【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番

文字の大きさ
54 / 57
【辺境伯領エンディング】

ゲオルグSIDE

しおりを挟む




 俺は王都が近づく度に憂鬱な気分だった。
 この数日間、ライラと二人きり。一日目は同じ部屋で寝ることになり、ライラの寝息を聞いているだけで緊張して眠れなかったが、それからは別の部屋が取れたので、寂しく思いながらも睡眠はとれた。
 だが、寝る時以外は、食事も移動も全てライラと一緒。
 そんな時間が終わってしまうのは苦痛と伴うほど、ライラと一緒にいたいと思っていた。
 王都に到着するのが苦痛に思えたが、俺たちは無事に王都に到着した。

「ゲオルグ、着いわ。ここが学生寮よ」

「ああ、ありがとう、ライラ」

 ライラに案内された学生寮の前で思わず佇んでしまう。

(ライラと離れたくないな……毎日、おはよう、おやすみが言いたい!!)

 俺はライラと離れたくないと思っていたが、ライラはあっさりと立ち去ろうとした。

「それじゃあ、ゲオルグ。頑張ってね」

 気が付けば俺は慌ててライラを引き留めていた。

「待って!! ライラ!! 会えそうな時、連絡して」

 ライラは困ったように言った。

「学院に入った始めの方は、外出している時間がないくらい忙しいわ。だからゲオルグが時間ができたら教えて」

 ライラはそういうと馬に乗った。

「元気でね!!」

「ライラも」

 そしてライラは颯爽と馬に乗って去って行った。
 残された俺は、荷物を持って男子寮と書かれた建物に入った。
 建物に入ると多くの学生たちがいた。受付と書かれた机の前に行くと、上級生らしい男子生徒に「名前は?」と聞かれた。

「ゲオルグ・フィルネ」

「ああ、辺境伯領の……長旅ご苦労様。君の部屋は25番室だ。同室の生徒はすでに部屋に着いている。これはこれからの予定などが書かれたものだ。目を通してくれ」

「わかりました」

 俺は再び荷物を背負うと、自分の部屋を探した。

「25番……ここか」

 ノックをすると「はい」という声と共にガチャリと中から扉が開いた。

「はじめまして、うわっ!! 君、モテそう……あ、僕はセードア侯爵家のロビンです」

 初対面で『うわっ』というのはなかなか失礼ではないだろうか?

「はじめまして。ゲオルグ・フィルネだ。世話になる」

 ロビンは目を細めた。

「へぇ~~フィルネってことは辺境伯様か……僕より上だった!! 敬語の方がいい?」

「いや、普通の言葉でいい。俺も敬語を使われると疲れる」

「あ、そう? よかったぁ~~」

 ロビンは、そう言うと楽しそうに言った。

「入りなよ。お茶を入れるから。入口向かって右は僕が使ってる。早い者勝ちってことで」

 部屋の中にはソファーにテーブル。そして、両側に扉があった。

「別に構わない」

 左の部屋に入ると、ベッドと机と本棚、そしてクローゼットがある。

(いい部屋だな)

 さすが貴族の子息が学ぶ場所だ。家具も調度品もかなり豪華だ。
 部屋にはすでに俺が出発する前に送った荷物が届いていた。
 片付けようかと思うと、「お茶を入れたよ~」という声が聞こえた。

「今行く」

 お茶を入れたと言われれば無視はできずに、俺が自分の部屋を出ると、ロビンはソファーに座っていた。

「今、王都に着いたんだろ? まずはやすみなよ」

「どうも」

 俺も座ってお茶を飲んだ。

「初めて飲む種類だ」

「ああ、このお茶は侯爵領の特産なんだ。この機会にここで宣伝して顧客をゲットする予定」

「そうか、勤勉だな」

 お茶を飲むと、ロビンが驚いた顔をした。

「バカにしないんだ? 侯爵家の子息なのに~って」

「どうしてバカにするんだよ。自領の繁栄は領主の務めだ。それをバカにする意味がわからない」

 俺の言葉を聞いて、ロビンが大きく息を吐いた。

「は~~ゲオルグって、見た目だけじゃなくて、中身までかっこいいね。なんだか、モテまくって大変な学院生活になりそうだね。婚約者とかいる?」

「婚約者? いや……ロビンはいるのか?」

「一応ね。学院に入って家柄の釣り合わない相手と懇意になっても別れなきゃいけないってもつらいからね。本当に貴族社会も面倒だ。でもゲオルグ婚約者いないのか~~うわ~~ゲオルグを巡って修羅場になりそう。とりあえず、入ってすぐの魔法授与式の後のプレダンスが恐怖だね」

「なぁ、そのプレダンスの相手ってこの学院の生徒じゃなくてもいいのか?」

「もちろん。僕も婚約者を呼ぶよ。そこで婚約者がいるっていれば『婚約者あり』と思われて学院生活は安泰だ。ゲオルグ、言っておくけど、令嬢たちは怖いよ?」

 俺は立ち上がると、ロビンに向かって言った。

「ロビン、ありがとう!」

「え?」

 そして俺は自分の呑んだカップを洗うと、部屋に戻った。
 そしてライラに手紙を書こうとして気付いた。

「あ……住所……わからない……」

 少し考えて俺は、再びリビングに戻るとロビンに尋ねた。

「なぁ、女官寮って知ってる?」

 ロビンは驚いた後にニヤニヤと笑った。

「なるほど、相手は年上か……ああ、わかるよ。地図書いてあげるよ」

「ありがとう」

 学院が始まるまでまだ1週間はある。
 俺は、ロビンに書いてもらった地図をじっと見つめたのだった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。 全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。 ​「お前から、腹の減る匂いがする」 ​空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。 ​公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう! ​これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。 元婚約者への、美味しいざまぁもあります。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

処理中です...