龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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答え合わせ

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ローティに

“君たち何者?!”

と聞かれて僕とセシルは顔を見合わせた。

そんな風に何者と聞かれても返す言葉がない。

本当にサンクホルムなんて国は知らないし、
寝言で言ったと言われる名前でさえ聞いた事がない。

僕は何者でもなく、僕は僕でしかない。

両親を未だ赤児だった時に亡くし、
これまで人目にもつかない様な場所で龍に育てられた人間だ。

サンクホルムなんて行った事ないし、
ましてやあの洞窟のあった渓浴から出たこともなかった。

それは間違いない。

100%胸を張ってそれは本当だと言える。

もし、 

“何者”

かとすると、きっとそれはセシルの方だ。

いく日か一緒に生活して分かった。

彼女にはたくさんの謎がある。

ステータスでさえも弾き出さない何かが彼女にはあるはずだ。

生家の事だってセシルは小さな国の田舎町の商家と言った。

でも彼女には唯の田舎娘には無い気品がある事を学んだ。

もしかしたらセシルは、
自分の出生を隠さなければいけない何かがあるのかもしれない……

そうだとすると僕は知らない振りをして、
何もこれ以上は聞かない事にするのがいいのかもしれない。

僕はローティを真っ直ぐに見ると、

「う~ん……唐突に君達何者?と聞かれても……

僕達は数日前に初めて出会った家を出たばかりの唯の冒険者なんだけど。

隠すこともなければ、見せる様な物も何も無いんだけど……」

そう返すとローティは頭をガシガシと掻いて、

「よし、先ずは飯だ!

それから答え合わせするぞ!」

急にそう言い出して又防具を脱ぐと、
僕達を宿から連れ出した。

「今日は俺の奢りだ!」

そう言って食事処に連れてこられた僕達は、
メニューを前にしてテーブルに着いていた。

ローティを前にした僕とセシルは

“………”

とした様にして、
少し俯き加減でぎこちなさ丸出しでいた。

そんな僕達をリラックスさせようと

「ほら、先に注文を済ませよう。

何でも好きなものを頼め!」

ローティはそう言ったけど、
とても食事が喉を通る様な気分じゃない。

「腹減ってるんじゃ無いのか? 

甘い水でも、デザートに砂糖菓子でも、何でも注文して良いんだぞ?

この鶏料理なんかはどうだ?!

見た感じ美味そうだぞ?」

そう言うローティにつられてメニューを覗くと、
そこには又訳のわからない献立が並べられていた。

この献立の見方は僕には未だ良く分からない。

「僕は……」

そう言い淀んでいると、

「じゃあ貴方が言う様に、
私と翠はこの鶏と卵の綴じものでいいわ」

そうセシルが選んでくれた。

ローティはウェイトレスを呼ぶと、
自分の物と一緒に僕達の物も注文した。

そして懐から紙と鉛筆を出すと、

「それじゃ本題に入るぞ」

そう言って鉛筆を親指の上で一回転させた。

僕がローティの器用に動く指を見つめていると、

「じゃあ先ずは、俺の知っている人物の名を上げてみるな」

そう言って彼は紙に名前を書き始めた。

“名前?”

そう思っていると、ローティはどんどん僕達が寝言で呼んだと言う名と、
それに関係した人物達の名を書き始めた。



サンクホルムの王ー行方不明

アーレンハイム公ーサンクホルムの現王

(ジェイドーサンクホルムの亡き王子)

(姫様ージェイド王子の婚約者)ー行方不明

ダリルー亡きジェイド王子の専属騎士ー行方不明

アーウィンーサンクホルムの元最高大神官ー行方不明

(サンクホルムの関係者達)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翠ーランドビゲン出身

セシルー小国の田舎の商家の娘



そこまで書いて手を止めた。

ローティは顎に手を当て何か考えた様にすると、

「ほら、君達の寝言で呼んだ名は全てサンクホルムに関連してるんだ。

現王以外は死亡か行方不明だが……

それに上手くは聞き取れなかったけど、
恐らく君たちの寝言はお互いを呼応していたと思う……」

そう言って僕達をじっと見た。

僕がセシルの方を見ると、
セシルは眉間に皺を寄せて、

「呼応していたってどう言う意味?

