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第84話 決闘場
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「というわけで今日の訓練は中止ということでお願い」
「大河君からも聞いていたが……大変なことになっているのだな」
御子柴君からの決闘騒ぎにより放課後の訓練が実施できなくなってしまったため、教官を務めてくれている栗林さんに事情を説明する。どうやら大河君があらかじめ連絡を入れていたようで、彼女はおおよそのことの推移を理解しているようであった。
「それで、兄君達に勝ち目はありそうなのかな?」
「う~ん……御子柴君の実力と亀井君たちのパーティーの頑張り次第、といったところかな?」
「私が御子柴と決闘をしたら8割は勝てる程度の実力だな。……つまり兄君が本気を出したら相手にならない小物のはずだが?」
「小物って……。まぁ、もし負けたとしてもポイントを失うだけで退学になるわけでもないから基本的に皆に任せるつもりだよ」
どうやら栗林さんにとって御子柴君は苦戦をするような相手ではないようで、僕が本気で相手をすれば問題ないと太鼓判を押される。今いる生徒会室には僕と彼女のふたりだけしかいないため普段は隠している僕の実力の話をしても問題はない。しかし決闘時に皆の前で披露するわけにはいかないので、今回の決闘はFクラス全員に頑張ってもらおうと僕は考えていた。
「しかし負けてポイントを失ってしまえば半年後までに規定のポイントを集めるのが大変になってしまうのではないか?」
「それに関しては彼らの嫌がらせもなくなったうえに1階層の狩場が増えたから。コツコツやっていけば問題ないよ」
「確かに今年は1階層の状況が例年と違うのであったな……」
決闘に負けてポイントを失ってしまったとしても今の1階層の状況であれば半年後の期限までにポイントを稼ぐことは出来る……そう考えていたので僕はそこまで危機感を持っていなかった。栗林さんに説明をすると一定の納得を得られたため、この計算は間違っていないだろう。
そうなればますます僕が本気を出す必要性はなくなるため、この決闘がFクラス皆の良い経験になってくれれば御の字である。
「ならば私も皆の実力を見るために見学させてもらうとしようかな」
「ありがとう。皆も泣いて喜ぶと思うよ」
「ふふ、そうだといいのだがな」
決闘における僕の方針を聞いた栗林さんはFクラス皆が活躍する場があると知り、放課後は決闘を見学することにしたようだ。きっとこの決闘で皆の動きを見てこれからの訓練に活用をしていくつもりなのだろう。
普段皆に訓練をつけてくれている彼女が来てくれたとすれば、情けない姿を見せられないとクラスの皆は奮闘するだろう。もし無様に負けてしまったらこれからの訓練がどうなるかわからないので当然である。
「わざわざ時間をとってくれてありがとう。それじゃあ僕はそろそろ行くけど……これプレゼント」
「……これは?」
「昨日出かけた時にたまたま手に入れて……無理に受け取ってもらわなくても大丈夫だけど」
「いや!……ありがとう。大切にさせてもらう」
昼休みも終わりに近づいたので時間をとってもらったお礼を告げ、去り際に昨日のゲーセンで手に入れた狼のぬいぐるみを渡す。栗林さんは硬い表情をしていたので気に入らなかったのかと思ったが、ひとまず受け取ってもらうことには成功した。
「それじゃあ、また放課後に」
「っ!ああ、決闘頑張ってくれ」
デバイスのメッセージではなく直接顔を合わせて連絡をすることにした目的を達成したので満足気に生徒会室を後にする。生徒会室には手の中にあるぬいぐるみをじっと見つめている栗林さんが取り残されていた。
「ここが決闘場だ……相手はまだ来ていないようだな」
「こんな設備があったんだな……」
決闘場の場所を知らない僕たちを見かねてか、担任である矢部先生自ら訓練場の近くにあるドーム状の建物に案内をしてくれる。先に決闘場に着いたのは僕たちのようで御子柴君たちの姿は確認できなかった。
