分けの仕事が終わり、しばらく経った頃だった。
「シャルちゃん!! 会いたかったわ~~」
「おばあ様、お久しぶりです!!」
私のお披露目式に参加するために、領地からおばあ様たちも駆けつけてくれた。
お披露目式には、私の両親とシャロン、祖父母、そしてエイドとエマも参加する。
夜会などとは違い、私は、お披露目式に、自由に身内や友人を呼ぶことができるらしい。
そこで、おじい様たちに声をかけると「もちろん行く!!」と即答してくれたのだ。
「シャル~~~元気か?! 元気なのか?!」
「おじい様!! 元気ですわ。お2人も、お元気そうで安心しました」
おばあ様とおじい様は、馬車を降りるなり、私を抱きしめてくれた。
ずっと手紙でしかやり取りがなかったので、会えたのがとても嬉しかった。
私があいさつを終えると、シャロンが声を上げた。
「おじい様、おばあ様お久ぶりです!!」
「シャロンちゃん!! まぁまぁ、大きくなったわ~~!!」
「随分と賢そうな顔つきになったな~~シャロン」
おばあ様がシャロンを抱きしめると、おじい様がシャロンの頭を撫でた。
「お元気そうで何よりです」
「お待ちしていましたわ」
お父様とお母様もあいさつをするとおばあ様が声を上げた。
「2人とも元気そうでよかったわ」
「しばらく世話になるな」
すると、エイドと、エマもあいさつをした。
「大旦那様、コリンナ様、ご無沙汰しております」
「ご無沙汰しております。長旅、お疲れではありませんか?」
おばあ様が嬉しそうに言った。
「ふふふ、気遣ってくれてありがとう! エイちゃんも、エマちゃんも元気そうね~~。久しぶりに会えて嬉しいわ」
「エイド悪いが、荷物を頼んでくれるか?」
おじい様がエイドを見ながら言った。
「はい」
「僕もお手伝いします!」
エイドの後に続いて、シャロンもおじい様とおばあ様の荷物を持とうとした。
「おお、シャロンも手伝ってくれるのか? ありがとう」
「では、シャロン様。これをお願い致します」
「うん!!」
エイドが、帽子が入っていると思われる軽めの箱をシャロンに渡した。
エマも荷物を運ぶのを手伝おうとすると、お父様がエマに話かけた。
「私たちは、先に行って、サロンで話をする。荷物を運び終えたら、お茶を持って皆で、サロンに来てくれ」
「畏まりました。旦那様」
エマが頭を下げると、私たちはサロンに向かった。
サロンに着くなり、私はおばあ様に抱きしめられた。
「シャルちゃん、つらかったのに、よく頑張ったわね」
「ホフマン伯爵家も一体、何を考えているのか……心配したが、元気そうでよかった」
おばあ様とおじい様にも、心配をかけてしまったことこを申し訳なく思った。
「ご心配頂き、ありがとうございます。みんなに支えて頂いているので、もう大丈夫です」
「そうか……」
私の言葉を聞いて、おじい様とおばあ様は、ほっとしたように笑ったのだった。
そして、おじい様が穏やかな微笑みで言った。
「シャル、仕分け報酬を領の発展のために援助してくれたこと、ウェーバー子爵領主として、感謝する」
私は、2回分の仕分けの報酬を全て、ウェーバー子爵家の発展のための費用に回したのだ。
1度目の報酬で、王都の屋敷の全補修工事をして、シャロンの学費を残し、家族全員分とエイドとエマの古くなっていた服などを全て新調して、庭に畑まで整備して、エイドとエマのお給金を上げて、当面の生活費を確保したのに、まだ余りがあり、残りを領に回したのだ。
2回目3回目の報酬は、私たちには特に必要がなかったので、全て領に送った。
「いえ、お役に立ててよかった」
「シャルのおかげで、資金がなくて止まっていた事業は、ほぼ全て動きだした。もう領に、シャルの報酬を回す必要はないよ」
「わかりました」
仕分けの報酬というのは、私が想像する以上に大きく、たった3回の報酬で領の事業の問題も解決してくれた。
「むしろ、領地の収益が上がるので、ここに送る生活費を上げたいくらいだ」
「こちらも、今は問題なく過ごしています」
おじい様の言葉にお父様が答えた。すると、コンコンコンコンと扉を叩く音がして、シャロンが入ってきた。
