異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第71話 槍使い木嶋君との模擬戦

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 栗林さんに用事があると呼び出され、気が付いたら中等部生徒会メンバーのひとりと模擬戦をすることになった。対戦相手の少年である木嶋君は両手で槍を構え模擬戦開始の合図を待っている。よくよく彼の装備を見てみると普段から使い込んでいるのがわかるほど味がある槍であり、穂先には刃を隠すようにカバーが取り付けられていた。

(あれは模擬戦用の装備というよりは普段使いの武器だよな……まともに受けたら怪我じゃすまなそうだけど)

 見た目からして模擬戦用の木製の装備とは違う金属製に見える木嶋君の槍と僕が装備している木製の盾と棒を見比べる。彼の攻撃をまともに装備で受けたとなるとただでは済まないだろうし、体で受けたとしても打撲ではなく最悪の場合は骨折しそうである。

 装備の質の差を考えると相手の攻撃を受けすぎるわけにはいかないので、今回の戦闘では回避を主体にして戦う方針で固める。そうなると守りを固めて相手の動きをじっくりと見極める時間はないため短期決戦となるだろう。

 そう考えをまとめ終えると同時に栗林さんが模擬戦開始の合図を告げ、同時に木嶋君がこちらに飛び込み槍を突き出してくる。いつかの栗林さんとの模擬戦で同じ光景を見たが彼女の速攻と比べて数段落ちる彼の攻撃は丸見えであり、彼の突きを前に出ながらかわしてそのまま彼の懐に潜り込む。

「なにっ!?」

 初撃を簡単にかわされたのが衝撃的であったのか、驚きの声を上げる木嶋君の胸のあたりを左腕に装備しているバックラーで防具の上から思い切り殴りつける。衝撃を受け止めきれなかった彼は体勢を維持できずに派手に後ろに転がっていくが、こちらの攻撃は防具の上からであったのでダメージ自体はあまり入っていないだろう。

「げほっ。……なんのつもりだ?」

「武器はそう簡単に手放しちゃだめだよ」

 先ほどの衝撃で彼が手放して僕の足元に転がっている槍を右手の棒を使って彼のもとに弾いて返す。装備を手放した時点で僕の勝ちは決まっていたが、このようなあっけない勝負で終わってしまっては油断していたから負けたなどと後から言われかねない。そうなると栗林さんからの依頼を達成できないため、装備を返すことで彼に模擬戦の続きを促す。また、これしきのことで装備を失っていてはモンスターとの戦闘では命取りになってしまうというアドバイスを忘れずに入れておく。

「くそっ!次は油断しないぞ」

 木嶋君は予想通りの言葉を発しながら怒った様子で槍を手に取って立ち上がり再び構えをとる。しかし先ほどのようにこちらに飛び込まずに出方を伺っているところを見ると、意外と冷静さを取り戻しているようだ。

「じゃあ次はこっちから行こうかな」

 先ほどは木嶋君から仕掛けてきたのでお返しとばかりに今度はこちらから攻めることにする。とは言っても彼と同じように飛び込んでいくわけではなく、じりじりと間合いを詰めるようにゆっくり接近していく。先ほど彼の突きのスピードを見て初動を見逃さなければ十分に回避できると踏んだうえでの行動であり、こうしてゆっくりと近づいていけば武器のリーチで勝る木嶋君は先に手を出してくるだろう。

 槍というのは至近距離では扱いづらい上に一度突きを放った後は槍を引き戻すまで再度突きを放つことは出来ないため、一度目の突きをかわし二度目の突きを放たれる前に接近することが出来れば大分有利に立ち回れる。これは彼が持っている槍が長槍というのも関係しているが、先ほど懐に潜り込んだ際の反応を見た限りでは接近されたときの対応策を持ち合わせていないのだろう。

 こちらの読み通りに僕が槍の間合いに足を踏み入れると同時に木嶋君は渾身の突きを放ってくるが、予想通りの軌道をなぞってくる攻撃にタイミングを合わせて横側からバックラーをぶつけることで槍を弾く。アドバイスが効いたのか先ほどのように槍を手放すことはなかったが、体重を乗せた攻撃を弾かれ体勢を大きく崩してしまった彼の首筋に、右手に持った棒の先端を突きつけることで模擬戦は終了である。

(装備は……何とかなったな。壊れなくて良かった)

 余裕の勝利のように見えるが、こちらのバックラーは既に限界寸前であり壊れるまえに勝負がついてほっとする。使用したのは彼に一撃入れたのと攻撃を横から弾いただけであるのに表面にヒビが入ってしまっているのを見ると、攻撃を弾き飛ばすことを優先しすぎて想定以上に力が入りすぎてしまったのだろう。

「……まだだ、僕はまだ降参してないぞ!」

 先ほどの攻防で模擬戦が終わったと判断して木嶋君から意識を外していたのだが、彼は負けを認められないのか大声で喚きたてている。続きをやるのであれば盾だけでも新しいものに交換をさせてもらえないか提案をしようと彼のほうに目を向けると、彼が使用した魔法の影響なのか手に持っている槍が炎に包まれていた。

「……流石にそれは不味くない?」

 模擬戦で使用するとは思えないような攻撃的な魔法を使用している木嶋君に驚きが隠し切れず、素の反応が口から出てしまう。魔法の影響で穂先に取り付けていたカバーが燃え尽きて刃が剥き出しになっているため、炎も相まって当たってしまったら怪我では済まないだろう。

「木嶋!そこまでだ!」

 危険を察知した栗林さんが模擬戦の終了を宣言するが木嶋君の動きは止まらない。彼女の声が聞こえていないのか、それとも聞こえていても止まる気がないのかはわからないが、最初の一撃を再現するように同じ軌道の突きを放ってくる。変わっているのは手に持っている武器の凶悪性だけである。

 もともと寸止めなどを考えているとは思えない安全性が限りなくゼロに近い攻撃であったが、安全性が皆無になってしまったこの一撃を絶対にそのまま受けるわけにもいかないため、ひとつ息を吐いて多少の怪我を覚悟し右手に持っていた棒を投げ捨てる。

 木嶋君の攻撃を今度は前ではなくその場で横にかわし、突き出された状態の無防備な槍の柄を左手でがっしりと掴み取ることで次の攻撃につなげる動きを封じる。炎をまとった槍を掴んでいる左手に感じる熱を一旦無視して、予想外の行動に驚いている様子の木嶋君を槍ごとこちらに引き寄せ、右手でその体に掌底を叩き込む。

「がっ……」

 僕の一撃を受けた木嶋君は肺の空気を吐き出しながら訓練場の端まで吹き飛んでいく。起き上がる素振りもなくピクリとも動かないところを見ると気絶しているのかもしれない。

(……やりすぎたかも)

 そこまで身体強化エンハンスに魔力を込めたつもりはないのだが思いのほか吹き飛んだ木嶋君を見て、掌底を叩き込んだ格好のまま動けなくなってしまったのであった。
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