ドームに覆われた内側には正方形の石畳が敷かれており、見たところこれがリングとなっているようだ。そして外周にはリングを中心にして円形に観客席が並んでおり、コロシアムのような内装をしていた。
どうやらこのリングは魔道具の一種のようで起動させると範囲の中でもらったダメージをなかったことにしてくれ、一定量の傷を受けてるとリングの外にはじき出されるらしい。つまり魔道具を起動させている状態であれば万が一の時も命の心配はないので決闘の際に使われているらしい。
「それなら訓練でも使えばいいのに……」
「それが出来ないのはこの魔道具を起動をさせるのに必要な魔石の数が尋常ではないからだよ」
そんな便利な魔道具であれば普段の訓練でも利用すれば良いとつい口にしてしまうが、それに答えたのはいつの間にか僕のそばに来ていた栗林さんであった。
彼女の説明によるとこの魔道具は性能は素晴らしいが起動に必要な魔力量が多いらしく、スライムの魔石で換算すると実に1万個ほどは必要になるそうだ。そのようなものを日常的に利用するにはコストが高すぎるため、決闘の時にしか使わないようになっているらしい。
栗林さんに気が付いたFクラスの一人一人に彼女は激励の言葉をかけていく。そうしてFクラスの士気が十分に高まってきたところでついに決闘の相手である御子柴君たちのパーティー、青き炎が現れる。
「どうやら逃げ出さずに来たようだな!せいぜい観客の前で無様をさらさないように努力するんだな!」
「へっ!そっちこそ調子に乗ってると足元を掬われるぞ!」
「随分面白いことを言うな?貴様らごときにそのようなことが出来るとは思えないが、楽しみにしておいてやろう」
出会い頭に御子柴君と洋平君が舌戦を繰り広げる。御子柴君の後ろにはパーティーメンバー以外にも人影がちらほら見えているが、おそらく彼らはFクラスを圧倒するところを見世物にするために観客を集めてきたのだろう。
思いの外規模が大きくなってきたことに嘆息をしながら、早く決闘を終わらせて普段の生活に戻りたいと思うのであった。
「大河君からも聞いていたが……大変なことになっているのだな」
御子柴君からの決闘騒ぎにより放課後の訓練が実施できなくなってしまったため、教官を務めてくれている栗林さんに事情を説明する。どうやら大河君があらかじめ連絡を入れていたようで、彼女はおおよそのことの推移を理解しているようであった。
「それで、兄君達に勝ち目はありそうなのかな?」
「う~ん……御子柴君の実力と亀井君たちのパーティーの頑張り次第、といったところかな?」
「私が御子柴と決闘をしたら8割は勝てる程度の実力だな。……つまり兄君が本気を出したら相手にならない小物のはずだが?」
「小物って……。まぁ、もし負けたとしてもポイントを失うだけで退学になるわけでもないから基本的に皆に任せるつもりだよ」
どうやら栗林さんにとって御子柴君は苦戦をするような相手ではないようで、僕が本気で相手をすれば問題ないと太鼓判を押される。今いる生徒会室には僕と彼女のふたりだけしかいないため普段は隠している僕の実力の話をしても問題はない。しかし決闘時に皆の前で披露するわけにはいかないので、今回の決闘はFクラス全員に頑張ってもらおうと僕は考えていた。
「しかし負けてポイントを失ってしまえば半年後までに規定のポイントを集めるのが大変になってしまうのではないか?」
「それに関しては彼らの嫌がらせもなくなったうえに1階層の狩場が増えたから。コツコツやっていけば問題ないよ」
「確かに今年は1階層の状況が例年と違うのであったな……」
決闘に負けてポイントを失ってしまったとしても今の1階層の状況であれば半年後の期限までにポイントを稼ぐことは出来る……そう考えていたので僕はそこまで危機感を持っていなかった。栗林さんに説明をすると一定の納得を得られたため、この計算は間違っていないだろう。
そうなればますます僕が本気を出す必要性はなくなるため、この決闘がFクラス皆の良い経験になってくれれば御の字である。
