彼氏未満

茉莉花 香乃

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文化祭は猫日和

02

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「安村~、指名だよ」
「え~ヤダよ」

嫌だと言いながら、サンドイッチとジュースを乗せたトレイを持つ。仕方ない。引っ切り無しに客が来る。指名なんてあるはずない。おだてて僕が喜ぶと思ってるのか?余計行きたくなくなるっての!

「お待たせ致しました。タマゴサンドとオレンジジュース、ツナサンドとりんごジュースです」

しゃべりたくないけれど、必要最低限のことは仕方ない。

「あの…写真撮っても良いですか?」
「えっと…そう言うの、お断りしてるので」

またか…と溜息を吐く。目をウルウルさせた三年生のお姉さまが、スマホを握りしめお願いしますと言う。何を言っても引いてくれない。

「俺じゃダメですか?」

なんて自信満々な台詞だろう。

「じゃあ、二人でどう?」
「どうせなら、四人で撮りませんか?」
「えっ、そうしようか?」
「うん。良いじゃん」
「撮っても、どこにもアップしないで下さいね。先輩のスマホの中だけにして下さいよ」
「ちょっ!な…、馬渕!」
「良いじゃない。悪用しないって人には」
……じゃないと、客、減らないよ?

耳元で囁かれてふうっと再び溜息が漏れ落ちた。直輝との写真は僕も欲しい。…と、思ってしまうのは仕方ないことだと思うけど、自分のこんな姿を他人の元に残してしまうのがなんとも遣る瀬無い。

次々に写真を頼まれた。丁寧に断り、納得してくれた人もいたけど、さっきのお姉さんのようになかなか引かない人もいる。もしかして隠し撮りとかしてたりして…。怖い。どうしても引いてくれない人は僕一人での写真にならないように直輝が気を配ってくれた。
悪用しないで下さいねと爽やかイケメンに釘を刺されて、女子のみんなは頷いた。何の楽しみがあるのか?メイド服が好きなのか、他の女子も撮影会をしていた。

ところが、男子にも写真をお願いされてほとほと困ってしまう。それは直輝がことごとく断ってくれたからなんとかなった。多分、なんとかなったと思う。


それから程なく、僕はある問題に直面していた。

「あの、馬渕、お願いがあるんだけど」

客から見えないところへ直輝を引っ張って連れてきた。

「どした?」
「あのさ、…」
「ん?」

不思議と甘い雰囲気で僕の猫耳を避けて髪を触る。僕はそれどころじゃない。

「…トイレ、行きたいんだけど…」
「何だよ…一緒に行ってやろうか?」
「うん」
「えっ?」
「…だって…これじゃ、どっちにも入れないよ…」
「そ、そうか…。そうだよな」

交代の時間まではまだ三十分はある。そこまで我慢できない。着替えてる時間もない。着替えたって、化粧をしてると変だ。一人で校舎を歩きたくないってのも、困るところ。だから、付いてきて!と思いを込めて直輝をじっと見る。この際、振られたとか関係ない。話しかけたのは直輝が先だし。

「うっ!」
「うっ?」

ギクリとした表情は何を表すのか?嫌だったのかな?そう言えば、直輝は僕のメイド服は嫌いだった。

「ごめん。変なこと頼んで。他の人に…いや、一人で行くよ。ホント、ゴメンね」
「いや、ちょっと待ってて。先に行くなよ」

直ぐに戻ってきた直輝の手にはジャージが握られていた。僕の肩にそのジャージを掛けると肩を抱いて歩き出した。

「このまま第三校舎まで行くから。我慢できる?」
「うん、ゴメンね」
「謝らなくても良いよ」
「うん…ありがと」

肩を抱く力がぐっと強くなり、勘違いしそうになる。

第三校舎は文化祭の会場にはなっていない。一階は文化部の部室で、二、三階は特別教室になっている。渡り廊下を通って直接第三校舎の三階へ。
騒がしかった廊下が静かになり、人もまばらになった。無人ではないけれど、あの教室のような熱気はなく力が抜ける。

直輝の腕が力強く歩かせてくれるから、それに委ねる。チラチラと視線を感じるけど、気にしている場合ではない。僕には時間がないんだ!トイレに誰もいないのを確かめてもらい、急いで個室に入った。このカッコで、立ってスルなんて…ちょっとシュール過ぎて怖い。急いで用を足し、直輝と一緒に教室に戻った。

帰りも肩を抱いて歩いてくれて、嬉しいと恥ずかしいと戸惑いが心の中に嵐のように吹く。

翌日の一般公開も僕のシフトは同じだった。朝から着替えとメイクをバッチリされて、他人が鏡の中から覗き込む。部活で抜ける子がいるから、他の人は昨日とは違う。直輝も部活の方に行かなくてはならないだろうと思っていたのに、僕と一緒にいてくれた。
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