「おばあ様~~、おじい様~~荷物運びました」
そして、エイドとエマもサロンに入ってきた。
「ありがとう。さぁ、いらっしゃい。お土産があるのよ」
おばあ様は、おじい様が持っていた大きめの鞄を開けると、次々にお土産を並べた。
「シャロンちゃんはこれで、シャルちゃんはこれ、エマちゃんはこれでしょ、エイちゃんはこれよ」
おばあ様から、お土産を受け取るとシャロンが嬉しそうに笑った。
「おばあ様ありがとう!!」
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、エマも嬉しそうにお礼を言った。
「コリンナ様。いつも、私たちにまでありがとうございます」
「有難く頂きます」
エイドも嬉しそうに、貰ったお土産を大切そうに抱えていた。
私は、笑うみんなを見て、とても幸せ感じて嬉しくなったのだった。
☆==☆==
そして、お披露目式当日。
「ミーヌ侯爵からのドレス、お嬢に良く似合ってますね」
「本当にとっても素敵だわ、でも、エイド……こんなことをさせてしまって、ごめんね」
私は今、エイドに化粧をしてもらっていた。
いつもはエマがお化粧や、髪を結ってくれるが、エマはお母様と、おばあ様の支度を手伝う必要がある。しかも、今日は自分の支度もあり忙しいのだ。
そこでエマの厳しい指導を受けて、プロ級の腕になってしまったエイドが、私に化粧をして、髪を結ってくれているのだ。
「何を言うのですか! 俺の手でお嬢を、美しくしてるんですよ。
もっと早く覚えればよかったと、深く後悔しているくらいです。はい、お嬢、目を薄く閉じて下さい」
「はい」
目を閉じると、エイドをより感じて少しだけ心臓の音が早くなった。
「もう、いいですよ~紅は、髪を結った後にしますね~」
「はい」
そして、エイドは流れるような手付きで、私の髪を結衣上げ始めた。
昨日までにどんな髪にしようか、何度か試して、片側に髪を流すサイドアップにすることに決まった。
『完全に俺の、独断と偏見と好みでの判断ですが、これが一番お嬢に似合います!!』そう言って、エイドが珍しく浮かれていたことを思い出した。
「お嬢どうしたんです?」
エイドが髪を結いながら話しかけてきた。
「いえ、いつもと雰囲気が違って大人っぽく見えて素敵だと思ったの」
念入りに化粧をして、髪を横に流した自分は、まるで自分ではないようで不思議だった。
「まぁ化粧をしなくても……最近のお嬢は、驚くほど大人びて……キレイですよ……よし!!」
「え?」
エイドは、何気なくそう言ったのか、特に気にすることもなく、飾りを付けると私の後ろから鏡の中の私を真剣な顔で、じっと見つめた。
だが、私はさっきのエイドの言葉を思い出し、鏡越しにでもエイドに見つめられると顔に熱が集まるのを感じた。
「うん。いいですね。では、最後に紅を差します」
「……ええ」
エイドは自分の指に紅をつけると、指を私の唇に滑らせた。
エイドの指の感覚を唇に感じると、少しだけ心臓が早くなる。エイドの長いまつ毛が良く見えるくらい顔も近くて、とても緊張していた。
エイドの指が唇から離れ、エイドがもう一度私の後ろに立つと、満足そうに頷いた。
「完璧です。最高です。まさに、俺の理想です!! むしろ、こんなに美していいのかと、心配になります。でも、お嬢の可愛さは自慢してぇし、でも、誰にも見せたくねぇし、おかしくなりそうです」
私は、エイドの言葉に思わず笑ってしまった。
「ふふふ、ありがとう、エイド。キレイにしてくれて」
「いえ、毎日したいくらいです。では、俺は着替えてきます」
「ええ。ありがとう」
椅子に座ったままエイドを見送り、鏡の中の自分を見た。
これから、私の仕事に関わる人たちにあいさつをするのだ。
エイドのおかげで見た目は、完璧な淑女のように見える。
「後は……私、自身の中身ね」
私は鏡を見ながら、自分を奮い立たせたのだった。
☆==☆==
「お嬢様、素晴らしいですね!! エイド……ちょっと引くほど、気合が入っていたのですが、気持ちは、わかります」
エマもドレスアップして、エントランスに来ていた。
