【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番

文字の大きさ
19 / 57

第17話 お仕事開始

しおりを挟む




「ギルベルト様、まずはこの書類をお願いします。ここにギルベルト様に対応した記入例を用意してあります」

 私は用意してあった書類の書き方をギルベルト様に見せた。

「わぁ!! こんな便利なものが!! ありがとうございます」

 私はギルベルト様の隣に椅子を持って来て座った。

「……あの、ライラさん、ここは?」

 私はギルベルト様の手元を覗き込んだ。

「ああ、ここはこちらを記入して下さい」

 私が記入するべきことが書かれている場所に指を置くとギルベルト様が声を上げた。

「え? ああ、これってこういう意味だったのですね。わかりました」

 私はギルベルト様のすぐ近くに座って、質問に答えながら書類を完成させていく。
 すでに提出期限を過ぎている書類もあるので、私もギルベルト様の広い執務机の端を借りて、すぐに関係各所に回せるように書類を完成させていく。

 ここで私がほとんど完成させて王都の政務補佐室に送れば、室長の印を押せば他の部署に送れるはずだ。
 これ以上遅れて、みんなの休みが消えないようにする必要がある。

「ライラさん、これを」

「はい。確認しますので、次はこちらを」

「はい」

 私は確認をしている途中で、ギルベルト様に声をかけた。

「ギルベルト様、紛らわしいのですが、こちらは領主印をそしてこちらはギルベルト様個人の印をお願いします」

 ギルベルト様は慌てて「え? 個人の印とは何ですか!?」と言った。

「え?」

 私は思わずギルベルト様と顔を見合わせた。
 そして私が持っていた個人の印を見せた。

「このような印です」

「へぇ~~個人の印などが必要なのですね。知りませんでした」

 確かに、個人の印は正式な書類を提出するような立場の人間でなければわざわざ作らない。
 領主は必ず持っているものだが……
 ギルベルト様は騎士団にいらっしゃった。
 騎士団だと団長や副団長クラスでなければ、印は持っていないかもしれない。

(ギルベルト様はこれほど基本的なこともわからないまま政務を行っていらしたのね!! これでは書類不備も仕方ないわ……来てよかった……)

 私はギルベルト様を見ながら言った。

「ギルベルト様、すぐに印を作りましょう!! え~~この辺りですと……カルムの町に彫師がいらっしゃいますね。連絡を取ってこちらに来て下さるようにお願いできませんか?」

 ギルベルト様が頷きながら言った。

「わかりました」

「では、私が彫師への依頼書を作成しますので、ギルベルト様は早馬の手配を」

 こうして私は、本当に基本的なところからギルベルト様に書類の説明をした。







 随分と集中していると、控えめなノックと共のクルスが入って来た。

「ギルベルトさん、ライラさん、食事だよ」

 ギルベルト様と二人で集中して仕事をしていたら、いつの間にか夕食の時間になっていたようだった。

「ああ、もうこんな時間か、ライラさんすみません。食事に行きましょう」

「ええ」

 私がギルベルト様と扉に向かうとクルスが私を見上げながら言った。

「ライラさん、洗濯してくれて、ありがとう!! 兄さんもリーゼも喜んでた」

 はにかむように笑う顔が可愛くて私は目線をクルスと合わせながら言った。

「どうしたしまして、ふふふ、お礼を言って貰えてうれしいわ」

 その後、食卓に着くと「洗濯してくれて本当にありがとう!!」とリーゼに抱きつかれたのだった。
 やはり女の子なので、身なりを気にしていたようだ。

「どういたしまして」と言って私もリーゼを抱きしめたのだった。



 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること

大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。 それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。 幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。 誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。 貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか? 前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。 ※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。

処理中です...