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素直じゃないは、正義じゃない
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「うん。それは俺の側に居てくれたら嬉しいけどさ…」
「ん?あの…、迷惑?」
「違うって。今回、少し離れてみてさ、教室での睦己がよく見えた。俺も睦己が警戒して誰も近づけないのを良しとしてたけど、それじゃダメなんだってわかったから」
「自分じゃわからないけど」
「俺もそうだよ。孤立してるわけじゃないし、いざとなったら俺がって、思ってたからさ。でも、誰にも警戒せずに接する睦己を見てたら、ああ、これも睦己の一面なんだなって思ったんだ。俺には見せない顔をしてるのは、はっきり言って癪だけど…」
そこで言葉を切って、耳元で小さな声で続けた。
「俺だけしか知らない睦己はいっぱいあるから。美味しいもの食べる幸せそうな顔とか、俺に向けるとろける笑顔とか、めちゃエロい顔とか」
「なっ!」
昨日のトイレに連れて行ってくれた時と同じで、肩を抱いてもらい、廊下を歩く。昨日はあったジャージが無くて、僕の格好はかなり目立つ。
第三校舎の二階から三階に上がり、渡り廊下を過ぎれば視線が気になり俯きがちになる。直輝の歩調に合わせ身を委ねる。そうすると僕は小走りになってしまうけれど、早く教室に隠れたかった。
提供するサンドイッチや飲み物の準備のための教室。客席になっている教室の隣にある。多目的に使われるこの教室が丁度隣にあり、使わせてもらっている。その教室に逃げるように入った。
「あの、急に消えてごめんね」
僕と一緒に入ってた女子に一応謝りの言葉を口にする。
「あっ、安村、お疲れ。急にいなくなったから、心配したけど、こっちは大丈夫だったから。今から着替える?ちょうど空いたからさ、ここ使っていいよ」
「ありがと」
いろんなもので区切られた着替えるための空間。本来なら女子ばかりの着替える場所だけど、僕が入ったことにより、入り口に『使用中』の札をぶら下げるフックが付いている。その『使用中』の札を下げ、一畳ちょっとの狭い場所に入る。
「どうして一緒に入るの?」
僕が入ったすぐ後ろから、笑顔の直樹が続く。
「ん?着替えを手伝うためだよ?」
入って、カーテンを引いて、みんなの視線がなくなった途端抱きしめられた。
「ひ、一人でも着替えられるよ?」
周りに聞こえないようにヒソヒソとしゃべる。
「睦己、キスしよ?」
「えっ?」
「ちょっとだけ。ね?」
耳元で誰にも聞こえない音量だけど、僕には大きなその声に震えた。
男子でここを使うのは僕だけで、『使用中』の札は僕だけのもの。もともと男子がここに入る必要はなく、札がかかっている限り女子が入ってくることはない。衝立と机と暗幕などで作られたここは、視界だけは遮られているもののすぐそこで、サンドイッチや飲み物を用意する音や声が聞こえてくる。
向こうの音が聞こえるということは、こちらのも周りに聞こえるということだ。まさか、聞き耳を立てている人がいるとは思えないけれど、こんな場所で……。いや、トイレではいっぱいキスしたけどさ。ここは違うでしょ。
でも、直輝の顔を見ると、どうしても言うことを聞いてしまう。別れていた分を取り戻すように、離れていたくない気持ちは僕にもある。学校では極力近寄らなかった過去の自分からは想像もできない近さ。
「ちょっとだけだよ?」
「うん」
触れる唇が気持ち良い。
音を立てないように、響かないように……。
直輝の舌が唇をなぞる。舌先を尖らせて刺激する。
「直輝…」
「もうちょっと」
「うん」
「睦己、好きだよ」
「うん。僕も…」
囁き合う声すらも淫靡な響きがして、ブルっと甘い痺れが背中を抜ける。舌が口内に入り、絡む。
声を出さないように、溺れないように……。
「んっ、ふっ」
舌を甘噛みされ、上顎の内側の敏感な粘膜を執拗に刺激されて、たまらない。
声が漏れる。力が抜ける……。