「エマも綺麗ね~~。エマに良く似合っているわ」
「ありがとうございます。でも豪華過ぎませんか? もっと簡素なものでよかったのですが……」
実は、エマのドレスは、ステーア公爵家のハワード様が贈って下さったのだ。
エイドと一緒に、仕分けの打合せにハワード様のところ行った時のこと。
打合せが終わった後に、エイドとエマが私のお披露目式に、参加する話になった。するとハワード様が真剣な顔で『エマのドレス一式は、私に贈らせてくれ』とおっしゃったのだ。
なんでも、ハワード様は、エマに10年前に1度だけチェスで勝ったことがあるらしい。
その時、ハワード様はエマに『何か贈らせてくれ』と言ったらしい。するとエマは『じゃあ、大人になってハワードが、自分で稼ぐようになったらお願い』と返したというのだ。
そのことを、エマに伝えると『全然覚えていないですが……くれるというなら頂きます』と言って、ハワード様に、ドレス一式を贈って貰ったのだ。
「そんなことないわ。エマのことを想って選んで下さったのでしょうね。本当に良く似合うわ」
「……そうですね。自分でも驚いています。『馬子にも衣裳』という言葉を、まさに体感しています」
「ふふふ、エマったら」
2人で笑いあっていると、エイドが外から出てきた。
「馬車が到着しました」
「ええ」
エイドの礼服姿は文句なしにカッコイイ。見慣れたと思った髪を上げる姿も、礼服だとまたエイドの色気が引き立つように感じた。
「どうしました?」
「いえ、なんでもないわ」
エイドに思わず見とれていたとは言えずに私は、急いで返事をした。
今回は3台の馬車で会場である侯爵家に向かうことになっている。
1台目には、おばあ様と、おじい様と、エマ。
2台目には、お母様と、お父様と、シャロン。
そして、3台目は、私とエイドと……。
「シャルロッテ、用意は出来……」
私を迎えに来てくれたゲオルグが、私を見るなり、扉の前で呆然と立ち尽くした。
「ゲオルグ、迎えに来てくれてありがとう」
私があいさつをしても、ゲオルグは私を見たまま動かない。
「……ゲオルグ……どうしたの?」
心配になり顔を覗き込むと、ゲオルグが「少し待ってくれ」と言って、片手を口元に当てながら外に出て行った。私は、扉から出て行ったゲオルグを不思議に思いながらみていると、エマが私の肩に手を置きながら言った。
「お嬢様、少し待ってあげましょう」
「え、ええ」
私はその場でゲオルグを待った。
だから扉の外で、ゲオルグが心臓を押さえて呟いていたことは知らなかったのだった。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け、今日はシャルロッテにとって大事な日なんだ。うっかり婚姻を申し込んでいる場合ではない。落ち着け、落ち着け。また過去の過ちを繰り返すのか、落ち着け!」
しばらくすると、赤いような、青いような複雑な顔をしたゲオルグが戻ってきた。
「取り乱出してすまなかった。本当は私がドレスを贈りたかったのだが、そのドレスも良く似合う。――綺麗だ、シャルロッテ」
ゲオルグに見つめられて、私は思わず恥ずかしくなって俯きながら答えた。
「……ありがとう、ゲオルグ」
「くっ!!!」
すると、ゲオルグが胸を押さえて、顔を歪めた。
「どうしたの?」
様子のおかしいゲオルグ心配になり顔を覗き込むと、ゲオルグが突然、姿勢を正して固まった。
「なんでもない」
そんな私たちの横からエイドが声をかけてきた。
「あの~~ゲオルグ様、そろそろ出発しませんか?」
「ああ、そうだな」
エイドがすっと、私の前に手を出したので、私はエイドの手を取った。
「お嬢、どうぞ」
「ええ」
すると、急にゲオルグが動き出した。
「エイド?! 私がエスコートしようと……」
「遅れては大変ですので」
エイドが美しく微笑むと、私を馬車までエスコートしてくれた。
こうして、私たちは3人でランゲ侯爵家に向かったのだった。
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