「ならば私も皆の実力を見るために見学させてもらうとしようかな」
「ありがとう。皆も泣いて喜ぶと思うよ」
「ふふ、そうだといいのだがな」
決闘における僕の方針を聞いた栗林さんはFクラス皆が活躍する場があると知り、放課後は決闘を見学することにしたようだ。きっとこの決闘で皆の動きを見てこれからの訓練に活用をしていくつもりなのだろう。
普段皆に訓練をつけてくれている彼女が来てくれたとすれば、情けない姿を見せられないとクラスの皆は奮闘するだろう。もし無様に負けてしまったらこれからの訓練がどうなるかわからないので当然である。
「わざわざ時間をとってくれてありがとう。それじゃあ僕はそろそろ行くけど……これプレゼント」
「……これは?」
「昨日出かけた時にたまたま手に入れて……無理に受け取ってもらわなくても大丈夫だけど」
「いや!……ありがとう。大切にさせてもらう」
昼休みも終わりに近づいたので時間をとってもらったお礼を告げ、去り際に昨日のゲーセンで手に入れた狼のぬいぐるみを渡す。栗林さんは硬い表情をしていたので気に入らなかったのかと思ったが、ひとまず受け取ってもらうことには成功した。
「それじゃあ、また放課後に」
「っ!ああ、決闘頑張ってくれ」
デバイスのメッセージではなく直接顔を合わせて連絡をすることにした目的を達成したので満足気に生徒会室を後にする。生徒会室には手の中にあるぬいぐるみをじっと見つめている栗林さんが取り残されていた。
「ここが決闘場だ……相手はまだ来ていないようだな」
「こんな設備があったんだな……」
決闘場の場所を知らない僕たちを見かねてか、担任である矢部先生自ら訓練場の近くにあるドーム状の建物に案内をしてくれる。先に決闘場に着いたのは僕たちのようで御子柴君たちの姿は確認できなかった。
ドームに覆われた内側には正方形の石畳が敷かれており、見たところこれがリングとなっているようだ。そして外周にはリングを中心にして円形に観客席が並んでおり、コロシアムのような内装をしていた。
どうやらこのリングは魔道具の一種のようで起動させると範囲の中でもらったダメージをなかったことにしてくれ、一定量の傷を受けてるとリングの外にはじき出されるらしい。つまり魔道具を起動させている状態であれば万が一の時も命の心配はないので決闘の際に使われているらしい。
「それなら訓練でも使えばいいのに……」
「それが出来ないのはこの魔道具を起動をさせるのに必要な魔石の数が尋常ではないからだよ」
そんな便利な魔道具であれば普段の訓練でも利用すれば良いとつい口にしてしまうが、それに答えたのはいつの間にか僕のそばに来ていた栗林さんであった。
彼女の説明によるとこの魔道具は性能は素晴らしいが起動に必要な魔力量が多いらしく、スライムの魔石で換算すると実に1万個ほどは必要になるそうだ。そのようなものを日常的に利用するにはコストが高すぎるため、決闘の時にしか使わないようになっているらしい。
栗林さんに気が付いたFクラスの一人一人に彼女は激励の言葉をかけていく。そうしてFクラスの士気が十分に高まってきたところでついに決闘の相手である御子柴君たちのパーティー、青き炎が現れる。
「どうやら逃げ出さずに来たようだな!せいぜい観客の前で無様をさらさないように努力するんだな!」
「へっ!そっちこそ調子に乗ってると足元を掬われるぞ!」
「随分面白いことを言うな?貴様らごときにそのようなことが出来るとは思えないが、楽しみにしておいてやろう」
出会い頭に御子柴君と洋平君が舌戦を繰り広げる。御子柴君の後ろにはパーティーメンバー以外にも人影がちらほら見えているが、おそらく彼らはFクラスを圧倒するところを見世物にするために観客を集めてきたのだろう。
思いの外規模が大きくなってきたことに嘆息をしながら、早く決闘を終わらせて普段の生活に戻りたいと思うのであった。
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