彼氏未満

茉莉花 香乃

文字の大きさ
14 / 40
文化祭は猫日和

04

しおりを挟む
何を言われているか理解できない。付き合うって?それの意味するところは?男同士で学校帰りに、ゲーセン行こうぜってノリとは違うような気がする。

「好きなんだ」
「はぁ?」

何だ…揶揄われてるんだ。

男に興味があって、直輝と付き合ってたなら自分とも…ってことなのか?好きだなんて、心にもないことを言うのも、一応気を使ってくれてるのかもしれない。押し倒されなくて良かったのかな?

ヤバい、涙出そう。あの時直ぐに了解したのは、直輝が好きだったから。もしかしたら、チョロかったですよ…何て直輝から聞いたのだろうか?益々やさぐれた気分になる。心のどこかで直輝がそんなこと言うはずないと思いながらも、この状況に気持ちが付いていかない。このまま、ここに居たくない。

「あの、ごめんなさい。失礼します」

腕を振って離れようとするけれど、筋肉の付いてない細い腕では、到底敵うわけない。

「待ってって」
「無理です」
「友だちからで良いから、ね?」
「ごめんなさい」

そんなこと言いながら、力で従わせようとする。ギリギリと掴まれた腕が痛い。押し倒されたら無理やりスルことぐらい、簡単だろう。

怖い。

いくら彼女ができるまでの相手でも、直輝とは合意だったし、僕が望んだことだった。嫌なことはされなかったし、優しく抱いてくれた。幸せだった。

でも、ほぼ初対面の名前も知らない人に組み敷かれるのは、嫌だ。ポロリと涙が落ちた。

「ごめん!怖がらせるつもりはなかったんだ」

先輩の腕が僕の身体を包む。その腕は強引ではあるけれど、優しいものだった。でも、プチパニックの僕にはそれは恐ろしい腕のように感じ、益々涙が出る。
硬直した身体と恐怖で縮こまった心では、突き飛ばしてここから出て行くって選択肢は、選ばれなかった。大人しくなったと思ったのか、先輩は僕の髪を撫でる。僕はと言うと、それすらも気持ち悪く、怖かった。

「井上~」
「安村!井上先輩、どこですか?安村!」

直輝ともう一人の先輩が探してくれているようだ。
二人の声が理科準備室の前を通り過ぎる。

「こ…」

ここだよと声を出そうとしたけど、口を塞がれてできなかった。

「ごめん。大丈夫だよ。何もしないから」

何もしないと言いながら、僕の口を塞ぐ手は離れない。二人の足音は遠去かり、階段を下りたか上ったか、二階からは離れたようだった。

「んっ、んっ!」
「ああ、ごめん。苦しかった?」
「はぁ…」

呼吸を整えて後ろにいる人を見る。顔を見上げ、睨んでみる。苦笑いのイケメンが鼻先を人差し指でかいた。

「どうして?」
「だって、安村くんに会いに行くのさえダメだって言うんだよ?話したいなんて、絶対許してくれない。それに、ただのクラスメイトなら、直輝にそんな権限ないしね。今は…そうなんだよね?」
「誰が?」
「ん?会うなって言ったの?」
「はい」
「緒方と直輝。緒方は直輝に頼まれたんだと思うけど」

どうして直輝が僕とこの人を合わせたくないのかわからないけど、この人が僕に会いたい理由もわからない。さっきの『好き』と言うのは僕を揶揄うため。じゃあ、揶揄うためだけに会いたいとか?そんな変な人が存在するとは…。いや、目の前に居るのか?

直輝と先輩の声が遠くから聞こえる。ガタガタと一つずつ扉か開くかを確かめているのか、乱暴な音と『クソッ!』『何処だよ?!』と荒々しい声が響く。

「こ…んっ…」

目の前の趣味の悪い人と一緒に居たくなくて、声を出そうとしたけれど無駄だった。流石、運動部。素早い運動神経で、再び口を塞がれた。

「ごめん。こっち来て」

口を押さえたまま後ろから拘束されて、無理やり歩かされる。

「早く!」

言うことを聞きたくなくて、足を突っ張って抵抗する。

「直輝が来るから!ああっ、もう!」

怒ったように叫ぶと、僕の脇と膝裏を持って抱き上げ、歩き出した。

「いや!」
「静かにして」

その時、ガラッと戸が開いた。

「井上先輩!」
「あ~あ、見つかった」
「返してもらいます」
「こいつ、お前の?」

口調から直輝は怒っているようだ。その怒った直輝を挑発するような先輩の口ぶり。僕からは直輝が見えない。今の質問に、直輝の返事はなく、こちらに近づく足音だけが響く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

不倫の片棒を担がせるなんてあり得ないだろ

雨宮里玖
BL
イケメン常務×平凡リーマン 《あらすじ》 恋人の日夏と福岡で仲睦まじく過ごしていた空木。日夏が東京本社に戻ることになり「一緒に東京で暮らそう」という誘いを望んでいたのに、日夏から「お前とはもう会わない。俺には東京に妻子がいる」とまさかの言葉。自分の存在が恋人ではなくただの期間限定の不倫相手だったとわかり、空木は激怒する——。 秋元秀一郎(30)商社常務。 空木(26)看護師 日夏(30)商社係長。

永久糖度

すずかけあおい
BL
幼い頃、幼馴染の叶はままごとが好きだった。パパはもちろん叶でママはなぜか恵吾。恵吾のことが大好きな叶の気持ちは、高校二年になった今でも変わっていない。でも、これでいいのか。 〔攻め〕長沼 叶 〔受け〕岸井 恵吾 外部サイトでも同作品を投稿しています。

『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで

るみ乃。
BL
聖クロノア学院で、記憶と感情が静かに交差する。 「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」 記憶を失ったベータの少年・ユリス。 彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオンだった。 封じられた記憶。 拭いきれない心の傷。 噛み合わない言葉と、すれ違う想い。 謎に包まれた聖クロノア学院のなかで、 ふたりの距離は、近づいては揺れ、また離れていく。 触れたいのに、触れられない。 心を開けば、過去が崩れてしまう。 それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。 ――やがて、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。 過去と向き合い、誰かと繋がることでしか見えない未来がある。 許し、選びなおし、そしてささやかな祈り。 孤独だった少年たちは、いつしか「願い」を知っていく。 これは、ふたりの愛の物語であると同時に、 誰かの傷が、誰かの救いへと変わっていく物語。 運命に抗うのは、誰か。 未来を選ぶのは、誰なのか。 優しさと痛みが交差する場所で、物語は紡がれる。

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

処理中です...