彼氏未満

茉莉花 香乃

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文化祭は猫日和

03

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「あっ、緒方先輩」
「おう!スゲー混んでるな」
「はい。お陰さまで。あの…ありがとうございました」
「礼はいい。それより…」
「な、何ですか?」
「スマン!」
「えっ?」
「直輝」
「げっ!井上先輩…。緒方先輩!どうし……」
「げって何だよ!直輝!」
「あっ、いや、すみません…」
「スマン!直輝。どうしても行くってきかなくってな」
「はあ~」

後ちょっとで交代って時に、直輝の先輩がやって来た。直輝が先輩二人の相手をしている間、僕は二つ隣のテーブルで注文を取っていた。恐らく他校の男子高校生。がっつり食事目的と思われる。カツサンドがあるんだよ。数量限定で、多分昼過ぎにはなくなると思う。当たり前だが、他のも数量限定ではある。なくなれば提供することはできない。それでもカツサンドは昨日、一番最初にメニー表から消えたのだ。

二人はメニーをガン見し、お互いを見、僕を見る。首を傾げて意味不明な行動を怪しみつつ、お決まりでしょうかと声をかけた。真っ赤な顔で挙動不審。言葉はつっかえつっかえ。何を緊張することがある?

「あっと、あの、名前を教えてくれる?」
「えっ?」

誰の名前?ああ、今、後ろを通り過ぎた女子の事?

「彼女は…」
「いや、そっちの彼女じゃなくて、君の事」
「はあ?僕ですか?」
「僕?僕ってことは、男?」
「ええ、すみません」
「いや、男でも…」
「お客さま、ご注文は?……安村、下がってていいから」

何が言いたかったのだろう?きっと、女装してるから、気持ち悪い奴って思われたのかもしれない。変なことを言う他校の男子生徒の視線から僕を隠し、直輝が後ろ手でシッシッとする。嫌な意味じゃないのはわかってるから、大人しく従った。

それでも、奥に引っ込んでいるばかりはできない。用意されたサンドイッチとコーヒーを持って、教えられた番号の席に行く。

「お待たせいたしました。カツサンドとコーヒーが二セットですね」

テーブルにはさっき直輝と話してた先輩が一人座ってた。あれ?

「ああ、今ちょっと呼び出されて、すぐに戻って来るから、置いといて」

何故一人?と顔に出ていたのだろう。丁寧に説明してくれた。流石、直輝の先輩だ。

「安村くん?」
「はい?」

どうして名前を知られているのか?そうか、直輝が教えたんだ。女装してる気持ち悪い奴がいるから、揶揄いに来てよとでも言ってたのかな…。最悪な気分。

「あのさ、直輝の事で相談があるんだけど…」
「えっ?な…、あの、馬渕の事、ですか?」

小さな声で話しかけられて、何故か同じように小さな声で返す。そうすると必然的に顔が近くなる。

「ちょっと、外、行ける?」
「えっ?でも、ここ離れられないです」
「ちょっとだけ、ね?」
「でも…」
「早く!緒方と直輝が戻ってくる」

ガタッと立ち上がり僕の手を掴むと、近くの階段を駆け下りる。そのまま渡り廊下を通って、第三校舎の二階へ。特別教室の並ぶ廊下を進み、理科準備室へ。

どうしてここが開いているのか?
どうして開いていることを知っているのか?
その前に、どうしてここまで連れてこられたのか?
直輝の事で相談?僕に相談したって、どんな相談だろうと解決なんかしない。本人でさえ僕に相談なんて持ちかけないだろう。それがどうして直輝の先輩にそんなこと言われるんだろう?

先輩は準備室に入り戸を閉めた。僕の前に立ち、肩を持った。近い!顔を覗き込むように身を屈める。近いって!

「早速だけど、直輝の事はどう思ってるの?」
「どう言う意味ですか?」

丸岡に頼まれたのだろうか?どうかして僕と直輝の関係を知ってしまい、この先輩に頼んで、それで今日という日にもう近づくなと忠告に来たんだ。

「ただのクラスメイトです」

そうだよ。認めてはいけない。僕の気持ちなんて、関係ない。直輝の汚点になりたくない。

「話がそれだけなら…失礼します」
「待って!」
「な、何ですか?」

腕を持たれ、歩き出すことはできなかった。

「直輝がクラスメイトなら、俺は?俺の事はどう思う?好きになることはできる?これから、付き合う前提で会ってくれない?」

よく見ると、少し垂れ目の面長で、端整な顔立ちのイケメンさんだった。癖っ毛なのかウエーブのある髪がさらりと揺れる。

「あの……へっ?」
「直ぐに付き合ってくれなくていい。だだ、俺たちは接点がないから…。一緒に映画観たり、出掛けたりできたら良いなって思って」
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