彼氏未満

茉莉花 香乃

文字の大きさ
20 / 40
素直じゃないは、正義じゃない

06

しおりを挟む
「お~い、安村、直輝、中にいるんだろう?出てこいよ」
「あっ、はい。待って、直ぐに行くから」

その声と同時に暗幕のカーテンが開き、更衣室である狭い空間に財前が入ってきた。

「お前、何で入ってくるんだよ」
「直輝、声大きいよ」
「なんだ、ちゃんと着替えてるじゃん。なかなか出てこないから、中でイチャコラしてるのかと思った」

何とかキスを終わらせ、イタズラな直輝の手と戦いながら着替えを済ませた直後だった。
危なかった。
着替えの途中ならまだ誤魔化せても、キスしてるとこは見られたくない。キス直後のぼんやりとした顔も。それが例え僕たちの事を知っている財前にも。

「財前、何言って…」

何か、聞き捨てならないことを言ったよね?

「ヨシ、これくれるんだろう?」

これとは、今まで僕が来ていたメイド服。どうして直輝がこれを欲しがるのか?

「まあ、約束だからな。他の女子もそれぞれ自分のは持って帰るけど…」
「何だよ」
「いや、もともとそれ着るはずだった子が、欲しいって言ってきたからさ」
「そっちにやるのか?」
「いや、ちゃんと断ったって。それ、安村に着せて何する気?」
「へっ?」
「何でも良いだろ?ヨシには関係ない。それともお前は吉広直志に着せたいのか?」
「バッ!バッカじゃねぇの?」
「なに?吉広ならこれ、着られると思うけど…。財前と吉広って名前繋がりだけじゃないの?」

財前の名前は義弘〈よしひろ〉。そして、吉広〈よしひろ〉の名字と名前を繋げて、財前よしひろ直志と揶揄われている。だから直輝は吉広の事をフルネームで呼ぶし、財前の事はヨシと呼ぶ。これは中学から呼んでたみたいだけど、今では決して義弘とは呼ばない。それは、財前が呼ばせないのかもしれないけれど。

「何でもない。安村、気にすんな。それより、仲直り?したんだろう?」
「おう、心配かけたな。でも、お前のせいだし」
「何言ってるんだよ。お前らがちゃんと話し合わないからだろ?まあ、な。でも、良かったんじゃないか?前より自然な感じだし」
「あの…声大きいよ?二人とも」

何度も同じこと言わせないでよ。話の内容が内容なので、あまり大きな声は歓迎できない。直接的な話はしていないけど、感の鋭い子はわかってしまうのではないかな。

「緒方先輩から伝言頼まれた。…今から一時間やるから二人で回ってこいって。但し、一時間が終われば部活の方に顔出せってさ。安村が一緒でも構わないって言ってたぞ」
「ああ、サンキュー。じゃあ、睦己、行こうか?」
「ええっ?」
「俺と回るの嫌か?」
「やっ、嫌じゃ、ない、けど……」
「安村、諦めろ」
「財前まで…」
「二人がごちゃごちゃしてた時、直輝は部活で使い物にならなかった。それだけお前が気になるんだ。クラスでは普通にしてたけど…いや、あれは普通じゃなかったけどさ。今日くらいは目の届くとこに居てやれよ。昨日も大変だったんだぞ?」
「えっ?」
「ヨシ!睦己、何でもないから!」
「いやさ~心ここに在らずで…」
「ヨシ!」
「わかったよ。だから、な?安村」
「う、うん。…わかった」

そこまで言われて断ることもできない。ここで嫌だと言えば、また繰り返しになってしまう。今度は二度と修復できない別れが待っているかもしれないと思うと、今までの僕の態度を改めなくてはならないのはわかっているんだ。

それに、直樹の顔を見ると、情けなさそうな、懇願するような目で僕を見る。これは心配されているんだろう。トイレで聞いたことが真実なのだ。大好きな人のそんな顔を見たら、嫌だなんて言えるわけない。

簡易更衣室を出て、『使用中』の札を外す。一応、女子にも声をかけて、終わったことを知らせる。もうここを使うことはない。

今までならあり得ない近さでしゃべる僕たちを、周囲はそんなに気にしてはいなかった。

僕が意識し過ぎてたのかな?まさか付き合ってるとは思ってないからの対応なのだろう。やはり、警戒はしないといけない。でも、今までと同じではダメなのだろう。直輝が許してくれそうもないし、僕も嫌だ。

学校で直輝と過ごす楽しさを知ってしまった。体育で一緒に柔軟したり、直樹の作った弁当を食べるのは嬉しかった。今度は一緒に帰ったり、部活の見学もしてみたい。…陰から見るのではなく、もうちょと近くで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

不倫の片棒を担がせるなんてあり得ないだろ

雨宮里玖
BL
イケメン常務×平凡リーマン 《あらすじ》 恋人の日夏と福岡で仲睦まじく過ごしていた空木。日夏が東京本社に戻ることになり「一緒に東京で暮らそう」という誘いを望んでいたのに、日夏から「お前とはもう会わない。俺には東京に妻子がいる」とまさかの言葉。自分の存在が恋人ではなくただの期間限定の不倫相手だったとわかり、空木は激怒する——。 秋元秀一郎(30)商社常務。 空木(26)看護師 日夏(30)商社係長。

永久糖度

すずかけあおい
BL
幼い頃、幼馴染の叶はままごとが好きだった。パパはもちろん叶でママはなぜか恵吾。恵吾のことが大好きな叶の気持ちは、高校二年になった今でも変わっていない。でも、これでいいのか。 〔攻め〕長沼 叶 〔受け〕岸井 恵吾 外部サイトでも同作品を投稿しています。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

小石の恋

キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。 助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。 なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。 果たして律紀は逃げ切ることができるのか。

処理中です...