私達がお互い寝言で会話をしていたって事?」

そう言って僕の方を見た。

僕がセシルに肩を窄めてみせると、
ローティは真面目な顔をして、

「上手くは聞き取れなかったけど、
翠が会いたい、どこにいるか分からないって言ったら、
セシルが、すぐに見つかるわよって答えて……

信じられないだろうが、多分そう言ったと思う……

それに会話はそれだけじゃ無く、他にも色々とそんなシーンが……」

そう言って紙に書き出した名前を指で辿った。

そして僕達の名の上で指を止めると、

「そしてセシルが目覚める寸前に言ったんだ。

“転生の術を掛けたようね。

早く前世の記憶を取り戻さないと”って……

転生の術に前世の記憶だよ?

先ずは僕の耳を疑ったよ。

本当にそう言っんだろうか?って。

でも数回はそんな事を言っていた。

だから間違いでは無いと思う。

それってどう言う意味だったんだろうね?」

そう言って僕達をジッと見据えた。

僕はこれまでに無いほど心臓が脈打っていた。

頭が混乱して、ローティが何のことを言っているのか考えられなかった。

僕とは裏腹にセシルは割と冷静で、

「貴方が言いたい事って?」

そう言ってローティに尋ねた。

ローティは一つ大きなため息をつくと、

「実は祝福師が旧教会へやって来た頃、
俺はある話を聞いた事があるんだ。

その時は意味がわからなかったけど、
今だとはっきりとわかる。

彼等が何の話をしていたのか」

そう言ってまた紙の上に書き出された名前を指差した。

「祝福師はこう言ったんだ。

“彼には転生の術を授けておいた”

…… 俺の推理なんだが、
恐らく祝福師が言っていた

“授けた”

と言う人物はジェイド王子だったと今では思う。

何故ならそれに続き、

“彼なら聖龍の加護が受けれるだろう”

って言ったからだ。

なあ翠、祝福師が言っていた転生の術を授けたって、
お前の事じゃないのか?!

お前はジェイド殿下の転生した姿じゃないのか?!」

そう言って紙に書き出された僕の名を指で弾いた。

「え? ちょっと待ってよ!

どうしてそうなるの?!

僕がジェイドって王子様のはず無いじゃないか!

転生なんて…… 生まれ変わりなんてそんな事が起きる筈が……」

そう言うと、横からセシルが、

「ねえ、そうすると私は何?!

翠と呼応してたんだったら、
私も同じ夢を共有してたって事よね?

同じ夢を共有するって……そう言う事って本当にあるのかしら?!

それって2人して同じ夢の中にいたって事よね?!」

セシルがそう言うと、

「有り得なくもないだろ?

実際に会話が成り立っていたんだし……

もしかしたら転生した時に何らかの術が、
お前らに施されているって確率もあるし……

転生だぞ?!

それも転生の術で!」

興奮した様にそう答えるローティに、
更にセシルは突っ込んで、

「でも、呼応し合うって……そんなの唯の偶然って事は?!」

そう言って反論した。

「う~ん、まあ一度の会話だったらそうとも言えるかもしれないが、
お前達のは眠っている間ずっとだぞ?!

いくら俺でもそこまで続けば確信するよ」

ローティがそこまで言うと、
もう認め無い訳にはいかない。

否定すればするだけ現実味が増してくる。

だとすると、セシルに当てはまる人物がいない……

ジェイド王子以外は行方不明者ばかりだ。

そんな事を思っていると、
セシルも同じ事を思っていたのか、

「じゃあ私は誰になるの?!

ジェイド王子の婚約者?!

それともアーウィン……? ダリル?

転生する時男性から女性にって可能なのかしら?!

でも……そもそも彼等って亡くなってるの?!

行方不明って言ってたよね?!

