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第100話 日常と3階層の情報
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御子柴君との決闘騒ぎから一週間が経ち、Fクラスには今までにないような活気があふれていた。クラスがこのような雰囲気になったのは、たとえ4倍の人数差があったとしても格上の相手と戦い苦労の末に勝利したことで、少なからず自信が付いたからだろう。
この自信が皆を積極的にさせ、この一週間は訓練の日以外はダンジョン探索に勤しんでいたようだ。その結果レンタル装備を卒業し自分の装備を買いそろえているクラスメイトもちらほらと現れている。
週に2回の訓練でも初めの時のような素人感はなくなり、動きに思い切りの良さが出始めている。教官を務めている栗林さんはクラスメイトの変化を見て、近いうちにチームを組んでの模擬戦をメニューに加えてみようと画策しているようだ。
学内ポイントの件でしてやられた時のFクラスの暗い空気はすっかりなくなり、今では決闘の勝利からの好循環が始まっているようである。
一方で僕たちも2階層の探索を経て順調にレベルも上がったことで、次の3階層に挑戦してみようという話を霜月さんとしたところだ。彼女もやる気をみなぎらせていたため、今日の放課後には新しい階層への挑戦が始まるだろう。
数日にかけて霜月さんとふたりで2階層を隅々まで探索をしたのだが、結局のところ1階層のような未知のエリアはなく学内サーバーに登録されている地図と同じ構造をしていた。もし未知のエリアがあるとするのであれば、妹とみつけた1階層にあったもう一つの階段の先だろう。
自分の性格上階層毎に地図をしっかり埋めてから先に進みたいのだが、例の階段の先は妹と一緒に探索する約束をしていたので今回は諦めた。僕のこだわりは妹との約束を無下にするほどの事ではない。
「よお!優人。調子はどうだ?」
「おはようふたりとも。調子はまずまずだね」
「……なんでお前達は英語の教科書みたいな会話してるんだ?」
こちらに声をかけてきた洋平君と後ろからツッコミをいれる亀井君と朝の挨拶を交わす。最近では毎朝同じような光景が繰り返されており、洋平君と亀井君とは気軽にお喋りするような仲になっている。
「優人たちはまだ2階層の探索を続けるのか?」
「いや、今日からは3階層のほうに挑戦してみようと思ってるよ」
「お!それなら3階層に行ったことのある俺たちから情報を買わないか?情報料はそうだな……ジュース2本でいいぜ」
「あれ?そっちはもう3階層に挑戦してるの?」
「ああ……それは雛子が2階層のやつらの見た目が無理だったみたいでな。早々に3階層に切り替えたんだよ」
「なるほどね……それなら情報を買わせてもらおうかな」
どうやら亀井君曰く雀野さんがネズミやコウモリが苦手だったようで、彼らのパーティーは早い段階で3階層の探索に切り替えたらしい。異世界での経験から、戦うのが面倒なモンスターを避けるという発想はあったが見た目の時点で戦闘を避けるようなことはなかったので、今更ながらそのような事もあるのだと気づいてしまう。
もしかしたら霜月さんも表情と口に出していないだけで、雀野さんと同じような思いを抱えている可能性もあるかもしれない。……今度しっかりと霜月さんとは話し合っておくとしよう。
3階層に挑戦している経緯は置いておいて、実際に探索をしている洋平君たちから生の情報を得られるのであれば対価として求められているジュースなど安いものだろう。そう考え特に値段交渉などはせず、言い値で情報を買うことにする。この手頃な値段は俗にいう友達価格なのかもしれない。
「毎度あり!まずはそうだな……構造は今までと変わらずで、通路と部屋で構成されてて……」
「説明下手か。俺たちも階層を探索しきったわけじゃないんだから出現するモンスターの話をしておけって」
「いや、いざ説明するとなると何から話せばいいかわからなくなってな……それで出てくるモンスターなんだが……」
