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ルーの記憶
しおりを挟む「それ、お城の裏にある壁の事でしょ?!」
そう言いながら、
いきなり這い寄って来たルーに度肝を抜かしながら
反射的に少しのけぞると、
肩が龍輝に少しぶつかった。
思わずバランスを崩した僕を龍輝は抱き止めると、
「翠、気をつけて。
幾ら父上が手綱を引くのが上手いと言っても、
馬車は急に揺れる事がありますので」
そう言って僕の肩をしっかりと支えて起こしてくれた。
僕より逞しい龍輝に少しドキリとして
慌てて体制を整えると、
いつもは気にならない髪の乱れを手で掻きながら、
「ごめん、ありがとう。
ルーがいきなり這って来たからビックリしちゃって……」
ドギマギしている事を龍輝に悟られない様にそう言うと、
龍輝もルーに向かって、
「殿下も危ないので、
馬車が動いている間は、
ちゃんと固定位置に座ってジッとして居てくださいね」
そう言ってルーの肩に手をポンと置いた。
一息置いた僕も一緒に、
「本当に!
あそこで這い寄られるなんて思いもしなかったよ!
まるで芋虫か蜘蛛みたいだったよ!」
龍輝への照れ臭さ隠しに揶揄った様にルーに言い放ったのに、
ルーは目をキラキラとさせて、
「やっぱり夢じゃなかったんだ!」
そう言って僕に顔をグッと近づけた。
僕は手でルーを押しやると、
「近い! 近い!
君、距離感が変だよ?
初めて会った時なんて素敵な王子様だったのに、
何だか今はちょっと残念な王子様?
もしかしてこれが君の自なの?」
そう言って顰めっ面をした。
ルーはへへっと無邪気に舌を出して笑うと、
今度は興奮したように、
「それよりも翠、今話してたのを少し聞いてたんだけど、
壁にドアでしょ?!
蔦の葉で隠れてるって言ってた!
そうでしょ?!
僕の聞き間違いじゃないよね?!」
ルーは矢継ぎ早にそう捲し立てると、
僕の横に座り込んだ。
“えー?! もしかしてこれってルーがアーウィンだった時の記憶の一部?!
僕、良くわからないんだけど、
話しても大丈夫なのかな?
何か聞かれても答えられないんだけど?!
それどころか、セシルに聞いた彼女の前世の記憶しか知らないんだけど?!
一体何処まで話せる?”
そう思いチラッとセシルの方を見ると、
セシルはちょっと興奮したようにコクコクと頷きながら、
手をヒョイヒョイと振ってルーと
“話をしろ”
とでも言うようなジェスチャーをした。
“君も混じらない?”
そう目配せをすると、
“そこは翠に任せた!”
とでも言うように彼女は口をパクパクと動かした。
僕はは~っと大きなため息を吐くと、
何かを期待したように僕の横でソワソワとするルーに、
「確かに言ったけど、
僕は知ってる訳じゃ無く、
知ってるような気がすると言うだけで、
実際の所はよく分からないんだよ?
もしかしたら僕の勘違いかもしれないし、
ルーの欲しい答えでは無いかもしれないんだよ?」
そう言ったのに、ルーは怯むこと無く、
「それ、夢か現実かわからないんでしょ?!
実は僕もそんな事がよくあるんだ!
だから大丈夫!
翠のその訳がわかんないような気持ちは
僕もよく分かるから!」
と何か誤魔化させられたのか、
本当に僕が言ってる事が分かってるのか
わからない返事で僕を少し戸惑わせた。
龍輝も隣から、
「興味深そうな話が出ましたね?
お二人の言っている壁に扉って
私の祖父が現れる時と同じ様なものでしょうか?
私も話を聞いて居ても構いませんか?」
そう言って僕達の会話に入り込んできたので、
“う~、まあ、何とかなるだろう!”
そう自分に言い聞かせて、
「じゃあ、先ず、ルーの話を聞かせて」
そう言うと、ルーは
“待ってました!”
とでも言う様に、
ルーの知る壁に扉の話をし始めた。
「僕の知ってる壁に出てくるドアはね、
時々白昼夢みたいに目の前に浮かび上がるんだ。
さっき龍輝が言ってた様に、
本当に何の変哲もない壁に扉が浮かび上がるんだ!
んーなんて言うんだろう?
きっと何らかの魔法で扉を出してるんだと思うんだけど、
そこは僕にも良くわからないんだ。
でも翠の話を聞いて、
何か閃いたんだ!
