異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第101話 3階層の探索

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 素早いスピードでこちらに迫ってくる狼のようなモンスターの口には、人の肉を簡単に食いちぎることが出来るであろうと思えるほどの鋭い牙が並んでいる。しかしモンスターがこちらに噛みついてくる前にタイミングよく顎先を蹴り上げることで、その凶悪な牙ごと強制的に口を閉じさせるため問題にはならない。

 我ながら足癖が悪いものだと思いながらも、蹴りの衝撃に耐え切れず体を宙に浮かしているモンスターに右手に握っているメイスで追撃を叩き込む。

 蹴りで体を浮かされたのちにメイスによる打撃で地面に叩き戻されたモンスターは、全身を震わせながらも起き上がろうとする。しかし、ほんのわずかでも動きを止めてしまった恰好の的を見逃す霜月さんではなく、間髪入れずに後方から飛んできた3本の氷柱つららが胴体に突き刺さり、モンスターは光の粒になって消えていく。

「ナイス、霜月さん」

「うん。小鳥遊君も」

 最高のタイミングで魔法を放ってくれた霜月さんに声をかけた後でモンスターが落とした灰色の魔石を拾い上げる。素人の僕が見たところでは2階層のモンスターが落とす魔石との違いがみられないため、換金の時を楽しみにしておくしかないだろう。

 亀井君達から僅かな対価で情報を買い取ったその日のうちに、僕と霜月さんは3階層の探索を始めることにした。彼らから手に入れた情報から、特に何かを新しく準備をせずとも今のままで安全に探索を行う事が出来ると踏んだからである。

 周りが遺跡となっているダンジョンの中に狼のような見た目をしたモンスターが徘徊している、そのことになんだか違和感を覚えてしまうが、基本的に単体で現れるモンスターなので僕が注意を引いてさえしまえば後ろから霜月さんがダメージを与えてくれるので何とかなってしまう。

 確かに今までに戦った事のあるスライムや害悪コンビと比べると強いのは間違いないが、流石に師匠程の強さを持っているということはないので十分余裕をもって対応が出来る。むしろ僕にとっては2階層の数で押してくるやつらとの戦闘に比べたら少し物足りないほどである。

(まぁ、手ごたえのある戦闘をしたいわけじゃないからいいんだけどね)

 例え戦闘が退屈になろうがダンジョン探索は安全であるほど良い。そう考えるとこの階層はある程度の実力さえあれば安全に稼げると言っても過言ではないだろう。その証拠に今までよりも他のパーティーを見かける機会が多い気がする。

「この階層は探索しているパーティーが結構多いね」

「うん……みんな狼が好き?」

「……そうかもしれないね」

 普通に考えればこちらに襲い掛かってくるモンスターを好きになるはずはないのだが、ロンリーウルフは毎度1体だけで現れてこちらとの数の差を気にせずに向かってくるため、戦いやすいという意味では好きと言う人たちもいるかもしれない。僕はそのような考えを持ったことはなかったが、きっと霜月さんと同じ感性を持つ人がどこかにいるだろうと思い何とか返事をした。

 この階層に入ってからすれ違うパーティーにチラチラと見られていたので、今の微妙なやり取りも他のパーティーに見られていると思うと途端にむずがゆくなってしまい、この場を離れるために急いで探索の続きを行う事にする。

 新しくモンスターと出会うこともなく、しばらく通路を歩いていると前方が何やら騒がしくなっていることに気が付いた僕は、すぐさま隣にいる霜月さんと視線を交わす。声を発することなく互いの意思を確認した僕たちは、騒ぎの元になっているだろう前方へ駆け出していく。

 ダンジョン内での騒ぎというのはほとんどの場合はトラブルだ。冒険者同士の小競り合いや異常事態イレギュラーとの遭遇など内容によって程度は変わるが、本来であれば無理に首を突っ込みに行く必要はないのでさっさと離れるほうが賢い選択である。もちろんそのような常識を無視してでも僕たちが騒ぎの元に走り出したのには理由がある。

 僕達がたどり着いた広間には数人の冒険者が固まり多数のモンスターと対峙している。基本的に群れを作らず単独で行動をするロンリーウルフだが、この広間の狼たちは連携をとり、まるで一つの固体のように動いている。

 その今までとは違う動きに翻弄されているのか、冒険者側の円陣は徐々に小さくなっていく。そしてトドメとばかりに円陣の一か所を担当する盾持ちに一斉に飛び掛かろうとする3体のモンスターに向けて、右腰に取り付けていた白銀のナイフを投擲する。投擲したナイフはそれぞれの胴体、前足、目に突き刺さり、2体の動きを止めて1体を光の粒にすることに成功した。

 実戦で初めて使用したナイフだが狙い通りの軌道を飛んでいったところをみると、やはり扱いやすい代物である。お値段が少々張ってしまったが、良い買い物であったと言えるだろう。

「霜月さんは円陣の中に!みんなを援護してあげて」

「うん。わかった」

 手を出してしまった事により多数のモンスターにこちらを捕捉されてしまったため、後衛の霜月さんをこの場に置いていくわけにはいかず、やむを得ず円陣の中に入ってもらうことにする。

 ひとまずそこにたどり着くまでに邪魔なモンスターを横に蹴り飛ばすことで彼女のための道を作る。霜月さんは僕の行動を予想出来ていたのか、モンスターを蹴り飛ばしたのと同時に円陣の中に飛び込んでいき、すぐさま魔法で周りの援護を始める。

「小鳥遊か!助かる!」

「今更だけど……これどういう状況?」

 多数のモンスターに襲われているパーティーや霜月さんを守るために円陣の中に加わった僕は先ほどの喧騒の中で聞こえてきた声の主、亀井君に今更ながら現状を確認するのであった。
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