龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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僕は13歳になった時にずっと育って来た場所を離れた。

家を出ると言うことは、
数年前からずっと話し合って来た事だ。

「本当に立派に育ってくれて………」

そう言って父さんは涙を流した。

「父さん! 又そうやって泣く!」

僕が父と呼ぶこの人は本当は灰色をした大きな龍だ。

彼が僕の父となったのは、
僕が未だ赤ん坊の頃だった。

どう言う経緯で彼が僕を育てる様になったのかはよく知らない。

その頃の事を尋ねると彼は決まって、ただ何時もの様に、

「お前の父と母はお前の事をとても愛していた」

そう言うばかりだった。




僕が物心ついたのは3歳くらいの時だった。

「パパは僕と違うよね?」

パパと呼んでいたその人は、
時折僕とは違う何かに姿を変えた。

彼は分かっていたくせに、

「私とお前の何が違うのだ?!」

何時もそう答えていた。

僕も最初は気にしていなかったけど、
段々自分が彼とは同じ姿になれない事に気付き始めた。

「ふーん! んん! ウウ~!」

踏ん張ってそうやっていると、

「真っ赤な顔をして何をそんなに踏ん張っているのだ?」

ある日父さんと同じ様な姿になろうと踏ん張っていた僕に、
彼は眉を顰めながら尋ねた。

「パパ~? どうして僕はパパと同じ姿になれないの~?

もっと大きくなれたらパパの様に違う姿になれるの?

翼が生えて空を飛べる様になるの?」

そう尋ねると、父さんは片眉をあげて、

「もしかして、龍の姿になろうとしてたのか?!」

そう尋ねた。

「龍?! パパが灰色の大きな体になる時って、
龍になってるの?!」

そう尋ねると彼は苦笑いをした。

それから僕は何時も

“龍”

になる練習をした。

でも、僕が龍になれる様な気配は一向に無かった。

「ねえ、パパ!

僕は何時になったら龍になれるの?!

パパは何歳で龍になれる様になったの?!」

何時も同じ様にそう尋ねる僕を
彼は何時ものようにあしらうと、

「お前がもっと大きくなったら教えてあげるよ」

そう言うと大きな灰色の体で伸びをし、
ス~っと人の形に変わった。

「ほら~ 自分ばっかり!

パパはずるいな!

僕もパパの様な翼が欲しいよ!」

そう言って駄々をこねると決まって、

「翠、洞窟の奥から貯蔵してある豆を一袋持って来てくれないか?」

と僕に尋ねた。

「え~ また豆のスープ?!」

僕がそう文句を言うと、

「パンもあるぞ?」

と豆のスープの時は、
決まって父さんが作った岩の様に硬いパンを出された。

僕は何時もの様に洞窟の奥から貯蔵してある豆を一袋手に取ると、
父さんに渡した。

父さんが薪に火をつけ始めると、

「パパはいつまで経ってもパン作りが上手くならないね?

ねえ、今度はいつスーって人のところへ行くの?」

そう尋ねた。

父さんは考えた様に頭を捻ると、

「そうだな……」

そう言って準備ができた鍋に豆を入れると、
タプタプの水を注いで豆を煮始めた。

父さんは時折此処から北の方へ降りた所にあるランドビゲン帝国という大国へ行って、
スーと言う人と、ショウと言う人に会っていた。

その時にスーと言う人が持たせてくれる
お菓子や柔らかいパンを食べるのが大好きだった。

スーとショウには、僕と同じ歳の双子の兄弟がいるらしい。

「一緒に遊びたい」

そう言うと、答えは決まって

「未だダメだ」

だった。

「どうして僕は此処から出ては行けないの?!

僕も遊びに行きたい!」

そう言うと、

「私は遊びに行ってるわけでは無い!

それに遊びは私が何時も相手になって上げているだろう?」

決まってそう言われた。

でも今思うと、あれは遊びでは無く、

“訓練”

だった。

どこの世界に3歳児に岩山を上り下りする事を

“遊び”

と言う親がいるだろう。

どの親が3歳児に木から木へ飛び移る遊びをさせるだろう。

猿の子でも無い限りそれは無いだろう。

グツグツと音を出して煮出した豆をかき混ぜている父の横に座り
地面にお絵描きをしていると、

「あっ……」

っと父さんが声を漏らした。

「どうしたの?」

彼を見上げて尋ねると、
空になった瓶を振りながら、

「塩が切れてる……

今夜は味の無いスープか……」

そう言って頭をガクンと垂れた。

「明日にでもスーのところへ行って分けてもらおう。

そう言えば、今度尋ねる時はお前に本をあげる様に言っていたな」

そう言うと僕を見て、

「良かったな、違う事が学べるぞ」

そう言って鍋をかき混ぜた。

僕は父さんの袖を掴むと、

「ねえ、僕も帝国に連れて行ってよ!

お留守番はイヤだよ!」

そう尋ねると、やはり答えは

「ダメだ」

だった。

「どうして?!

帝国には沢山人がいるんでしょう?!

どうして僕は行けないの?!

パパが帝国に行っている間、
一人でパパを待つのはもうイヤだ!」

そう駄々をこねると、
彼は困った顔をした。

「翠、これは大切な事なんだ。

今は未だダメなんだ。

分かってくれ」

僕はその後何時もの様に泣き出して、
結局は泣き疲れて夕食も食べず眠ってしまった。

そして次の日の朝に

「パパ、御免なさい」

そう言って起きて来るのが僕の何時ものパターンだった。

父さんは僕を抱きしめてくれると、

「さあ、昨夜の残りのスープとパンを食べなさい」

そう言うと、残りのスープを温めてくれた。

「では私はスーのところへ行って来る。

お昼までには戻る。

朝食を食べた後は何時もの様に魔法の練習をしていなさい」

そう言うと、姿を消し飛び去った。

“チェッ! 又魔法の練習か!”

