異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

文字の大きさ
84 / 136

第84話 決闘場

しおりを挟む
「というわけで今日の訓練は中止ということでお願い」

「大河君からも聞いていたが……大変なことになっているのだな」

 御子柴君からの決闘騒ぎにより放課後の訓練が実施できなくなってしまったため、教官を務めてくれている栗林さんに事情を説明する。どうやら大河君があらかじめ連絡を入れていたようで、彼女はおおよそのことの推移を理解しているようであった。

「それで、兄君達に勝ち目はありそうなのかな?」

「う~ん……御子柴君の実力と亀井君たちのパーティーの頑張り次第、といったところかな?」

「私が御子柴と決闘をしたら8割は勝てる程度の実力だな。……つまり兄君が本気を出したら相手にならない小物のはずだが?」

「小物って……。まぁ、もし負けたとしてもポイントを失うだけで退学になるわけでもないから基本的に皆に任せるつもりだよ」

 どうやら栗林さんにとって御子柴君は苦戦をするような相手ではないようで、僕が本気で相手をすれば問題ないと太鼓判を押される。今いる生徒会室には僕と彼女のふたりだけしかいないため普段は隠している僕の実力の話をしても問題はない。しかし決闘時に皆の前で披露するわけにはいかないので、今回の決闘はFクラス全員に頑張ってもらおうと僕は考えていた。

「しかし負けてポイントを失ってしまえば半年後までに規定のポイントを集めるのが大変になってしまうのではないか?」

「それに関しては彼らの嫌がらせもなくなったうえに1階層の狩場が増えたから。コツコツやっていけば問題ないよ」

「確かに今年は1階層の状況が例年と違うのであったな……」

 決闘に負けてポイントを失ってしまったとしても今の1階層の状況であれば半年後の期限までにポイントを稼ぐことは出来る……そう考えていたので僕はそこまで危機感を持っていなかった。栗林さんに説明をすると一定の納得を得られたため、この計算は間違っていないだろう。

 そうなればますます僕が本気を出す必要性はなくなるため、この決闘がFクラス皆の良い経験になってくれれば御の字である。

「ならば私も皆の実力を見るために見学させてもらうとしようかな」

「ありがとう。皆も泣いて喜ぶと思うよ」

「ふふ、そうだといいのだがな」

 決闘における僕の方針を聞いた栗林さんはFクラス皆が活躍する場があると知り、放課後は決闘を見学することにしたようだ。きっとこの決闘で皆の動きを見てこれからの訓練に活用をしていくつもりなのだろう。

 普段皆に訓練をつけてくれている彼女が来てくれたとすれば、情けない姿を見せられないとクラスの皆は奮闘するだろう。もし無様に負けてしまったらこれからの訓練がどうなるかわからないので当然である。

「わざわざ時間をとってくれてありがとう。それじゃあ僕はそろそろ行くけど……これプレゼント」

「……これは?」

「昨日出かけた時にたまたま手に入れて……無理に受け取ってもらわなくても大丈夫だけど」

「いや!……ありがとう。大切にさせてもらう」

 昼休みも終わりに近づいたので時間をとってもらったお礼を告げ、去り際に昨日のゲーセンで手に入れた狼のぬいぐるみを渡す。栗林さんは硬い表情をしていたので気に入らなかったのかと思ったが、ひとまず受け取ってもらうことには成功した。

「それじゃあ、また放課後に」

「っ!ああ、決闘頑張ってくれ」

 デバイスのメッセージではなく直接顔を合わせて連絡をすることにした目的を達成したので満足気に生徒会室を後にする。生徒会室には手の中にあるぬいぐるみをじっと見つめている栗林さんが取り残されていた。



「ここが決闘場だ……相手はまだ来ていないようだな」

「こんな設備があったんだな……」

 決闘場の場所を知らない僕たちを見かねてか、担任である矢部先生自ら訓練場の近くにあるドーム状の建物に案内をしてくれる。先に決闘場に着いたのは僕たちのようで御子柴君たちの姿は確認できなかった。

 ドームに覆われた内側には正方形の石畳が敷かれており、見たところこれがリングとなっているようだ。そして外周にはリングを中心にして円形に観客席が並んでおり、コロシアムのような内装をしていた。

 どうやらこのリングは魔道具の一種のようで起動させると範囲の中でもらったダメージをなかったことにしてくれ、一定量の傷を受けてるとリングの外にはじき出されるらしい。つまり魔道具を起動させている状態であれば万が一の時も命の心配はないので決闘の際に使われているらしい。

「それなら訓練でも使えばいいのに……」

「それが出来ないのはこの魔道具を起動をさせるのに必要な魔石の数が尋常ではないからだよ」

 そんな便利な魔道具であれば普段の訓練でも利用すれば良いとつい口にしてしまうが、それに答えたのはいつの間にか僕のそばに来ていた栗林さんであった。

 彼女の説明によるとこの魔道具は性能は素晴らしいが起動に必要な魔力量が多いらしく、スライムの魔石で換算すると実に1万個ほどは必要になるそうだ。そのようなものを日常的に利用するにはコストが高すぎるため、決闘の時にしか使わないようになっているらしい。

 栗林さんに気が付いたFクラスの一人一人に彼女は激励の言葉をかけていく。そうしてFクラスの士気が十分に高まってきたところでついに決闘の相手である御子柴君たちのパーティー、青き炎ブルーフレイムが現れる。

「どうやら逃げ出さずに来たようだな!せいぜい観客の前で無様をさらさないように努力するんだな!」

「へっ!そっちこそ調子に乗ってると足元を掬われるぞ!」

「随分面白いことを言うな?貴様らごときにそのようなことが出来るとは思えないが、楽しみにしておいてやろう」

 出会い頭に御子柴君と洋平君が舌戦を繰り広げる。御子柴君の後ろにはパーティーメンバー以外にも人影がちらほら見えているが、おそらく彼らはFクラスを圧倒するところを見世物にするために観客を集めてきたのだろう。

 思いの外規模が大きくなってきたことに嘆息をしながら、早く決闘を終わらせて普段の生活に戻りたいと思うのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった

久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく! ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。 「あなた、一体何者なの…?」 クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!? 平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...