今も何処かで生きてるって事はないの?!」

そう言った後僕はある事を思い出し、少し呆けた様になった。

「ちょっと待って……、ちょと待って……

今思い出したんだけど、そう言えば、
ルーが尋ねた人の名ってアーウィンじゃ無かったっけ?!

その時は全然聞き覚えが無かったけど、
今思えばあれはアーウィンだった!

じゃあ何? ルーもサンクホルムの過去と何か関係があるの?!」

そう言ってセシルの方を見た。

セシルは唸った様に考え込むと、

「アーウィン……、アーウィン……

……確かにそうだったかも……

うん、そう言われるとそうだった様な気がする!

どうしよう……ローティの言ってる事がどんどんパズルのピースみたいに
当てはまって行くんだけど、
え、何? 私達ってサンクホルムに居た人物の生まれ変わりって事?!

本当にそんな事あるの?!

全然思い出せないんだど?!」

そう言って両手で顔を覆った。

そして顔を挙げると、

「でも何故?! お城で亡くなったのはジェイド王子だけでしょう?

と言う事は私は何?!

ジェイド王子と何の関係が?!

それにルーだって……

そもそも王子はどうやって亡くなったの?!

崩れた城の下敷き?!

それともその日の襲撃で?!

私はその時王子といたの?!

王子の侍女だったのかしら?!

私もお城の下敷きに?!

ねえ、私達お互いの名を呼んだりはしなかったの?!

一体私は誰だったのかしら?!」

そう言ってジワジワとパニック状態になって来た。

僕も、ブツブツと独り言の様に色んな事を呟き始めた。

その時、

「お待ちどう!」

そう言って注文しておいた食事がやって来たけど、
ハッキリ言って、食欲なんて吹き飛んでいた。

ローティは躊躇なくやって来た皿を掴み上げると、
ガッガッガッっと食事を自分の喉目掛けてかきこみ始めた。

ローティは食事が喉を通らない僕達を見て気を使ったのか、

「ここ迄お前らがパニックになるとは予想しなかったといえば嘘になるが、
まあ、俺が言った事は一つの推理として心にとどめておく位にしておきな。

必ずしもそうと言うわけでは無いからさ。

それに翠がジェイド王子の生まれ変わりって言うには大きな欠点があるんだよな」

そう言って持っていたスプーンで僕を指差した。

僕は気抜けした様に、

「え……? 大きな欠点って……?」

そうローティに尋ねた。

「う~ん、生まれ変わりの説が外れると、
寝言の意味が全くわからなくなるんだが、
実はサンクホルムには聖龍伝説と言うのがあって……」

そう言いかけたので“聖龍”と言う言葉にドキッとした。

“聖龍?! もしかして僕のステータス内にある聖龍と関係があるんだろうか?!”

咄嗟にそう思った。

僕のステータスには聖龍の加護というものが付いている。

「その……聖龍と……は?」

僕が尋ねると、

「あ~
サンクホルム知らなかったら聖龍の事も聞いた事がないかな?

聖龍はな、サンクホルムの建国王と平和と繁栄の誓約を交わした
白い龍だと言われている。

だからサンクホルムの王家には、
聖龍の現し身と言われる銀の髪をした男子が生まれる。

そしてその瞳は大地を反射しような聖龍と同じ緑色をしていると言う……

銀の髪と緑の目をして生まれた子は聖龍の後継としてその国の王になる事が決まっている。

ジェイド王子は綺麗な銀色の髪と鮮やかな緑色をした瞳を持っていたと聞いている。

だが現王の髪は金色だ。

実際はサンクホルムの王になるべき人物ではない!」

そうローティが言った時セシルが僕の方をバッと見た。

そしてがっかりした様な顔をすると、ローティがすかさず、

「そこなんだよ。

もし翠がジェイド王子の生まれ変わりだとすると、
俺は翠の髪も銀色だと思うんだよな。

大地を反射した様な緑の目はそのままだが、
金髪ではな~」

そう言って僕の髪に指を絡ませた。
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