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第十章 今が繋がった道の先へ
90 試練
しおりを挟む「あ~~シャルロッテ嬢……本当にエイドと同じ部屋でいいですか?」
ハワード様が困ったように頭をかきながら言った。
「はい。エイドったら結局ずっと私の部屋の前で座ったまま寝ていたんです。それながら初めから隣にベッドがあった方がエイドも休めていいですから」
エイドはここ数日、ずっと私の部屋の前に椅子を置いて、椅子に座ったまま寝ているのだ。エイドの身体が心配なので、私は、今日こそはエイドにベッドで寝てもらいたかったのだ。
「この状況で、お嬢と別の部屋ってのが無理ですって!!」
エイドは私の荷物を持ちながら言った。
「はぁ~まぁ、戦中の移動に元婚約者と同じ屋根の下、しかも今回の作戦の重要人物……わからなくもないけどなぁ~。ん~~~これまでもそうだったのなら、寝る場所が椅子から、ベッドに変わるだけ……特に問題ない……のか?」
ハワード様が溜息を付くと、私とエイドは部屋に向かった。
そして夜になり、私は試験や移動の疲れもあって、早めにベッドに横になった。
「ねぇ、エイド……ちゃんと寝てね」
私は相変わらず、私の横に椅子を置いて座っているエイドに向かって言った。
「はい」
エイドの優しく微笑む顔を見ると、私は瞳を閉じたのだった。
☆==☆==
シャルロッテが眠りについた後、エイドは優しくシャロッテの頭を撫でた。
「お嬢は、凄いですね……俺はお嬢を誇りに思います」
エイドは、健気に頑張るシャルロッテを心から愛おしいと思い、シャルロッテの額に優しくキスを落とすと、窓の外に見える細い月を見上げた。
「お嬢のことは絶対に守ります」
エイドの言葉は月明かりに溶けていったのだった。
☆==☆==
同じ頃、ゲオルグもまた、月を眺めていた。
関係者には全て話を通したし、必要な物は全てそろえたつもりだ。
ここ数日のゲオルグは、執事が心配して止めるほどの多忙さだった。
執事には『これ以上無茶をしては倒れてしまいます』と心配され、最終的にはセバスが現れ、『シャルロッテ様が今のゲオルグ様を見たらどう思われると思いますか?』と言われ、渋々、自室に戻ったところだった。
戦争の間は、様々な憶測や、陰謀が渦巻くので、下手に連絡はしないと、ハワードと事前に取り決めをしていたが、それでも何も連絡がないのは不安で仕方なかった。
「シャルロッテ……!!」
ゲオルグは胸を押さえながら、愛おしい人の名前を呼んだ。
――顔が見たい。
――会いたい。
――会いたい!!
会いたいと願い空を見上げると、今日は細い月だったので、星が輝いて見えた。
その光景が、いつか見たシャルロッテが作ったという星祭の腕輪と同じような光景だった。
もしかしたら、あの時、幼いシャルロッテは、今日のような空を見上げてあの腕輪を作ったのかもしれない。
あの頃のゲオルグは、あの腕輪を欲しいとは言えない立場だった。
なぜなら、シャルロッテの戻る場所は、ゲオルグの元ではなく、ハンスのところだった。
だが、今なら、シャルロッテは自分の所に来て『ただいま』と告げてくれるだろう。
そう思うと、ゲオルグの胸が少しあたたかくなった。
相変わらず、シャルロッテのことは心配だ。
だが……。
「彼女を堂々と待てるというのも、幸せなことだな……」
ゲオルグはそう思いながら、しばらく夜空を眺めたのだった。
☆==☆==
夜が明けて、私たちはまた家路に急いだ。
予定では、今日の夜には屋敷に戻れるはずだ。
「もうすぐ国境だ……ようやくここまで来たな」
ハワード様が、ほっとしたように言った。するとエイドが困ったように声を上げた。
「まだわかりませんよ。よく言うでしょう? 家に帰るまでが……」
「遠足だろ?」
「遠足でしょ?」
私とハワード様は思わず同じことを言って、顔を見合わせて笑ってしまった。
「エマの口癖」
「ふふふ、エマの口癖がエイドにも移ったのね」
ハワード様と一緒に笑っていると、エイドが困った顔で笑いながら言った。
「まぁ、そう思ったんですから仕方ないです」
もうすぐ、国境だというところで少し気が抜けていた私たちだったが、すぐに和やかな時間は終わりを告げた。
ヒヒヒ~~~ン。
馬の鳴き声がして、いきなり馬車が止まった。
前に倒れそうになる私を、エイドが急いで抱きとめてくれた。
「なんだ?」
ハワード様が外を見ると、刃音が聞こえてきた。
「ハワード殿!! 敵襲です。敵の数はざっと50!! 囲まれましたので、迎え撃ちます、どうか、そのまま、お待ちください!!」
隊長が大きな声を出した。
シャン!
ハワード様が、腰から剣を抜いて、ドアの近くに移動しながら言った。
「エイド……」
「ああ」
エイドは、私を抱きしめると、ハワード様に向かって頷いた。
外からは無数の刃の交わる音が聞こえてきた。
初めて聞く音に、身体が震えて動かない。
「お嬢……大丈夫。必ず守ります」
エイドが震える私に気づいて、きつく抱きしめてくれた。
「50か……こちらは10人……最悪、エイドが、シャルロッテ嬢を抱いて、馬で駆けて逃げるしかないだろうな……」
ハワード様が眉をしかめながら言った。
ガシャン!!
近くで大きな音がして、私は思わず、窓の外を見た。
すると、ハンス様が胸に刃を受けて赤い色と同時に、星のような何かが砕けて飛び散った。
混乱する私は、思わず叫んでいた。
「ハンス~~~~~!!!!」
その瞬間、ハンスはこちらを見ながら叫んだ。
「見るなぁ~~~!! 死んでも守る!! 絶対守るから!! シャルはそこから動くなぁ~~~~!!!」
ガシャン!!
ハンスは、左右からの刃を受け流して、斬りかかった。
「お嬢。見るな」
エイドが私の顔を無理やり自分の胸に押し付けた。
自分の心臓が、まるで飛び出してきてしまいそうなほど、早い。
生きて!
生きて!!
お願い、生きて、ハンス!!
私は必死で、ハンスの無事を祈ったのだった。
☆==☆==
それからすぐに、大きな声が聞こえた。
「シャル~~~今だ!! 行けぇ~~~~~!!!!!」
馬車の外から、必死なハンスの声が聞こえた。
次の瞬間、御者の声が聞こえた。
「前方に突破口が開きました!! このまま馬車で駆け抜けます!!」
「お嬢!! 掴まって!!」
エイドが私を抱きしめてくれた。
私も、エイドにしがみついた。
「ええ」
私たちの乗った馬車は、高速で、その場を走り抜けた。
だから、私は知らなかったのだ。
あの時、ハンスの胸元から飛び散った欠片の正体を……。
その欠片は、地面の上で、夜空のように美しく輝いていたのだった。
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