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それでも素直になれなくて…
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今更助けを求めても誰もいない。覚悟を決めて帰ってきたのに、往生際が悪いな…、情け無い。でも、怖い。直輝以外の手に触れられることに、好きでもない男のすることに感じてしまうこの身体が怖い。
「嫌だ!直輝!助けて!」
「直輝って誰?」
「誰でもいいだろう」
「いや、気になるよ。今は俺と楽しいことしようとしてるのに、他人の名前ばかり呼ばれちゃ、萎えちゃう」
「じゃあ、離して!」
「そうだな。煩い口は塞いじゃおうか?」
「嫌だ!」
もうダメだ。スラックスのポケットからハンカチを出して僕の口に入れようとする。歯を食いしばってハンカチを拒んだ。
でも、塞がれてる間はキスされないよね?幸い、まだ、唇へのキスはされていない。それだけは本当に嫌だった。変な声も出ない。このまま逃れられないなら、いっそ猿轡でも何でもしていた方が楽なのかもしれない。ネクタイを外し、ハンカチが出ないように口を押さえ括り付ける。
直輝、好きだよ、今も大好き
直輝、会いたい
直輝、離れたくない
直輝、キスして
直輝、抱きしめて
直輝、直輝、直輝………
ドンドンと乱暴に玄関ドアを叩く音がする。
「睦己!中に居るんだろ?開けてくれ!睦己」
「んー、んー」
「睦己!どうしたんだよ!大丈夫か?睦己」
樽本はしばらくは知らないふりをしたけれど、電気が点いているから室内に人がいるのは明白だった。
荒々しい音と僕を呼ぶ声は絶え間なく続く。樽本が誰だと怒りながら立ち上がった。直輝だ。僕の事を睦己と呼ぶのは直輝だけ。声も正しく直輝のものだ。約束を無視したのに、ここまで来てくれた。もうそれだけで十分だった。
猿轡なんかさせるんじゃなかった。たった今、半分は自分から受け入れたことを後悔する。こんな姿を見られたくない。嫌いになって別れた後でも、軽蔑まではされたくない。
上半身を淫らに乱し、口にハンカチ詰め込まれた惨めな姿。こんな僕を見て、どう思うだろう。一旦止まっていた涙が溢れた。洪水のように次から次から止まらない。服を元に戻し後ろで括られたネクタイを解きながら、動かない身体を少しずつ動かして、玄関から死角になる場所へ移動する。
ガチャっとドアから開閉音が響いた。樽本はまだドアに手をかけていない。鍵がかかっていなかった。
「睦己!」
猿轡を何とか外し、唖然と直輝を見上げる。開け放たれたドアから真っ直ぐに僕を見る。身体が思うように動かなくて、隠れることができなかった。もし隠れていても、樽本を押しのけて部屋に入って来た直輝には、狭いアパートでは直ぐに見つかっただろう。
何度もここに来てくれた。もう随分前のことのように感じる。あの甘い時を思い出すと余計に泣けてくる。
「なお、き…」
動けないから、ズルズルと手を使い後ずさりする。
「睦己、俺の事、呼んだよな?聞こえたんだ。助けてって!」
「えっ…」
両手を広げ近付いて来る。この腕の中に入っても良いだろうか?
こんな僕をまだ好きでいてくれるのだろうか?
離れていたのは、嫌いになったからじゃないの?
