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第十章 今が繋がった道の先へ
89 試験
しおりを挟むシャルロッテが旅をしている頃。
王都にあるハルバルト侯爵邸では、ランゲ侯爵とゲオルグがハルバルト侯爵と話をしていた。
ハルバルト侯爵は、流通事業の独立についての書面を確認すると、「ふぅ」と息を吐いて言った。
「ウェーバー子爵令嬢は、聡明な令嬢ですし、ステーア公爵家とノイーズ公爵家がすでに、賛成をしているのであれば、私が断る理由はありませんが……正直に言うと、ランゲ侯爵子息は、このまま、子爵令嬢と婚姻を結ぶのかと思っておりました。あなたの方から子爵令嬢を手放すと言い出すとは、予想外でした。すでに、ランゲ侯爵子息殿には、他にお相手がいらっしゃるのですか?」
ハルバルト侯爵の問いかけに、ゲオルグは真剣な顔で答えた。
「いえ。いずれ、彼女に婚姻を申し込もうとは思っております」
「ほう……いずれですか……では、私の息子が求婚しても構いませんね?」
ハルバルト侯爵が挑むような顔でゲオルグを見ると、ゲオルグはそれに負けぬように鋭い視線を向けながら答えた。
「……その時は……全力でお相手致します。私は、彼女を誰にも渡すつもりはありませんので」
「ふふ、そうですか……あなたが相手になって敵う男など、そうおりますまい。わかりました。調印致します」
ハルバルト侯爵は、小さく笑いながら、後ろで控えていた側近に手を出した。
すると側近が、ハルバルト侯爵家の印を侯爵に手渡した。
「感謝する、ハルバルト侯爵」
ランゲ侯爵の言葉を聞いて、書類に印を押したハルバルト侯爵は、側近に印を渡すと、ランゲ侯爵を見ながら言った。
「いえ……正直に言うと、私もホフマン伯爵家には重荷ではないかと思っていたところです。私の母は、元ミーヌ侯爵家の人間です。4つの鉱山に加え、『ローザルコンシエル』が発見された時、皆倒れるほど忙しかった。それを見かねて、当時、同じ鉱山を持っていて、鉱石を見分ける才能もあったホフマン子爵に仕分けをお譲りしたと言っていた。その後、我が領は、落ち着きはしましたが……まさか、ホフマン伯爵領からも貴重な鉱石が発見されるとは……運命とは数奇なものですな。ですが、今回独立して専門機関となれば、大臣も置けるし、文官も置ける。正式に国の事業として、教育機関も設置できる。陛下にとっては、いざという時に自由に使える財源が無くなり、残念なことかもしれませんがね……」
ランゲ侯爵は、頷くように言った。
「ええ。ですが王家も仕分けの財源を使い、諸外国に恩を売り、随分と後ろ盾を増やしました。それに、我が国には貴重な鉱石が2つもあるのだ。すでに個人の領で管理できることではないのでしょうな」
「それは間違いないですな。ランゲ侯爵子息殿、今回の事業元ミーヌ侯爵家だった母を持つ私も無関係というわけではない。どうか、ウェーバー子爵令嬢を頼みましたぞ」
ハルバルト侯爵がゲオルグを見ながら言った。
「お任せ下さい、必ずや、彼女と彼女の歩みを支えます」
ゲオルグは真剣な瞳で、ハルバルト侯爵を見つめた。
「はは、頼もしいですな。何かありましたら、お声掛け下さい。手を貸します」
「感謝致します」
こうしてゲオルグは、無事にハルバルト侯爵の調印を手に入れたのだった。
☆==☆==
「ふむ……さすがはハンレー・ホフマン殿のお弟子さんですな。信じられないな」
私は、キイーロ共和国で、4人の試験官を前に緊張して、結果を待ていた。
すると、一人の試験官の方が口を開いた。
「ああ、一級鑑定士の資格を取得からたった4年でここまでの眼力を持つとは……」
「11年後にはぜひ、我々と共に新しい鑑定士を育てる手伝いをしてほしいものですな」
「ははは、ええ。本当に、文句なしに合格ですな」
試験官の方々が次々と頷くと、印を手に持って、書類を手にした。
ポン!
