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第17話 お仕事開始
しおりを挟む「ギルベルト様、まずはこの書類をお願いします。ここにギルベルト様に対応した記入例を用意してあります」
私は用意してあった書類の書き方をギルベルト様に見せた。
「わぁ!! こんな便利なものが!! ありがとうございます」
私はギルベルト様の隣に椅子を持って来て座った。
「……あの、ライラさん、ここは?」
私はギルベルト様の手元を覗き込んだ。
「ああ、ここはこちらを記入して下さい」
私が記入するべきことが書かれている場所に指を置くとギルベルト様が声を上げた。
「え? ああ、これってこういう意味だったのですね。わかりました」
私はギルベルト様のすぐ近くに座って、質問に答えながら書類を完成させていく。
すでに提出期限を過ぎている書類もあるので、私もギルベルト様の広い執務机の端を借りて、すぐに関係各所に回せるように書類を完成させていく。
ここで私がほとんど完成させて王都の政務補佐室に送れば、室長の印を押せば他の部署に送れるはずだ。
これ以上遅れて、みんなの休みが消えないようにする必要がある。
「ライラさん、これを」
「はい。確認しますので、次はこちらを」
「はい」
私は確認をしている途中で、ギルベルト様に声をかけた。
「ギルベルト様、紛らわしいのですが、こちらは領主印をそしてこちらはギルベルト様個人の印をお願いします」
ギルベルト様は慌てて「え? 個人の印とは何ですか!?」と言った。
「え?」
私は思わずギルベルト様と顔を見合わせた。
そして私が持っていた個人の印を見せた。
「このような印です」
「へぇ~~個人の印などが必要なのですね。知りませんでした」
確かに、個人の印は正式な書類を提出するような立場の人間でなければわざわざ作らない。
領主は必ず持っているものだが……
ギルベルト様は騎士団にいらっしゃった。
騎士団だと団長や副団長クラスでなければ、印は持っていないかもしれない。
(ギルベルト様はこれほど基本的なこともわからないまま政務を行っていらしたのね!! これでは書類不備も仕方ないわ……来てよかった……)
私はギルベルト様を見ながら言った。
「ギルベルト様、すぐに印を作りましょう!! え~~この辺りですと……カルムの町に彫師がいらっしゃいますね。連絡を取ってこちらに来て下さるようにお願いできませんか?」
ギルベルト様が頷きながら言った。
「わかりました」
「では、私が彫師への依頼書を作成しますので、ギルベルト様は早馬の手配を」
こうして私は、本当に基本的なところからギルベルト様に書類の説明をした。
◇
随分と集中していると、控えめなノックと共のクルスが入って来た。
「ギルベルトさん、ライラさん、食事だよ」
ギルベルト様と二人で集中して仕事をしていたら、いつの間にか夕食の時間になっていたようだった。
「ああ、もうこんな時間か、ライラさんすみません。食事に行きましょう」
「ええ」
私がギルベルト様と扉に向かうとクルスが私を見上げながら言った。
「ライラさん、洗濯してくれて、ありがとう!! 兄さんもリーゼも喜んでた」
はにかむように笑う顔が可愛くて私は目線をクルスと合わせながら言った。
「どうしたしまして、ふふふ、お礼を言って貰えてうれしいわ」
その後、食卓に着くと「洗濯してくれて本当にありがとう!!」とリーゼに抱きつかれたのだった。
やはり女の子なので、身なりを気にしていたようだ。
「どういたしまして」と言って私もリーゼを抱きしめたのだった。
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