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第72話 ポーションと癒しの魔法
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「兄君!大丈夫か!!」
木嶋君に掌底による一撃を入れた後、栗林さんが間髪入れずにこちらに駆けつけてくる。怪我の心配をするのであればどちらかというと僕が吹き飛ばしてしまった彼のほうだと思ったが、ちょうどその時に槍を掴んだままの左手に痛みが走り自分も怪我を負っていることを思い出す。
木嶋君の手から離れたことで魔法の炎がすっかり消失してしまっている槍をひとまず手放し左手の状態を目視で確認する。模擬戦で魔法を使うつもりはなかったので突然の攻撃に対して身体強化の使用が遅れ、生身のまま炎をまとった槍を掴んだ左手はひどいやけどを負っておりみるに堪えない状態であった。
(うわ、確認するんじゃなかった……傷の状態を見たらなんか痛くなってきた!)
手の状態を把握してしまったうえに戦闘中に分泌されていたアドレナリンが抜けてきた影響なのか、思い出したかのように左手が痛みを訴え始めてくる。
「すまない兄君。こんなことになるつもりではなかったのだが……」
「栗林さんのせいではないんだから大丈夫だよ。制止の声が聞こえてなかったようだし」
怪我を負う直接的な原因になったのは木嶋君の魔法を使用した過剰な攻撃であり、それを制止しようとしていた栗林さんは悪くはない。もしかしたら僕が断ったはずの模擬戦を強行したことについて思うところがあるのかもしれないが、それについてはのこのことついていった僕も同罪である。
「兄君、少ししみるかもしれない」
僕の手の怪我を確認した彼女は沈痛な面持ちのまま手に持っていた液体を左手に振りかける。液体が傷口にしみわたり痛みを訴えてくるが、みるみるうちに左手の火傷が治っていき数十秒もするとまるで初めから怪我などはしていなかったかのように左手は元通りの状態に戻っていた。
「ありがとう。……でも良かったの?このポーション高いんじゃない?」
「そんなこと気にしないでくれ。詫びとしても足りないくらいだ」
先ほど傷口にかけられた液体はポーションだったのだが、酷い状態であった左手を治したことから効果の高いものであったのだろう。効果の高いポーションは珍しいため値段も高いので、そのようなものを使ってもらったことを申し訳なく思うが、彼女にとってこの程度では贖罪として足りないらしい。
「私のお願いでこのような事になってしまったのだ。どのようにでも罰してくれ」
「そんなことするつもりはないし、あれは訓練中の事故のようなものだからそんなに気にしないでよ。……それより彼は大丈夫かな?」
「ああ、あちらは朱音君がいるから大丈夫だ」
このまま話が続いていくといつまでも栗林さんが謝り続けてしまうので、実はずっと気になっていた木嶋君の容態に話題をすり替える。彼女の言葉を聞きながら吹き飛ばした彼のほう見やると、鈴木さんが倒れている彼に魔法を使っているようだ。
「あれは癒しの魔法かな?……珍しいね」
「兄君は良く知っているな……そう、朱音君は癒しの魔法を使うことが出来るんだよ」
「……まぁ、目にしたのは初めてだけどね」
