視線の先

茉莉花 香乃

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番外編ー4 岸井の満願成就

01

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先輩、好きです。



◇◇◇◇◇



失敗した。

絶対付き合ってると思ってた。
でもさ…でも、これって俺にとってはラッキーなんじゃね?

慎二先輩と安達先輩がいつも一緒で、中学から一緒で…俺の入る隙はなかった。





小学校の時からずっとサッカーしてたから、迷うことなくサッカー部に入った。俺もそんなに上手くないし、そんなに強い高校じゃないからどこかに入るなら…入部の動機はそんな感じ。

別に上を目指してとか思ってない。はっきり言って、部活に期待してなかった。身体を動かすのが好きだから、練習がきつくても平気。

仮入部をして練習に参加した。全くの初心者はいなかったけど、それぞれ個人差はある。
サッカー部に入りたくなるように練習メニューは軽めで、ミニゲームが中心だった。まず、先輩がしてるのを見る。

生き生きと走る一人の先輩に心奪われた。身長は俺より少し高いか?割とがっちりした体格だけど、俊敏な動きでドリブルやパスをする。

俺の目を釘付けにしたのは松本慎二先輩。

ゴールを決めた時の可愛い笑顔。パスミスした時のやっちまった感一杯のはにかんだ顔。友だちと笑いあう弾ける笑顔。どれも俺を虜にする。
でも、その笑顔の先にはいつも安達先輩がいた。

本入部しても練習はそんなにきつくなかった。「ついていけない」という奴もいたけど、強豪校に比べたら楽だろう。先輩も全体的に優しいし、虐めもなさそう。

二人の関係を疑ったのは夏休み。いや、それまでもずっと一緒だった。

内緒話するみたいにお互いの耳元で話す二人。校舎の方を指差して何かを言ってる。違う先輩にさりげなく聞いてみた。

「松本先輩と安達先輩仲良いですね?」
「ああ、中学から同じだからな」
「できてるんですか?」
「おぉ!ははっ…面白い。できてんのか?」

誤魔化された?
疑う俺にはどっちにも取れる返事で、困ってしまう。夏休み、行きも帰りもいつも一緒。いつも二人きり。これは確実だと思った。

それでも、見守った。仕方ないじゃないか?安達先輩に傷つけられたら俺が守ってやる。そんな気持ちで一年とちょっとずっと見てた。

話しかけると丁寧に答えてくれる。後輩にも人気の先輩だ。悔しいかな安達先輩の方が男にも女にも人気があったけど、そんなことはどうでもいい。

俺が二年、松本先輩たちが三年の夏の大会があっけなく終わった。残る先輩もいたけど松本先輩と安達先輩はきっぱり引退した。

もう少し一緒に練習できると思ってたのに。大学受験の勉強のためってさ。一緒の大学行くのかな?

会えなくなると寂しくなる。例え俺のものにならなくても、近くに行きたい。三年の教室に行くようになった。

この一年でむくむくと背が伸びた先輩は、俺とそんなに変わらない身長だったのに、俺は伸びなかったから…チクショー!随分と差がついてしまった。





「どうして、変な噂流した奴に先輩はそんな優しくするんですか!?」

二人の仲を邪魔する奴が許せなかった。
きっと先輩傷ついてる。
かわいそうだ。
俺が守ってやる!

「まだ言ってるの?佐々城はあれがお前じゃないのは知ってるからそんなことしない。
そもそも、もしあれがお前だとしても佐々城が人の事そんなふうに噂したりしない」
「どうして?……」
「どうしてお前じゃないのを知ってるかってことか?」
「…はい」
「もう、言ってしまえよ。良いよな佐々城?」

どう言うことなんだ?
そりゃ、松本先輩がちょっと嫉妬してくれたら嬉しいななんて下心はあったさ。

安達先輩は松本先輩の事は気にもしないで佐々城さんの心配ばかりする。

かわいそうじゃないか?

「あれ佐々城なんだ。だからお前じゃないのは最初から知ってる」
「嘘!」
「俺が証人だな。あの写真撮ったの俺だし」

えっ?松本先輩が撮った?
どう言うこと?
そんな残酷なことをしたのか?安達先輩は!

松本先輩は未だ俺の腕を掴んでる。こんな場面じゃなきゃ飛び上がって喜ぶとこなのに…。

「こいつ俺が引き受けるから、佐々城保健室連れてってやれよ」
「どうするの?」

おいおい、俺の心配かよ…。

「ああ、まだ聞きたいことあるから。佐々城をここまで連れて来た奴のこととか?」
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