「良いの?僕、邪魔臭い奴だよ。母親に売られた情けない奴だよ?」
「情けなくなんかない」
直輝に触れようと両手を伸ばした。
「お前、誰だよ」
樽本の冷めた声が響く。
「誰の許可を得てこの部屋に入ったんだ」
「俺は睦己に呼ばれたんだ」
「お前が『ナオキ』か。睦己くんには了解してもらっている。合意だよ。わかったら帰ってくれないか?男だったらわかるだろ?」
「こんなのが合意なわけないじゃないか!こんなに怯えて、こんなに泣いて」
「それは、お前が入って来たからだよ。秘め事は他人に見られたくないと思うだろう?まあ、中には見せたがる奴もいるけど。睦己くんは恥ずかしがり屋なんだ。折角、可愛い姿を見せてくれてたのに、台無しだ。お前にも見られたくないんじゃないかな?それとも見たい?俺は見学者がいてもいいけど」
「睦己がそんなこと、するわけないだろ!」
どうしよう。無理やりではあるけど、そうするしかないように仕向けられたとしても、自分の意思でここに帰ってきた。
これは合意なのだろうか?助けてと叫びたい。さっきは届かないと思って名前を呼んだ。目の前の直輝に同じように名前を呼んで縋りたい。
でも、ここで直輝が助けてくれたとしても、何も変わらない。
今日は良かったとしても、僕が置かれた状況は、何も、何も変わらないんだ。
上げていた手を下ろした。
「……直輝……帰っ、て?」
「嫌だ!直輝!助けて!」
「直輝って誰?」
「誰でもいいだろう」
「いや、気になるよ。今は俺と楽しいことしようとしてるのに、他人の名前ばかり呼ばれちゃ、萎えちゃう」
「じゃあ、離して!」
「そうだな。煩い口は塞いじゃおうか?」
「嫌だ!」
もうダメだ。スラックスのポケットからハンカチを出して僕の口に入れようとする。歯を食いしばってハンカチを拒んだ。
でも、塞がれてる間はキスされないよね?幸い、まだ、唇へのキスはされていない。それだけは本当に嫌だった。変な声も出ない。このまま逃れられないなら、いっそ猿轡でも何でもしていた方が楽なのかもしれない。ネクタイを外し、ハンカチが出ないように口を押さえ括り付ける。
直輝、好きだよ、今も大好き
直輝、会いたい
直輝、離れたくない
直輝、キスして
直輝、抱きしめて
直輝、直輝、直輝………
ドンドンと乱暴に玄関ドアを叩く音がする。
「睦己!中に居るんだろ?開けてくれ!睦己」
「んー、んー」
「睦己!どうしたんだよ!大丈夫か?睦己」
樽本はしばらくは知らないふりをしたけれど、電気が点いているから室内に人がいるのは明白だった。
荒々しい音と僕を呼ぶ声は絶え間なく続く。樽本が誰だと怒りながら立ち上がった。直輝だ。僕の事を睦己と呼ぶのは直輝だけ。声も正しく直輝のものだ。約束を無視したのに、ここまで来てくれた。もうそれだけで十分だった。
猿轡なんかさせるんじゃなかった。たった今、半分は自分から受け入れたことを後悔する。こんな姿を見られたくない。嫌いになって別れた後でも、軽蔑まではされたくない。
上半身を淫らに乱し、口にハンカチ詰め込まれた惨めな姿。こんな僕を見て、どう思うだろう。一旦止まっていた涙が溢れた。洪水のように次から次から止まらない。服を元に戻し後ろで括られたネクタイを解きながら、動かない身体を少しずつ動かして、玄関から死角になる場所へ移動する。
ガチャっとドアから開閉音が響いた。樽本はまだドアに手をかけていない。鍵がかかっていなかった。
「睦己!」
猿轡を何とか外し、唖然と直輝を見上げる。開け放たれたドアから真っ直ぐに僕を見る。身体が思うように動かなくて、隠れることができなかった。もし隠れていても、樽本を押しのけて部屋に入って来た直輝には、狭いアパートでは直ぐに見つかっただろう。
何度もここに来てくれた。もう随分前のことのように感じる。あの甘い時を思い出すと余計に泣けてくる。
「なお、き…」
動けないから、ズルズルと手を使い後ずさりする。
「睦己、俺の事、呼んだよな?聞こえたんだ。助けてって!」
「えっ…」
両手を広げ近付いて来る。この腕の中に入っても良いだろうか?
こんな僕をまだ好きでいてくれるのだろうか?
離れていたのは、嫌いになったからじゃないの?
「良いの?僕、邪魔臭い奴だよ。母親に売られた情けない奴だよ?」
「情けなくなんかない」
直輝に触れようと両手を伸ばした。
「お前、誰だよ」
樽本の冷めた声が響く。
「誰の許可を得てこの部屋に入ったんだ」
「俺は睦己に呼ばれたんだ」
「お前が『ナオキ』か。睦己くんには了解してもらっている。合意だよ。わかったら帰ってくれないか?男だったらわかるだろ?」
「こんなのが合意なわけないじゃないか!こんなに怯えて、こんなに泣いて」
「それは、お前が入って来たからだよ。秘め事は他人に見られたくないと思うだろう?まあ、中には見せたがる奴もいるけど。睦己くんは恥ずかしがり屋なんだ。折角、可愛い姿を見せてくれてたのに、台無しだ。お前にも見られたくないんじゃないかな?それとも見たい?俺は見学者がいてもいいけど」
「睦己がそんなこと、するわけないだろ!」
どうしよう。無理やりではあるけど、そうするしかないように仕向けられたとしても、自分の意思でここに帰ってきた。
これは合意なのだろうか?助けてと叫びたい。さっきは届かないと思って名前を呼んだ。目の前の直輝に同じように名前を呼んで縋りたい。
でも、ここで直輝が助けてくれたとしても、何も変わらない。
今日は良かったとしても、僕が置かれた状況は、何も、何も変わらないんだ。
上げていた手を下ろした。
「……直輝……帰っ、て?」
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