彼氏未満

茉莉花 香乃

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それでも素直になれなくて…

04

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「部活終わるまで待ってて。一緒に帰ろ?」

約二週間、僕にはあまり話しかけることが無かったのに、昼から時間があれば、同じことを言いに来た。僕が部活の見学に行けなくなっても、何も言わなかったのに。部活に行く前にも待っててと言ってくれたけど、もう直輝の優しさに頼るわけにはいかない。

「ありがと…」
「絶対、待ってて!」
「う、うん」
「お願い!」
「でも、もう良いんだよ?」
「そんなこと言わないで。俺が、俺が悪かったから。な?」
「うん…でも…」
「ごめん、謝るから。俺が悪かったから」

何故か必死で訴える。

どうしたんだろ?もっと違う別れ方のほうが良かったのかな?自分から言いたかったとか?

「あー!今日、休もうかな」
「そんなのダメだよ」
「じゃあ、行くから。絶対に約束だよ」

最後にこんな優しい顔を見ることができた。

やっぱり好き。

抱きしめて欲しい。
キスして欲しい。

樽本にされるのは嫌だ。想像するだけで身震いする。

ぐるりと回り込んで、グラウンドの横を通らずに学校を後にした。

高校、ちゃんと卒業できるだろうか?バイトして、あのアパートから出よう。高校生がアパートって借りられるのかな?わからないことだらけで気が滅入る。

今までにバイトしとけば良かった。そしたら少しは建設的な考えもできたかもしれない。時間はいっぱいあったのに。入学直後はバイトしようと思ってた。でも、直輝とのことが一番だった。会いたいと言われればいつでも会えるように、僕の時間の全てが直輝のためにありたかった。

こんな依存が嫌だったのかな?今更考えても仕方ない。グズグズと駅ビルの本屋で時間を潰して、なかなか帰ることができなかった。暗くなってきたので、本屋を出た。単行本を探すフリをして本を開き、字面を追っていたけれど、頭には何も残っていない。

覚悟を決めて、アパートに帰る。

直輝以外とそんなことができるとは思えない。気持ちが残っているから尚更だ。でも、仕方ない。

重い足を引きずって歩く。居ないと良いな…。母親の出勤時間は過ぎている。それでも明かりが灯っていれば……それは、奴が居るということだ。

祈り虚しく、明かりは点いていた。鍵を開け、革靴があるのに溜息が漏れる。

「ただいま」

モゴモゴと口の中だけの挨拶をする。誰かに聞かせることのない、いつもの僕だ。母親が寝ていることが多かったから、小さな頃からの癖。

「いやー、そろそろだと思ってたんだよ」

そうなんだ。直輝の弁当がなかったら、とっくにここに帰って来なければならなかっただろう。

お金が底を尽きた。先日こっそり帰った時に見たけど、いつも置いてあるところにお金がなかった。樽本の仕業か母親のせいか。

「でも、もう少し早いと思ってたけど、案外頑張ったんだね」
「そうですね」
「俺がいる時間に帰ってきたと言うことは、覚悟ができたってことで良いのかな?」
「覚悟なんかするわけないでしょ?」
「なぁんだ。でも…」
「やっ!」

腕を掴まれて、床に押し倒され、抑え込まれた。

「僕、初めてじゃないですよ?初めてだから、興味持ったんじゃないんですか?残念でしたね」
「おや、もう経験済み?でも、俺の初めては中学の時だったから、高校生なら、まあ…普通…」
「僕、まだ童貞です。処女じゃないってことです」
「へぇ…そうなんだ」
「もう、興味も薄れたでしょ?離してください」

これで諦めてくれたら良いけれど。
何もこんなこと喜んで他人に教えたくはない。普通なら絶対に口にしないことだ。でも、背に腹は変えられない。

「そんなことないよ…。そりゃ、睦己くんの初めてを誰かに取られたのは癪だけど、その分可愛く啼いてくれるんだろ?」
「やっ!やめて…嫌だ…」

いきなり制服のブレザーのボタンを乱暴に外し、シャツを捲り上げた。這い回る手と舌が気持ち悪い。

直輝に触られたらどこだって気持ち良かったのに、快感も感情に左右されるものなんだ。

でも、そんな悠長なことを考えられたのも、しばらくの間だけだった。やはり直接的な刺激は快感に直結している。乳首に歯を立てられ、舌で転がされたら嫌でも下半身に熱が溜まる。

「嫌だ!直輝!直輝っ!やめて!助けて!」

泣かないと決めていたのに、次から次にポタポタと涙が落ちる。感じたくなくて、首を左右に振った。

喘ぎ声を出したくなくて、ただ直輝の名を呼んだ。
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