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それでも素直になれなくて…
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「睦己?何言ってるんだよ」
「ほら、帰りな。睦己くんも言ってるだろ?」
「あんたが言わせてるんだろ?睦己が自分からそんなこと、するはずない!」
「直輝…僕は……じ」
「睦己!俺は知ってる。睦己は好きでもない男と、俺以外の男とそんなことできないって。そうだろ?」
「僕は…」
「俺を頼れよ!睦己から言ってくれるの、待ってたのに。困ってたんだろ?気付いてやれなくて悪かった。俺がガキだから、ムキになって。睦己から頼ってくれるまでって。それなのに、頼るどころか別れるって…」
「ほぉ、別れたんだ。じゃあ、お前は関係ないだろ。お前が邪魔者だ、帰れよ。ほら、睦己くん、続きをしようか。折角いいところだったのにね。おいで」
樽本が僕に手を伸ばす。
「おい!やめろ!汚い手で睦己に触んな!母親に売られたって言ったよな?じゃあ、やっぱり同意なんかじゃない!睦己、こっちだよ。俺のそばにおいで?こんなとこ居なくていい。おい、おっさん!警察呼ぶぞ?おっさんは強制わいせつ罪って知ってるか?そんないいスーツ着て、警察なんか呼ばれたら仕事ヤバいんじゃないの?結婚してんの?奥さんにバレたら離婚かな?慰謝料たんまり取られるな。ちゃんと用意しといた方がいいんじゃない」
樽本を牽制しながら僕の前に座る。そして…ふわりと抱きしめてくれた。
「…直輝っ!怖かった!怖かったよ…ごめんね…ありがと…」
「良いんだよ。俺の方こそごめん」
樽本は警察を呼ばれたら困るからか、今は諦めたのか帰っていった。
シャワーを浴びて樽本に触られた身体を綺麗にする。途中で直輝が入ってきて、久しぶりに一緒に狭い浴槽に浸かった。
身動きが取れないし、密着しないと入れない。背中に直輝の身体を感じ、長い間一人きりだったので、この安心感に涙が出そう。直輝に抱きしめられたまま、今の状況を確認する。
「あの…聞いても、良い?」
「何を?」
「最初に怒った理由」
「ああ、やっぱりわかってないんだよな。って言っても大した理由じゃないんだ」
「うん」
「こんなに長い間、喧嘩していたくなかったんだけど。ごめん。今となっては俺が全部悪いから」
「ううん。そんなことない」
「睦己はさ、いろんな奴からアプローチされてるの気付いてた?」
「へっ?そんなの知らないけど?」
「やっぱ、そうなんだな。はぁ…」
「えっ?ど、言う、こと?」
「俺はさ、睦己がのらりくらりと気の無い返事で、そんなアプローチを躱してるから、いつ調子に乗った奴が本気で言い寄るかとヒヤヒヤしてた。はっきりと断ってくれたら良いのにって思ってた」
「告白なんかされてないよ?」
「でも!神崎と遊びに行っただろ?」
「 駅まで一緒に帰っただけで、すぐに別れたよ?」
「マジか?」
直輝の腕に力が篭る。
「ごめん。俺、それで意地になって…」
「知ってたんだ」
「二人並んで帰る後ろ姿を見ただけだけど、ヨシが吉広から聞いてくれたんだ。二人で遊ぶみたいだって」
「えっ?吉広と財前ってそんなに仲良かった?」
「睦己は、このところ周りに気が回ってなかったからな。物憂げな感じが、逆に影があってエロいとか人気になってたんだぞ?」
「そんなの、知らないよ…」
「それでなくても文化祭からこっち、睦己の話で盛り上がってるのを見るのは嫌だった。睦己をイヤラシイ目で見てるんだ。俺のなのに」
「僕は、直輝だけが好き」
「俺もだよ」
「もう別れるなんて言わない。それで良いよね?」
これは間違っていないはず。
振り返り直輝の顔を見ようとすると、顎を持たれ唇が重なった。触れるだけのキス。苦しい体勢でのキスは長くは続かない。
離れた唇に涙が零れた。もっとキスして欲しい。こんなに近くにいるのにもどかしい。僕の身体に絡まる直輝の腕を抱き込んだ。
「嫌だった?」
絶対に嫌じゃないのがわかっている聞き方だった。穏やかな声は、その涙の意味を、その思いを全て教えてと語っている。
「嫌じゃない」
「うん」
「ずっと、我慢してた。いっぱい抱きしめて欲しかった」
「うん。いっぱい抱きしめる」
「キスして欲しかった」
「うん。キスもいっぱいしようね。それから?」
「一緒にいたかった」
「うん。ずっと一緒だよ」
「……笑顔を……」
「笑顔?」
「うん。ずっと見てなかったから。辛そうな顔とか不機嫌な顔ばっかり。だから、笑顔を、笑顔を見せて、欲しかった。…っ……直輝、好き…」
「俺も好き。世界で一番、大好きだよ」
「ほら、帰りな。睦己くんも言ってるだろ?」
「あんたが言わせてるんだろ?睦己が自分からそんなこと、するはずない!」
「直輝…僕は……じ」
「睦己!俺は知ってる。睦己は好きでもない男と、俺以外の男とそんなことできないって。そうだろ?」
「僕は…」
「俺を頼れよ!睦己から言ってくれるの、待ってたのに。困ってたんだろ?気付いてやれなくて悪かった。俺がガキだから、ムキになって。睦己から頼ってくれるまでって。それなのに、頼るどころか別れるって…」
「ほぉ、別れたんだ。じゃあ、お前は関係ないだろ。お前が邪魔者だ、帰れよ。ほら、睦己くん、続きをしようか。折角いいところだったのにね。おいで」
樽本が僕に手を伸ばす。
「おい!やめろ!汚い手で睦己に触んな!母親に売られたって言ったよな?じゃあ、やっぱり同意なんかじゃない!睦己、こっちだよ。俺のそばにおいで?こんなとこ居なくていい。おい、おっさん!警察呼ぶぞ?おっさんは強制わいせつ罪って知ってるか?そんないいスーツ着て、警察なんか呼ばれたら仕事ヤバいんじゃないの?結婚してんの?奥さんにバレたら離婚かな?慰謝料たんまり取られるな。ちゃんと用意しといた方がいいんじゃない」
樽本を牽制しながら僕の前に座る。そして…ふわりと抱きしめてくれた。
「…直輝っ!怖かった!怖かったよ…ごめんね…ありがと…」
「良いんだよ。俺の方こそごめん」
樽本は警察を呼ばれたら困るからか、今は諦めたのか帰っていった。
シャワーを浴びて樽本に触られた身体を綺麗にする。途中で直輝が入ってきて、久しぶりに一緒に狭い浴槽に浸かった。
身動きが取れないし、密着しないと入れない。背中に直輝の身体を感じ、長い間一人きりだったので、この安心感に涙が出そう。直輝に抱きしめられたまま、今の状況を確認する。
「あの…聞いても、良い?」
「何を?」
「最初に怒った理由」
「ああ、やっぱりわかってないんだよな。って言っても大した理由じゃないんだ」
「うん」
「こんなに長い間、喧嘩していたくなかったんだけど。ごめん。今となっては俺が全部悪いから」
「ううん。そんなことない」
「睦己はさ、いろんな奴からアプローチされてるの気付いてた?」
「へっ?そんなの知らないけど?」
「やっぱ、そうなんだな。はぁ…」
「えっ?ど、言う、こと?」
「俺はさ、睦己がのらりくらりと気の無い返事で、そんなアプローチを躱してるから、いつ調子に乗った奴が本気で言い寄るかとヒヤヒヤしてた。はっきりと断ってくれたら良いのにって思ってた」
「告白なんかされてないよ?」
「でも!神崎と遊びに行っただろ?」
「 駅まで一緒に帰っただけで、すぐに別れたよ?」
「マジか?」
直輝の腕に力が篭る。
「ごめん。俺、それで意地になって…」
「知ってたんだ」
「二人並んで帰る後ろ姿を見ただけだけど、ヨシが吉広から聞いてくれたんだ。二人で遊ぶみたいだって」
「えっ?吉広と財前ってそんなに仲良かった?」
「睦己は、このところ周りに気が回ってなかったからな。物憂げな感じが、逆に影があってエロいとか人気になってたんだぞ?」
「そんなの、知らないよ…」
「それでなくても文化祭からこっち、睦己の話で盛り上がってるのを見るのは嫌だった。睦己をイヤラシイ目で見てるんだ。俺のなのに」
「僕は、直輝だけが好き」
「俺もだよ」
「もう別れるなんて言わない。それで良いよね?」
これは間違っていないはず。
振り返り直輝の顔を見ようとすると、顎を持たれ唇が重なった。触れるだけのキス。苦しい体勢でのキスは長くは続かない。
離れた唇に涙が零れた。もっとキスして欲しい。こんなに近くにいるのにもどかしい。僕の身体に絡まる直輝の腕を抱き込んだ。
「嫌だった?」
絶対に嫌じゃないのがわかっている聞き方だった。穏やかな声は、その涙の意味を、その思いを全て教えてと語っている。
「嫌じゃない」
「うん」
「ずっと、我慢してた。いっぱい抱きしめて欲しかった」
「うん。いっぱい抱きしめる」
「キスして欲しかった」
「うん。キスもいっぱいしようね。それから?」
「一緒にいたかった」
「うん。ずっと一緒だよ」
「……笑顔を……」
「笑顔?」
「うん。ずっと見てなかったから。辛そうな顔とか不機嫌な顔ばっかり。だから、笑顔を、笑顔を見せて、欲しかった。…っ……直輝、好き…」
「俺も好き。世界で一番、大好きだよ」
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