87 / 145
【サミュエル】(学院発展ルート)
16 選択した未来
しおりを挟む私は、女王になると言ってしまった。
そう。
言ってしまったのだ……。
一度、深呼吸をしてもいいだろうか?
ついでに、頭を抱えてもいいだろうか?
ついでに現実逃避をするために、超絶技巧のヴァイオリン曲を弾いてきてもいいだろうか?
ココハドコ?
ワタシハダレ?
あまりの荷が重すぎる決断に、私は、真っ白の灰になってしまった。
「ところで、ベルとサミュはキスはしてるんでしょ?」
真っ白に燃え尽きている私に、再び女王陛下の爆弾が落とされた。
(お母様!! な、なんてことを聞くんですかぁ~?!)
「キ、キス……あいさつ程度でしょうか」
隣を見ると、女王陛下のご質問を無視する訳にもいかないサミュエル先生が真っ赤な顔で、母の質問に答えていた。
(ああ!! サミュエル先生になんて質問を!! 私の母が破廉恥ですみません!!)
私は穴に入りたい程の羞恥心を感じた。
「え? そうなのかい?? 困ったなぁ~」
すると実父が訳のわからないことを言ってきた。
「困るとは?」
私は思わず実父を不審な目で見てしまった。
「いやね。お披露目式では、たくさんの人の前で愛を誓わなければいけないんだ。
数代前までは、初夜をみんなに披露していたんだけど……。
それはちょっと……ってことになって、キスの披露になったんだ。
最低でも30分以上は必須だな。まぁ大体1時間くらいみんなの前でキスすることになるけど、キスしたことなくて大丈夫かな?」
(ん? 聞き間違えかな? 今、とてつもなく恐ろしい単語が出なかった?)
「初夜披露ではなくてよかったでしょ?」
お母様は「ふふふん」と得意げに言った。
「初……初夜披露?」
サミュエル先生が真っ赤な顔で呟くように言った。
「いや、それはなくなったから。代わりに1時間くらいのキス披露でいいからね」
実父が慌てて言った。
ーー……1時間のキス披露。
もう一度、深呼吸をしてもいいだろうか?
ついでに、頭を抱えてもいいだろうか?
ついでに現実逃避をするために、超絶技巧のヴァイオリン曲を弾いてきてもいいだろうか?
ココハドコ?
ワタシハダレ?
ダレカタスケテ。
「あの、一応お伺い致しますが、冗談ってことは?」
私は、母と実父の顔を見た。
「ふふふふ。……冗談じゃないわ」
お母様は笑ってない目で見つめた後、真剣な顔で私を見た。
「はははは。……冗談なら…どれほどよかったか」
実父が遠い目をした。
「何が悲しくて、可愛い娘のキスシーンを延々と見せられなきゃいけないんだ!!
本当なら、嫁になんて出したくないんだ!!
ああ!! 見たくない!! 見たくない!! 見たくな~~い!!」
すると母が実父を見た後、私とサミュエル先生を見た。
「ということで本当よ? 理解した?」
どうやら、やっぱりこれは事実のようだ。
冗談ではないらしい。
私が愕然としていると、サミュエル先生に両手を握られて、見つめられた。
視界の端に両親がソロリソロリと隣の部屋に移動している姿が見えた。
気が付くと、部屋には私とサミュエル先生の2人だけになっていた。
「あの……ベルナデット様。
本当に私が相手でもいいのでしょうか?」
「え?」
サミュエル先生が不安そうな顔で私を見つめていた。
「みんなの前で、キ、キスをして愛を示す相手が私でもいいのですか?」
サミュエル先生の手が震えていた。
(ああ、私は肝心なことが見えていなかったのね)
そうだ。
怒涛の展開ですっかり忘れていたが、これは私とサミュエル先生が今後、共に歩むという誓いなのだ。
『女王打診』に『キス披露』と爆弾発言ばかりで、大切なことを見落としていた。
私は小さく息を吐くとサミュエル先生を見つめた。
「私が共に歩みたいと思っていた相手は昔からあなただけです」
「え? 昔から?」
私は自分の言葉に今更ながら驚いた。
「そう……昔から」
(ああ、そうか……私ずっと、サミュエル先生のことが好きだったんだ)
こんな状況に追い詰められるまで、私は自分の心に気づけなかったのだ。
私はサミュエル先生を見つめた。
「昔からずっとあなたのことが好きです」
するとサミュエル先生に抱きしめれた。
「……夢みたいだ……ずっと、私だけが……あなたのことを……好きだと……」
サミュエル先生は泣いてた。
私もいつの間にか泣いていた。
涙を流しながら、サミュエル先生と見つめ合った。
サミュエル先生の顔が段々と近づいてきた。
私は自然に目を閉じた。
すると唇に体温を感じた。
とても柔らかい感触に私たちは夢中になっていた。
ーー……これが、初めてのキスだった。
初めてのキスは涙で少しだけしょっぱいと思った。
+++
「ふふふ。まさか、あの小さかったサミュと娘のベルがねぇ」
ブリジットは隣室で、微笑ましげに目を細めた。
彼女にとって娘との思い出より、サミュエルとの思い出の方が多い。
ブリジットにとって、サミュエルは唯一の生徒だった。
「人生何があるかわからないね」
トリスタンがブリジットの肩を優しく抱き寄せた。
「ふふふ。そうね。まさか、サミュがベルにヴァイオリンを教えてくれることになるなんて」
ブリジットが嬉しそうに笑うとトリスタンが目を細めた。
「驚くのはまだ早いよ」
「え?」
「ベルの演奏は本当に君の音色にそっくりなんだ」
「ふふふ。もうそれは何度も聞いたわ。早く聴きたいわ。あの2人の音色が。
それにあの2人を見てると昔を思い出すわ」
ブリジットが笑うとトリスタンがブリジットにキスをした。
「懐かしいね」
「そうね。サミュはあなたほど強引じゃないみたいだけど」
「そう? あの子だって、表に出してないだけだよ。いざとなったら私なんて太刀打ちできないくらい強引な気がするな~彼」
「ふふふ。そうかもね……確かにそうかもね」
そう言って2人はまたキスをした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【 在りし日のブリジットとトリスタン エピソード出現 】
Episode CLOSE(・・・coming soon)
【 在りし日のブリジットとサミュエル エピソード出現 】
Episode CLOSE(・・・coming soon)
54
あなたにおすすめの小説
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』
ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。
現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる