視線の先

茉莉花 香乃

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番外編ー3 黒川の誤算

03

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山を降りて駅近くの駐車場に車を停めて動物園まで歩いた。

小さな頃は誰もが来たことあるだろう地元の動物園。
ここでも親と来た時はどうだったとか、ここで写真撮ったとかそんなつまらない話だった。

他の連れとこんな場所には来ないだろう。退屈で直ぐに帰りたくなる。

でも俺は聡史に約束した四時が近づくとまだ二人で居たくなった。

ほら見て、ペンギン可愛い。
あっちにキリンがいるんだよね?
動物の臭いって苦手なんだ。
カバって大きいね。

いちいち可愛い反応をする佐々城から目が離せない。

「四時にエスポワールで待ち合わせだよね?」

なんだよ、しっかり聞いてたのかよ。

聡史はエスポワールで待ってる。
勿論仕事なんか行ってない。多分ケイさんにでも愚痴ってる。

一秒でも遅れたらきっと凄い怒るんだろう。今も時計を睨んでるに違いない。

「そろそろ行こっか?」
「うん」

マフラーを撫でながらエスポワールへ向かう佐々城は今までよりも心なしか歩くのが速い気がする。

そんなに聡史に会いたいのか?俺にあんな笑顔で話しかけといてさ。

…あれ、変な思考に陥りそうになる。
おかしいだろ?
今のはおかしいだろ?

「佐々城?」
「何、黒川君?」

人通りが疎らな細い裏路地に連れて行き抱きしめてみる。

「やっ、何?めてよ!」

うん、大丈夫だ。
俺、佐々城ならいける。

「ああ、悪い」
「なんなの、悪いって?なんかあった?彼女と喧嘩でもしてるの?」

佐々城は俺が邪な考えを持ってるとは微塵も思ってないのか、動揺しながらも冷静な対応だった。
それが余計に寂しくなる。

今、彼女なんていない。彼氏か…考えてもいいかも。

「聡史が待ってる。行こ?」
「ああ」

今ちょうど、四時だ。遅れちまった。

「いらっしゃいませ…ああ、奥にいるよ」

エスポワールの奥の席で怒った顔の聡史が途端に笑顔になる。

「お帰り、篤紀」
「ただいま。お仕事、お疲れさま」

向かい合って二人の前に座るけど、これキツイな。

今にも抱きつきそうな佐々城と今にもキスしそうな聡史。

「あれ、これ?」

聡史が佐々城のマフラーを見て驚いてる。

さっき一瞬抱きしめた時何か付いたのか?香水なんか付けてないから匂いは移らないはず。

「いいでしょ?」
「ああ、かまわない」

二人の間で会話が終わってしまった。なんだったんだ?

「なんだよ?」
「いや、なんでもない」

さっきまで俺に向けるきつい視線は和らいだけど、気になるじゃないか?

「教えろよ!」
「このマフラー俺のなんだ」

それで!
佐々城はずっとマフラー触ってた。

なんだよ。
結局、聡史と三人で出かけてたようなものか。

どこ行ったの?と佐々城に話しかける聡史も、それに答える佐々城も俺の知らない顔だった。

聡史は気持ち悪いくらい笑顔で、佐々城はさっきよりも甘い。

ケイさんがココアとコーヒーを持って来てくれた。ココアは佐々城の前に、コーヒーは俺の前に。

「甘いものよりこっちのが良いかなと思って」

肩をポンポンと叩いて、ウインクをする。そうだな、目の前に甘過ぎる二人がいるからちょうど良いか。

『諦めろ』聡史の口が動いたから、頷いて返事をした。

俺に向かってた笑顔じゃなかったんだ。
全部聡史を思ってだったのか。

なんだよ。
そうだよな。

…あれ?
『諦めろ』で頷くって…、
あれ?俺、佐々城の事狙ってた?


END
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