怪我を治すことができる癒しの魔法は従来の魔法体系のようにイメージだけでなく、その人の魔力との相性が重要となっているので使用できる人が少ない。そのため冒険者の多くはポーションを準備することで怪我への対策をとっているのである。勇者の中でも癒しの魔法を使えたのは榊原さんだけであった。
懐かしい癒しの魔法を見たことで思わず感嘆してしまったが、僕が見たことがある癒しの魔法は異世界でのことであったので一応誤魔化す努力をしておく。完全に手おくれではあるが詮索をされなければ大丈夫だろう。
「うぅ……。あれ?僕はどうしていたんだっけ……」
癒しの魔法のおかげか気を失っていた木嶋君が意識を取り戻したようで、周りを見渡し今の自分の状況を把握しようと試みているようだ。自分もかつて師匠に気絶させられた時は今の彼のように何があったのかを理解するまでに時間がかかったものだ。……回数を重ねると自分の身に何が起きたのかを瞬時に理解できるようになるのだが彼はまだその域に達していないようだ。
「木嶋君は小鳥遊さん……いえ、優人さんと模擬戦をしていたのですわ」
「たかなしさん……もぎ、せん?」
木嶋君は隣で回復をしてくれていた鈴木さんの言葉を繰り返すように口にする。そして先ほどのことを思い出したのか僕と目が合うなり顔を赤く染め、素早く立ち上がりこちらに突撃をしてくる。怒りに任せた攻撃を仕掛けられると思い身構えるが、彼はこちらに突撃してくる最中に空中で体を丸めることで先ほどの勢いはそのままに土下座の姿勢でこちらに滑り込んできた。
「すいませんでしたぁああ!」
「えぇ……」
先ほどまでから180度変わった態度を見せられ思わず困惑の声をあげてしまう。どうやら先ほど顔を赤く染めていたのは怒りの感情ではなかったようで、目の前というより足元の綺麗な土下座の姿勢を見る限りでは反省をしているようだ。……そんなことよりすごい勢いで滑り込んできたので膝を擦りむいていないか心配である。
「先輩の力量であれば最後の一撃は避けられるのは覚悟していたのですが、まさか掴み取られた上に反撃まで入れられるとは……ハッ!そういえば素手で僕の槍を掴んでいましたが手のほうは大丈夫ですか!?」
「えぇ……」
今目の前にいるのは本当に先ほどまでの木嶋君と同一人物なのか疑わしくなり二度目の困惑の声をあげてしまう。この態度の変わりようを見る限りでは彼が二重人格と言われても納得してしまうだろう。
木嶋君の態度の変化に戸惑いつつも彼の言う様に、最後の一撃を避けるだけで済ませていれば話が面倒な事にならずに済んだのだとひっそりと反省をするのであった。
木嶋君に掌底による一撃を入れた後、栗林さんが間髪入れずにこちらに駆けつけてくる。怪我の心配をするのであればどちらかというと僕が吹き飛ばしてしまった彼のほうだと思ったが、ちょうどその時に槍を掴んだままの左手に痛みが走り自分も怪我を負っていることを思い出す。
木嶋君の手から離れたことで魔法の炎がすっかり消失してしまっている槍をひとまず手放し左手の状態を目視で確認する。模擬戦で魔法を使うつもりはなかったので突然の攻撃に対して身体強化の使用が遅れ、生身のまま炎をまとった槍を掴んだ左手はひどいやけどを負っておりみるに堪えない状態であった。
(うわ、確認するんじゃなかった……傷の状態を見たらなんか痛くなってきた!)
手の状態を把握してしまったうえに戦闘中に分泌されていたアドレナリンが抜けてきた影響なのか、思い出したかのように左手が痛みを訴え始めてくる。
「すまない兄君。こんなことになるつもりではなかったのだが……」
「栗林さんのせいではないんだから大丈夫だよ。制止の声が聞こえてなかったようだし」
怪我を負う直接的な原因になったのは木嶋君の魔法を使用した過剰な攻撃であり、それを制止しようとしていた栗林さんは悪くはない。もしかしたら僕が断ったはずの模擬戦を強行したことについて思うところがあるのかもしれないが、それについてはのこのことついていった僕も同罪である。
「兄君、少ししみるかもしれない」
僕の手の怪我を確認した彼女は沈痛な面持ちのまま手に持っていた液体を左手に振りかける。液体が傷口にしみわたり痛みを訴えてくるが、みるみるうちに左手の火傷が治っていき数十秒もするとまるで初めから怪我などはしていなかったかのように左手は元通りの状態に戻っていた。
「ありがとう。……でも良かったの?このポーション高いんじゃない?」
「そんなこと気にしないでくれ。詫びとしても足りないくらいだ」
先ほど傷口にかけられた液体はポーションだったのだが、酷い状態であった左手を治したことから効果の高いものであったのだろう。効果の高いポーションは珍しいため値段も高いので、そのようなものを使ってもらったことを申し訳なく思うが、彼女にとってこの程度では贖罪として足りないらしい。
「私のお願いでこのような事になってしまったのだ。どのようにでも罰してくれ」
「そんなことするつもりはないし、あれは訓練中の事故のようなものだからそんなに気にしないでよ。……それより彼は大丈夫かな?」
「ああ、あちらは朱音君がいるから大丈夫だ」
このまま話が続いていくといつまでも栗林さんが謝り続けてしまうので、実はずっと気になっていた木嶋君の容態に話題をすり替える。彼女の言葉を聞きながら吹き飛ばした彼のほう見やると、鈴木さんが倒れている彼に魔法を使っているようだ。
「あれは癒しの魔法かな?……珍しいね」
「兄君は良く知っているな……そう、朱音君は癒しの魔法を使うことが出来るんだよ」
「……まぁ、目にしたのは初めてだけどね」
怪我を治すことができる癒しの魔法は従来の魔法体系のようにイメージだけでなく、その人の魔力との相性が重要となっているので使用できる人が少ない。そのため冒険者の多くはポーションを準備することで怪我への対策をとっているのである。勇者の中でも癒しの魔法を使えたのは榊原さんだけであった。
懐かしい癒しの魔法を見たことで思わず感嘆してしまったが、僕が見たことがある癒しの魔法は異世界でのことであったので一応誤魔化す努力をしておく。完全に手おくれではあるが詮索をされなければ大丈夫だろう。
「うぅ……。あれ?僕はどうしていたんだっけ……」
癒しの魔法のおかげか気を失っていた木嶋君が意識を取り戻したようで、周りを見渡し今の自分の状況を把握しようと試みているようだ。自分もかつて師匠に気絶させられた時は今の彼のように何があったのかを理解するまでに時間がかかったものだ。……回数を重ねると自分の身に何が起きたのかを瞬時に理解できるようになるのだが彼はまだその域に達していないようだ。
「木嶋君は小鳥遊さん……いえ、優人さんと模擬戦をしていたのですわ」
「たかなしさん……もぎ、せん?」
木嶋君は隣で回復をしてくれていた鈴木さんの言葉を繰り返すように口にする。そして先ほどのことを思い出したのか僕と目が合うなり顔を赤く染め、素早く立ち上がりこちらに突撃をしてくる。怒りに任せた攻撃を仕掛けられると思い身構えるが、彼はこちらに突撃してくる最中に空中で体を丸めることで先ほどの勢いはそのままに土下座の姿勢でこちらに滑り込んできた。
「すいませんでしたぁああ!」
「えぇ……」
先ほどまでから180度変わった態度を見せられ思わず困惑の声をあげてしまう。どうやら先ほど顔を赤く染めていたのは怒りの感情ではなかったようで、目の前というより足元の綺麗な土下座の姿勢を見る限りでは反省をしているようだ。……そんなことよりすごい勢いで滑り込んできたので膝を擦りむいていないか心配である。
「先輩の力量であれば最後の一撃は避けられるのは覚悟していたのですが、まさか掴み取られた上に反撃まで入れられるとは……ハッ!そういえば素手で僕の槍を掴んでいましたが手のほうは大丈夫ですか!?」
「えぇ……」
今目の前にいるのは本当に先ほどまでの木嶋君と同一人物なのか疑わしくなり二度目の困惑の声をあげてしまう。この態度の変わりようを見る限りでは彼が二重人格と言われても納得してしまうだろう。
木嶋君の態度の変化に戸惑いつつも彼の言う様に、最後の一撃を避けるだけで済ませていれば話が面倒な事にならずに済んだのだとひっそりと反省をするのであった。
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