直輝に縋り付き、立っているのがやっとだ。腰を力強く持たれ、空いている腕は上半身を支えてくれる。全身で直輝を感じ、幸せに包まれた。
「ん?あの…、迷惑?」
「違うって。今回、少し離れてみてさ、教室での睦己がよく見えた。俺も睦己が警戒して誰も近づけないのを良しとしてたけど、それじゃダメなんだってわかったから」
「自分じゃわからないけど」
「俺もそうだよ。孤立してるわけじゃないし、いざとなったら俺がって、思ってたからさ。でも、誰にも警戒せずに接する睦己を見てたら、ああ、これも睦己の一面なんだなって思ったんだ。俺には見せない顔をしてるのは、はっきり言って癪だけど…」
そこで言葉を切って、耳元で小さな声で続けた。
「俺だけしか知らない睦己はいっぱいあるから。美味しいもの食べる幸せそうな顔とか、俺に向けるとろける笑顔とか、めちゃエロい顔とか」
「なっ!」
昨日のトイレに連れて行ってくれた時と同じで、肩を抱いてもらい、廊下を歩く。昨日はあったジャージが無くて、僕の格好はかなり目立つ。
第三校舎の二階から三階に上がり、渡り廊下を過ぎれば視線が気になり俯きがちになる。直輝の歩調に合わせ身を委ねる。そうすると僕は小走りになってしまうけれど、早く教室に隠れたかった。
提供するサンドイッチや飲み物の準備のための教室。客席になっている教室の隣にある。多目的に使われるこの教室が丁度隣にあり、使わせてもらっている。その教室に逃げるように入った。
「あの、急に消えてごめんね」
僕と一緒に入ってた女子に一応謝りの言葉を口にする。
「あっ、安村、お疲れ。急にいなくなったから、心配したけど、こっちは大丈夫だったから。今から着替える?ちょうど空いたからさ、ここ使っていいよ」
「ありがと」
いろんなもので区切られた着替えるための空間。本来なら女子ばかりの着替える場所だけど、僕が入ったことにより、入り口に『使用中』の札をぶら下げるフックが付いている。その『使用中』の札を下げ、一畳ちょっとの狭い場所に入る。
「どうして一緒に入るの?」
僕が入ったすぐ後ろから、笑顔の直樹が続く。
「ん?着替えを手伝うためだよ?」
入って、カーテンを引いて、みんなの視線がなくなった途端抱きしめられた。
「ひ、一人でも着替えられるよ?」
周りに聞こえないようにヒソヒソとしゃべる。
「睦己、キスしよ?」
「えっ?」
「ちょっとだけ。ね?」
耳元で誰にも聞こえない音量だけど、僕には大きなその声に震えた。
男子でここを使うのは僕だけで、『使用中』の札は僕だけのもの。もともと男子がここに入る必要はなく、札がかかっている限り女子が入ってくることはない。衝立と机と暗幕などで作られたここは、視界だけは遮られているもののすぐそこで、サンドイッチや飲み物を用意する音や声が聞こえてくる。
向こうの音が聞こえるということは、こちらのも周りに聞こえるということだ。まさか、聞き耳を立てている人がいるとは思えないけれど、こんな場所で……。いや、トイレではいっぱいキスしたけどさ。ここは違うでしょ。
でも、直輝の顔を見ると、どうしても言うことを聞いてしまう。別れていた分を取り戻すように、離れていたくない気持ちは僕にもある。学校では極力近寄らなかった過去の自分からは想像もできない近さ。
「ちょっとだけだよ?」
「うん」
触れる唇が気持ち良い。
音を立てないように、響かないように……。
直輝の舌が唇をなぞる。舌先を尖らせて刺激する。
「直輝…」
「もうちょっと」
「うん」
「睦己、好きだよ」
「うん。僕も…」
囁き合う声すらも淫靡な響きがして、ブルっと甘い痺れが背中を抜ける。舌が口内に入り、絡む。
声を出さないように、溺れないように……。
「んっ、ふっ」
舌を甘噛みされ、上顎の内側の敏感な粘膜を執拗に刺激されて、たまらない。
声が漏れる。力が抜ける……。
直輝に縋り付き、立っているのがやっとだ。腰を力強く持たれ、空いている腕は上半身を支えてくれる。全身で直輝を感じ、幸せに包まれた。
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