無事に印を押してもらい、無事に一級鑑定士の試験官資格と同等の眼力あると、証明してもらえた。
「ありがとうございました」
私は、頭を下げると、試験官の一人が、私をじっと見つめながらしみじみと言った。
「だが……あの天才ハンレー・ホフマン殿は、宝石だけではなく、後継者をも見る目があったのか……本当に稀有な人物だったのだな……私は正直に言うと、シャルロッテさんの才能に畏怖を覚えるよ」
「私もだ。才能と努力そして、指導者全てが揃っていたということなのだろうが……これほどまでに力量があると、確かに、感嘆だけではなく、恐怖も感じるな。いやはや、人間とは勝手なものだ。シャルロッテさん失言でしたな、どうぞ忘れて下さい。あなたは素晴らしい鑑定士だ。それは間違いない」
――シャルに私の気持ちなどわからないよ……。
ふと昔、ハンス様が切なそうな顔で言った言葉を思い出した。
私は「感謝いたします」と言って、頭を下げると、書類を受け取り、試験を受けた部屋を出たのだった。
この部屋のある階には、秘書などでさえ、入れない。
唯一、廊下で待機出来たのは………
「無事に認めて貰えたですか?」
「ええ」
護衛騎士であるハンス様だけだったのだ。
ハンス様を私を見ながら眉を上げて、昔のように優しく微笑んだ。
「やはり、シャル……ロッテ様は、凄い……ですね」
「ありがとうございます」
私はそれだけ答えると、ハンス様と一緒に廊下を歩いた。
無言で歩く廊下はとても長く感じた。
「……すまなかった」
突然、ハンス様が呟くように言った。
「……」
私は何も答えることが出来ずに、ただ歩いた。
ハンス様も、もう何も言わなかった。
そのまま無言で、階段まで歩いて来ると、階段下のホールを行ったり来たりするエイドの姿が見えた。
私はエイドを姿を見た時、自分でも、驚くほど安心した。
階段を一歩降りた時、エイドが私に気づいて大声を上げた。
「お嬢!! ご無事ですか?!」
階段前には、警備兵がいるので、エイドは階段には入れない。
私は少し早足で、階段を降りて、エイドに書類を見せた。
「調印してもらえたわ!」
「さすが、お嬢」
私はエイドにぎゅっと、抱きしめれられた。
ずっと緊張していたのか、エイドの体温を感じて、ようやく、私の身体も熱を取り戻すように感じた。
「シャルロッテ嬢、やったな!!」
どうやら、ハワード様もここで待っていてくれたらしい。私はエイドに抱きしめられたまま、ハワード様に答えた。
「ありがとうございます。あの……ずっとここに?」
するとハワード様が呆れたように言った。
「ああ、エイドが待機部屋で、落ち着かなくてな。もう階段で待つことにしたんだ」
「それは申し訳ございません」
私が、ハワード様に謝罪すると、エイドが小さな声で言った。
「俺は、頼んでませんよ? 一人で待つつもりでした」
すると、ハワード様が頭をかきながら言った。
「はぁ~~ずっと『どうして護衛登録しなかったんだ』っと恨み事など言うからだろ?! 護衛以外入れないなんて知らなかったんだよ!」
私は相変わらずエイドに抱きしめられていたが、エイドは離す気配がなかったので、このままでいると、ハワード様が口を開いた。
「はぁ、では、行こう。そろそろミーヌ侯爵は、我が国に着く頃だ。恐らく、今回の報告と、独立の件で王都に向かってくれるだろう。我々も戻るぞ」
エイドが私から離れると、ぎゅっと手を繋いだ。
「お嬢疲れていませんか? 今日の宿には夕方くらいにつくそうです。ですが……少し休みますか?」
私は心配そうなエイドを見ながら微笑んだ。
「大丈夫よ、早く戻りましょう」
こうして、私たちは馬車に乗り込んだのだった。
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