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第18話 辺境伯領という場所
しおりを挟む「え? ライラさんが家事を!?」
ギルベルト様が目を丸くしながら言った。
「はい。午前中は時間がありますし、夕食の後はギルベルト様は砦のお戻りになるので、その間に明日の用意をしますので私の業務に問題はありません」
なぜここに執事や侍女がいないのか全く理由がわからないが、私はしばらくここにいるのだし、午前中も稽古くらいしかすることがないので家事をすることができる。
私の提案に、ギルベルト様は目を白黒させていた。すると、クルスが真剣な顔をしながら言った。
「正直に言うと、そうしてくれると俺はすごく助かる。もうすぐゲオルグ兄さんは15になるから入団試験を受けられる年齢だし、試験の前は忙しいから……それに服も掃除も何もかも行き届かなかったから……」
クルスの言葉にギルベルト様が頭を下げた。
「みんな、本当にごめん」
謝罪するギルベルト様に向かってクルスが慌てて言った。
「いや、責めているわけじゃないんだ。今のここの状況はよくわかっているから……でも手伝ってくれるのなら、手伝ってくれると有難い」
みんな何も言わなかったが、同じ気持ちだったのだろう。
すがるように瞳でギルベルト様を見ていた。
みんなの視線を受けてギルベルト様は私を見ながら言った。
「ライラさん、どうかよろしくお願いします」
「はい」
私が返事をした時だった。
外から大きな鐘の音が聞こえた。
その瞬間、ギルベルト様は立ち上がって私たちを見た。
「魔物か……いってきます。ゲオルグ、避難を頼む」
「ああ」
ギルベルト様は、食堂を飛び出して行った。
そしてゲオルグが私を見ながら言った。
「案内したい場所がある。来てくれるか?」
そして私たちはゲオルグたちに案内された。
着いたのは、二階の壁だった。
壁にゲオルグが手を置くと魔法陣が浮かび上がり、壁が横にずれた。
そして屋根裏部屋の階段が出現した。
(こんなところに階段が!?)
内心驚いていたが、驚きを出さずにゲオルグを見た。
「行こう」
中は魔力が流れると光るようになっているのか、階段に光があったので、問題なく階段を上れた。
そして階段の上には部屋があった。
テーブルと椅子があり、大人が数人寝れそうな大きめのベッドが置いてある。
みんなが部屋に入ると、ゲオルグが再び扉に魔力を流した。
すると、階段の扉が閉じて塞がった。
部屋の小さな窓から砦が見えた。
その窓を見ながらゲオルグが言った。
「今日は念のためにみんなでここで寝よう。魔物が攻めてくるかもしれない」
魔物……
私はここが辺境伯領だということを思い出した。
震えるリーゼをクルスが抱きしめた。
こんなに小さな子が魔物に怯えながら暮らす……それがここでの暮らし。
ふと、夜会などで聞いた言葉を思い出す。
――辺境伯領は魔物が出ますでしょう? 怖いわ。
私は思わず手のひらを握りしめてた。
ギルベルト様は魔物と戦いながら、慣れない政務をしていたのだ。
(あの方を……この子たちを……助けたい……)
私はこの時、心からギルベルト様やみんなを助けたいと思ったのだった。
◇
しばらくすると遠くで、魔力を感じるようになった。
「始まった……」
思わず呟くと、ゲオルグが私を見た。
「わかるのか?」
「……少しね」
私の家系は魔力の流れを見ることが出来る。
大きな魔法が発動されるとそれを感じることができる。だが、どんな魔法をどのくらいの規模で発動したのか詳しいことはわからない。そのため、ギルベルト様が風魔法を使ったのか、などの特定はできない。
ちなみに魔物の数も大体わかる。今回は百体くらいだろうか。
大きな魔法が何度か発動されて、随分と魔物の気配が消えた。
「ねぇ、今日はみんなで一緒に寝ましょう」
リーゼが震えた声で言った。ベッドを見ると大人が3人は寝れそうな大きなベッドだ。私は震えるリーゼの頭を撫でた。
「そうね、一緒に寝ましょう」
リーゼは私を上目遣いで見ながら「ありがとう」と呟いた。
そして4人で固まってベッドに入った。
私がリーゼの手を握って頭を撫でると、すぐにリーゼの寝息が聞こえて来た。
そしてクルスも眠ったようだった。
「クルスも寝たみたい……眠れてよかった」
私が小声でいうと、リーゼとクルスを挟んで反対側に寝ていたゲオルグが天井を見ながら呟いた。
「ああ……いつもはこんなに早く眠ってくれない。ライラのおかげだ……魔物……今頃、どうなってるんだろうな」
私はしんみりとするゲオルグに向かって言った。
「もうあまり魔物の気配はしないから、心配ないと思う……さすがに全ての気配がわかるわけじゃないから、気休めだけど……」
私の言葉にゲオルグが驚きながら言った。
「魔物の気配がわかるのか?」
声を上げたゲオルグに私は人差し指を口に当てながら言った。
「しー。うん、だからゲオルグも休んだ方がいいわ。明日はきっと魔物の片付けで大変だろうから……」
ゲオルグが「そうだな」と呟いた。
それっきり、部屋に沈黙が流れた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。私がリーゼに布団をかけ直していると、ゲオルグの声が聞こえた。
「なぁ、起きてるだろ?」
「うん」
私がゲオルグの方を見ると、想像以上に近い距離でゲオルグと目があった。
間にリーゼとクルスいるとはいえ、この距離はかなり近い。
まぁ、昨日はもっと近い距離で寝てしまったわけだが……
部屋の中はぼんやりと光っているが、ゲオルグの表情まではわからない。
「いろいろと……ありがとう」
まさかそんなことを言われると思わなくて、驚いたがゲオルグもよく考えて見ればまだ14歳だ。
魔物が襲って来たこんな状況で怖いのも仕方がないだろう。
「どういたしまして」
そしてまた沈黙が訪れた。すると、砦の方で魔物の気配と魔法の気配が完全に消えた。
(これでもう大丈夫ね……)
私も安心して目を閉じた。
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