彼氏未満

茉莉花 香乃

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文化祭は猫日和

04

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何を言われているか理解できない。付き合うって?それの意味するところは?男同士で学校帰りに、ゲーセン行こうぜってノリとは違うような気がする。

「好きなんだ」
「はぁ?」

何だ…揶揄われてるんだ。

男に興味があって、直輝と付き合ってたなら自分とも…ってことなのか?好きだなんて、心にもないことを言うのも、一応気を使ってくれてるのかもしれない。押し倒されなくて良かったのかな?

ヤバい、涙出そう。あの時直ぐに了解したのは、直輝が好きだったから。もしかしたら、チョロかったですよ…何て直輝から聞いたのだろうか?益々やさぐれた気分になる。心のどこかで直輝がそんなこと言うはずないと思いながらも、この状況に気持ちが付いていかない。このまま、ここに居たくない。

「あの、ごめんなさい。失礼します」

腕を振って離れようとするけれど、筋肉の付いてない細い腕では、到底敵うわけない。

「待ってって」
「無理です」
「友だちからで良いから、ね?」
「ごめんなさい」

そんなこと言いながら、力で従わせようとする。ギリギリと掴まれた腕が痛い。押し倒されたら無理やりスルことぐらい、簡単だろう。

怖い。

いくら彼女ができるまでの相手でも、直輝とは合意だったし、僕が望んだことだった。嫌なことはされなかったし、優しく抱いてくれた。幸せだった。

でも、ほぼ初対面の名前も知らない人に組み敷かれるのは、嫌だ。ポロリと涙が落ちた。

「ごめん!怖がらせるつもりはなかったんだ」

先輩の腕が僕の身体を包む。その腕は強引ではあるけれど、優しいものだった。でも、プチパニックの僕にはそれは恐ろしい腕のように感じ、益々涙が出る。
硬直した身体と恐怖で縮こまった心では、突き飛ばしてここから出て行くって選択肢は、選ばれなかった。大人しくなったと思ったのか、先輩は僕の髪を撫でる。僕はと言うと、それすらも気持ち悪く、怖かった。

「井上~」
「安村!井上先輩、どこですか?安村!」

直輝ともう一人の先輩が探してくれているようだ。
二人の声が理科準備室の前を通り過ぎる。

「こ…」

ここだよと声を出そうとしたけど、口を塞がれてできなかった。

「ごめん。大丈夫だよ。何もしないから」

何もしないと言いながら、僕の口を塞ぐ手は離れない。二人の足音は遠去かり、階段を下りたか上ったか、二階からは離れたようだった。

「んっ、んっ!」
「ああ、ごめん。苦しかった?」
「はぁ…」

呼吸を整えて後ろにいる人を見る。顔を見上げ、睨んでみる。苦笑いのイケメンが鼻先を人差し指でかいた。

「どうして?」
「だって、安村くんに会いに行くのさえダメだって言うんだよ?話したいなんて、絶対許してくれない。それに、ただのクラスメイトなら、直輝にそんな権限ないしね。今は…そうなんだよね?」
「誰が?」
「ん?会うなって言ったの?」
「はい」
「緒方と直輝。緒方は直輝に頼まれたんだと思うけど」

どうして直輝が僕とこの人を合わせたくないのかわからないけど、この人が僕に会いたい理由もわからない。さっきの『好き』と言うのは僕を揶揄うため。じゃあ、揶揄うためだけに会いたいとか?そんな変な人が存在するとは…。いや、目の前に居るのか?

直輝と先輩の声が遠くから聞こえる。ガタガタと一つずつ扉か開くかを確かめているのか、乱暴な音と『クソッ!』『何処だよ?!』と荒々しい声が響く。

「こ…んっ…」

目の前の趣味の悪い人と一緒に居たくなくて、声を出そうとしたけれど無駄だった。流石、運動部。素早い運動神経で、再び口を塞がれた。

「ごめん。こっち来て」

口を押さえたまま後ろから拘束されて、無理やり歩かされる。

「早く!」

言うことを聞きたくなくて、足を突っ張って抵抗する。

「直輝が来るから!ああっ、もう!」

怒ったように叫ぶと、僕の脇と膝裏を持って抱き上げ、歩き出した。

「いや!」
「静かにして」

その時、ガラッと戸が開いた。

「井上先輩!」
「あ~あ、見つかった」
「返してもらいます」
「こいつ、お前の?」

口調から直輝は怒っているようだ。その怒った直輝を挑発するような先輩の口ぶり。僕からは直輝が見えない。今の質問に、直輝の返事はなく、こちらに近づく足音だけが響く。
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