91 / 95
第十章 今が繋がった道の先へ
90 試練
しおりを挟む「あ~~シャルロッテ嬢……本当にエイドと同じ部屋でいいですか?」
ハワード様が困ったように頭をかきながら言った。
「はい。エイドったら結局ずっと私の部屋の前で座ったまま寝ていたんです。それながら初めから隣にベッドがあった方がエイドも休めていいですから」
エイドはここ数日、ずっと私の部屋の前に椅子を置いて、椅子に座ったまま寝ているのだ。エイドの身体が心配なので、私は、今日こそはエイドにベッドで寝てもらいたかったのだ。
「この状況で、お嬢と別の部屋ってのが無理ですって!!」
エイドは私の荷物を持ちながら言った。
「はぁ~まぁ、戦中の移動に元婚約者と同じ屋根の下、しかも今回の作戦の重要人物……わからなくもないけどなぁ~。ん~~~これまでもそうだったのなら、寝る場所が椅子から、ベッドに変わるだけ……特に問題ない……のか?」
ハワード様が溜息を付くと、私とエイドは部屋に向かった。
そして夜になり、私は試験や移動の疲れもあって、早めにベッドに横になった。
「ねぇ、エイド……ちゃんと寝てね」
私は相変わらず、私の横に椅子を置いて座っているエイドに向かって言った。
「はい」
エイドの優しく微笑む顔を見ると、私は瞳を閉じたのだった。
☆==☆==
シャルロッテが眠りについた後、エイドは優しくシャロッテの頭を撫でた。
「お嬢は、凄いですね……俺はお嬢を誇りに思います」
エイドは、健気に頑張るシャルロッテを心から愛おしいと思い、シャルロッテの額に優しくキスを落とすと、窓の外に見える細い月を見上げた。
「お嬢のことは絶対に守ります」
エイドの言葉は月明かりに溶けていったのだった。
☆==☆==
同じ頃、ゲオルグもまた、月を眺めていた。
関係者には全て話を通したし、必要な物は全てそろえたつもりだ。
ここ数日のゲオルグは、執事が心配して止めるほどの多忙さだった。
執事には『これ以上無茶をしては倒れてしまいます』と心配され、最終的にはセバスが現れ、『シャルロッテ様が今のゲオルグ様を見たらどう思われると思いますか?』と言われ、渋々、自室に戻ったところだった。
戦争の間は、様々な憶測や、陰謀が渦巻くので、下手に連絡はしないと、ハワードと事前に取り決めをしていたが、それでも何も連絡がないのは不安で仕方なかった。
「シャルロッテ……!!」
ゲオルグは胸を押さえながら、愛おしい人の名前を呼んだ。
――顔が見たい。
――会いたい。
――会いたい!!
会いたいと願い空を見上げると、今日は細い月だったので、星が輝いて見えた。
その光景が、いつか見たシャルロッテが作ったという星祭の腕輪と同じような光景だった。
もしかしたら、あの時、幼いシャルロッテは、今日のような空を見上げてあの腕輪を作ったのかもしれない。
あの頃のゲオルグは、あの腕輪を欲しいとは言えない立場だった。
なぜなら、シャルロッテの戻る場所は、ゲオルグの元ではなく、ハンスのところだった。
だが、今なら、シャルロッテは自分の所に来て『ただいま』と告げてくれるだろう。
そう思うと、ゲオルグの胸が少しあたたかくなった。
相変わらず、シャルロッテのことは心配だ。
だが……。
「彼女を堂々と待てるというのも、幸せなことだな……」
ゲオルグはそう思いながら、しばらく夜空を眺めたのだった。
☆==☆==
夜が明けて、私たちはまた家路に急いだ。
予定では、今日の夜には屋敷に戻れるはずだ。
「もうすぐ国境だ……ようやくここまで来たな」
ハワード様が、ほっとしたように言った。するとエイドが困ったように声を上げた。
「まだわかりませんよ。よく言うでしょう? 家に帰るまでが……」
「遠足だろ?」
「遠足でしょ?」
私とハワード様は思わず同じことを言って、顔を見合わせて笑ってしまった。
「エマの口癖」
「ふふふ、エマの口癖がエイドにも移ったのね」
ハワード様と一緒に笑っていると、エイドが困った顔で笑いながら言った。
「まぁ、そう思ったんですから仕方ないです」
もうすぐ、国境だというところで少し気が抜けていた私たちだったが、すぐに和やかな時間は終わりを告げた。
ヒヒヒ~~~ン。
馬の鳴き声がして、いきなり馬車が止まった。
前に倒れそうになる私を、エイドが急いで抱きとめてくれた。
「なんだ?」
ハワード様が外を見ると、刃音が聞こえてきた。
「ハワード殿!! 敵襲です。敵の数はざっと50!! 囲まれましたので、迎え撃ちます、どうか、そのまま、お待ちください!!」
隊長が大きな声を出した。
シャン!
ハワード様が、腰から剣を抜いて、ドアの近くに移動しながら言った。
「エイド……」
「ああ」
エイドは、私を抱きしめると、ハワード様に向かって頷いた。
外からは無数の刃の交わる音が聞こえてきた。
初めて聞く音に、身体が震えて動かない。
「お嬢……大丈夫。必ず守ります」
エイドが震える私に気づいて、きつく抱きしめてくれた。
「50か……こちらは10人……最悪、エイドが、シャルロッテ嬢を抱いて、馬で駆けて逃げるしかないだろうな……」
ハワード様が眉をしかめながら言った。
ガシャン!!
近くで大きな音がして、私は思わず、窓の外を見た。
すると、ハンス様が胸に刃を受けて赤い色と同時に、星のような何かが砕けて飛び散った。
混乱する私は、思わず叫んでいた。
「ハンス~~~~~!!!!」
その瞬間、ハンスはこちらを見ながら叫んだ。
「見るなぁ~~~!! 死んでも守る!! 絶対守るから!! シャルはそこから動くなぁ~~~~!!!」
ガシャン!!
ハンスは、左右からの刃を受け流して、斬りかかった。
「お嬢。見るな」
エイドが私の顔を無理やり自分の胸に押し付けた。
自分の心臓が、まるで飛び出してきてしまいそうなほど、早い。
生きて!
生きて!!
お願い、生きて、ハンス!!
私は必死で、ハンスの無事を祈ったのだった。
☆==☆==
それからすぐに、大きな声が聞こえた。
「シャル~~~今だ!! 行けぇ~~~~~!!!!!」
馬車の外から、必死なハンスの声が聞こえた。
次の瞬間、御者の声が聞こえた。
「前方に突破口が開きました!! このまま馬車で駆け抜けます!!」
「お嬢!! 掴まって!!」
エイドが私を抱きしめてくれた。
私も、エイドにしがみついた。
「ええ」
私たちの乗った馬車は、高速で、その場を走り抜けた。
だから、私は知らなかったのだ。
あの時、ハンスの胸元から飛び散った欠片の正体を……。
その欠片は、地面の上で、夜空のように美しく輝いていたのだった。
276
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる