異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第83話 鉄砲玉襲来

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(特に何もなかったな……ひとまず安心だ)

 いつものように妹とすみれちゃんと共に学園に登校して校門で別れる。毎度おなじみのルーティンとなっているのだが、今朝は周りに注意をしながらの登校であったので少し気疲れをしてしまった。

 ……というのも今朝目覚めた際にデバイスには『鉄砲玉に気をつけろ』という新たなメッセージが届いており、普段であれば気にはしないのだが妹たちと一緒にいる時は彼女らを巻き込まないために一応警戒をしていたからである。

 このメッセージの宛先人も不明となっているが、おそらく昨日のメッセージを送ってきた人物と同一人物だろう。先日の言葉の信憑性を上げるために次は預言者めいたことを始めたのだろうか?何が目的なのかはイマイチつかみきれずにいる。

(しかし、秘密ねぇ……。意外とどうでも良いことだったりして)

 人は誰しもが秘密を抱えているとは思うがバレたところで案外大したことのない可能性もある。例えば妹の瑠璃は何かに抱き着いていないと夜は寂しくて眠れない。本人からは誰にも言わないように口止めをされているが、これが他人にバレたところでせいぜい恥ずかしい思いをする程度で、これからの生活に深刻な影響を及ぼすようなものではないだろう。

 謎の人物が知っているとされる僕の秘密もそのようなものの可能性があるし、そもそも暴露すると脅されているわけではないのでそこまで気にする必要はないのかもしれない。しかし学園ダンジョン1階層の地図に始まり、隠し扉の先にいた強敵と階段の存在や知っていて当然の常識に疎いところ……そして異世界でのことなど僕には知られたくない秘密が多いため気に留めておく必要はあるだろう。

 そのような事を考えながらも担任の矢部先生が教室に入ってきて朝のHRが始まる。こうして今日も普段通りの一日が始まると思っていたのだが、その予想は突如教室に乱入してきた一人の人物によって覆される。

「決闘だ!俺、御子柴満仁が率いるパーティー『青き炎ブルーフレイム』はお前らFクラス全員に決闘を申し込む!!」

 突然の出来事に教室内がざわつき始める。僕はそんな皆をよそにこの世界でもパーティー名をつける習慣があるのだなぁと感動に近いものを感じるのであった。



「皆すまん!俺の我慢が効かないばかりに!」

「まあまあ、受けてしまったものは仕方ない。それよりもどう戦うかを考えよう」

 結局あの後御子柴君の売り文句に耐え切れなかった洋平君が決闘を受けてしまい、Fクラスは全員放課後に決闘に参加しなければならなくなってしまった。これに参加しなかった場合は逃亡とみなされ不戦敗となってしまう。

 本来ダンジョン内で起きたパーティー同士のいざこざの手っ取り早い解決や個人が学内ポイントを賭けて行われる決闘であるが、今回は御子柴君のパーティー対Fクラスという異例の対決になっている。たしか彼のパーティーは5人だったので5対40という圧倒的人数差がある戦闘になるのだが、わざわざ学内ポイントを賭けて決闘を仕掛けてくるということは少なくとも彼らには勝ち目があるのだろう。

 御子柴君がどのような考えを持っているかはわからないが、決闘が受理されてしまった以上戦うしかないとしてトラ君を中心に作戦を議論し始める。

「作戦というには弱いけどこっちが有利な点……人数を活かした各個撃破がいいと思うんだ」

「人数はどういう風に割り振るんだ?」

「相手の人数は5人だから、ひとまず5組のパーティーをそれぞれにぶつける。このパーティーには残りのメンバーが加勢に行くまでの時間稼ぎを頑張ってもらって、合流次第囲んで倒すっていうのはどうかな?」

「俺はそれでいいぜ!もちろんさっきの奴にぶつけるパーティーは俺たちだよな?」

「それで洋平の気が済むなら俺も構わないぞ」

 トラ君の提案に反対の意見は特に出ずこちらが有利な点……人数を活かした作戦が採用される。ひとまず相手のパーティー5名を抑える時間稼ぎ役を選出するが、洋平君の希望と亀井君の後押しにより御子柴君の相手をするのは彼らのパーティーに決まる。

 他の相手に対してもトラ君が指名していくことでスムーズに時間稼ぎ役が決まっていく。指名されたのはどこも4名以上のパーティーであり、無茶をしなければ十分に時間を稼げると彼は判断したのだろう。……それよりも彼がクラス全員のパーティーを覚えていることに驚きである。

「最後のひとりを……小鳥遊君のパーティーにお願いできるかな?」

「え?……僕たちのパーティーはふたりだけだよ?」

「うん。それでもお願いできないかな?」

 僕たちが指名されることはないと思い油断していたのだが、トラ君に最後の一人の相手をお願いされる。僕としてはどちらでも構わないので相方の意見を確認するために霜月さんのほうを見ると、彼女は頷き返してくれる。

「……わかった。それじゃあやらせてもらうよ」

「ありがとう。それじゃあ残りの皆の動き方だけども……」

 霜月さんの了承も得られたはずなので時間稼ぎ役を引き受ける。前回ダンジョンで見た彼らの強さは栗林さんに及ばない程度であったので、霜月さんもいれば十分対処が出来るだろう。

 トラ君は僕たちが時間稼ぎ役を引き受けたことに礼を告げクラスメイトに作戦の続きを話していく。その話を聞きながら今日の訓練が流れてしまった事を少しだけ残念に思うのであった。
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