僕が知ってる扉は
きっと翠が言ってる扉と同じだよ!」
そう言ってルーは僕の手を取った。
そして僕の顔をジッと見つめると、
「僕さ、誰かを探さなきゃいけないって前に話したじゃない?
覚えてる?」
そう尋ねたので、
僕はコクリと頷いた。
ルーはパーっと明るく笑うと、
「それって、君達の事じゃないかと思ってるんだ!」
興奮した様にそう言い放った。
「どうしてルーはそう思うの?」
何をどうやったらルーはあったばかりの僕達のことをそう思ったのか不思議だった。
“矢張り何か呼び合うものが有るのだろうか?
僕は何も感じないけど……”
そう思っていると、
ルーは僕の手をギュッと握り締め、
「僕は初めて君たちに会った時から、
初めて会ったような感じがしないんだ。
何だかすごく懐かしいと感じた。
変に思うだろうけど、大袈裟に言うと、
涙が出てしまう様な感覚とでも言うか、
ずっと無くして居た大切なものを見つけた感覚というか……
今だってつい先ほどこの旅に出たばかりなのに、
ずっと一緒に過ごして来たような
そんな感覚が消えないんだ。
一緒にいて違和感がないと言うか、
これが本来の僕として、しっくり来ていると言うか……
説明しにくいけど、
僕が探して居たのは君達だと思うんだ!
何故なのか上手く説明はできないんだけど……
だから、君の言う壁にドアも、
きっと僕がぼんやりと思い浮かべているものと同じじゃないかと……」
語尾を弱めながらそう言うと、
またキッと僕の方を見つめて、
「翠はどう?
僕と一緒に居て何か感じない?」
そう言って又グイッと僕に顔を近づけて来た。
僕はセシルに聞いて彼らに前世で起こった事は知っている。
何故ルーがそう言う気持ちを感じているのか分かっている。
そして彼が感じている事は正しい。
前世の妻と、その人との間にできた子供……
でも僕自身が思い出している訳ではない。
何を何処までルーに話していいかも疑問だ。
それに僕の脳裏を過った壁にドアは不確かだし、
ルーのように詳しく思い出している訳でもない。
“もしかしたら思い違いだったかも?”程度のことなのだ。
龍輝の話を聞いてフッと一瞬脳裏を過った程度の事なのだ。
僕はフーッと深呼吸すると、
「あのさ、ルーってその壁にドアって
夢だとしても何処まで詳細を知ってるの?」
そう尋ねると、ルーはパーっと微笑んで、
「翠が言ってる様な夢とは少し違うけど、
ボーッとした時に物語りを読んでその話の内容を
頭の中でイメージしたように現れるんだ。
それで良かったら話聞いてくれる?!」
そう言って又僕にグイッと顔を近づけた。
横から龍輝も、
「とても興味深い話みたいなので、
私も聞いて居ても構いませんか?」
そう言って声を掛けたので、
僕はセシルの方をチラッと見て、
”君も話に加わる?“
そう目配せをしたら彼女は、
”まずはあなた達で話をしてみて“
そんな感じで目配せを返すと、
龍星やシャムア達とおしゃべりを再開した。
僕は龍輝を見上げると、
コクリと頷き、
「それでルーの言う壁のドアってどんな物なの?」
そう話を進めた。
ルーは少し考え思い出したようにすると、
「多分あれはお城だと思う。
うん、そうだね、あの外観はお城だね。
でも僕の知るお城ではないから
きっとランドビゲンの友好国では無いのだと思う。
何故そんな城が僕の脳裏を過ぎるのかは分からないけど、
僕はいつも誰かといたんだ。
見えるのは彼の後ろ姿で、
あれは誰なんだろう……?
後ろ姿しか見れないから
誰かわからないんだ。
彼が僕の方を振り返ろうとすると、
現実に戻されるんだ。
銀色の髪がすごく綺麗で……
彼の身なりから見てあの城の王子なのではと思うんだけど、
ハッキリとはわからない」
そのセリフに
「銀色の……髪……?」
と呟いた。
”間違いない。
それはジェイドとアーウィンだ。
と言う事はルーは思い出していく記憶の中で、
未だジェイドの顔を見て居ないんだ”
ルーは僕に頷くと、
「その壁はお城の裏にあるんだ。
蔦が絡まって居て、
丁度その場を隠しているんだ。
君のもそんな感じ?」
目をキラキラと輝かせてルーが興奮したように尋ねた。
僕はフッとその光景が頭に過った時を思い返してみた。
ほとんど覚えては居なかったけど、
ルーの説明を聞いて居たら確かそんなだったような気がだんだんして来た。
「う~んそう言われるとそんなだったような……?」
そう自信なさげに言ったにもかかわらず、
ルーは一層目をキラキラと輝かせて、
「でしょう?!