亀井君の助けを借りながらも洋平君は何とか3階層の情報を話しはじめる。話を聞く限りどうやら3階層に出現するのは狼のような姿をしたモンスター、『ロンリーウルフ』だけのようである。またこのモンスターは名前の通り群れを作らず単体で徘徊しているらしく、2階層のように数で圧倒してくることはないらしい。
その代わりと言ってはなんだが、固体毎の強さは比べ物にならないらしく1対1で戦うとかなりの苦戦を強いられるみたいだが、結局は亀井君がひきつけている間に複数人で叩くことで対処をしているらしい。複数人相手に個人で挑む様は、まさに一匹狼の名に恥じぬモンスターなのだろう。
パーティー構成によっては2階層より3階層のほうが安定しそうだという感想をもちながら、狼という単語を聞いたことで今朝見た夢を思い出す。あちらは群れでいることが強みのモンスターであったので彼らの話に出てきたモンスターとは根本的に違うのだが、このタイミングで見た夢に運命的なものを感じ少しでも関係性がないかを考えてしまう。
「それじゃあ早速ジュース買いに行こうぜ!」
「うん……私も行く」
「うおっ!霜月、いつの間にいたんだよ……」
「情報を買わないか……ってところから」
「ほぼ初めからじゃねーか……」
情報の対価であるジュースを買いに行こうと提案する洋平君に、実は近くで話を聞いていた霜月さんが返事をする。どうやら彼は彼女の存在に気が付いていなかったようで相当驚いているようだ。ちなみに僕はもちろんのこと、亀井君も彼女に気が付いていたらしく慌てている洋平君をみて呆れている様子だ。
そんなやり取りを終えた後4人で自販機に向かう。この面子で一緒にいるのは珍しいと思いつつ、丁度いい機会なので先ほど考えていたことを霜月さんに確認する。
「そういえば霜月さんはネズミとかコウモリは大丈夫だった?」
「うん。……可愛いよね?」
「え?そう……だね」
「……今のは思ってない反応」
2階層に現れる2種のモンスターを見て可愛いと思うことは決してなかったが、霜月さんの感性では奴らも可愛い部類に入るようだ。彼女の雰囲気から冗談を言っているような感じではなく、こちらが少し驚いているのも態度からバレてしまっている。
結局僕は自販機で自分の分を含む4本のジュースを買うことになってしまった。しかし、情報の対価と大事なパートナーの機嫌を直すためであれば安い出費であろうと自分に言い聞かせるのであった。
この自信が皆を積極的にさせ、この一週間は訓練の日以外はダンジョン探索に勤しんでいたようだ。その結果レンタル装備を卒業し自分の装備を買いそろえているクラスメイトもちらほらと現れている。
週に2回の訓練でも初めの時のような素人感はなくなり、動きに思い切りの良さが出始めている。教官を務めている栗林さんはクラスメイトの変化を見て、近いうちにチームを組んでの模擬戦をメニューに加えてみようと画策しているようだ。
学内ポイントの件でしてやられた時のFクラスの暗い空気はすっかりなくなり、今では決闘の勝利からの好循環が始まっているようである。
一方で僕たちも2階層の探索を経て順調にレベルも上がったことで、次の3階層に挑戦してみようという話を霜月さんとしたところだ。彼女もやる気をみなぎらせていたため、今日の放課後には新しい階層への挑戦が始まるだろう。
数日にかけて霜月さんとふたりで2階層を隅々まで探索をしたのだが、結局のところ1階層のような未知のエリアはなく学内サーバーに登録されている地図と同じ構造をしていた。もし未知のエリアがあるとするのであれば、妹とみつけた1階層にあったもう一つの階段の先だろう。
自分の性格上階層毎に地図をしっかり埋めてから先に進みたいのだが、例の階段の先は妹と一緒に探索する約束をしていたので今回は諦めた。僕のこだわりは妹との約束を無下にするほどの事ではない。
「よお!優人。調子はどうだ?」
「おはようふたりとも。調子はまずまずだね」
「……なんでお前達は英語の教科書みたいな会話してるんだ?」
こちらに声をかけてきた洋平君と後ろからツッコミをいれる亀井君と朝の挨拶を交わす。最近では毎朝同じような光景が繰り返されており、洋平君と亀井君とは気軽にお喋りするような仲になっている。
「優人たちはまだ2階層の探索を続けるのか?」
「いや、今日からは3階層のほうに挑戦してみようと思ってるよ」
「お!それなら3階層に行ったことのある俺たちから情報を買わないか?情報料はそうだな……ジュース2本でいいぜ」
「あれ?そっちはもう3階層に挑戦してるの?」
「ああ……それは雛子が2階層のやつらの見た目が無理だったみたいでな。早々に3階層に切り替えたんだよ」
「なるほどね……それなら情報を買わせてもらおうかな」
どうやら亀井君曰く雀野さんがネズミやコウモリが苦手だったようで、彼らのパーティーは早い段階で3階層の探索に切り替えたらしい。異世界での経験から、戦うのが面倒なモンスターを避けるという発想はあったが見た目の時点で戦闘を避けるようなことはなかったので、今更ながらそのような事もあるのだと気づいてしまう。
もしかしたら霜月さんも表情と口に出していないだけで、雀野さんと同じような思いを抱えている可能性もあるかもしれない。……今度しっかりと霜月さんとは話し合っておくとしよう。
3階層に挑戦している経緯は置いておいて、実際に探索をしている洋平君たちから生の情報を得られるのであれば対価として求められているジュースなど安いものだろう。そう考え特に値段交渉などはせず、言い値で情報を買うことにする。この手頃な値段は俗にいう友達価格なのかもしれない。
「毎度あり!まずはそうだな……構造は今までと変わらずで、通路と部屋で構成されてて……」
「説明下手か。俺たちも階層を探索しきったわけじゃないんだから出現するモンスターの話をしておけって」
「いや、いざ説明するとなると何から話せばいいかわからなくなってな……それで出てくるモンスターなんだが……」
亀井君の助けを借りながらも洋平君は何とか3階層の情報を話しはじめる。話を聞く限りどうやら3階層に出現するのは狼のような姿をしたモンスター、『ロンリーウルフ』だけのようである。またこのモンスターは名前の通り群れを作らず単体で徘徊しているらしく、2階層のように数で圧倒してくることはないらしい。
その代わりと言ってはなんだが、固体毎の強さは比べ物にならないらしく1対1で戦うとかなりの苦戦を強いられるみたいだが、結局は亀井君がひきつけている間に複数人で叩くことで対処をしているらしい。複数人相手に個人で挑む様は、まさに一匹狼の名に恥じぬモンスターなのだろう。
パーティー構成によっては2階層より3階層のほうが安定しそうだという感想をもちながら、狼という単語を聞いたことで今朝見た夢を思い出す。あちらは群れでいることが強みのモンスターであったので彼らの話に出てきたモンスターとは根本的に違うのだが、このタイミングで見た夢に運命的なものを感じ少しでも関係性がないかを考えてしまう。
「それじゃあ早速ジュース買いに行こうぜ!」
「うん……私も行く」
「うおっ!霜月、いつの間にいたんだよ……」
「情報を買わないか……ってところから」
「ほぼ初めからじゃねーか……」
情報の対価であるジュースを買いに行こうと提案する洋平君に、実は近くで話を聞いていた霜月さんが返事をする。どうやら彼は彼女の存在に気が付いていなかったようで相当驚いているようだ。ちなみに僕はもちろんのこと、亀井君も彼女に気が付いていたらしく慌てている洋平君をみて呆れている様子だ。
そんなやり取りを終えた後4人で自販機に向かう。この面子で一緒にいるのは珍しいと思いつつ、丁度いい機会なので先ほど考えていたことを霜月さんに確認する。
「そういえば霜月さんはネズミとかコウモリは大丈夫だった?」
「うん。……可愛いよね?」
「え?そう……だね」
「……今のは思ってない反応」
2階層に現れる2種のモンスターを見て可愛いと思うことは決してなかったが、霜月さんの感性では奴らも可愛い部類に入るようだ。彼女の雰囲気から冗談を言っているような感じではなく、こちらが少し驚いているのも態度からバレてしまっている。
結局僕は自販機で自分の分を含む4本のジュースを買うことになってしまった。しかし、情報の対価と大事なパートナーの機嫌を直すためであれば安い出費であろうと自分に言い聞かせるのであった。
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