そう呟いて地面に転がっていた小石を蹴ると、
塩気の無いスープを平らげた。

“ウッ……マズイ……”

父さんの料理の腕はからっきしだったけど、
今思えばこれまで人の料理をした事の無い龍が食事を作っていたわけだ。

それも難しい年頃の3歳児の……

僕は朝食を食べ終えると、
もう消えつつある焚き火の前に座ると胡座をかいた。

“ハア~”

とため息をつくと、目を閉じて神経を集中させた。

と言っても、よく分からない。

それは父さんが教えてくれた事だ。

「魔法を使うには精神を集中させねばならない」

そう言われ、

「精神を集中?ってどうするの?」

そう尋ねると、父さんはぶつぶつと言いながら、

“確かジェイドは瞑想して気を身体中に巡らすような事を言っていたな?”

などと呟いていた。

「ジェイドって誰?

パパの友達?」

そう尋ねると、父さんは世界の終わりのような顔をした事があった。

それ以来その名は父さんの口から聞いたことはないけど、
僕は3歳の時は魔法が使えなかった。

父さんの話によると、
僕が赤ちゃんの時は使えていたらしい。

なぜ使えなくなったのかは分からないけど、

「絶対使えるはずだから」

と、毎日気を巡らす練習をしている。

それを僕らは魔法の練習と呼んでいる。

そしてお決まりなのが、
なぜか必ずその途中で寝てしまうと言うことだ。

父さんに言われたように、
お腹の真ん中に光の球を思い浮かべて、
それを体中に転がすと言う感じだ。

目を閉じてそういていると、
何故か身体中がぽかぽかとしてきて、
何故か気がつくと寝落ちしると言うわけだ。

その日も例外では無く、
スーの所から帰ってきたら父さんに起こされた。

「翠! また寝ていたのか?」

焼きたてのパンを鼻のところに翳されると、
起きない訳にはいかない。

クンクンと匂いを嗅ぐと、
カッと目を見開いた。

「スーのパンの匂いだ!」

僕はガバッと起き上がると、
父さんの手からパンを取り上げてかぶりついた。

「こら、こら、物をもらう時はなんと言うのだ?」

父さんに怒られ、

「あっ、御免なさい。

パンを下さい! お願いします」

そう言って両手を差し出すと、
僕の歯形がついたパンを手のひらに乗せてくれた。

それにかぶりつこうとすると、

「翠! 物を貰ったらなんと言うんだ?」

そう言われ、

「あっ! いっけなーい!

有難うございます」

そう言ってお辞儀をした。

父さんは

「よく出来ました」

そう言って僕の頭をポンポンとしてくれた。

そして本を5冊僕に差し出すと、

「ほら、これが今朝言っていた子供用の本だ」

そう言って僕の目の前に置いた。

「父さん、読んで!読んで!」

そうねだると、

「お願いしますは?」

そう言って必ず僕に礼儀を教えてくれた。

そしてその本も、
実際であれば1歳、2歳児が読むような本で、
単純な色や形、物の名前や数字が書かれた物だった。

後で分かったことだが、
僕に本を読んであげるために、
父さんもスーに読み方などを沢山学んだようだ。

それもそのはずだろう。

龍に人の字を読むなんて芸当ができるはずもない。

それを父さんは僕の為に、
物の見事にやって退けた。

きっと物凄い努力をしたのだろう。

「これはスーの息子達がとても気に入っていた本らしいぞ」

父さんにそう言われ、

「スーの子供達ってどんな子達なの?

僕と同じ歳でしょう?」

そう尋ねると、

「二人とも真っ黒な髪に、真っ黒な瞳をしているぞ」

そう言われ、

「じゃあ、パパと同じだね!

彼らも龍になるの?!」

僕は興奮してそう尋ねた。

父さんは苦笑いをすると、

「あ~ 奴らは龍にはなれない……かな?」

そう言ったので、

「そっか、じゃあ、彼らのパパは龍にはならないんだね!」

そう言うと、父さんはギョッとしたような顔をしていた。

「ねえ、もっと彼らの話をして!」

そうねだると、

「あ……ああ……」

と、少し呆けた様な顔をして、

「兄は龍星、弟は龍輝と言うんだが……

だがさすが龍バカだな。

二人共に龍の字を入れおって……」

そう言ってプッと笑った。

「え? 龍バカって……」

僕がそう尋ねると、
父さんはハッとした様にして、

「あ……いや、独り言の様なもんだ」

そう言うと、

「兄の龍星はヤンチャだぞ。

私が行くと、何時も私に悪戯をしに来るぞ。

弟の龍輝は恥ずかしかりやだけどな。

奴は何時もスーの後ろに隠れておる」

そう言われて、

「ねえ、スーって2人のママだよね?

僕のママは?」

そう初めて尋ねた。

それまでは父さん1人でもなんとも思わなかったのに、
スーと龍星、龍輝の話を聞いたら急に、

“何故自分にはママが居ないんだろう?”

と疑問に思う様になった。

しきりに、

“ママ、ママ”

と言う僕に父さんはぐっと言葉を詰まらすと、

「済まない。

今は聞かないでくれ」

苦しそうにそう言う父さんに、
何も知らなかった3歳の僕は
繰り返し、繰り返し母親の事を尋ねる様になった。

きっと無意識のうちに母親を求めていたのだろう。

そんな僕に父さんは何時も、

「今のお前には理解は難しい」

そう言っては母親の事をはぐらかしていた。

そんな中の時だった。

5歳になった僕は、
ある日を境に変な夢を見る様になった。
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