我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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5 突然の新事実

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ヴァイオリンと出会って、3ヶ月が経った。
私はすっかりヴァイオリンに夢中になってしまった。
少しでもいい音を出したくて、先生の音色に近づきたくて、
家庭教師の先生(私に幼児教育をしてくれる方。名前が難しすぎて覚えられないので、先生と呼んでいる。)との勉強の時間以外はほとんどの時間をヴァイオリンの練習につぎ込んだ。

さらに、兄とは毎日のようにお茶をする仲になった。
余談だが、会話の中で、とうとう兄の年齢が発覚した。
兄は8歳だった。高校生くらいだと思っていた兄は、まさかの小学生だったのだ。
ヴァイオリンの先生であるサミュエル先生も13歳らしいが、大人にしか見えない。

レッスンの日は先生と一緒にお茶を飲みながらヴァイオリンの話をすることが多いのだが、毎回、兄も同席している。
元々兄と先生は知り合いだったらしい。
ほぼヴァイオリンの話しかしていないが、話についてきている兄の理解力は尊敬に値する。

目を覚ますと、今日もいい天気だった。家庭教師の先生が来るまで、ヴァイオリンを弾こうと早めに起きて、マリーを呼ぶと、少し緊張した様子のマリーが部屋に入ってきた。

「マリーおはよう。」
「おはようございます、お嬢様。本日は旦那様とエリック様とご一緒に城に行かれるそうです。」
「そうなの・・・?わかったわ。」
「はい。ですので、気合を入れてご準備致しますね。」
「え・・ええ。お願いね。」

 いつも以上に気合を入れたマリーに可愛いワンピースを着せてもらい、髪もいつもより念入りに手入れをしてもらって、3人で馬車に乗り込んだ。

(わ~馬車だ。馬車。すごい。
でも馬車って、意外と・・揺れるんだね・・。知らなかった。)

「着いたら、エリックと一緒にクリストフ殿下の執務室に行ってね。」

初めての馬車に感動していると、家庭教師の先生に教えてもらった呼び名を思い出した。

(え~とぉ~。クリストフ殿下。確か、王太子候補の王子様だよね。
まだ立太子?はしていないと先生が言ってたな。
あれ?王子様??執務室???何しに行くのかな?)

「あの、お父様?」
「ん?何だい?」
「クリストフ殿下の執務室に何をしに行くのですか?」
「「え?」」
「え?」

2人の驚いた顔に私まで思わず固まってしまった。
すると、父が片手でこめかみを支え、青い顔をした。

「ベルナデット、すまない。説明をしていなかった。落ち着いて聞いてくれ。
君はクリストフ殿下の婚約者なんだ。」
「えええええ~~~~!!!」

小さな馬車の中で大声をあげて申し訳ないが、そんなことを気にしている余裕はない。
婚約者がいることにも驚きだが、相手が王子様!
童話の中じゃあるまし、現実では受け入れ難い。
しかも、不敬罪が適応されるランキング上位の相手だ。
むしろトップクラスだ。
不敬罪を恐れる小市民がおいそれと結婚できる相手ではない。

「こ、困ります。殿下って、不敬罪が適応される人物ですよね。
そんな方のお嫁さんなんて怖いです。」
「ベルナデット。クリストフ殿下は怖い方ではないよ。」

父が諭すように言った言葉に、少し怖い顔をした兄が口を開いた。

「そうとも言い切れません。ベルは殿下に嫌われていると思いますので。」
「そうなんですか?お兄様。」

さらに衝撃の事実だ。

(嫌われてる?王子様に?)

会ったことのない人物に嫌われているというのは正直腑に落ちないが、あちらにも何か理由があるのだろう。
悶々としていると、兄が会話を再開させていた。

「ああ。その証拠に婚約者とは月に1度、お茶会をすることになっているが、ベルが最後に殿下とお会いしたのはベルが記憶を無くす前、つまり4ヶ月は前だ。
その間、1度も殿下からのお誘いはない。
まぁ、いつもベルが一方的に押し掛けていたから仕方ないかもしれないが。」
「え?いつも私が一方的に押し掛けていたのですか?」
「ああ。しつこくな。私は毎回殿下にベルの迎えを要請されていた。」
「しつこい・・毎回迎えを要請・・。」

想像以上の行動に段々と血の気が引いて行くのを感じる。

(私のせいだった~~~。)

まだ見ぬ7歳の少年に全力で謝罪したい情動にかられる。
すでにライフポイントは限りなく0に近いが、兄の口は止まることなく動き続けた。

「それに、お茶会の場所は、サロンやテラス、ガゼボやロイヤル庭園が一般的だが、呼ばれた場所は執務室。
いざとなったら周りの人間にベルの我儘の対応をさせようというお考えなのだろうな。」
「すでに危険人物扱い・・・。」
「一応婚約者としての体裁を保つために不本意ながら呼び寄せたと考えるのが妥当だ。招待の時点で私の同席も明記してあったし、何かあったらすぐに連れて戻れとの殿下からのメッセージだな。」

(・・・終わった。天の岩戸に引きこもりたい・・。)

白目をむいて燃え尽きたように虚空を見つめるしかなかった。
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