82 / 95
第九章 幸福の足音
81 お披露目式(4)
しおりを挟むゲオルグとエイドと、もう一度、先程までいたノイーズ公爵家の控室に入った。
そこで私は、ゲオルグにビアンカ様との話の内容を報告した。
「……協力が得られたのか……」
「ええ」
ゲオルグは、ほっとしたような顔をしていた。
「ゲオルグ様、そちらは?」
エイドが尋ねると、ゲオルグが私に、真剣な顔をしながら言った。
「ああ。シャルロッテ、落ち着いて聞いてくれ。ハンス殿が、騎士として警備に来ている」
「え……騎士? 学院は?」
「辞めた、と言っていた。現在は、第3部隊の副隊長に任命されているらしい」
「……え? 凄い……」
ハンスが騎士に?
しかも、学院を辞めてまで?
それほどまでに、ハンスは騎士になりたかったの?
しかも、もう副隊長になった?
確かに最近のハンスは、学生の乗馬、剣の大会では、もう何年も優勝し、一般の大会でも、乗馬では、騎士を押さえて優勝し、剣でも上位に入賞していた。大会の優勝歴だけで、そこまでの地位になるのか、私にはわからないが、凄いということだけは確かだ。
「追い出そうとも思ったが、今日は庭の警備を担当すると言っていたので、様子を見ることにした。下手に騒いで、シャルロッテとあの男との関係を、他に探られる訳にもいかないからな」
ゲオルグの言葉に、私は慌てて声を上げた。
「追い出すだなんて!! 仕事で来られているのなら、邪魔はしたくない……。
それに……学院を辞めてまで騎士に成りたかったのだと思うと……応援したいって……。
実は……私、ずっとハンス……様が、乗馬や剣に夢中になるのが、怖いと思って……いつも心から応援できなかった……でも今なら、心から応援できる」
これは、綺麗ごとでもなく、強がりでもない、今の私の本心だった。
ハンスの才能を心から凄いと思い、応援したいと思った。
「お嬢は、本当にお優しいですね……」
エイドが困ったように笑いながら言った。
「ふっ、それに何かあっても、もう、シャルロッテの側を離れないから」
ゲオルグが懐中時計を開くと、私に手を差し出した。
「さぁ、時間だ。行こうか、シャルロッテ」
「ええ」
私は、ゲオルグの手を取った。
ビアンカ様と話をしている間にお披露目式の始まる時間になっていたようだ。
3人で、お披露目式の会場の前まで来ると、エイドが少しだけ心配そうな顔で言った。
「では、私は先に会場で待っています」
「ええ」
エイドを見送ると、私は息を吐いた。
「緊張するか?」
「ええ、緊張するわ」
するとゲオルグが柔らかく笑うと、私の手を取り、手袋の上からキスをした。
手袋越しでもゲオルグの唇の感触が伝わってきて、私は先程まで感じていた緊張ではなく、別の意味で心臓が早くなり、驚いて顔を上げた。
「少し緊張が取れたようだな……でも、その顔は、誰にも見せたくないな……」
私は、なんとなく余裕のあるゲオルグに、モヤモヤとした不思議な感情を持ってしまった。
「ゲオルグは……慣れているのね」
「慣れてはいない。女性をエスコートするのは、姉上以外では初めてだ。
だが……シャルロッテの隣に立てるのだ。どうしても緊張より、嬉しさが勝ってしまう」
「え?」
私がゲオルグを見上げると、ゲオルグは本当に嬉しそうな顔で笑った。
ずるい……と、なぜだか、そう思ってしまった。
「そろそろお時間です。扉を開きます」
「ああ」
執事に声をかけられて、私は気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。
いよいよ、お披露目式が始まる。私は、ゲオルグを見上げながら言った。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
優しく微笑むゲオルグ見て、私の心が軽くなった。
そして、扉が開いて、私はゲオルグにエスコートをされながら、たくさんのお客様の前に出たのだった。
☆==☆==
ランゲ侯爵のあいさつと、ゲオルグのあいさつ。
そして、私の紹介とあいさつが終わると、舞踏会が始まった。
「はぁ~~~緊張したわ」
「そうか? そうは見えなかった。見事なあいさつだった」
ゲオルグと話をしていると、エイドが近づいて来た。
「シャルロッテ様、見事なあいさつでしたね」
「ありがとうエイド」
私は、ようやく会場内をゆっくりと見渡せる余裕が出てきた。
すると会場内に、多くの男性が集まっている場所があった。
何かと思って見ていると、エマが男性に囲まれていた。
「ねぇ、エイド、エマ大丈夫かしら?」
エイドも困ったように言った。
