彼氏未満

茉莉花 香乃

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それでも素直になれなくて…

03

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二度目に顔を合わせた時だった。
お前の家じゃないんだから早く帰れと思いながら、置いてあった料理を食べた。母親は出掛ける準備をしながら、男に構って欲しそうに纏わり付く。時折キスをして軽くなし、ヘラヘラしている。

母親を取られて嫌とか、そんな感情は一ミリもない。本番を見たり声を聞くのは嫌だけど、それは他人のそんなものを見る趣味が無いだけ。母親なら尚更だ。

男、樽本はテレビを見て一人で笑っている。時々それ美味いだろ?と話しかけてくるから、曖昧に頷いた。母親は仕事に行った。同伴出勤するものとばかり思っていたのに一緒には行かなかった。不機嫌な母親は悪態を吐きながら、それでも嫌らしい笑みを浮かべて出掛けた。

「僕、お風呂入るんで、もう帰ってください」
「ああ、わかったよ」

落ち着かないまま、身体と髪を洗い、急いで着替えた。パジャマなんか着られない。もし、まだ樽本が居たらコンビニにでも行こうと出掛ける格好にした。それは、まあ、正解だった。一畳ほどの脱衣場から出ると、いきなり抱きしめられた。

「やっ、やめてください!」
「良いじゃない。俺と楽しいことしよう」
「やめて!」
「初めてなんだろ?俺が教えてやるから、な?」
「なんでこんなこと!」
「お前のママに、お許しは貰ってるんだよ」
「僕は許してない!」
「そんなこと言って、良いのかな?」
「そんなの知らない」

母親が僕を樽本に売った。最悪だ。もしかしたらと玄関近くに鞄を置いておいて良かった。こんな感、当たって欲しくないよ。掴んだ鞄を振り回し、無我夢中で外に出た。何かに当たったような気がしたけれど、確かめることはできない。

しばらくして、何度かアパートの見える場所まで戻り、電気が点いているか見た。電気を点けたまま出掛けた可能性もある。けれど、もし、消えていても寝ている可能性もある。何度かアパートを見て、電気が消えてから一時間経ってから静かに鍵を開けた。少しだけドアを開け樽本の靴がないのを確かめてから中に入った。

「なあ、最近、疲れてない?何か、痩せた気がする」

いつもの昼。僕の前には直輝が座ってる。隣の吉広が心配そうに聞いてくれる。直輝も何か言いたそうに僕を見る。

樽本が居ない隙を見つけて何度かアパートに帰った。勉強に必要な教科書類は学校に、着替えなどは最低限の物を鞄に詰め込んで持ち歩く。

でも、もう疲れた。

そんな生活ももうすぐ一週間になる。樽本が居ない夜はアパートで寝たけれど、何かあった時に外に出られるようにパジャマなんか着られないし、熟睡することはできなかった。ファミレスや公園で夜を明かしたこともある。冬でなくて良かった。

直輝と喧嘩をして約二週間。財前に、直輝はムキになってると言われたけれど、何に対してムキになってるのか、僕の何が悪いのか未だにわからなかった。

「あの、話があるんだけど…」

財前、吉広、神崎が午後からの授業について大きな声で話している間に直輝に話しかけた。もしかしたら無視されるかもと思ったけれど、頷いてくれた。

弁当をしまい、二人で教室を出た。中庭のベンチに座る。立っているのが辛かった。直輝は目の前に立つ。

「あの…もう、別れて?僕の事、嫌いなら、その方が、直輝も良い、んじゃない、かな?」

つっかえつっかえ、何とか言いたいことを言うことができた。

「な、何言ってる?俺は別れない」
「そんな…」

拒まれるとは思わなかった。もう樽本に抱かれても良いかなと思い始めていた。自分の家に帰れない、こんな状況でテストなんて受けられない。樽本はまだ諦めていないし、母親が守ってくれることはない。

ただ一つ、直輝と付き合っているままでは嫌だった。今の状態が果たして付き合っていると言えるのかさえ疑問だけれど。

付き合っている今よりも、文化祭前のあの時の方がマシだった。終わったと嘆いたけれど、直輝は優しかったし、直ぐに復縁した。今は学校でしか会えない。

もう、別れたも同じなのに、直輝の負担になりたくない。これ以上、弁当を一緒に食べるのも申し訳ない。何故今も作ってきてくれるのか?一緒に食べているのか?僕の栄養のほとんどは直輝の弁当だった。これが無くなると、金銭的にも苦しいし、身体にも悪いだろう。でも、もう甘えるわけにはいかない。神崎や吉広も心配してくれる。

「ありがとう。直輝は優しいから、僕の事、心配してくれてるんだろ?でも、悪いよ。もう、良いよ。僕が悪いんだろ?何が原因かわからなかったけど…。ごめんね。楽しかった。ありがとう。好きだったよ」

今も好き。

でも、過去形でしか言えない。

涙が出て、直輝の顔を見られない。

「ちょっ、俺は別れないから。放課後、話そ?」
「ううん。もう良いよ、ありがとう」

涙を流しながら、最後は笑顔で別れたいと思い、頑張って表情筋を動かした。

上手く笑えただろうか?

僕の涙が移ったのか、泣きそうな直輝がそこに居た。
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