僕、探さなきゃいけないのは絶対君達だと思って居たんだ!
初めて会った時から君達はなんというか……」
そう言ってセシルの方をルーはチラッと見た。
その表情が何とも言えなくて、
何だか以前にも見た様な気がして、
僕はすぐにピンときた。
“おい、おい、本当かよ?”
僕の頭に最初に浮かんだのはそう言うセリフだった。
僕はルーの耳に口を近づけると、
“もしかしてセシルの事気になってるの?”
そう耳打ちした。
ルーは真っ赤になると、
「ち、違うんだ!
僕は決してそんな邪な思いでは……」
そう言って俯くと、
本当に小さな声で
『はい』
と言った。
僕は頭を抱えて
“マジか!”
そう呟くと、ルーにつられたようにセシルの方をチラッと見た。
彼女は龍星達と気が合ったのか、和気藹々と話をして居て、
僕達の会話は聞いてなかったようだった。
僕はホッと胸を撫で下ろして安堵したのも束の間、
隣から痛い視線を感じ始めた。
フッと隣を見ると、
龍輝がジッと僕達の方を見て居たことに気付いた。
僕は龍輝に向かって苦笑いをすると、
“ハハハ~ 今の話、聞こえてたかな?”
と苦し紛れに囁くと、
ルーもハッとしたようにサーっと顔色を変えた。
「龍輝、 違うんだ!
これはあくまでも僕の気持ちであって、
セシルには何の落ち度もないんだ!
ちゃんと婚約者とは結婚するから、
この事は父上には!」
そう言って又俯いた。
“そうか、龍輝と龍星、
ルーの護衛騎士になったって言ってたよな。
と言う事はこう言うことも報告義務が出てくるんだろうな”
そう思うとルーが気の毒になって来た。
“皇家に生まれた人って好きな人とは結婚できないか……”
そう思っていると龍輝が、
”殿下、ご安心ください。
私は陛下に告げ口をするような事は致しません。
ですが、呉々もシャムアや龍星にはバレないように“
そう言って済ました顔をした。
僕はそれが以外で暫く龍輝の顔をジッと見て居た。
龍輝は僕をチラッと見下ろすと、
“私も鬼では有りません。
人の気持ちは周りがあれこれ言っても変えれるもでは有りません”
そう言って何食わぬ顔をした。
僕は少しドキッとした。
“ねえねえ、もしかして龍輝には好きな人がいるの?
だから婚約者候補なんて要らないって思ってるの?
自分が経験者だからルーのことも見逃してあげてるの?
もしかして龍輝の好きな人って平民なの?”
そう矢継ぎ早に尋ねると、
彼は真っ赤な顔をして、
“私の事はどうでもいいんです“
そう言ってモジモジし始めた。
”どうしたの?
ごめん、もしかして嫌な質問だったかな?
もう深くは聞かないよ?“
そう囁くと、
”いえ、違うんです。
翠はどうなのかと思って……“
そう僕に尋ねて来た。
僕は龍輝の態度が少し面白くてクスッと笑うと、
”もしかしてそれが聞きたくてモジモジしてたの?“
そう尋ねた。
“え? モジモジ?
私、モジモジしてたんですか?”
首を捻りながらそう尋ねる龍輝に苦笑いすると、
“そうか、龍星も言ってたっけ?
良くお母さんの後ろに隠れてウジウジしてたって”
そう思い出しながら、
「ううん、僕にはそんな人は居ないよ。
婚約者なんてもってのほかだし、
好きな人だって……」
そう言いかけて少し胸の奥に産まれかけた感情を打ち消し
「無い、無い、無いよ!」
そう言って首をブンブン振った。
“ダメ、ダメ、龍輝が未だダリルと決まった訳じゃ無いんだ!
それに僕の想像してる事が本当にあったことかも未だわからない!
今はこんな感情を龍輝に抱くべきでは無い!”
そう思ってギュッと唇をかみしめて下を向いた。
それなのに何故か龍輝は少し嬉しそうな顔をすると
“そうですか……”
そう言って少し微笑んで俯いた。
そんな会話が龍輝との間で交わされている間、
ルーも色々と思い出そうとして居たようで、
僕が俯いた同時に、
「ねえねえ、それからさ、
君達、生まれ変わりって信じる?!」
今度はそんな事を聞いて来た。
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