「あ~~あれは……助けた方がいいかもしれませんねぇ」
エイドが動こうとした時。ピタリと動きを止めた。
「大丈夫みたいです」
「え?」
エイドが助けに行かないことを、不思議に思っていると、エイドが私を見て微笑んだ。
「ご挨拶に行きましょう。ゲオルグ様、やはり始めは、サフィール王子殿下でしょうか?」
「いや、サフィール王子殿下は父上とお話中だ」
ゲオルグが小声で答えた。
「では、ミーヌ侯爵ですか?」
「ああ、そうだな。初代の管理者だからな、ミーヌ侯爵の元へ向かおう、シャルロッテ、行こうか」
「え、ええ」
私はエマのことを、心配しながらもミーヌ侯爵の元に向かったのだった。
☆==☆==
「どちらのお嬢様ですか? 私は、エラベルト伯爵子息のガランドと申します」
「貴殿、私が先に彼女にお声がけしたのだ」
エマの周りには、たくさんの貴族の子息が集まっていた。
エマは、パーティーの参加は初めてだった。
ウェーバー子爵は、パーティーを主催するような方ではないので、パーティーの裏方としても参加したことはない。
マナーの本で、殿方のお誘いを断る方法も学んでいたが、これほどの人数を同時に断る方法は学んでいない。
やはり自分は、まだまだ知るべきことが多いと、エマが自分を省みていると、急にざわざわとしたかと思えば、まるで道が出来るように、人が動き出した。
エマが驚いて顔を上げると、ハワードがこちらに向かって、歩いて来て、エマに手を差し出した。
「よくお似合いですね。どうです? 私の選んだドレス、気に入って頂けましたか?」
ハワードの言葉を聞いて、さらに周りがざわざわとした。
「ハワード殿がドレスを贈った?」
「つまり、もう彼女は……」
「ステーア公爵子息のお手付き」
エマは、周りの反応から見て、どうやら、ハワードは、自分を助けてくれるらしいということを悟った。
「ハワード……様。この度は、素晴らしいドレスをご用意して頂き光栄にございます」
エマが頭を下げると、ハワードが優雅に手を差し出した。
「踊りませんか?」
エマは、正直、気は乗らなかったが、ここで見知らぬ男性に囲まれているよりはいいと思い、消去法でハワードの手を取った。
「喜んで」
そして、エマはハワードの手を取ると、皆がダンスをするホールに向かった。
「良く似合ってるじゃないか」
ハワードがエマの耳元で囁くように言った。
「派手過ぎ。おかげで目立ったじゃない」
エマも小声で答えた。
「ふふふ、目立ったのは、ドレスのせいではないがな。ところで、ダンスも上手いんだな」
「エイドと昔から練習してたから」
「なるほどな」
ダンスが終わると、ハワードは素早く、エマをテラスに連れ出した。
「ここなら、休めるだろ?」
「そうね……お嬢様のご挨拶はしっかり聞けたしね」
嬉しそうに笑ったエマの顔を見ながら、ハワードが真剣な顔をしながら言った。
「なあ~エマ。私のところに……嫁に来ないか?」
「エイドに振られたから、私で妥協してるの?」
「はぁ? エイドは、ビジネスパートナー! エマは、嫁!! 妻!!」
「私、平民だけど?」
エマの言葉に、ハワードが答えた。
「ウェーバー子爵家に養子に入れよ。大好きなお嬢様と、本当の姉妹になれるぞ? あの子爵殿なら、喜んでお前を、娘にするだろうしな……」
ハワードは手すりに身体をもたれさせながら、目を細めた。
するとエマは、自分の手を握りしめながら言った。
「お嬢様と姉妹になれるのは……嬉しいけど……。
エイドが……兄さんが、一人ぼっちになる。
だから、私じゃなくて、もっとハワードにふさわしい別の人と……」
エマの言葉の途中で、ハワードがエマを抱きしめた。
「好きなんだよ。昔から!! お前以外の女になんて興味ない。だから、エマが結婚してくれないと、私の子は残せない。いいのか? ステーア公爵家の外交担当の私の血が途絶えるぞ?」
「質の悪い脅しは止めて……本当に腹黒いんだから……」
ハワードはエマを抱きしめる腕に力を入れた。
「エマが手に入るなら、なんでもやる。
どうしようもなく、好きなんだよ……エマ以外の女なんて……無理だ」
「……シャロン様をSクラスに入れるまでは、考えられない。それに……今の兄さんを、まだ一人にはできない……」
エマは、ハワードの胸の中で呟くように言った。
「待つさ、そのくらい。何年待ったと思っているんだ。
それに……エイド……あいつも、いい加減……過去の檻から出られれば、いいのにな……」
ハワードもエマを抱きしめたまま、夜空を見ながら呟いたのだった。
208
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる