龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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時戻しの魔法

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禁断の書は奥が深く、
簡単に理解することは難しい。

でもいったん理解し始めると、
ドンドンそのスケールの大きさに引き込まれて行き、
読むことを止めるのが難しかった。

そんな中でも、読むことに飽きたと感じてしまう日がある。

そんな時はパラパラとページをめくって、
面白そうな書き出しがあると、
そのページを読んでみたりするときもあった。

その日もそんな飽きたと感じた日の事だった。

僕は最初の方は割と真剣に読んでいたけど、
余りにもの分厚い本に少し嫌気が差してきたところだった。

”ん~ 余り興味をそそるような記録は無いな……”

そう思ってパラパラとページをめくっている時に、

”時戻し”

という言葉が見えた。

でもパラパラとページを捲っていただけだったから、
思いっきり飛ばしてそのページが分からなくなってしまった。

僕はページを戻り、
丁寧に1ページ毎に言葉を確認しながら捲って行った。

一通り捲ってみたけど、
時戻りと言う言葉を見つける事は出来なかった。

”もう一度、やり直してだめだったら、
また今度読む時に出てくるだろう”

そう思いながらもう一度ページを捲り始めた。

パラパラとめくっている時に、
時と言う字が見え、
素早く掌をそのページに挟んだ。

”これでありますように!”

祈るような気持ちで閉じたページを開くと、

”時戻しの術”

と言う見開きが出てきた。

”時戻し? どういう意味?”

その言葉に直ぐに興味がわいた。

読み進めていくと、そこにはこう書いてあった。

”時戻しの術”


ーーー遠い昔に失われた呪文。

嘗ては賢者の塔であった、現SSS級ダンジョンより発見。

嘗てはその塔の主、大賢者であったハルヒト・サクラヤマの生みし呪文。

賢者の塔がダンジョンに飲み込まれし時、
ハルヒト・サクラヤマも共に飲み込まれたり。

その後、ダンジョンより消えしハルヒト・サクラヤマの生死は不明。

時戻しの術は古代語で記されているため読める者がいない。

死の間際この呪文を発することにより、
時を戻すことが出来る。

どれだけの時を戻すことが出来るのかは
不規則性で5秒前もあれば一日前もある。
一日前もあれば、一年前、10年前とどこへ戻るかは分からない。

だが自分の生を超えて戻ることは出来ない。

呪文の術者に触れていると、
その者も同じ時を戻ることが出来る。

その時記憶があるのかは定かではない。

そしてこれが呪文であるーーー



その後には見たこともないような文字がずらりと並んでいた。

”これ……デューデューは読めるのだろうか?”

「デューデュー! デューデュー!」

デューデューを探して洞窟から出てみたけど、
辺りには誰もいなかった。

「デューデュー?」

呼んでも返答がない。

その時裏手からマグノリアが大きなバスケットを持って歩いて来た。

このバスケットも、密林に生息していた蔦系の植物を編んで作ったものだ。

「マグノリア! デューデューどこに行ったか知らない?」

そう声をかけると、

「ちょっと遠くまで狩りに行くって言ってたけど?

因みにアーウィンはダリルについて密林へ狩に行ってるわよ。

後、ジェイドにはもっと水を足してもらわないといけないんだけど……」

そう言ってそこにあった樽を指さした。

樽は大きめの木の幹を削り作ったものだが、
僕は魔法の鍛錬をしている時に、
水魔法が使えるようになった。

だからいつでも新鮮な水が作り出せる。

そのほかに土魔法も使えるようになった。

この土魔法からは泥や岩で作ったゴーレムが作り出せる。

今は水と土魔法を洗練させながら、風魔法を習得中だ。

「分かった、じゃあ、今のうちに足しておくから、
他に手伝えることない?」

「そうねぇ、裏の岩場に畑を作ろうって話なんだけど、
何時になったら岩で野菜用の寝床が作れる?

この前、ダリルが森から沢山薬草の種を取ってきてくれたから、
植えてみようと思うんだけど。

それに豆の種も森に出入りする
薬草摘みの冒険者から買ったみたいよ?

少しの野菜の種もあるし、できれば早目にお願いしたいんだけど」

「分かった、じゃあ今からやろう。

デューデューも出払ってるし、
今は本を読むことぐらいしかないから……

それもデューデューに質問があって中断しちゃったし……

前に少し整備して地面を平らにはしてたよね?」

そう言いながら僕は洞穴の裏手の方に回った。

今では裏手へ行きやすい様に、
岩場を小さく削って小さな歩道と石段を作った。

前に来た時は、大小の岩や小石がゴロゴロとしている
荒地だったのに、今では大きな岩は取り除いて、
平地化している。

そんな裏手の中央には丸太を埋め込み、
その間にきれいに洗った蔦を張って、
洗濯物が干せるように仕上げてあった。

「これダリルが?」

僕は鍛錬の方に集中していたので、
その他の事柄からは少し遠のいていた。

だからこういった物が出来ていることも知らなかった。

「そうよ、アーウィンとダリルが一緒にやったの。

アーウィンって力仕事したこと無いらしくって、
掌にマメを作りながらやってたのよ」

そう言いながら干してある洗濯物を見つめたマグノリアの目は
もう既にアーウィンの奥さんと言うような感じだった。

まだあの告白から3か月ほどしか経ってないのに、
僕達の生活は本当にがらりと変わった。

でも、幸いなことに、
まだ異常事態な事は起きていなかった。

あの日城へやって来た刺客もシンと鳴りを潜めて、
ここは安全そのものだった。

だから僕も鍛錬に集中できたし、
ダリルやアーウィン、マグノリアのお陰で
生活をするのにも左程困ることはなかった。

「マグノリア、いつもありがとう。

洗濯って大変なんでしょ?

手だってすごく荒れてるし……」

マグノリアの手をよく見ると、
真っ白でスベスベだった彼女の手は、
赤くカサカサになっていた。

「これくらい大丈夫よ!

私、こんな生活憧れてたの!

ジェイドやダリルのパンツだってもう洗えるのよ!」

そう冗談言って笑う彼女を見ると、
絶対に守らなくてはと言う気持ちが大きくなった。

「じゃあ、僕は寝床を作るから、
この辺でいいかな?」

そう言って洗濯干し場の隣に立ってその周りを指さした。

「ええ、ばっちりよ!

そこだと、洗濯物の影にもならないし、
移動するのにも邪魔にならないし、
欲を言えば、柵があったらよかったけど、
まあ、ここには動物という動物は来ないから大丈夫でしょ」

マグノリアの許可も出たし、
僕は周りにのけてあった手ごろな岩を運んで
長方形の苗床を作った。

「ねえ、いくつの苗床が欲しい?

5つくらいあれば足りるかな?」

そう言うとマグノリアは色々と頭で計算しているようで、

「そうね、とりあえずはそれでいいかな?

必要な時は又作ればいいし!」

そう言うと、少し離れたところにある
煉瓦作りの縦に長い長方形の窯の様な所へ向かっていった。

僕も後を追ってマグノリアの所へ行くと、

「これ何? 窯?」

と尋ねた。

マグノリアは下の部分のレンガを外すと、
中から土のような物質を掻きだした。

「う~ん、良い匂い。

もう大丈夫そうね」

そう言ってその土の匂いをかいだ。

「ウへッ、それ何? 土?」

「そうよ、培養土って言ってね、
使わなかった野菜のヘタや卵、こっちに吹き飛んできた
木の葉なんかを入れて発酵させたものなの。

草花にとっては栄養素の高い土なのよ!」

そう言ってマグノリアは流れた汗を腕で拭った。

少し土がついた彼女の頬にはソバカスも出来ている。

「帽子が必要だね」

僕がそう言うと、

「そうね……」

そう言って彼女は空を見上げた。

今日は割といい天気で、
少しの雲が流れて行ってるだけだ。

ここは高度が高いせいか、
雲がすぐそこにある。

霧も出やすく、出てしまうと、
割と深く、そんな時は晴れるまで洞窟の周りで大人しくしている。

此処に畑を作るのはきっとそんなに日にとって便利になるだろう。

「じゃあ、この土を運ぶ?」

そう尋ねると、

「おーい! ジェイドー!」

向こうからアーウィンの声がした。

「アーウィン!」

そう叫んでマグノリアが駆けて行った。

アーウィンの後ろからダリルが背にアヒルやウサギを担いでやって来た。

「はい! これ卵!」

そう言ってアーウィンがバッグをマグノリアに渡した。

「うわ~ 今日は一杯ね!」

バッグの上までギチギチに詰まった卵を見て、
マグノリアの顔がパッと輝いた。

「殿下、ただいま戻りました」

そう言ってダリルが僕の横に並んだ。

ダリルは未だ僕を殿下と呼ぶ。

僕はジェイと名前を呼んでって言ったのに、
名前で呼ぶと、癖になった時に困るからと殿下呼びのままだ。

ダリルが言う事も一理あるから仕方ない。

「殿下は此処で何をしておられたのですか?」

ダリルの問いに僕は新しく作った畑を指さすと、

「デューデューを探してたんだけど、
狩に出てるらしくて留守だったから、
前から作らなきゃって思ってた苗床を作りに来たんだ。

丁度、腐葉土?っていう土を入れるところだったんだよ」

そう言うと、

「それではお手伝いいたしますので、少々お待ちください。
これらを陰干しにして戻ってきます」

そう言うと、ダリルは軽やかに洞穴の方へ向けて歩いて行った。

アーウィンも卵を置きに戻ったけど、
直ぐにダリルと荷台を持って戻って来た。

この荷台も、森の木から作ったものだ。

僕達は荷台を使って土を運ぶと、
苗床に向けて流し込んだ。

丁度5つ目の苗床を埋め終わった時に
今回使える分の腐葉土がなくなった。

「はー疲れたね。

洞穴へ行って少し休もう」

アーウィンは先の狩でかなり疲れた様だ。

最近は良くダリルと狩りに出かけている。

「これでも少しは体力が付いたんだ!」

そう誇らしげに言い、腕の細い筋肉を見せてくれるアーウィンは見ていて面白い。

僕達は洞窟までくると、
汗と土で汚れたシャツを着替えた。

「そう言えばさ、僕、禁断の書の中に面白い記録を見つけたんだけど、
アーウィンって時戻しの術って聞いたことある?」

冷たく絞ったタオルで体を拭きながら
そうアーウィンに尋ねた。

「時戻しの術?」

「ウン、ほら、個々の部分だけど……」

僕は禁断の書を持ってくると、
その個所を開いてアーウィンに見せた。

そのページはしおりを挟んでいたので、
今度はすぐに開けることが出来た。

その部分をアーウィンに見せると、
アーウィンは興味深々なように読んでいた。

「へーこの呪文って本物かな?

これなんて言うんだろ?

アースピテュマテウ……ガヤラマソ…デ…グルムム?

変なの~!」

アーウィンは呪文を見ながらブツブツと言っていた。

「アーウィン、その呪文読めるの?」

僕が驚いて尋ねると、

「いや、全然! 字を見て感?で言ってみただけ。

ほら見て、そんな読みの文字っぽくない?」

そうアーウィンに言われて初めて、

「そう言われれば、そうも見えるね?」

ってな具合で、僕達はいろんな方向からその呪文を唱えてみた。

「やっぱり何も起こらないね~

まあ、死の間際って書いてあるしね~」

アーウィンもチャレンジャーだ。

「どうせ発動しないから!」

そう言って何度も、何度も別の言い方でその呪文を唱えていた。

「そう言えばさ、東の大陸で、
昔、物の形をかたどって作られた文字があるらしいよ?

アーウィンはその事聞いたことある?」

そう尋ねると、アーウィンは首を振った。

「面白いよね~ マスターしたら暗号にできるよね!

あ、でもその呪文ってその文字に似てるような気もする……

時戻しの術って東の大陸から渡って来たものなのかな?」

僕がそうアーウィンに尋ねると、

「どうだろう? 時戻しの術ってここらでは聞いたことないよね?
神殿でも聞いたこと無かったから、
皆知らないと思うけど……

でも、その文字が頭に焼き付いてしまった!

今夜夢に見そう!」

そう言ってワイワイと話していると、

「男どもよ!

夕食の準備ができだぞよ」

そう言ってマグノリアが僕達を呼びに来た。

「そう言えば、デューデュー遅いね?

どこまで狩に行ってるんだろう?」

僕が尋ねた。

「そう言われればそうだよね?

これまで夕食の時間に居なかった事なんてないのに……

よっぽど遠くまで行ったのかな?

まあ、あの体を養うっていう動物は、
並大抵の大きさじゃ無理でしょ?

ここら辺にはもう多きな動物は居なくなったとか?」

アーウィンが言った。

「いや、森にはまだまだ大きな魔獣がウヨウヨしてるはずです。

本当にデューデュー様はどちらまで行かれたのでしょうね?」

ダリルが言った。

「どうせデューデューは私たちのご飯は食べないから
先に頂いちゃおうよ!」

マグノリアが言った。

「そうれもそうだね」

最後に皆でそう言って僕達は夕食にありついた。

そしてその日の夜は、夕食が終わっても、
陽が落ちて暗くなってもデューデューは帰ってこなかった。





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